【アメリア】対談の部屋3-1『子どもの本の歴史』は“面白い”研究書
読み物
対談の部屋  
<第3回>   全4ページ

第3回 『子どもの本の歴史』出版記念、共訳者特別対談


こだまともこ
 出版社に勤務の後、児童文学の創作と翻訳を始める。創作に『3じのおちゃにきてください』(福音館)など、訳書に『レモネードをつくろう』(徳間書店)、『シュトルーデルを焼きながら』(偕成社)、『いつもお兄ちゃんがいた』(講談社)など多数。白百合女子大学児童文化学科、翻訳学校フェロー・アカデミー
講師。

  さくまゆみこ
 出版社勤務を経て、現在はフリーで翻訳、編集をしている。著書に『イギリスの7つのファンタジーをめぐる旅』(メディアファクトリー)、訳書に『ローワンと黄金の谷の謎』(あすなろ書房)、『AはアフリカのA』(偕成社)他多数。玉川大学大学院研究科、玉川大学文学部英米文学科、白百合大学児童文化学科講師。

福本友美子
 公共図書館勤務を経て、現在は児童書の研究、批評、編集、翻訳、書誌作成などを手掛けている。訳書に『リディアのガーデニング』(アスラン書房)など、作成書誌に『海外で翻訳出版された日本の子どもの本1998』(日本国際児童図書評議会)他がある。厚生労働省社会保障審議会委員、国立国会図書館国際子ども図書館非常勤調査員、立教大学講師。
  田中亜希子
 2001年11月に絵本『コッケモーモー!』(徳間書店)の翻訳でデビュー。12月には金原瑞人氏との共訳書『テリーと海賊』(アーティストハウス)が刊行。やまねこ翻
訳クラブ(※)の会員。

※やまねこ翻訳クラブは@nifty文芸翻訳フォーラム内にある児童書専門サークルです。海外の子どもの本に関する情報交換、翻訳・シノプシス自主勉強会などを行っています。児童書に興味のある方でしたらどなたでも入会できますので、ぜひお気軽にご参加ください。
 

1.『子どもの本の歴史』は“面白い”研究書
田中:『子どもの本の歴史』のご出版、おめでとうございます。さっそくですが、『子どもの本の歴史』の特徴を教えていただけますか?

こだま:なんといっても、本の表紙の写真や挿絵、作家たちの肖像や当時の社会状況をしめす絵画や写真がたくさんあることですね。そのほかに、いままで日本で知られていなかった作家の顔を見ることができて感激したという声もきくことができました。

さくま:それから、他のこういった児童文学の研究書では、たとえばタウンゼンドの『子どもの本の歴史―英語圏の児童文学』(高杉一郎訳/岩波書店/1982年)などは当たり障りのない記述が多いんですけれど、この本は筆者がもっとつっこんで書いているので、読んでいて面白いと思います。

こだま:これまで出ていた研究書で、筆者の個性が出て深く掘り下げているものというと、ある一時代しか扱っていないものがほとんどでした。じゃあ、通史を扱っているものはどうかというと、今度は内容が網羅的というか、あるテーマをほんの1、2行で済ませて無難に通り過ぎている。『子どもの本の歴史』は、通史でありながら、各章でひとつのテーマを深く掘り下げています。筆者の個性がよく出ていますね。

福本:あと、私たちが勉強してきた児童文学の研究書は、1960年代、70年代くらいしかカバーしていないものが多いんです。この60年代、70年代というのは、英米でたくさん児童書が出た時代で、それを日本でも、5年10年のギャップはあるかもしれませんが、どんどん翻訳していました。児童文学が非常にもてはやされた時代です。ところが日本で出ている研究書は、ちょうどその辺までを取り上げて終わってしまっているんです。『子どもの本の歴史』では、その児童文学の黄金期から10年20年経ったあとで、冷静にその時期をみたときに、どう考えるかということが書かれているのがすごく面白いと思いました。たとえば、日本では神様のごとく言われているファージョンについても、新鮮な見方で書いてあります。児童文学が一時期隆盛を誇った時代から、ちょっとさがって、その時代のことを再評価しているというんでしょうか。とても勉強になります。

こだま:もちろん、英米では70年代を過ぎても、ずっといろんな研究書は出ていたのですが、日本では翻訳出版されていなかったから、通史となるとタウンゼンドの『子どもの本の歴史―英語圏の児童文学』をひもとくしかなかった。

田中:そうしますと、この本で特に読みどころになるのは、タウンゼンド以降の時代の章ということになりますか?

福本:といいますか、やはり読む人それぞれに興味のある分野があると思うんです。児童文学を勉強するといっても、たとえばミルンが好きで、そこから入る人もいれば、最近の『ザ・ギバー』から入る人もいるでしょう。この本は何も最初から読まなくても、好きなところから、興味のある場所から読めばいいんですよね。

田中:たしかに、この本は章ごとに独立していますから、そういう読み方ができますね。

福本:あと、『子どもの本の歴史』を読んでいて面白いのは、英米で評価の高い作家と日本で評価の高い作家は違うんだなとわかるところ。面白そうなのに、どうして日本では翻訳されていないんだろう、と思うような本があるんですよね。そういう埋もれたいい作品を、『子どもの本の歴史』を読んだ方がみつけて訳そうと思ってくださったらいいですね。

こだま:この本を訳すときは、勉強している人にわかるように、ということが何よりも頭にあったので、訳注を多くつけました。ただし、訳者が付け足したとわかるように、かっこをつけてあります。

さくま:それで、原文にもともとかっこでくくった説明がついているようなものは、できるだけ文章に埋め込んで訳したんですよね。読みやすいように。

田中:まさに、これから児童文学を勉強される方にはもってこいの本ですね。

さくま:今勉強している人にも読んでほしいですね。私の教えている学生なんかもそうですが、勉強していても、児童文学のことをわかっていない人は多いです。たとえば、児童書を、「子どもに対する教えが入っている本」とか、「ほのぼのとした暖かい雰囲気を持っている本」とかいうイメージだけで捉えている人は多い。本当はそうじゃないんですよね。これから勉強する人はもちろん、すでに勉強している人にも、この本はおすすめです。それから、自分の編集者時代を振り返ると、忙しくて児童文学史の流れをきちんとつかんでいなかったんですよね。こういう本があると全体を頭に入れることができるので、編集者にもいいと思います。

福本:私は図書館員出身なので、図書館の人に読んでもらいたいというのが、常に頭にあって……。こういう本は図書館には必ず入りますが、知り合いの図書館員から、図書館に入れる他に自分用にも買ったという話を聞いたときは、うれしかったですね。

こだま:この本は読み物として読んでも面白いと思いますよ。「子ども」というものに対するイメージの変化、子ども観の変化なんかがわかるので、歴史を勉強している人たちにも興味深く読んでいただけるんじゃないかしら。

福本:イギリスとアメリカが両立して書かれているのも、面白い点ですよね。今出ている研究書は、どちらかというと、イギリス児童文学について書かれているものが多く出ていますから。

こだま:章によって筆者が違うせいもあるでしょうね。ある章をアメリカ人が書き、別の章をイギリス人が書き、というふうになっていますから。

福本:だから、同じ現象を違う章で扱っていることもあるんですよね。
  トップへ 次へ