【アメリア】伝・近藤のトライアル現場主義!

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   ここで、おもむろに課題文に戻ります。センサーからの信号を基にどの状態に遷移するか/しないかを判定したかったのですね。信号にジッタがある(ふらついている)と、判定結果もふらついて安定しない。おじさんの気持ちと同じです。そこで、安定性を高めるために「2つの基準」と「基準内のルール」を設けたのでした。

 ふらつきのある信号でも、このような仕掛けを通ることでしゃきっとなります。このときの仕掛け(「2つの基準」と「基準内のルール」)を「ヒステリシス・フィルタ」と呼びます。ヒステリシス・フィルタは、信号処理などの分野でよく出てきますので、ぜひ覚えておいてください。原理はともかく、ヒステリシス・フィルタと聞けば「あー、あのふらつきを取るヤツ」というイメージを持っておいてほしいのです。

 課題文に関するヒステリシスの説明はここまでです。ここから先は、ヒステリシスについて持っていて欲しい別のイメージを説明していきつつ、いよいよヒステリシスの本質に迫ります。というわけで一次会はお開き。二次会行く人!
 
 
 
   二次会では、「2つの基準」と「基準内のルール」を少し違った風に眺めてみます。時間(日にち)のことは考えないことにして、「降水確率」と「決断」のダイレクトな関係を調べてみましょう。さっきの図を描き直します。

 まず、降水確率が0%からだんだん上がっていくときに、決断がどうなるか調べてみましょう。最初は当然「持って行かない」ですが、「上がるのなら上げる」ので、低い方の基準を上回ったらすぐに「持って行く」に移ります。
 

 
 そうやって、降水確率100%まで来ました。こんどは、逆に下がっていくときについて調べてみます。「下がるのなら下げる」ので、高い方の基準を下回ったらすぐに「持って行かない」になります。
 
 
 どうですか。下から昇っていくときと、上から降りてきたときで通る経路が違いますね。だから、40%といってもどちらから来たか(過去がどうだったか)によって、「持っていく」「持って行かない」は異なります。今の状態を決めるのに、過去の状態を知る必要がある。つまり「履歴」が必要になる。過去を引きずっている。これが「ヒステリシス」の本質です。ついでに、図のような輪のことを「ヒステリシス・ループ」と呼びます。
 
 このような考えのヒステリシスは磁性体の話によく出てきますが、もちろん磁性体に限って使われる概念ではありません。過去を基に現在が決まるのであれば、それは「ヒステリシスがある」とか、「ヒステリシスを持つ」といいます。
 
 青森から鹿児島まで、往きは新幹線で行って、帰りは飛行機で帰ってきた。この旅程は、ヒステリシスを持っています。たとえば旅程の真ん中の日にどこにいるかを教えてくれと言われても、分からないですよね。それが往きか帰りか、つまり一日前にどこにいたかが分かって初めて決めることができるからです。低反発素材の枕がある。指で押すときはすばやく押し込めるのに、指を離すとゆっくりとしか戻ってこない。これも立派なヒステリシスです。
 
 ヒステリシスについて、ひととおり説明してみました。これからは、ヒステリシスと聞けば、

「ふらつきを取る」
「往きと帰りで道が違う」
「輪っかをぐるぐる」
「過去を引きずる」
「低反発枕」

だいたいこんなイメージを持っていればよろしいかと思います(「低反発枕」は、決してジョークではありません。ヒステリシスの語源はhysterEsisで、「遅れ」を意味していました)。

 便利な時代になりました。「ヒステリシス」と「ジッタ」(両方とも課題文に出てきた言葉です)というキーワードで検索するだけで、たちどころに「ヒステリシス・フィルタ」の説明を見ることができます。ただし、いつも優柔不断おじさんの人生相談から説明が始まるわけではありません。わけではありませんが、初心者に向けて分かりやすい説明を試みているWebページはどこかにあります。

 そんなページを見つけたら、いったいヒステリシスとは何なのか、どんなに大ざっぱでも構わないのでイメージを掴もうとしてみてください。決して専門家と同等の理解でなくてもよいのです。「ヒステリシス特性を持つフィルタにより、信号のジッタが取り除かれます」ぐらいのことは、そこかしこに書いてあります。「ヒステリシスってふらつきを取るものなんだ」というイメージは必ず掴めます。

 どんな小さなイメージでも、掴んだ人にはヒステリシスに対する「とっかかり」ができます。とっかかりができた人には、なぜかヒステリシスに関する別の文章を翻訳するチャンスがやってきます(そういうものです)。または、違う分野であっても「ああ、これはヒステリシスと同じ考え方だ」と気づく文章がやってきます(そういうものです)。そして、その人には、さらなるとっかかりが生まれる。とっかかりが次のとっかかりを生むのです。とっかかりしか、次のとっかかりを生み出すものはありません。

 今回はトライアルとは直接関係なかったですが、『現場主義!』風専門知識の掴み方を披露してみました。教室でも研究室でもない。教科書もなければ教授もいない。でも、来た人にはだれにでもとっかかりができるチャンスがある。それが現場です。

 臨時増刊のはずだったけど、傘の悩みもなくなったし、レギュラーに引き上げることにしました連載第14回、現場からは以上です!
 
     
 
 
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