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遠藤 豪さん

遠藤 豪さん

広がりつづけるゲーム翻訳の世界

プロフィール

前職の製造業を会社都合で退職後、3〜4年ほど英語を勉強し、翻訳の仕事に就きたいと考えて実務翻訳を独学で学ぶ。2011年にフリーランス翻訳者として働き始め、国際ゲーム翻訳コンテストのLocJAMのプロ部門(英日)で入賞したことを機に本格的にゲーム翻訳の道に入る。現在は大作ゲームからインディーゲームまで様々なジャンルのゲーム翻訳にたずさわる。公表できる翻訳作品は『Moving Out』、『Dicey Dungeons』、『The TakeOver』、『ボムスリンガー』など。

大作からインディーゲームという流れ

加賀山 :本日は山形県にお住まいのゲーム翻訳家、遠藤豪(えんどう ごう)さんにオンラインでお話をうかがいます。いままでにゲームを何本ぐらい訳されましたか?

遠藤 :守秘義務があってタイトルを明かせないものもけっこうあるのですが、だいたい70〜80本、手がけました。

加賀山 :1作につき翻訳の時間はどのくらいかかるのですか?

遠藤 :部分的に依頼されることが多いので、一概には言えませんね。たとえば、20〜30万ワードほどのゲームを7〜10人の翻訳者で分割して訳したりします。少量で短期のものだと2〜3日だったり、分量が多く長期のものだと3〜4ヶ月かかったりします。

加賀山 :長さも訳す期間もいろいろということですね。

遠藤 :そうです。訳すのはおもにゲームのキャラクターのセリフやUIテキストですが、ときには公式設定資料集とか、公式サイトのコンテンツ、トレーラー、アップデート関連情報、プレスリリース、利用規約などもあって、内容は多岐にわたります。

加賀山 :守秘義務があるということですが、プロフィールに書いておられる『バートラム・フィドルの冒険:エピソード1』など、タイトルを公表できるものもあるのですね。

遠藤 :はい、このようにクレジットに名前がのるゲームもあります。冒険家バートラム・フィドルが主人公で、ホームズやワトソンなどが脇役として出てきます。自分も含めて3人の共訳で、脇役たちのセリフを担当しました。3人が訳したものをリード翻訳者が統括して、最終的に齟齬がないように組み上げました。

加賀山 :以前に聞いた話ですと、ゲームの一部分だけを訳すと、英語の主語のIが男か女かわからないこともあるということでした。そういう経験はありますか?

遠藤 :翻訳会社によってちがいますが、基本的に翻訳する原文はエクセルのファイルで渡されます。そこにキャラクターの性別などの補足情報が入っていることもありますが、ないことのほうが多いので、そういうときには開発元に質問します。
 ゲームそのものの開発と翻訳が同時進行ということもよくあって、そうなるとゲームの完成画面を見られないので、場面を想像しながら訳すしかありません。完成したゲームを実際にプレーしつつ訳せることはまれですね。大作であればあるほど外部に情報をもらさないよう厳重に管理されますので、その傾向が強くなります。

加賀山 :いろいろ制約があるのですね。

仕事場兼趣味の部屋。休日はプロジェクターと100インチスクリーンで映画やゲームを楽しむ。

遠藤 :『バートラム・フィドルの冒険』は少し古い作品ですが、最近、『Moving Out(ムービングアウト)』というアクションゲームの翻訳を担当しました。引っ越し業者の社員になって荷物や家具を運び、各ステージで指定される荷物を制限時間内にトラックに積めばクリアになるゲームです。最大4人まで同時プレーできるので、友だちといっしょにわいわい楽しめます。

加賀山 :引っ越しですか。いろいろなジャンルがあるんですね。それも分担して訳されたのですか?

遠藤 :これはひとりで訳しました。映画並みの予算をかける大作とちがって、個人や小規模の開発チームで作るインディーゲームというのがありまして、『Moving Out』はそのひとつです。引っ越しをテーマにしたゲームはこれが初めてかも(笑)。
 インディーゲームの場合、開発者との距離が近くて、直接やりとりができることもあります。そういうゲームを専門にしている翻訳会社からは、翻訳が終わったら翻訳者の名前を出してもいいし、宣伝もOKと言われています。

加賀山 :翻訳者がもらう報酬は、ワード単位ですよね。大作でもインディーゲームでも、単価は同じなんですか?

