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アメリア会員インタビュー

武田 玲子さん

武田 玲子さん

ビジネス書を訳す楽しみ

プロフィール

大学卒業後、大手企業2社で長年にわたり幅広く広報業務を経験後、翻訳者としてのキャリアをスタート。ビジネス経験を活かし、主にビジネス書の書籍翻訳やビジネス文書の産業翻訳を手掛ける。昨年から出身地の兵庫県にもどり、リモート&ステイホームの流れにあわせて時間の有意義な使い方を模索しながら、翻訳技術や得意分野のさらなる研鑽に奮闘中。

魅力は新しい情報が得られるところ

加賀山 :本日は兵庫県伊丹市にお住まいの翻訳家、武田玲子(たけだ れいこ)さんにオンラインでお話をうかがいます。いまは出版翻訳と実務翻訳の両方をやっておられるのですか?

武田 :はい。私の場合、出版翻訳のほとんどがビジネス書で、実務翻訳はビジネス系のものが多いので、特に出版翻訳と実務翻訳の違いを意識することはありません。共通する部分も多いので、それぞれから学んだ知識を活かせるような気もします。

加賀山 :割合としてはどのくらいですか?

武田 :かける時間はほぼ半分ずつですね。

自宅で翻訳作業に使っている机は、デザイナーだった亡き母が使っていた仕立て台をリメークしたものです。

加賀山 :訳書のなかで、とくに印象に残っているものをご紹介いただけますか?

武田 :おもしろかったのは、7年ほどまえに訳した『価格の心理学』(日本実業出版社)です。ものの価格がどのようにして決まるかという内容ですが、大学でマーケティングを学びましたから、「ああ、そういうことだったのか」と納得したり、「ここは習ったこととは違う」というところもあって、とても興味深かったです。
 初めての訳書『ラブロック&ウィルツのサービス・マーケティング』(ピアソンエデュケーション)もよく憶えています。これは完全に大学のマーケティングの講義で使うような分厚いテキストで、訳すのにも苦労して、半年ぐらいかかりました。いまはあまり読み返したくありません(笑)。

加賀山 :その気持ち、よくわかります。最初のお仕事はどうやって見つけたのですか?

武田 :オーディションです。当時は英語の勉強をしていて、いくつか見つけたサイトのオーディションを軽い気持ちで受けたら、たまたま合格しました。

加賀山 :最初はオーディションやトライアルで仕事を開拓されたのですね。

武田 :そうしているうちに、だんだんお声がけいただくようになりました。10年以上前は、いまよりビジネス書を訳す人が少なかったんだと思います。たとえば、数式などが苦手だからという理由で……。いまはそんなことはないと思いますが。

加賀山 :『グーグルが消える日』(SBクリエイティブ)という本も訳されています。

武田 :それも訳すのがたいへんでした。最近出た本ですが、仮想通貨とかブロックチェーンが出てきて。ただ、私が訳す本はだいたいそうですが、新しいビジネスの動向がわかってすごく勉強になります。
 ビジネス書の翻訳では、フィクションのようにストーリーを訳すわけではありませんが、新しい用語やトレンドがかならず出てきます。それは実務翻訳も同じで、いまのビジネスのトレンドはこうですとか、新型コロナ関係でこういう危機管理が必要ですというふうに、仕事をしながらいろいろ新しい情報が得られます。

加賀山 :そのへんがいまのお仕事の魅力なのですね。

武田 :ええ、そこを楽しんでいます。何年かまえに『クリエイターズ・コード』(日本実業出版社)という本も訳しました。スポーツウェアの〈アンダーアーマー〉や、オンラインセールサイトの〈ギルト〉など、いまは有名ですが、スタートアップから始めた企業をたくさん取り上げていて、ビジネスの立ち上げ方や、みんなそれぞれに苦労していることがわかって、おもしろかったです。

加賀山 :タイトルの「クリエイター」は、起業家のことなのですね。

武田 :はい、創造するほうではなくて、起業する人たちの話です。いまや大企業の〈テスラ〉のイーロン・マスクも出てきますよ。

会社に勤めながら学校で英語を勉強

加賀山 :プロフィールを拝見すると、ほかにも、リーダーシップやマーケティングに関する訳書が数多くあります。

武田 :会社でのビジネス経験が長かったので、企業や組織のことがわかる翻訳者にと依頼していただくことが、いまもあります。

加賀山 :大手企業でおもに広報やIR(株主や投資家向けの企業の情報開示やPR活動)の仕事をしておられたとか。

武田 :はい。縁があって長くそういう仕事をしていました。当時は業務の役に立てばと思って英語の勉強を始めました。ある程度進みますと、通訳コースと翻訳コースに分かれるんですが、翻訳をやりはじめたところ、自分の性格に合っていると思ったんです。

加賀山 :それはどのあたりが?

