【アメリア】みんなで作るインタビュー4・森泉佳世子さんインタビュー編1
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 [インタビュー編 1]
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 第4回 森泉佳世子さん
<第4回> 紹介編|インタビュー編 1|インタビュー編 2  全3ページ

いちばん印象に残ったエピソードは? X-ファイルにハマるきっかけとなった「スクィーズ」
 
『X-ファイル』は、私がアメリカ大学院の寮にいたころ、時間が来ると広間のテレビの前に集まってみんなで見ていました(それも夕食時に!)。
森泉さんが翻訳されたなかで、いちばん印象に残ったエピソードと、翻訳に最も苦労したエピソードはどれですか?また、その理由も教えてください。(ゆうま さん)

夕食時に観ていたとは……。何度もお箸が(フォークかな?)止まりませんでしたか?
今回、皆さんの質問に答えるためシーズン1から7までタイトルだけ眺めてみたのですが、まったく記憶にないものが3分の1ほどありました。きっと私にはピンと来ないエピソードだったのでしょうね。残りの3分の2のなかで、今でも鮮やかにシーンが蘇るものは半分ぐらいでしょうか。訳していて楽しかったコメディタッチのものと(これがまた秀作が多いのです)、その他個人的に痛く感動した"珠玉の小品"の数々です。
さて、最も印象に残るエピソードですが、やはりXファイルにハマるきっかけとなった「スクィーズ」を挙げたいと思います。ひとつ間違えれば一笑に付されるタイプの話なのに(主人公ユジーンは人間5人分の肝臓を食いだめし、その後30年間冬眠する)、そこがXファイルの凄いところ、最後まで観る者を引きつけて離しません。もしテレビドラマだったら、「来週も絶対観るぞ」という気にさせられたでしょう。ちなみにユジーンは「続スクィーズ」としてシーズン後半に再び登場しました。
翻訳に最も苦労したエピソード……。う〜ん、これは難しい質問です。例えばテーマが私の苦手な分野(物理、天文、機械、コンピュータ関係など)だと、何より内容を理解することが一苦労です。シーズン2の「影踏み」がまさにそうでした。ブラックホールだの暗黒物質だの、ある程度知識がないと話の筋が見えてこない。人に聞いたり、物理の参考書(高校生向きの『基礎徹底 物理』みたいなもの)を読んだり、




限られた時間なので本当に大変でした。でも質問の主旨はおそらく、どの作品が訳しにくかったかですよね?
答えは「どの作品にも訳しにくい箇所があった」です。例えばラストシーン。シーズン1で特に感じたことですが、モルダーとスカリーはよく最後に「決め」のセリフを放つのです。良く言えば含蓄に富んだ、悪く言えば格好をつけたセリフです。「続スクィーズ」でモルダーが木に張り付いているサナギを見上げながらスカリーに言うセリフもそうです。何が言いたいのか一生懸命考えた記憶があります。もし興味があったらご覧になってください。できることならもう一度手を入れたいセリフです。

 
『X-ファイル』には、セリフに新しいスラングや流行の言いまわしなどが数多く出てきますか?そのようなときや、分からない単語が出てきたときなどは、どのように調べますか?
お勧め検索サイトなどがあったら教えてください。
(ねぎこ さん)

新しいスラングや流行の言い回しは取り立てて多いとは思いません。ただ辞書やその他の参考書には出ていない表現、あるいは単語はすべて分かるのにニュアンスがつかめないというセリフはあります。そんな時私は必ずネイティブに聞きます。その結果、想像していた意味とは違っていたということが間々ありまし


た。ネイティブの知人(友人ならなおいい)をぜひ確保しましょう。  
特殊な単語(UFO、兵器、科学、法律、魔術、宗教関連等々)はGoogleで検索することが多いです。知りたい言葉をそのまま入力すればけっこう欲しい情報が手に入ります。

 
他の作品に比べて、大胆さがより一層必要とされるのではないかと思うのですが、いかがですか?はじめから大胆に翻訳されていたのでしょうか。
お仕事をされていくうちに身に付けられたのだとしたら、ふっ切れたきっかけとなったエピソードなどお聞かせください。(Markusさん)

「大胆な訳」という印象を持たれたわけですね。これはひょっとして皮肉かな?
簡単な事からお答えすると、まずきっかけとなったエピソードはありません。たぶん初めから「大胆」だったのでしょう。
とりあえず「大胆」を「意訳の印象が強い」と解釈してお話したいと思います。