遠藤 :大手のゲームだと分量が多いので、まとめて稼げますが、単価は若干低めです。取引先にもよりますが、私の場合はインディーゲームのほうが、単価が高くて、やりがいもある感じです。

加賀山 :え、そうなんですか。逆かと思いました。

遠藤 :大きいゲームだと、日本語だけでなく7〜8カ国語で同時に翻訳しますので、日本語だけ単価を高くするわけにはいかないという事情があるようです。

加賀山 :なるほど。インディーゲームのほうが裁量の余地があるのですね。だとすると、ご自身の名前も出るし、単価は高いし、ひとりで訳せるし、いいことずくめのような気もしますけど……。

遠藤 :翻訳環境で言えば、インディーゲームのほうがやりやすいということはあります。いまゲーム翻訳業界は二分化していまして、ベテランの翻訳者さんはどちらかというとインディーゲーム中心になりつつあります。そこでどんどん名前を出して、雑誌の取材を受けたりして、さらに有名になっているかたもおられます。

ゲームの世界設定も訳す

加賀山 :ほかにもご自身の名前がクレジットされた作品や公表できるタイトルはありますか?

遠藤 :『Dicey Dungeons(ダイシーダンジョンズ)』というゲームを訳しました。いろいろな装備をそろえながら、ランダムで生成されるダンジョンを攻略していくゲームです。各装備には使用条件が設定されていて、装備が使えるか使えないかはサイコロ(Dice)の出目に左右されるため、プレーヤーは振ったサイコロの目に応じて攻略法を練っていく必要があります。
 技術的な問題があって、1年ほどリリースが遅れましたが、最近のアップデートでようやく日本語が実装されました。今はPC版のみですが、Nintendo Switchに移植される予定です。

加賀山 :人気が出そうですね。それで思ったんですが、対象となる端末によって訳し方を変えなければいけないこともあるんでしょうか?

遠藤 :ありますね。端末によって表示可能な字数や文字の大きさが変わりますので、いちばん表示が少ない端末に合わせて訳文を短くしたり。最初から制限がわかっていればいいのですが、テキストを実装してみないとわからないときもありまして、あとから調整がたいへんです。

加賀山 :そのへんは経験を積まないとむずかしそう。ほかはどうでしょう。

遠藤 :『The TakeOver(テイクオーバー)』という横スクロールのアクションゲームも担当しました。暴力と恐怖が支配する犯罪都市が舞台で、主人公が娘を誘拐され、謎の犯罪組織に立ち向かっていくというストーリーです。
 あと、共訳ですが、『Automachef(オートマシェフ)』というのがありまして、これは効率的な料理の自動生産ラインを組み立てていくゲームです。見た目がかわいらしいので簡単にできそうなんですが、上級者向けにプログラミングが必要な機械も用意されていて、なかなか高度です。

加賀山 :料理がテーマの作品まで……。

遠藤 :『ボムスリンガー』というアクションゲームも訳しました。強盗団の一員だった主人公ボムスリンガーが足を洗って、ある女性と結婚していたのですが、居場所を昔の強盗団に突き止められて妻を殺されてしまう。そこで爆弾を使って敵を吹っ飛ばしながら、復讐を果たすといった内容です。

加賀山 :それはミステリーの筋書きにもありそうな感じです。いやー、いろいろありますね。

遠藤 :これらは全部、ここ1〜2年で名前が出せるようになった仕事です。

加賀山 :仕事はゲーム専門の翻訳会社から来るのですか?

遠藤 :そうです。専門の翻訳会社に登録しておくと、条件に合う仕事が発生したときにコーディネーターさんからメールが来て、受注するというかたちです。
 登録だけしてあって、なかなか仕事に結びつかない会社もありますが、いまメインで受注しているのは3社です。

加賀山 :プロフィールに書いておられる仕事の内容で、「ロア/フレーバーテキスト」というのがありますが、これは何でしょう。

遠藤 :ストーリーや操作方法などとは関係のない、ゲームの世界設定にかかわるテキストですね。キャラクターの生い立ちとか、この武器はこういう経緯で作られたとか、ゲームの世界の理解を深めるような内容です。

加賀山 :「UIテキスト」というのは?

遠藤 :RPG(ロールプレイングゲーム)であれば、クエスト(課題・目標)で次はどこへ行って何々をするといった説明や、ボタン操作で「これを押すとこういう行動ができます」というような説明です。

加賀山 :「公式設定資料」も、ゲームの世界観に関する資料ということですか?

