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翻訳者ネットワーク「アメリア」

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  ※こちらのページは2003年10月号の情報誌『Amelia』に掲載した“第1回トライアル現場主義”をウェブページとして転載したものです。  
     
 
   私はトライアル担当として、課題を作り、返ってきた答案を採点し、合否を判定するという仕事に携わっています。これを永年続けているうちに、不合格となる方には共通するタイプがあることがわかってきました。その代表的なものを3つ紹介しましょう。  
 
     
   
   
   「ですます」調でとお願いしたのに「である」調で訳されている。「こことここだけ翻訳してください」とお願いしたはずが、全部翻訳されて返ってきた。このような答案は、内容について審査する前の段階で、非常に大きなマイナスポイントを背負ってしまいます。
 こちらの指示に耳を貸してもらえなかったと心証を悪くしているわけではありません。翻訳料という対価を得る以上、みなさんが作った訳文は商品です。商品には、品質以前の品質として満たすべきことがあります。どんなに素晴らしいデザインでも、縁の欠けたグラスが店頭に並ぶことはありません。このタイプの訳文を拝見すると、訳していただいたかたに対して、翻訳の力よりも、仕事をお願いできるかという最も基本的な点に大きな不安を抱いてしまいます。
 
     
   
   
   答案が到着すると、私はまず一気に読んで、訳文全体から何が浮かび上がってくるかを見ることにしています。文章とは、取扱説明書であれ小説や映画の台本であれ、誰かが何か言いたいことがあって書いたものです。その言いたいこと(筋)が一読して浮かび上がってこない、伝わってこない翻訳原稿は、いわばただの文の集まりです。このタイプの原稿に対しても、合格点がつくことはまずありません。なぜなら。お仕事をお願いして筋のない文の集まりが納品されてきた場合、それをこちらで文章に仕立て直すには大きな時間と労力を必要とするからです。
 確かに、短いテキストから限られた時間で筋をつかむのは難しいことです。それでも、筋をつかもう、浮かび上がらせようともがけば、その跡は必ずわかります。極端なことを言えば、その筋に誤りがあってもよいのです。細部の表現に優れたところがあれば、合格には及ばずともかなり高い評価がつくこともあります。
 
     
   
   
   左記の2つのタイプは早い段階で判定が下がってしまいますが、十分審査した結果、あと一歩で不合格となる答案もあります。いい線いっているのに、なぜか合格を差し上げる気になれない。なぜだろう?と思って答案をよく見たら、全部の訳文の末尾に小さな字で「というような意味だと思うんですが・・・・・・」と書いてあった、というのは冗談ですが、そう思いたくなるような答案にはよくお目に掛かります。原文からあと一歩が離れられない、そして読者の方にあと一歩踏み込めていない。これではプロの翻訳とは言えません。
 「これからプロになろうとしてトライアルを受けてるんでしょう?」とお思いかも知れませんが、ここはスピリットに関わる大切なところです。ここだけでも、今からプロになったつもりで訳文を作ってほしいのです。

 課題をお送りするとき、いつも私はメールの末尾に「このトライアルが佳いご縁のきっかけになることを祈っています」と記します。トライアルに合格するということは、ゴールではなくスタートです。みなさんが良いスタートを切れるよう、少しでもお役に立ちたいと思っています。
 
     
 
     
 
   
 

Tilt
Snake the game too hard and it will tilt. On most games, you forfeit the ball in
play.On older machines, if you tilt, you forfeit the entire game.
Some machines have a switch that gives you several options: choosing whether the tilt will cost you only one ball or the entire games; choosing to disable the tilt entirely; or choosing one or two tilt “warnings,” often a sound that resembles a groan or a growl, before the game tilts. The tilt “warning” option can add a lot of fun to a game, enabling you to give the game a good shove when you need to get the ball out of a problem area, without tilting the game.

出典:Bernard Bear Kamoroff,“Pinball Machine - Care and Maintenance,”
Bell Springs Publishing,2003

 
     
  課題文について
   
   アマチュア向けに書かれたピンボールマシンのメンテナンスの本を題材に取りました。巻頭にある、ピンボールマシンを解説した章からの抜粋です。
 英語の読解という面からは、コロンとセミコロンをしっかり見て構文が促えられるかがポイント。“game”の訳し分けも大切です。逆に、“forfeit”と “cost”は訳し分けないか、訳し分けたとしても、いわんとすることは同じだということを意識した上でのことでなければなりません。
 Tiltの具体的なイメージを持っているかいないか、さらに言えばピンボールで遊んだ経験があるかないかが、訳文の思わぬところに顔を出しそうです。アーケードゲームの世界も様変わりし、ピンボールはもはやノスタルジーの対象でしかないようですが、Webページを検索すれば最低限の知識は集められます。
 
   
 
     
  ■審査の手順について  
     
 
 
   審査する人によってその方法はさまざまでしょうが、私の場合、まず訳文を一読して全体の印象をつかみます。通常は頭の中で考えるだけですが、今回は『第一印象』として記しておきます。次に添削をします。これも、通常は人に見せるものではなく、審査の過程で付けたコメントです。いわば審査員のメモ代わりとなるもので、誤りを正した箇所もあれば、好みで入れた修正もあります。このとおりに修正した答案であればトライアルに合格するという意味ではありません。次の『判定』ですが、当社の場合この部分を応募者の方にフィードバックします。そして今回はプラスαとして最後に『アドバイス』を付けました。  
 
 
     
     
 
 
   

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