字数が制限される字幕の場合"意訳力"は不可欠です。例えば登場人物がものすごい早口で切れ目なく20秒ほどもしゃべり続けていたとします。かなりの情報量ですね。もし内容が怪事件の概要などFacts中心なら意訳力はそれほど問題になりません。重要な情報を抜き出し、日本語の流れを考慮しながらまとめればいいわけですから。
でも例えば人生に関する話だったら……。「抽出」と「まとめ」方式では意味が伝わらないことが多いです。見ている人が「うん?」と首をかしげる字幕です。私はこういう時、まず英語をじっくり聞き(または読み)、何が言いたいのか話し手の心中を探ります(凝った脚本ほど直接的な言い回しはしないので難しい)。そして限られた語数のなかにそれを"凝縮"しようと心がけます(省略ではありません)。そのためには原語にはない語も「大胆に」使います。話し手の意図を自然な日本語で、できるだけ正確に伝えることが大事だと思うからです。
でもこれには異論があることも承知しています。私自身、意訳に傾きすぎたなと思うといわゆる"直訳"に変えたり、まるで時計の振り子のように常に揺れています。この事は字幕翻訳の根幹に関わる大きな問題だと思うので、いくらスペースがあっても書き切れません。いつかお酒でも飲みながら話せたらいいのですが。

 
専門用語の多い『ER』には医師の監修がついていると聞いたことがあります。『X-ファイル』は医学、法律、宇宙人等非常に幅広いジャンルをカバーしているので、『ER』同様、専門用語や専門知識などが必要とされる場面が多いと思うのですが、すべてご自分で対処されているのですか? (きら さん)

はい、自分で何とか対処しています。おっしゃるとおりXファイルには様々な分野の専門用語が飛び交っています。単語はどこかに訳語がありますが、問題は専門知識の方ですね。友人に医者、弁護士、生命科学者、UFO信者、元軍人、心霊術師等々がいたら、どんなに助かることか!
誰もいない私はインターネットや百科事典、参考書などで時間が許す限り調べます。でも正直言って調べものは得意ではありません。根気と緻密さに欠けるのですね。でも仕事ですから……。ベストを尽くしております。不思議なことにどこからもクレームがついたことはありません。でもきっと「間違いではないけれど、こういう言い方はあまりしない」と思った方はいたでしょう。

■右は、『X-ファイル』の翻訳に書かせない資料本。特に、中央の科学捜査に関する本をよく使とのこと。作品中、アメリカの地名が多く出てくるため、そのようなときには右側の本が非常に参考になるそうです。


 
スカリーの姉を妹と誤訳してしまったとありますが、何をきっかけに誤訳であると判明したのですか?
また、このことによってその後のストーリー展開に支障があったのですか?
このような誤訳が発見された場合、作品を修正することはあるのですか?(ペルーの置物 さん)

ファンの方が発見されたのです。シーズン3の「アポクリファ」で今までスカリーの妹とされていたメリッサの生年月日が判明(彼女が殺され、その墓石に刻まれていた)。スカリーの生年月日はそれよりずっと前にすでに明かされており、それを覚えていたファンの方がフォックスに「メリッサの方が年上だ」と教えてくださったのです。私は担当者からこの話を聞き血の気が引いたことを覚えています。フォックスが


パッケージにお詫びと訂正を載せ、それ以降は「姉」と訳しました。そうするしかありません。ただすでに故人だったので登場した回数は非常に少ないです。ストーリー展開には支障なかったと思いますが、ファンの方が突然の変更をどう受け止められたか……。私にとっては大きな教訓となりました。誤訳の修正はDVD制作の段階で行われたと思います(私はチェックしていないので確かではありませんが)。

 
森泉さんがおっしゃるように、『X-ファイル』はマイノリティに優しい作品だと思います。差別用語や放送禁止用語などの関係で、翻訳するのが難しい言葉があったのではないかと思うのですが、具体的にどのような言葉で苦労されたのか、そしてそれをどう処理したのか、教えてください。 (ゾウガメ さん)

Xファイルは「普通と少し違う人々」に対する視線が優しいですよね(特別扱いしないと言った方がいいかもしれません)。それは英語にも表れていて、まず差別的な表現は出てきません。でも同時に逆差別もしない。つまりblind、deafなどは堂々と使われています。日本語ではそれを「目が見えない」「盲人」「耳が聞こえない」「聴覚障害者」などという言い方をしなければなりません。crazy、lunaticなども苦労します。「精神異常者」ではニュアンスが全く違いますよね。でも使えないのですからしようがない。私はケースバイケースで対処するようにしています。
例えばシーズン2の「サーカス」ではdeformityという言葉が頻繁に出てきました。たしか「奇形」は避けて「異形」としたと思います。epilepsyも「てんかん」と訳したらクレームがついたと記憶しています。どう変更したかは忘れてしまいました。これはXファイルではありませんが最近、「自閉症」にも"待った"がかかりました。「片手落ち」という普通の日本語も「片手」がいけないという理由で使えません。

何だか使えない言葉が増えていくようで虚しくなります。

 
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