アメリア会員インタビュー



海外ドラマのシリーズものを担当したことが転機に

坂田:これまでにした仕事の中で、思い出に残っている作品は何ですか?

瀬尾:いくつかありますが、いちばん好きなのは『処刑人II』です。DVDの映画で、吹替翻訳を担当しました。“2”ですから、その前に『処刑人』という作品があって、タイトルは知っていたのですが、恐そうなので観たことはなかったんです。お仕事を引き受けるということで観たのですが、衝撃を受けました。独立系の作品で、予算はけっして多くないのですが、それでもこれだけのものが作れるんだと。タイトルを聞くとホラーのようですが、実はコメディ作品で、脚本が凝っていて、セリフも熟語やスラングを駆使した凝ったものが多くて。意味を読み解くのが難しかったです。アクションシーンもあって、動きにセリフを合わせるのも大変でした。でも、とてもインパクトの強い作品で、終わった後もしばらく余韻を引きずりましたね。他には、ロバート・ロドリゲス監督の『マチェーテ』も好きです。自身の映画の劇中で使用した架空映画の予告編を元に、本当に長編映画を作ってしまったという、シャレの効いたアクション映画です。それから、NHKで2009年に放送されたアンネの日記のドラマシリーズ(全5話)も思い出に残っています。最後は訳していて涙が止まらなくなりました。

坂田:翻訳しているときは客観的になるのではなく、のめり込むほうですか?

瀬尾:全部訳し終わってからチェックするときは客観的に見なければいけないので、涙を流したりはしないのですが、セリフを書いているときは作品にのめり込むくらいでないと生きたセリフも出てこないのかな、と思います。ただ、のめり込み過ぎて原文から離れてしまうこともあるので、そういうときはチェックの段階で、勢いのいいセリフを残しつつ、落ち着かせるところは落ち着かせてと、メリハリをつけるようにしています。

坂田:翻訳者として転機になった作品はありますか?

瀬尾:あります。『ミディアム 霊能者 アリソ・デュボア』という作品です。海外ドラマのシリーズ作品で、第1シーズンからずっと担当させていただいています。全部で第7シーズンまでなのですが、日本ではWOWOWとFOX TVで放映されていて、今年(2011年)、第6シーズンを放映中です。この作品のお話をいただくずっと前に、15分くらいの会社のPRビデオを訳したことがありました。その仕事がうまくいって、演出家の方が別のDVD作品のお仕事をくださったんです。その後、この『ミディアム』のシリーズを担当することになったから、やってみないかとお話をいただいて。私には目立った実績もなかったですし、こんな大きな仕事は初めてで、お話をいただいてびっくりしました。

坂田:それまでの仕事で実力を認められたということでしょうね。会社のPRビデオの翻訳で、映画やドラマと違って特に気をつける点というのはあるのですか?

瀬尾:誰でも知っている大手企業のものだったので、その会社について書かれた本を2冊ほど読みました。企業で使う独特な言い回しなどがあるので、読みながら気になる言葉には付箋をつけておいて、訳すときに参考にしました。ある有名アーティストの生涯を紹介したビデオを訳したときも、先に伝記を買って読みましたね。納期が短くても、時間をとって先に関連本を読んだ方が、翻訳がしやすいと思います。

坂田:『ミディアム』の吹替翻訳は、順調に進みましたか?

瀬尾:それが、第1シーズンの第1話は書き直し、書き直しの連続で……。きっと第2話からは翻訳者を変えられてしまうと思ったほどです。でも演出家の方が粘り強く、私が書き直すのを待ってくれたんです。 シリーズものなので、特に最初はキャラクターの説明をするためにセリフが多く、状況説明をする場面もあって、大変でした。それからこの作品は主人公が霊視をして事件を解決していくのですが、夢と現実が交錯していて、構成がよくわからない、という難しさもありました。その点は話が進むにつれてわかってきて、専門用語もだいたい理解できてくると、多少は楽になってきましたが。

坂田:では、翻訳者として学ぶところも多かったし、転機になった作品というわけですね。

瀬尾:そうですね。こういう有名な作品で、シリーズものを手がけたということは実績として評価していただけるので、その後は紹介で初めての制作会社の方から仕事の依頼がきたりして、取引先が増えていきました。それまでは旧作やDVDのみの作品を訳すことが多かったのですが、劇場公開版がDVD化されるときの吹替の翻訳など、新作の仕事も増えましたね。

坂田:フリーランスということで、時間は自由に使えると思いますが、1日のスケジュールはどのような感じですか?

瀬尾:夫は会社員ですので、朝は6時に起きていっしょに朝食を食べます。それから8時くらいまでに掃除など家事をすませて、朝のドラマを15分間見てから仕事を始めます。お昼の休憩をはさんで、通常は夜7時くらいまで仕事ですね。忙しいときは休憩をはさんで、もう少し仕事をします。今はもう徹夜は絶対にしません。翌日に響くので、かえって効率が悪くなってしまいますから。締め切り直前の本当に忙しいときは、起きている間は、食事とお風呂以外はずっと仕事という、受験生のような生活になります(笑)。

坂田何か趣味やストレス解消法はありますか?

瀬尾:ストレスはあまりたまらないようです。むしろ、満員の通勤電車に乗っていた頃の方がストレスでした。座りっぱなしの仕事なので、体力をつけるためにも週に2、3回は夜に夫と一緒に近所をジョギングしています。あとは時間があれば絵を描きますね。

坂田:翻訳者として今後の目標は何ですか?

瀬尾:そうですね、息の長い仕事をしていきたいです。そうすれば結果は後からついてくるんじゃないかと。仕事をコンスタントに続けること、それがいちばん大事だと思っています。

吹替翻訳の最終段階はスタジオでの収録。シリーズものの場合、最初の数回だけ立ち会って、あとは演出家などスタッフに任せる翻訳者さんも多いそうですが、瀬尾さんは時間が許す限り、何度でも立ち会うのだとか。生き生きとしたセリフづくりは、きっとそんな努力の結果なのでしょうね。これからも楽しい作品をたくさん訳し続けてください!