遠藤 :ええ。10年以上続いているようなシリーズでは、登場するキャラクターや派閥に関する情報が膨大です。それらが「設定」にかかわる資料で、その訳をホームページ上で公開し、ファンの皆さんが見られるようにするわけです。
 そこでむずかしいのは、ゲームで語られている部分だけでなく、映画や小説や漫画など、派生作品の情報が盛りこまれている場合ですね。派生作品のほうは日本で翻訳されていないことも多いのですが、資料の執筆者は派生作品の設定も前提にして書きますから、そちらの知識もないとうまく訳せないことがあります。

コンテスト入賞が飛躍のきっかけに

加賀山 :翻訳の世界に入られたきっかけは何だったのですか?

遠藤 :そもそも翻訳とは関係ない製造業の会社に勤めていましたが、会社都合で退職しました。すぐまた就職しようかと迷ったのですが、しばらく英語を勉強したくなりまして、独学で3〜4年ほど学び、そこからさらに翻訳の勉強を始めました。

加賀山 :それはゲーム翻訳ではなくて、翻訳一般ですか?

遠藤 :そうです。どの分野が向いているのかまだわからなかったので、ひとまず実務の経済・金融分野をメインに勉強しました。その後、アメリアの定例トライアルや、翻訳実務検定(TQE)を受けたりして、ある程度実力がついたと感じたところで、企業のトライアルにも応募しました。

加賀山 :それで合格したのが、たまたまゲームだった?

遠藤 :実務での登録があまり仕事に結びつかなかったときに、アメリアで「ゲーム翻訳急募」という案件があったんです。そのトライアルに応募して合格し、初めてゲーム翻訳にたずさわりました。

アシスタント猫のミュー。適度な距離感で仕事を見守る。特技は「ニャンモナイト化」。

加賀山 :そこから定期的に仕事が来るようになったのですか?

遠藤 :ええ、本来その仕事は一回かぎりで終わるはずだったんですが、翻訳の内容がよかったということで、続けてやってみませんかと声をかけていただきました。

加賀山 :それはいつごろですか?

遠藤 :2011年でした。そこからフリーランスでゲーム翻訳を始めましたので、今年で10年ほどになります。

加賀山 :ゲーム翻訳を最初からめざしたわけではなかったのですね。

遠藤 :もともとゲームをするのは好きでしたが、ゲーム翻訳というジャンルがあることすら知りませんでした。その急募の求人があったときにも、どんな内容を訳すのかわからなかったくらいで。

加賀山 :そしたらエクセルのファイルがぼんと来た(笑)。

遠藤 :最初は面食らいました。とにかくそれでゲーム翻訳の世界に入ったのですが、2014年にLocJAMという翻訳コンテストで入賞してから、けっこう仕事が舞いこむようになりました。

加賀山 :ゲーム翻訳のコンテストですね。そういうコンテストは多いのですか?

遠藤 :あとは、通訳翻訳ジャーナルでおこなわれたものぐらいでしょうか。ゲーム翻訳に特化したコンテストはなかなかありません。

加賀山 :同じ素材をみんなで訳して優劣を競うのですか?

遠藤 :ええ。LocJAMは、国際ゲーム開発者協会が2014〜2017年まで開催していた翻訳コンテストで、プロ部門とアマチュア部門に分かれ、誰でも参加できました。課題のゲームは実際にプレーできて、翻訳した内容もゲーム内に反映できるように改良されていました。そのプロ部門(英日)で入賞しました。

加賀山 :そこで名前が売れて、業界内で知られるようになった。ふだん営業活動はされていますか? たとえば、出版翻訳ですと、おもしろい原書を自分で見つけて出版社に売りこむ場合もありますが、そういうことは?

遠藤 :基本的にこちらは待ちの状態です。ただ、知り合いの翻訳者のなかには、このゲームを訳したいというふうに、インディーゲームの開発者と直接話し合っているかたもいます。

加賀山 :ゲーム翻訳で活躍中の翻訳者は何人ぐらいいるんでしょう。

遠藤 :自分が知っている範囲では20人ぐらいです。もちろん、名前は出ないけれど第一線で活躍しておられるかたもいます。
 ときどきゲーム翻訳者の集まりがありまして、それには30〜40人ぐらい参加します。皆さん、毎年、東京ゲームショウなどのイベントのために上京するので、そういう機会に集まるのです。
 翻訳者同士で交流するだけでなく、イベントに出展している翻訳会社さんに挨拶もします。東京ゲームショウに出展したインディーゲーム専門の翻訳会社に営業活動をして、あとで仕事をいただくこともあります。

加賀山 :ゲームショウは翻訳者にとって営業の場でもあるんですね。

遠藤 :そうですね。海外のゲーム開発者も出展していますから、開発者本人と話して、翻訳させてほしいと交渉することも可能だと思います。いまはそういう仕事の開拓方法もありますね。

加賀山 :趣味でもゲームをされますか?

