【アメリア】みんなで作るインタビュー4・森泉佳世子さん紹介編
 
  みんなで作るインタビュー


 [紹介編]
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本国アメリカはもとより、日本でも大ブームを巻き起こしたモルダー捜査官とスカリー捜査官が活躍するドラマとは? そう「X-ファイル」ですね。今回は、「X-ファイル」のビデオ版字幕翻訳者である森泉佳世子さんにご登場いただき、大人気ビデオの翻訳が出来上がるまでのドラマをじっくりと語っていただきました。

 第4回 森泉佳世子さん
 
<第4回> 紹介編|インタビュー編 1インタビュー編 2  全3ページ

第1話 『X-ファイル』との出会い

 アメリカで「X-ファイル」の放映が始まったのは1993年秋のこと。放映と同時に大ヒットとなる。森泉さんに字幕翻訳の話があったのは翌1994年2月頃。「もちろんOKしました。仕事を断るなんて10年早い(笑)。 ただ、内容が苦手な分野だったので自信はありませんでしたが……。ベストを尽くすだけだと覚悟を決めました」。
実際に翻訳を始めてみたときの感想は「思っていたよりもずっと上質な作品だなあ」ということ。第2話の「スクィーズ」(リリース順では第3話)を観て「面白い! もしかしたらハマるかもしれない」と感じたそうだ。
しかし、シーズン2に入り大失敗を経験。英語でsisterと言っていたところを、姿恰好から推測して"スカリーの妹"と訳すが、あとで"姉"だったことが判明。「本国に問い合わせるべきでした。判明したあとビデオパッケージに「訂正とお詫び」を載せましたが、こんなことは前代未聞かも知れませんね」。
 
第2話 楽し難し字幕翻訳

 同じ翻訳とはいえ、字幕翻訳には字数の制限など、他の翻訳にはない難しさがある。「向き不向きがあるのではないでしょうか。私は長い文章が苦手なので、字数に限りがある字幕とは相性バッチリです。本を一冊訳せる方は、もしかしたら制約がネックになるかも知れませんね」。
では、字幕翻訳の楽しさは?「いろいろと工夫できるところです。セリフをそのまま訳すことはほとんど不可能ですから、何を生かして何を捨てるか、どうやったら意味を変えずに自然な日本語に置き換えられるか等々……。考慮すべきことはたくさんあります。良い作品だと、この工夫の過程が苦になりません」。
「X-ファイル」の場合はどうだったのでしょうか?「めいっぱい工夫できるところが楽しさでもあり、難しさでもあります。尺(ひとつのセリフに要する時間)に対して情報量が非常に多い。"未知の生物"の説明だったり、複雑な人間関係だったり、それらを最大2行(24文字)にどう収めるか。病名や地名など字数が多いと大変です。それから、特にレギュラー陣の会話は知的でウィットに富んでいて、なんらかのヒネリが加えられています。脚本家の腕の見せ所なのでしょうが、これはもう英語で味わっていただくしかありません。でも、そういうセリフにこそキャラクターの個性が表れているので、何とかそれらしさを出そうと大いに工夫をします。こちらの作業は、楽しいと言うよりは苦痛でしょうか(笑)」
 
第3話 字幕翻訳家、仕事の現場

 1本の作品の翻訳をどのように仕上げていくのかたずねてみた。
「1本45分を大体1週間で仕上げます。まずビデオを観ながらハコ切りをします(注:ハコ切り……台本のセリフを字幕1枚ずつに区切って番号を付けること。1話につき400ぐらいになります)。台本を読み、しっかり意味を理解してから翻訳開始。私は遅いので4日ぐらいかけて終了。見直しに1日。夫が同業者なので、時間が許す限り彼にも目を通してもらっています。私だけだとどうしても独りよがりになるので、その点では非常に恵まれていると思っています」。
「X-ファイル」の翻訳で何か気を付けていることは?
「地球外生命体をめぐる陰謀はXファイルの中心テーマであり、第1話からずっと続いているので気を遣います。一度訳出した語は定訳として次回のためにメモしておく。次に何が起こるかわからないので、後で辻褄が合わないということがないよう、原文が明確でない時は日本語も"曖昧"な訳にしておく……等々です」。
 
第4話 翻訳者から見た『X-ファイル』

 コアなファンが多い「X-ファイル」だが、森泉さんご自身のこの作品に対する感想は?
「私にとって「X-ファイル」の見どころは、まず何と言ってもモルダーとスカリーの関係です。ふたりは理想的な友人であり、恋人同士だと思います。どんな時も妥協することなく自己を主張し合ってきたふたりは、年月とともに互いに絶対の信頼を抱くようになる。モルダーはスカリーを、スカリーはモルダーを、世界中の誰よりも理解し認めているのです。そしてどんなに親しくなっても相手の領域に踏み込むことはしない。あくまで「あなたの人生」だから。でもいつも近くで見守っている。最高ですね。
「それからこれは私だけかもしれませんが、Xファイルはいわゆる日陰に生きる人々に対しとても暖かいと感じます。知的障害者、ベトナム帰還兵、先天性奇形、特殊能力者、見世物小屋の芸人……本当に様々な変り種が登場します。俳優の演技も素晴らしいのですが、製作者のスタンスが好きです。弱者だからといって変にかばわず、相当ひどい言い方もしているのですがなぜか胸にジーンとくるのです」。
アメリカでは現在シーズン9が放映中ですが日本での今後の予定は?
「フォックス(発売元)次第ですね。はたしてシーズン9のビデオを出すのか、私には分かりません。出して欲しいなとは思いますが、モルダーがいないらしいので今までとはずいぶん違ったものになるのではないでしょうか。新シリーズとして面白ければいいなと思います」。
 
特別編 初めて証す秘話!? 字幕翻訳家、森泉佳世子が誕生するまで

 アメリア「翻訳の勉強はいつから始められたのですか?」
森泉「勉強らしきことは何も」
アメリア「えっ?じゃあ、どうして字幕翻訳家に……???」
森泉「中学校では不登校気味になり、高校は2年で中退。ですから、大学にも行っていません。家でダラダラしていた頃は、小説を読んだり、ジャズを聞いたりしていました。でも、英語だけは中学で勉強を始めた当時から好きで、文法は分厚い参考書を一冊読み基礎をマスター。会話は近所の人(日本人)に個人教授してもらったり、ドイツ人宅のメイドをして給料代わりに教えてもらったりしていました。その後、専門学校に入りましたがこれも中退。学校はよほどダメだったようです。でも、そこで知り合った教師のつてで英会話学校に就職。約15年間、外国人に混ざって教えたり、人事を担当することで日常会話は不自由しない程度の力がつきました。
「字幕翻訳家でACクリエイト株式会社(「Xファイル」の字幕版制作)の代表取締役である菊地氏とは、近所の飲み屋で出会いました。その後、勤めていた英会話学校を辞めることになり、何をしようかと考えていた頃、人づてにACクリエイトが字幕翻訳者を集めていることを知りテストを受けたわけです。当時はビデオ用映画がたくさん出始めていた頃で翻訳者が不足していたのです。ですから字幕のノウハウは実際に仕事をこなすことで学び、覚えていきました。今、振り返るとラッキーでした」。
アメリア「そうなんですか。でもラッキーとはいえ、英語に関してはいつも積極的に努力をなさっていたのですね」
森泉「そうですね。私の場合は、翻訳をやりたいという具体的な目標があったのではなく、ただ好きなことを真面目にやっていたらここにたどり着いたという感じです。何かの縁かも知れませんね」
 
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