【アメリア】対談の部屋4-4翻訳家になるには何が必要? それは、読書体験とセンス?!
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<第4回>   全5ページ

第4回 ミステリ翻訳界の二人の雄
4.翻訳家になるには何が必要? それは、読書体験とセンス?!

田口:僕は、翻訳のほうでは先輩ですが、パソコンでは教えてもらってばかりなんです。僕は、とにかくダメなんですよ。本当に情けなくなるくらい。だから、機種選びから、セットアップから、全部やってもらってね。これはね、知能指数の問題だと、最近はっきり思います。マニュアルを読んでも、全然わからないんだから。

--調べものはインターネットですか?

三川:はい、そうです。便利になりましたね。

田口:僕だって、キーワードを打ち込むくらいできますよ。うまくしたもんでね、生徒にパソコンに強い人がいたりするんですよ。「ちょっと悪いけど」って頼むとやってくれるんですよ。自分はちっともわからないけれども、そういう人を知っているだけでいいかなって。

--それも財産ですよね。

田口:だから、コイツに先に死なれると困るんだよね。唯一、そこのところで(笑)。

--おふたりとも翻訳を教えていらっしゃいますが、"翻訳家の資質"とは、何だと思いますか? 先生の立場から生徒を見ていて、資質の有り無しはわかりますか?

三川:まだ1年しか教えていないんだけど、最初から素質はあるみたいですね。訳させたときに、上手いなあ、センスがあるなあ、という人がいる。さっき田口が言ったみたいに、やはり英語ができないとダメですね。英語を理解することでいっぱいになってしまうと、アップアップしてしまう。英語は読んだだけでわかって、その上での翻訳だと思うんですよね。

田口:これは受け売りですが、宮脇孝雄さんという敬愛する翻訳者が「12歳までの読書体験で決まる」とおっしゃっているんです。これ、恐いでしょう。

--恐いですよね。ほとんどの人は、もう、どうしようもないですものね。

田口:はじめは極端な気がしたんだけれども、最近、やっぱりそうかなあって。12歳っていうのは、ものごころが付くか付かないかという、ぎりぎりの年齢でしょう。10代になると、ある程度、自覚的になりますよね。それまでは好き嫌いだけで、いろいろなことを無自覚にやっている。そういう頃に(資質が)表れているのだと思うんですよね。だから、生徒が翻訳を続けようか、どうしようかと迷っているときに、12歳までの読書体験を聞いてみるんです。読書体験がなかったと答えた人には、ダメだとはっきりいっている。でも、読書体験というのも実は幅の広い言葉で、量を読んでいれば読書体験があるということでもないと思うんですよね。一冊の本に感銘を受けて、その本のことを隅々まで覚えている場合はどうなのか。

--でも、そうなると、幼児期に読書体験がなかった人は、翻訳家にはなれないのでしょうか?

田口:これもまた、宮脇さんの言葉なんですが、「才能じゃなくて、センスだ」と。才能はどうしようもないかも知れないけれども、センスは身に付くと。確かに、そういう面もあるでしょう。

三川:1年間、大学で翻訳の授業を行ってきた経験でいうと、生徒はびっくりするくらい上達をしています。最初はみんな、翻訳なんてやったことがない。英文和訳しかやったことない。ところが、毎週、人の訳文を聞き、自分の訳文を批判されていると、後期には段々よくなってくる。感心したのがね、外出した奥さんが残したメモの最初が"Hi,"で始まっていたんだけど、これを「お帰りなさい」と訳した生徒が何人かいたんですよ。

--翻訳を勉強しない限り、中学からの英語の勉強では、そうは訳せないですよね。

三川:それはね、教えている側としても、うれしかったですよ。

田口:実を言うと、こういうところ(翻訳学校)は詐欺みたいなところじゃないかと思っていたんですよ。でもね、実際にやってみると、そうじゃなかった。芹澤恵さんという翻訳家がいますよね。今はフェローで講師をやっているくらい、実力のある翻訳家になったけれども、彼女は、僕の最初の生徒だったんですよ。その頃、ハーレクインを何冊か訳していて、だからというわけでもないんだけれども、型にはまった表現というか、ちょっと臭い文章を書く人だなと思っていたんです。それが、みるみる上手くなって。お世辞かもしれないけれども、彼女曰く「翻訳ってこういうものなんだ、ということがわかりました」って。それからメキメキ力を付けて、いまや"出藍の誉れ"ですからね。そういう生徒が現にいたから、「あぁ、こりゃ詐欺じゃないな」って思えた。もちろん、本人の力なんですが、学校ってそういうところでしょう。生徒に何かキッカケを与えてやる場というか。何もかも教えるなんて、そんなことはできっこないんだから。

三川:訳文を人と比べるって、勉強になるよね。学生に訳させて、自分も訳したものを持っていって、「負けた!」と思うこともある。それは僕にとって初めての経験で、非常にいい勉強だと思う。

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