武田 :企業の広報業務では、毎日多くの人に会っていましたが、もともとあまり社交的なほうではなくて、どちらかというと人に会わず、目立たないほうが好きなんですね。その点、翻訳なら、興味のあることをいろいろ調べながらマイペースで完結できますので。
 翻訳は仕事の場所を選ばないところも魅力のひとつです。実は私も昨年から兵庫県の実家に戻りました。両親の他界後、空家になっていたので。
 いまは昔より翻訳という仕事を楽しめていると思います。ことばの蓄積が増えているからでもありますが、新しいことを学びながら日本語を作っていくところが楽しいですね。初めのころは、間違っちゃいけないということで一生懸命でしたけど……。

加賀山 :英語を習ったのは通信教育ですか、それとも通学されたのですか?

武田 :通学でした。仕事しながら通っていました。

加賀山 :しばらく会社と翻訳の仕事を両方やっておられたのですね。

武田 :そうですね。英語の学習は業務上も役立っていました。年金ファンドなど投資家向けの業績説明などでは、間違いがないようにプロの通訳者がついてくださるのですが、自分でも理解できていたほうが当然便利なので。

加賀山 :フリーの翻訳者になってからどのくらいたちますか?

武田 :一般企業に10数年勤務して、そのあとフリーランスになりました。フリーになって10年ほどです。

加賀山 :何をきっかけに翻訳を専業にしようと思いました?

武田 :翻訳の仕事をある程度いただけるようになったタイミングでしたね。もちろん、会社員と違って毎月給料が入りませんから、不安はありましたが、あまり深刻には考えませんでした。なんとかなるっていう感じで(笑)。

加賀山 :フリーになったあと途切れずに仕事が来ましたか?

武田 :ビジネス書だけ訳すということもあって、次々と来ることはありませんでしたが、ある時期から、年に何冊か、途切れない程度に仕事をいただけるようになりました。

加賀山 :その間に実務翻訳も手がけるように?

武田 :そうです。翻訳では実務から書籍にいくかたのほうがおそらく多いと思うのですが、私は書籍から始めて、実務のほうでも声をかけていただくようになりました。ですので、実務のほうはまだ4〜5年のキャリアです。

加賀山 :実務翻訳の依頼は翻訳会社を介して入ってくるのだと思いますが、そこはどのようにしてつながりができたのですか?

武田 :アメリアで公開している私のプロフィールを見た企業から、トライアルを受けませんかと。それで受けたら、合格しました。ただ、いつも合格するわけではありません。実務翻訳も興味深いので、いまもできるだけトライアルは受けるようにしていますが、「残念ながら……」と言われることも少なくありません。そういうときは、ご縁がなかったんだなぁ、まだまだ勉強不足だなぁと思って、あまり落ち込まないようにしています。

加賀山 :いま何社ぐらい登録していますか?

武田 :定期的に仕事をいただくのは3社ですね。

月に5冊のリーディングも

加賀山 :実務のなかではどういう仕事が多いのでしょう。

武田 :圧倒的に多いのは、外資系企業のプレゼン資料やシンクタンクの論文です。

加賀山 :外資系企業のスタッフは、あまり自分で訳さないのですね?

武田 :そのようですね。「ボスから来たメールを訳してください」という依頼もありますよ。そういうときは、日本語と英語で文体が違うので結構難しいんですよ(笑)。
 今年は、外資系の企業や研究所がホームページにアップする新型コロナ関連のレポートもすごく増えました。サプライチェーンにどんな影響が出ているかとか、今後こういうビジネスが期待される、企業の形や社員の働き方はこう変わっていく、というふうな。パンデミックそのものの分析というより、ビジネスがどうなる、人の流れがどうなる、観光産業がどう変わるといったレポートが多かったと思います。「ニューノーマル」や「レジリエンス」といった用語もよく目にするようになりました。

1日1万歩を目標にウォーキングで気分転換しています。定番コースにある母校の小中学校。楽天に復帰した田中将大投手や読売ジャイアンツのキャプテン坂本勇人選手もここで学びました。

加賀山 :おもしろいですね。ビジネス書を訳すときに注意していることはありますか?

武田 :数字の間違いは許されないということと、あまり柔らかいことばは使いにくいですね。ふつうの本を読んでいると、日本語のきれいな形容詞が使われていて、いいなあと思いますが、あまりビジネス書には向かないものもあります。ビジネスの世界には用語のトレンドもありますね。

加賀山 :たとえば?