遠藤 :シューティングやアクションゲームが好きで、最近だと『バイオハザード RE:3』や『ディビジョン2』をやったりしています。

加賀山 :ゲーム業界の最近の傾向というか、新しい流れのようなものはありますか?

遠藤 :自分がゲーム翻訳を始めたころは、キャラクターの一人称視点で敵を倒していくFPS(ファースト・パーソン・シューティング)やアクションゲームが多かったんですが、最近はこれまでの枠にとらわれない、斬新なジャンルのゲームが増えてきています。『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』や『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン』など、映画やドラマのように見て楽しめるストーリー主体の大作ゲームもけっこうありますし。
 ゲーム翻訳は、このようにバラエティ豊かで、毎回訳すものが変わるので、臨機応変に対処することが必要ですね。

加賀山 :そう思いますね。いまの仕事は英日のみですか?

遠藤 :はい、英日のみです。

加賀山 :業界としては、日英の仕事もありますか? 日本語のゲームを海外にローカライズして販売するような。

遠藤 :ええ、日英の案件も増えているようです。需要が増えているのは英日も同じで、全般にゲーム翻訳者が不足しているという話も聞きます。

究極のやりがいを求めて

加賀山 :今後、こういう分野のゲームを訳してみたいとか、ゲーム以外の翻訳をしてみたいというようなお考えは?

遠藤 :いまはようやく、翻訳するゲームを事前にプレーして、訳して、クレジットに名前も出るようになりましたが、それでもまだ日本語の改行の調整や、見映えをよくすることができない状態です。できれば、訳文の見映えも含めた最終的な調整までまかせてもらえるようなゲームにたずさわりたい。
 それと、ゲーム翻訳ではキャラクターのセリフを訳すことが多いので、映像翻訳に近い部分があります。ですから、映像翻訳のほうにも進出してみたいかなとは考えています。

加賀山 :あ、それで思いましたが、ゲーム翻訳でも、映像翻訳の字幕のような字数制限があるんですか?

遠藤 :開発元から指定される場合もあれば、とくにない場合もありますが、長すぎるとどうしても読みにくくなるので、指定がなくても短くすることはあります。改行などの調整は、ゲームの開発ツールを使わないとできないこともあって、こちらとしては、たとえば禁則処理をして読みやすくしたくても、なかなか思いどおりになりません。
 さらに、『Moving Out』でもそうでしたが、オプションでUIのスケーリング機能があるゲームもあります。プレーヤーがテキストのフォントの大きさを自由に変えられるのですが、翻訳者が改行を入れると、そのオプションを使ったときに改行位置がおかしくなるので、調整を断念したこともあります。

加賀山 :翻訳者として細かく調整にたずさわると、ゲームそのものの開発に近づきますよね。

遠藤 :そういう面はありますが、最後まできちんと見られれば、やりがいもあります。現状では、まだそこまでたずさわるのはむずかしいですね。

加賀山 :これからゲーム翻訳をしたいという人は、どんなことを心がければいいでしょう。

遠藤 :海外のゲームをいろいろやって慣れ親しむこと、同時に日本のゲームもプレーして、ことばの使い方や言いまわしを勉強するといいでしょう。ゲーム翻訳は、映像、文芸、実務の3つの翻訳が入り混じったような分野なので、ふだんから翻訳全般に関する書籍などを読むと役立つと思います。

遠藤さん所有のエアガン。『トゥームレイダー』でララ・クロフトが使用したUSP Matchと、ジョン・ウィック仕様のコンペンセイターを装着したHK45。

■うかがった内容が知らないことばかりで、とても興味深いインタビューでした。本稿では触れませんでしたが、趣味でときどきエアガンを使ったサバイバルゲームをなさるとのこと。そのための専用フィールドがある(山の一部を借りる人も!)とか、エアガンにもリボルバーやオートマチックなどさまざまな種類があるというのも、新鮮な情報でした。

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