アメリア会員インタビュー

「収録現場で役者さんたちがセリフに命を吹き込む瞬間を目の当たりにすると、この仕事を選んで本当によかったと思います」

岡田 :翻訳の道に進む一大決心をしてから字幕翻訳の経験を積み、今では吹替翻訳をメインにこなす橋本さん。活き活きとお仕事を楽しんでいらっしゃる様子がうかがえます。

橋本 :そうですね。吹替の仕事は楽しいですし、なにより自分に合っていると思います。収録現場で役者さんたちがセリフに命を吹き込む瞬間を目の当たりにすると、この仕事を選んで本当によかったと思います。そうそう、字幕から吹替に転向したひとつの理由に、吹替は社交的な世界だという点もあるんです。字幕はよほどの大御所の方でない限りメールと宅急便だけで終結する世界ですが、吹替には収録の仕事があり、そこでいろいろな方と出会ってお話しできることがとても楽しい。私はおしゃべり好きで人と交流することが好きなので、人と会わないでいると不安になってしまうんです。寂しがりやなのかも(笑)。

岡田 :なるほど、収録は役者さんやディレクターさんなど、いろいろな方と出会えそうな場ですね。

橋本 :はい。いつも感じるんですが、私の一番の財産はいろいろな方に出会えたことなんですよ。お仕事をいただいたり、ご指導をいただいたりということももちろんですが、翻訳のテクニックという意味でも出会いに助けられているんです。

岡田 :具体的にはどういったことでしょうか?

橋本 :私は翻訳をする際、演じるキャラクターの完全なイメージを作ってから訳すようにしているんです。「この人物はあの時のあの人の口調にあわせよう」というように、イメージの中でその人にしゃべらせる。そうしないと後でどんどんぶれていってしまうので……。キャラクターのモデルは日本の役者さんだったり、仕事で出会った方だったりいろいろですが、大勢の方に会えば会うほど引き出しが増えるんです。いろいろな意味で、出会いは大切だと実感しています。

岡田 :なるほど、「キャラ設定」ですね。出会いは多いに役立ちそうです。収録にはどれくらいの頻度で出かけるんですか?

橋本 :基本は納品してから2週間で収録なので、たとえば月に2本なら月に2回は収録です。ドラマの場合は毎週のように収録に出かけます。どうしても忙しいときには伺えないこともありますが、行くと必ず気づきがあるので、できる限り出かけるようにしています。

岡田 :たとえばどんな気づきでしょうか?

橋本 :たとえば「サ行」が続く文はしゃべりにくいとか、同音異義で勘違いされやすい言葉があるなど、いろいろな気づきがあります。読み方次第でまるでニュアンスが変わってしまうこともあるので、ト書きで「皮肉で」「否定的に」などと書き足す必要性も実感しました。その場で修正することもあり、収録に行くたびに勉強になります。誰が見ても誰が聞いても同じ解釈ができる、誤解のないセリフ作りをするように心がけるようになりました。

岡田 :収録に出かけることで、出会いや気づきなどさまざまな刺激があるんですね。吹替のお仕事は翻訳のお仕事の中でももっとも社交的で外向きなお仕事なのかもしれません。