【アメリア】対談の部屋6-1時代が変われば、雑誌も変える〜老舗ビジネス雑誌の大転換
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対談の部屋  
<第6回>   全4ページ

第6回 『プレジデント』編集長と語るビジネスと翻訳の未来
『プレジデント』編集長 藤原昭広氏 vs. 判例翻訳プロジェクト・リーダー 吉本秀人氏

雑誌『プレジデント』編集長の藤原昭広氏とフェロー・アカデミー講師の吉本秀人氏は大学時代の同級生。ビジネス誌の編集長とビジネス翻訳の講師というそれぞれのお立場に共通する問題意識から、ビジネスと翻訳の今後について友人同士ならではの本音で大いに語っていただきました。

1.時代が変われば、雑誌も変える〜老舗ビジネス雑誌の大転換


● 「現役の社長が読む本」から「10年後の社長が読む本」へ


吉本:このアメリアは会員の主体が女性なんだけど、その意味では、『プレジデント』と対照的じゃない?

藤原:そうね。『プレジデント』の読者はほとんどが男性だから。女性は9%くらい。これでも増えたんだよ。増えて9%。

吉本:とくに昔の『プレジデント』なんて女の人が読むのはつらかったよね。表紙は家康や信長のリアルな絵だし、ずっしりと重いし。しかし、藤原が編集長になってから『プレジデント』はガラっと変わったな。表紙は“歴史上の人物の絵”じゃなくて“旬の人物の写真”で、キヨスクでも売ってる。

藤原:月2回刊行にしたしね。社内では相当反対があったけど。

吉本:男女比以外の部分で読者層は変わった?

藤原:以前は、基本的に“現役の社長”が読者だったわけだよ。

吉本:社長が歴史上の人物に自らをなぞらえたり憧れたりして読むと。一種の歴史読本だ。

藤原:いや、本当に歴史読本。日本の経済が右肩上がりのときはそれでもよかったんだ。成功体験を読むということで。

吉本:それもきわめて少数派の成功体験ね。歴史上の人物だったり、大企業のトップだったり。

藤原:そうそう。誰も徳川家康の真似はできないわけだよ、本当は。だって、相手は徳川家康なんだから(笑)。

吉本:織田信長でも難しい(笑)。

藤原:今の中心的な読者は“10年後の社長”。だから、現在の部長さん課長さんだな。読者層が最低10歳は若返ったことになるわけ。

吉本:単純に考えても、現在いる社長の数よりも10年後の社長候補の数の方が多いからね。販売部数も増える可能性が高い。

藤原:幸いなことに、売れ行きは伸びたね。変えることに対しては内部に強い反対も多かったから、売れなかったら大変だよ、これは。後ろから矢が飛んできて一巻の終わり(笑)。今でも毎号毎号、出す度に緊張してるけど。

吉本:藤原が変える直前でも、『プレジデント』は利益を上げてたんじゃないの?

藤原:とにかく広告は減らなかったからね、不景気でもうちの雑誌は。だから、何か大損したとかそういうことで変えたわけじゃないんですよ。

吉本:負けてないときに変えるのは、一番勇気がいるな。でも、社内の強い反対を押し切ってまで、販売形態から本の中身から装丁から、なにもかもをあれだけ劇的に変えたのはそもそもどういう考えがあったの?


● “半径5メートル”の視点


藤原:編集長をやる前は広告部長だったんだけど、当時はバブルがはじけて大変。管理職として部下をどう動かそうとか、自分のやる気をどう高めようかとか、中国に出張したときはどうするかとか、いろいろと悩むことがあってさ。そんなときに、答えを求めるような気持ちであらためて当時の『プレジデント』を読んだわけよ。自分の売ってる雑誌を。そうしたら、これが役にたたなかった。

吉本:家康は、広告部長の悩みに答えてくれなかったと。

藤原:少なくとも、当時の『プレジデント』には何も書いてなかった、といったら言いすぎだけど部分的にしか書いてなかったんだよ、自分の知りたいことは。だから、自分の力で自分の読みたいことが書いてある本にしてやろうと考えた。それですごくやる気になってね。

吉本:何か、その辺はNHK『プロジェクトX』の世界だな。田口トモロヲのナレーションで聞かせたい。「藤原は、“変えなければ”と思った」とか言って。「身体が震えた」とか(笑)。

藤原:やっぱり『プロジェクトX』なんていう番組が受けたのは、あそこで描かれているのが個別具体的な現場の成功体験だからでさ。単なる昭和ノスタルジーじゃないんだよな。

吉本:あと、こういう時代だと、経済雑誌でも、「恐慌が来るぞ」とか「○月危機説」とか、人々の不安をあおるネガティブな話が売れるじゃない。みんなが下を向いて歩いている時に成功体験をどう伝えていくかってこともあるね。

藤原:マクロ的に不況だといっても、個別的に見れば、必ず頑張ってる人間はいる。ダメだダメだの前に、そういう人間はどこが違うのか、どのように動いているかを紹介するのがウチの雑誌の基本的な編集方針になった。

吉本:今でいうと、GMの社長とか日産の社長とか、外国人の社長さんがウケてるけどね。ああいう人たちはビジネスマンのロール・モデルになるのかな。

藤原:同じカルロス・ゴーンさんの記事を書くんでも、それが部課長レベルでどうだという視点を必ず具体的に出さないとね。“半径5メートル理論”というのがあるんだけど、やっぱり読者の視野が届く範囲に話をおろさないとダメ。

吉本:じゃあ、今の『プレジデント』は、10年後の社長さんが自分の半径5メートルの悩みや疑問に対する答えを探せる雑誌になったと。

藤原:そういう雑誌にするために、今度は毎日、企画に頭を悩ませているわけだよ。これがまた苦しい。

吉本:さすがにその答えは今の『プレジデント』にも載ってないからね。成功を維持するのがまた大変だ。
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