アメリア会員インタビュー


橋本 真砂子さん

第98回

字幕翻訳から吹替翻訳の世界へ。「ぜったいにこの道で生きていこう!」と強い決心で独立。「あの時のあの決心に間違いはありませんでした」橋本 真砂子さん

Masako Hashimoto
字幕は読み言葉中心、吹替は話し言葉が中心。字幕の経験を重ねてから、吹替の世界へ前進

岡田 :今回のゲストは字幕、吹替ともに数多くの作品を翻訳されている映像翻訳者の橋本真砂子さんです。DVDの代表作に『フルスロットル』『ハミングバード』『シャドーハンター』『ランナウェイ/逃亡者』『ニンフ/妖精たちの誘惑』、CSでは『スイチュー!フレンズ』、劇場公開『ザ・キング・オブ・ファイターズ』などがあります。橋本さんはたくさんの作品を翻訳されていますが、今は吹替のほうが多いそうですね。

橋本 :そうです。2003年に字幕デビューし、2008年に吹替デビューをしてから、現在は主に吹替作品を担当させていただいています。もともとは字幕翻訳に興味があって翻訳の勉強をはじめましたが、仕事をしていくうちに自分には吹替のほうが向いていると思うようになって……。今ではいただくお仕事は吹替ばかりになっています。

岡田 :なるほど。一概に映像翻訳といっても字幕と吹替では技術がかなり違ってくるようですね。

橋本 :違いますね。字幕は読み言葉中心で、1秒4文字ルールがあったり、カタカナや漢字など文字のバランスを配慮したりする視覚的な世界です。一方、吹替は話し言葉が中心。役者さんの口の動きにできる限り合わせる技術も必要ですが、登場人物の気持ちを日本語の自然な話し言葉に変える感覚的な技術が問われます。英語ではこう言っていても、日本語で言うならあえてまるで違うセリフにしたほうがニュアンスが伝わる……そんな時にセリフを思いきり変えて、独自のものに仕上げたりもするんです。そういう意味では、吹替はストーリーを自分で組み立てていくような創造性も必要ですね。

岡田 :なるほど。吹替と字幕では使う脳も技術も異なるんですね。橋本さんはご自身のどんなところが吹替に向いていると思われますか?

橋本 :字幕の仕事をしながら気付いたんですが、私は昔から邦画や日本のドラマも大好きだったので、耳から入ってくる口語のほうがボキャブラリーが多いんです。英語を聞いてパッと出てくる訳も、話し言葉のほうがスムーズに出てくる。字幕は視覚的に細かい部分に集中しなければならないんですが、私はおおざっぱな性格で細かいことが苦手で……(笑)。だんだんと「吹替のほうが向いているかも……」と思うことが増えていき、翻訳学校で吹替のコースを受講することにしました。それ以前に映像翻訳のクラスは1年半ほど受講していたのですが、そこでは吹替の勉強はあまりしなかったので、あらためて吹替の勉強をはじめました。

岡田 :ご自分のタイプを冷静に見極めたんですね。字幕と吹替で、必要とされる能力や技術がそこまで違ってくるとは意外です。今日は吹替翻訳の世界のお話や橋本さんのこれまでとこれからについて、詳しく聞かせていただきたいと思います!