【アメリア】みんなで作るインタビュー11・菊地浩司さん 紹介編
  みんなで作るインタビュー


 [紹介編]
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 今回のゲストは、『オーシャンズ12』『スパイダーマン2』など、数々の劇場公開映画の字幕翻訳を手がける菊地浩司氏です。翻訳者しか知らない、字幕制作の裏側を、たっぷりと話してくださいました。映像翻訳を目指す方はもちろん、映画好きな方必見です!
 そして、紹介編を読んで、もっと知りたい! こんなときはどうするの? という質問・疑問が出てきた人は、ぜひメールでお送りください。菊地氏が直接こたえてくれますよ!


 第11回 菊地浩司さん
<第11回> 紹介編|インタビュー編  全2ページ

プロフィール

学習院大学卒業後、ベルギーに1年間滞在。帰国後、サイレント映画の字幕翻訳を皮切りにテレビ、映画の翻訳をはじめる。その後、外国映画、ビデオの日本語版制作会社ACクリエイトを設立。現在は劇場用吹替え版制作も手がける。主な代表作に、『オーシャンズ』シリーズ、『スパイダーマン』シリーズ、『ジュラシック・パーク』『セブン』『ロボコップ』シリーズ、『スタンド・バイ・ミー』などがある。

劇場版字幕翻訳の裏の裏! えっ、画像なしで翻訳するの!?

 劇場版映画の字幕翻訳--これに憧れて映像翻訳の勉強を始めたという人は少なくない。まさに、映像翻訳家の頂点といえる。しかし、そこには我々には想像できないような苦労も数多いのだ。例えば、多くの人は「映像翻訳は、画像と英語のスクリプト(台本)を見ながら翻訳をする」のを当然だと思っているだろう。ところが、「最近は米日同時上映という作品も多いので、翻訳をする時点で映画はまだハリウッドで制作中、フイルムが日本に届いていないことがあります。また、大作になるほど海賊版が出回ることを恐れて、作業用のビデオテープを作らないことが多いんです」。先にスクリプトだけで翻訳をはじめたり、試写を1回観ただけで、あとはビデオテープなしで翻訳することも少なくないのだそうだ。

翻訳の前に試写1回。ここから勝負がはじまる

 では、ビデオテープなしで、どのように字幕翻訳の作業を進めていくのだろうか。
 字幕翻訳者の最初の仕事は“ハコを切る”こと。1枚の字幕に入れるセリフの長さを決めていく作業だ。翻訳者は試写を見ながら、手元にあるスクリプトに区切りを書き込んでいく。「なれた翻訳者は1回の試写で全部のハコを切ってしまいます。2、3人が同時にしゃべる場面では、どのセリフを生かすか、瞬時に判断しなければならない。考えていると、ストーリーはどんどん進んでしまいますからね」。これだけでも大変な作業だと思うが、菊地氏は試写の段階で同時に他の作業も行っているという。「キャラクターを読みとって、その風貌や印象を書き込んでいきます。翻訳するとき、キャラクター毎に話し方を変えたいんだけど、ビデオがないと顔が思い出せない。有名な俳優ならいいが、若手俳優が何人も出てくるときなんかは、あとから思い出すのが大変。だから、“ベレー帽の女”“メガネの小男”などとメモしておくんです」。

厳しいスケジュールの中、超人的(!?)な集中力が必要

 試写が終わると、スクリプトをもとに翻訳作業に入る。
 字幕翻訳の正しいやり方。それは、翻訳をはじめる前に台本を読み通し、ストーリーを頭に入れてから翻訳をはじめるという手順だ。でも、そもそも無理な日程で、台本を読み通す時間が取れないこともある。「仕方がないから、いきなり頭から訳しはじめて、途中で『ああ、前のセリフはこことつながっているのか』と気付くこともありますね(笑)」。
 字幕が完成すると、今度はもう一度フイルムを見ながら字幕のチェックを行う。ここでの正しいやり方は、字幕が出来上がったら、まず全部を読み通して日本語のおかしいところをチェックしておき、そのうえでフイルムでのチェックに臨むこと。しかし、ここでもそんな時間の余裕がないことも。「もう一発勝負です。途中で、あれれ、なんて思っていたら、すぐに字幕が10ぐらい進んでしまうから必死ですよ(笑)」

