翻訳の仕事獲得とスキルアップを応援する有料の会員制サービス
翻訳者ネットワーク「アメリア」

  情報コラム
アンゼたかし映像翻訳トーク!トーク!トーク!

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 全8ページ

人との繋がりの大切さ――菊地さんが贈る、後輩へのメッセージ

アンゼ: 菊地さんは長年、字幕翻訳家として第一線で活躍してこられたわけですが、映画業界や翻訳業界の、時代による変化を感じることはありますか?

菊地: そうだなぁ……昔は海外のスター俳優が来日すると、ホテルの宴会場に関係者を集めて派手なパーティをやったんだよ。昔はぼくもよく行ってたけど、いまはそんなパーティもなくなったし、あったとしても翻訳者なんて招待もされないんだから(笑)。

アンゼ: ですよね。ぼくは『インセプション』のとき、映像を観にアメリカまで行ったんですけど、監督とちょっと挨拶くらいあるのかなと思ってたら、クリストファー・ノーランのクの字も出てこなかったですよ(笑)。

菊地: ははは。昔は翻訳者にももっといろいろな機会があって面白かったけど、いまは派手なことが少なくなった。

アンゼ: 変わったことと言えば、インターネットの普及っていうのがありますよね。それと、観客の英語力が向上したとも言われています。それで、この字幕はまちがってるんじゃないかとか、ネットで話題になることもありますが、その辺を菊地さんはどうお考えですか?

菊地: そこには、ぼくはちょっと疑問があるんだ。基本的に、映画のセリフって解釈が一筋縄ではいかない。英語のネイティブと言えども、セリフを理解できないことはたくさんある。その証拠に、ネイティブに訊いても、解釈が別れるなんてことは日常茶飯事。われわれ日本語ネイティブが日本映画を観てたって、すべてのセリフを完璧に理解できてるわけじゃない。

アンゼ: ですよね。日本語でも、解釈がわからないことはたくさんあるのに、ましてや別の国の言葉ですから。
 では、最後に――いままで多くの翻訳者、そして翻訳者を目指す方を見てきた菊地さんにずばり訊きます。この職業には、どういう人が向いていると思いますか?

菊地: 翻訳やりたいってうちの会社に来る人の訳は、どこかの時点で必ずぼくもチェックするんだけど、訳文だけでは誰が向いてるのか判断できないんだよね。というのも、この人はちょっとむずかしいかな、と思った人があとで活躍してたりするから。

アンゼ: だとすると、訳の良し悪し以外に、何が運命を分けるんでしょう?

菊地: んー、根性だな。

アンゼ: えー! まさか菊地さんから根性っていう言葉が出てくるとは(笑)。では、そういう根性を持っていて、いま翻訳者を目指そうとしている人たちに、何かメッセージをいただけますか。

菊地: 概して、翻訳者を志望するような人には、おとなしい人が多いよね。営業下手というか、表に出ることが苦手というか。でも、仕事をいっぱいやっている翻訳者っていうのは、しっかり営業活動もしてる。

アンゼ: 翻訳者と言っても、個人事業主ですからね、営業は必要ですよね。

菊地: そう。やはり、どこかで自分をアピールしなきゃいけない。生きていくために仕事は必要だから。「人との繋がり」をしっかり作っていくことだね。

アンゼ: 翻訳の仕事っていうのは、技術的なことがすべてだと多くの人が考えていますよね。

菊地: 技術的なことももちろん大切。だけど、仕事は人との繋がりで増えていくもの。ひとつ仕事をもらったら、人間関係を増やすチャンスだと捉えるべきだよね。

アンゼ: 吹替の仕事だと、翻訳者が収録に立ち会うこともあって、必然的に制作側のスタッフと会うチャンスがありますけど、それ以外は全部メールで済んでしまうんですよね。

菊地: それがいけないんだよ。メールでああだこうだやるんじゃなくて、翻訳者とスタッフが実際に会って、いろいろ話し合ったほうがいいんだよ。

アンゼ: それに、作業時間的にも、直接会って話し合ったほうが断然早いですよね。

菊地: そうなんだよ。うちの会社の制作スタッフにもよくそう言うんだけど、なかなか翻訳者と会おうとしない。制作サイドの人間も、きっと人と付き合うのが苦手なんだろうな。でも、メールでのやり取りって喧嘩のもとなんだよね。お互いにつまらないことで不愉快になったりしてさ。

アンゼ: わかります! 指摘なのか非難なのか、文字面だけではわからないこともありますからね。ネガティブに考え出すと、全部がネガティブに見えちゃったりして(笑)。

菊地: そうだよね。だから、会って話し合ったほうが、やっぱり効率がいい。実際、いま活躍している翻訳者の人たちって、用がなくても会社に来たりするんだから(笑)。

アンゼ: つまり、翻訳者を目指す方へのアドバイスとしては、人との出会いを大切にして、しっかり「営業」もしたほうがいいということですね。考えてみれば、最終的には人ですよね。ぼくも仕事が続いているのは、人との出会いがすべてですから。
 それに今日こうやって、大先輩の菊地さんと長時間にわたってお話しすることができたのも、結局は人との繋がりから生まれた機会ですし。菊地さん、今日はいろいろ貴重なお話、どうもありがとうございました。

前へ

トップへ

ページトップへ