武田 :いまは一般的になりましたが、たとえば、「親和性」ということばは数年前に流行りました。ふだんの会話で「親和性」などと言うことはありませんけど、ビジネスの世界では頻繁に使われます。

加賀山 :ああ、たしかに。リーディングの仕事もけっこうやっておられるそうですね。

武田 :はい。リーディングの仕事は出版社から直接いただきます。集中して来るときもあって、去年はひと月に5冊ぐらい読んだことがありました。

加賀山 :それはすごい。月に5冊読んだらほかの仕事ができなくなりそうです。

武田 :リーディングは楽しめますよ。フィクションだとストーリーを追わなければいけませんが、ビジネス書はキーメッセージやキーワードを掘り下げていく論理的な構成になっているものが多いので、比較的スピーディーに作業が進みます。目次や章立てで、だいたい全体の流れもわかります。そこがビジネス書のいいところかもしれません。

インプットの増やし方

加賀山 :お仕事全般で心がけていることはありますか?

武田 :インプットを増やすようにふだんから心がけています。新書をたくさん読んだり、よく本屋にも行きます。大型書店も、小さいところも、いろいろと。たとえば、本のタイトルにもトレンドがあるので、そんなところを楽しんだりもしています。新しい表現に気づくこともありますね。

加賀山 :そういうことを感じるには、やはり通販より本屋ですよね。

武田 :そうですね。この本が欲しいとわかっている場合には通販が便利ですけど、行ってみないと見つからない本もたくさんあります。何より気分転換になります。どうしても翻訳作業中は引きこもりがちになってしまいますから。不思議なのですが、外出すると、ふと訳語が浮かんだり、誤訳に気づいたりするんです。

加賀山 :やはりたまには外に出ないと(笑)。

武田 :それから、大前提として英語は理解できないといけないんですが、日々思うのは、やはり日本語をきちんと書けたり話せたりしなきゃいけないということです。翻訳しているときにも、いつも日本語の辞書を引いている気がします。このことばをここで使うのは正しいのか、この形容詞のコロケーションはどうか、とか。

加賀山 :私もコロケーションの辞書は開きっぱなしです。ビジネス書をこれから訳したい人はビジネス書をたくさん読むといいんでしょうか?

武田 :それも必要ですが、日本人が書いたビジネス書を読むと、日本語が気になるときもありますね。文章が冗長だったりして。「そういう言い方する?」と思うことも(笑)。

加賀山 :むしろ読むなら翻訳のビジネス書でしょうか?

武田 :翻訳書を読むと、うしろの英語が透けて見えるので、日本語に集中できないことがときどきありますが、それでも意識的に読むようにはしています。年に何冊かは、原書と比べながら読みます。中身を読むというより、オリジナルを見ながら、日本語はこういうふうにつなげるんだ、こういう表現を使うんだということを確認するために。

加賀山 :それ、じつはフィクションでもいちばんいい上達法じゃないかと思っていて、翻訳学校の受講生の人たちにも勧めているんです。原書と訳書さえあれば手軽にどこでもできますし。でも、それを年に数冊というのはすごいですね。

武田 :1冊訳すと、頭のなかでことばが枯渇する感じがして、何かインプットしたくなるんです。

加賀山 :インプットに使う本はどうやって選ぶんですか?

武田 :ビジネス書の翻訳者にもトレンドがあるように思います。ですので、「この人の訳本がまたある。いつこんなにたくさん訳すんだろう」と思うようなかたの訳書を選んで読んでいます。まとめて何冊も訳書が出るということは、翻訳者として選ばれる理由があるはずなので。

郊外の住宅街ですが、ウォーキング中に小動物(アライグマ?)に出くわすこともあります。

加賀山 :ああ、それはロジカルですね。2021年にはどんな訳書が出るのでしょう。

武田 :春頃の出版になりますが、ファンドの資金調達の話です。

加賀山 :プロフィールのなかには、共訳された本もけっこうあります。

武田 :ビジネス書の場合、実際の業務にくわしいかたが監訳や監修をするケースも少なくありません。

加賀山 :これから訳してみたい分野、開拓したい分野はありますか?

武田 :いつか、誰でもいいんですが、伝記のようなものを1冊訳してみたいです。日本ではあまり見かけませんが、英語圏では伝記がたくさん出ていますよね。

加賀山 :そうですね。英語圏では大きなジャンルです。どういう分野の人の伝記がいいですか?

武田 :誰でも。ひとりの人生を疑似体験するようなもので、おもしろいと思うので、波瀾万丈でなくてもかまいません。もっとも、まだその分野のインプットがないから訳せないかもしれませんが(笑)。

■ビジネス書ならではの翻訳の方法について、いろいろと興味深いお話でした。フィクションと共通する点も多く、とくに原書と訳書をつき合わせて読んでいく学習法は私も大賛成です。

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