そこには、恐竜のいないジュラシック・パークがあった・・・・・・

 字幕制作の技術は、ここ数年でずいぶんと進歩した。昔は字幕をフイルムに直接打ち込んで試作版を作り、それを試写して字幕の最終チェックを行っていたが、最近はフイルムに打ち込む前に画面上でシミュレーションできるようになった。
 ただし、その画面は私たちがテレビで見るようなきれいな画像ではない。海賊版防止のために制作会社のマークが画面上を飛び回っていたり、全体にわざとピントが合っていない画像だったり、CG画像が合成されていなかったりするのだそうだ。「『ジュラシック・パーク3』を翻訳したときは、最後までCG画像が入っていなかった。シミュレーション版には恐竜が1匹もいないので、どういう種類の恐竜かわからない。海の場面で、恐竜は泳いでいるのかと思って訳していたら、実際には空を飛んでいて、ギリギリのところで直しました」

多くの人によって作り込まれた映画のセリフは“非日常会話”だ

  映画の翻訳は、小説や実務文書などと違って、そのほとんどが会話だ。しかし、「映画のセリフというのは、日常会話とは全然違う」と菊地氏は指摘する。「作家が一生懸命考え、映画監督らが練りに練って作り上げた、非常に洗練されたもの。一見、何気ないセリフに見えても、深い意味があり、表現にもこだわりがある」。これを日本語に置き換えるのだから、字幕にも深い意味を込め、表現も練り上げなければならない。
 さらに、セリフは話し言葉だが、字幕は書き言葉。観客は耳からではなく目から情報を得ることになる。「翻訳者がひとりで決めることではなく、制作スタッフと話し合う必要があるが、大人は“僕”、子どもは“ボク”と使い分けたりすることもあります」。字幕翻訳者は、日本語を深く理解し、使いこなさなければならないのだ。

字幕にキャラクター色を出す、その方法とは?

  「例えば“I love him.”というセリフがあったとする。どのように訳しますか?」直訳すれば“私は彼を愛しています”。女性のセリフだから“彼を愛しているわ”だろうか……。「語尾で言葉を作ろうとする人が多いが、それは間違い。“僕”“わたし”“オレ”というほうがキャラクターがはっきりする。女性なら「あの人が好き」とすれば女性の優しさが出る。「カレが好き」なら若い女の子のセリフになる。“I love her.”という男性のセリフなら「アイツが好き」となればいい。なるほど、文字制限がある短い字幕でも、これなら多くの情報を伝えることができるわけだ。字幕翻訳の奥深さを感じた。

映画を楽しむだけではダメ、映画を“きちんと観る”ことが大事

  字幕翻訳者を目指している人は、本来映画が好きで、おそらくたくさんの映画を観ていることだろう。しかし、翻訳者を目指すなら、ただ“好きで観る”“観て感動する”だけではダメだと菊地氏はいう。「映画を“きちんと観る”ということがすごく大切。この映画は何を言おうとしているのか、登場人物はどんなキャラクターか、そういうところまでちゃんと観てほしい」と。
 そんな菊地氏が、いま、映画好きの人に向けて、携帯電話用サイト「シネマ英会話EX」を配信している。「以前からこんな情報発信をしたかった。これを読んで、映画をいままで以上に、何倍も楽しんでほしい」。
 月曜から日曜まで、毎日更新される内容は、“名セリフ紹介”“字幕翻訳レッスン”“スター記者会見”“字幕翻訳者によるコラム”など。取り上げる映画は常に最新作で、現在、劇場でかかっているか、これから封切られるものばかり。「この携帯サイトを読み、実際に映画を観て、こんなふうにセリフ運びができているんだなと思ってもらえばいい。重要なセリフを選りすぐっていますから、映画を観る際のポイントになるはず。映画好きの人にも、映像翻訳をやってみたいという人にも、ぜひ読んでほしいコンテンツです」

シネマ英会話EXへのアクセスはこちら!

携帯から<http://mb.eigocinema.net
パソコンから<http://www.tsutaya.co.jp/mobile/cinema/>(紹介ページ)



※「シネマ英会話EX」は、株式会社キネマ旬報社、ACクリエイト株式会社、株式会社ツタヤオンラインの提携によるコラボレーション・サイトです。
 

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