【アメリア】対談の部屋 8-6 映画がますます好きになる!〜 Movie Trivia 番外編 〜
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第8回 映画がますます好きになる!〜Movie Trivia 番外編〜

いろんな意味で、ヒッチコックはすごい監督だった

吉野:ノーカット版のDVDというのが最近よく出ていますよね。劇場ではカットされてしまった部分が、すべて含まれていて、そのために映画の意図するところがまったく変わってくるようなものが。

アル:いくつもありますね。ひとつは『ライトスタッフ』です。劇場版は2時間40分ですが、ビデオでは3時間19分あるんです。これは、うまく抜いてあるんですよ。でも、ニュアンスがまったく違っていて、長いほうが映画に幅が出ています。最も大きく違っていたのは『ラストエンペラー』じゃなかったかな。あれも、劇場版だと2時間45分くらいだったのが、DVDの特別版では4時間近いんです。どの映像を抜いてあったかというと、脇役である乳母と外務大臣が登場する場面。これがほとんど劇場版には出てこなかった。それがDVDでは、乳母がものすごく前に出てくるんです。乳母が、“私が次の皇帝の本当の親だ”という意識をもって接している。それが出てくると、映画がすごく面白くなるんです。ですから『ラストエンペラー』はぜひ、特別版のほうをご覧ください。『ダンス・ウィズ・ウルブス』も4時間版がありますよね。劇場では3時間ちょっとでしたが。

吉野:そうなんですか。これからは気を付けて観てみます。

アル:それから、先程の“アメリカの映画制作が工場だった”という話で面白かったのがね、『カサブランカ』のDVDの中で、映画評論家をしているイングリッド・バーグマンの実の娘が言っているんですが、「母は『カサブランカ』を代表作だとは思っていない」というんですよ。あの映画を撮っているときに、もう次の映画、『誰がために鐘は鳴る』の話が来ていて、そちらのほうが大作だったから、本人もその気になっていて、『カサブランカ』の撮影中にも、そのことばかりが頭にあって、気もそぞろだったというんですよ。それから、その当時の制作者も、「あれ(『カサブランカ』)は50本のうちの1本だ」と言っているんです。1週間に1本、1年間に50本の映画を作っていて、そのうちの1本、ワン・オブ・ゼムのプログラムピクチャーなんだと。それがたまたまヒットして話題になっただけで、今は名作だと言われているけど、作っているときは、そんな気はなかったよってね。それから、こんな話もある。映画の中で歌われている『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』という曲があって、今では非常に有名な曲ですが、それをもっと良い曲があるから、もう一度、撮り直そうとしたんだそうです。ところがバーグマンはもう『誰がために鐘は鳴る』のために髪を切っちゃった後だったから撮影はできないということになって、仕方なく『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』をそのまま出した。それが今では名曲でしょう。そういうこともあるんだなと。オートメーションの工場システムで映画を作っていた時代でも、スタッフはみんな職人だから、面白い仕事はできているわけです。オートメーションだからつまらないというわけではない。

吉本:明らかに平均点は高いですよ。夢の工場ですから。必ずある程度のレベル以上のものが生み出されている。独占禁止法の適用でメジャーが弱体化して独立プロが台頭するようになってからは、出来に差が出るようになってきた。20年代から40年代の半ばのアメリカ映画は、好き嫌いは別にして、技術的な安定度はすごいですね。パラマウント、ユニバーサル、MGM、ワーナー、フォックス……それぞれの会社のカラーがちゃんとあって。今はカラーがなくなってしまいましたね。当時の内情に関していろいろ知ると、映画づくりが個人の営みと組織の営みのせめぎあいの中にあることがよくわかって面白い。

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