【アメリア】対談の部屋4-5それが自分の天職だと思える。翻訳家とはそういうもの・・・
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対談の部屋  
<第4回>   全5ページ

第4回 ミステリ翻訳界の二人の雄
5.それが自分の天職だと思える。翻訳家とはそういうもの・・・

--おふたりとも、授業と翻訳業と両立なさっているのですが、どのようなスケジュールでこなしているのですか?

三川:私は暇さえあれば翻訳をしています。好きなんですよね。朝起きて、頭がはっきりしてきたら、もうやっています。で、疲れるまでやる。学校の仕事は、しょうがない、嫌々ですね(笑)。翻訳のほうが断然好きです。学校の方は、最低限の義務を果たしているだけ。だから、本当に、休みはとっていないですね。今やっている仕事(翻訳)を、なるべく短い時間で終わらせて、次の仕事をいっぱいやりたいんです。

田口:冊数で僕に追いつきたいっていうんだよね。無理だって! 百何十冊あるんだよ。

三川:私は今は、25冊。

田口:でも、速いですよ。ちょっとね、ちょっと気になるくらい。まだ、余裕があるけどね。

三川:雑誌の翻訳をしてから8年、初めての翻訳書を出してからだと、この3月でちょうど5年なんです。昨年は六冊出しました。

田口:6冊か。他の仕事をしながら6冊というのは、すごい速さですよ。専業の翻訳家でも、6冊出たら多いほうなんだから。

三川:小学校のときに算数であったね。「あと、何年で追いつくでしょう?」っていうの(笑)。

田口:本気で追いつこうと思っているのか! 仕事の仕方に関しては、僕も同じですね。時間があれば(翻訳を)やっている。時間を決めてやるというのは、女性に多いようですね。

--朝、何時からはじめて、土日は休んでとか、そういうことですか?

田口:土日はやらないなんて、かなりの大御所ですよ。みんな、一生懸命やっていると思いますよ。スケジュールを組んだほうが効率がいいのかも知れませんが、僕の場合、空いている時間にやっている。他になにかすることがあれば途切れるけれども。僕も、土曜日に競馬に行けるようになったのは、つい最近なんですよ。時間があると、やっぱりやっちゃうんだよね。

--それはやはり、安定していない仕事だという意識があるからですか?

田口:そうだと思います。やればどんどん早く終わるわけでしょう。そこが物書きと違うところで、はじめから文章量が決まっているから、少しでもやっておけばという気持ちになるんだと思う。だから、まわりに聞いても、一日休むっていう人は、なかなかいないですよ。

三川:僕はまだ、休む勇気はないね。

田口:まだまだ、5年だろう。25年やってやっとなんだから。

三川:物理的に出来ない日。他の用事があるとか、そういう日だけですね。そうじゃなくて出来なかった日というのは、すごくがっかりします。調子が出なくてできなかったとかね。

--ミステリというのは、最初から目指していたジャンルですか?

田口:僕の場合は、最初からミステリでしたから、これしか知らなかった。でも、嫌いじゃないですね。最初は物書きになりたかったんだけれども、それをどこかの時点で諦めた。自分自身には、人に表現しなければならないことはないと、20代半ばぐらいに見限ったんです。でも、表現するということには関わっていたかった。ちょうどその欲求だけを満たしてくれる。僕自身としては、表現するだけのものはなくても、表現するという行為は満足させてくれる、それが翻訳だったんです。田村義進先生がうまいこと言っていてね。「翻訳者は原作者よりも印税がちょっと安い。でも、それはしょうがない。作家はゼロからイチを作りだす。でも、我々は出来上がった上澄みだけすくってりゃいいんだ」というわけですよ。この言葉、うまいなと思ってね。美味しいところだけ楽しめる、そういう仕事ではあります。ゼロからイチを作るのには、相当エネルギーが必要ですが、翻訳には、少なくともそういうエネルギーは必要ない。だからといって、楽な仕事ではないけれども、でも「いい商売だよね」って。

--お話しをうかがっていると、おふたりとも、翻訳家が天職のようですね。

三川:ええ。ただ、翻訳をやっていらっしゃる方は、みなさんそうおっしゃいますよね。そういう仕事なんですよね。

田口:みんな好きなんですよ。なんだかんだ言っても。

--では、翻訳家を目指す資格として、好きであれば、まずスタートラインに立っても良いということでしょうか。

田口:もちろん、もちろん。それが、いちばん大切だし、それに、好きなら、たとえモノにならなくても、満足できますからね。好きでやったんですもの。自分を高めようとか、資格をとろうとか、もっとお金を稼ぎたいからとか、そういう動機であれば、うまくいかなければ落ち込むでしょう。でも、好きなことやっているんだもん! 途中でやめたとしたら、それは、ただ単に好きじゃなくなったからでしょう。それだけのことじゃないですか。生徒にいつも言っているんですけどね。

--今日は、楽しいお話をありがとうございました。


(ふたりとも、席を立って、帰り支度をしながら……)
田口:これ、オレがほとんどしゃべっていたような気がするんだけど。お前もしゃべった?

三川:うん。大事なことはオレがしゃべったから。

田口:あっそう。

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