岡山県で出版翻訳者としてご活躍の琴葉かいらさん | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

琴葉 かいらさん

琴葉 かいらさん

ロマンス小説を中心に出版翻訳で活躍中

プロフィール

大学・大学院で英米文学を学んだあと、出版翻訳を志す。翻訳チェック、リーディングなどの周辺業務を経て、30歳頃に翻訳者としての仕事を始める。琴葉かいら名義で『領主様の家庭教師』、『公爵令嬢の恋わずらい』(以上、ハーパーコリンズ・ジャパン)、『不思議の国のアリス ビジュアルファンBOOK』(マイナビ)など、ロマンス小説を中心にフィクションの訳書多数。また、堂田和美名義で『ウルヴァリン パーフェクト・ガイド』(小学館集英社プロダクション)、『キーラ・ナイトレイ 世界が彼女に恋をする』(ブルース・インターアクションズ)など、映画やエンタメ関係の訳書もあり。個人として表現したいことは特にないが日本語の文章を書くのが好きなので、翻訳という仕事は天の恵みだと思っている。岡山県在住。

実務書とロマンスでふたつのペンネーム

加賀山 :今日は岡山市にお住まいの出版翻訳者、琴葉かいら(ことは かいら)さんにお話をうかがいます。ずっと岡山にお住まいですか?

琴葉 :はい。生まれも育ちも岡山で、大学時代だけ大阪に住んでいました。岡山に戻ってから、最初はネットの翻訳のオーディションにずっと応募しながら、翻訳そのものではなくチェッカーのような仕事をしていました。そこからだんだん翻訳の仕事が増えてきたんです。

加賀山 :今は何社と仕事をされていますか?

琴葉 :メインはロマンスを扱う1社で、あと数社ほど。ときどき、最初にオーディションに合格した翻訳会社から新しい仕事をいただくこともあります。

加賀山 :プロフィールによると、ロマンス小説をたくさん訳されていますね。これまでに何作ぐらい訳されました?

琴葉 :正確にはわかりません(笑)。共訳や本の一部だけの翻訳も入れて、すべての合計が100作ぐらいだと思います。ただ、ここ何年かは集中してロマンスを訳していました。

加賀山 :ロマンスは1冊訳すのにどのくらいの時間がかかりますか?

琴葉 :2、3カ月ほどですね。

加賀山 :そのペースでどんどん訳されているわけですね。琴葉かいらさんのほかに、堂田和美さんというペンネームもお持ちのようですが?

琴葉 :はい。ロマンスとそれ以外の仕事で使い分けています。最初にロマンスを訳したときに、ペンネームを作ってくださいと言われて、そういうものかと思って「琴葉かいら」を考えたんですが、その後もロマンスを訳すときに使うようになりました。

加賀山 :今はどちらのペンネームの仕事が多いのですか?

琴葉 :琴葉のほうですね。できれば今後はこっちの名前をメインに使っていきたいと思っています。堂田訳で多いのは、映画関係の本です。ときどきビジネス書もありますが、映画の解説書やファンブックなどが多めです。

加賀山 :これまでの訳書でとくに印象に残っているものはありますか?

琴葉 :最初のころ、児童書っぽい作品を訳しました。『ニック・シャドウの真夜中の図書館』(ゴマブックス)というシリーズで、ホラー系のアンソロジーですが、これを姪が読んで「楽しかった」と言ってくれたのを憶えています。

仕事部屋の本棚の一部。愛読書と訳書と原書がごちゃまぜです。

加賀山 :ああ、身近な人が読んでくれるとうれしいですよね。この作品はその後、集英社みらい文庫から再出版されています。たぶん売れた実績があったからですね。ほかには何かありますか?

琴葉 :タランティーノの映画に関する本で、『グライングラインドハウス デス・プルーフ&プラネット・テラー ビジュアル&メイキングブック』(ソフトバンククリエイティブ)を訳しました。タランティーノが好きなので、たまたまこの仕事をいただいたときにはうれしかったですね。映画自体は日本では公開前でしたが、参考のためにDVDを貸してもらって観ましたので、得した気分でした(笑)。

加賀山 :映画関係では、ほかにも『パシフィック・リム ビジュアルガイド』や『300〈スリーハンドレッド〉〜帝国の進撃〜アートブック』、『エリジウム ビジュアルガイド』(いずれも小学館集英社プロダクション)などを訳しておられます。もともと映画がお好きだったのですか?

琴葉 :映画は好きでしたが、こういう仕事が続いたのは偶然です。たまたま入った仕事で評価していただいたんだと思います。

加賀山 :『バットモービル大全』(小学館集英社プロダクション)というのも映画関係ですか?

琴葉 :はい。バットマンの映画と漫画の両方ですね。バットマンに出てくる車をくわしく解説した本です。歴史のある漫画ですから、何代目のバットモービルはこれこれという感じで、たくさんあるんです。マニアックですね(笑)。

加賀山 :『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』(シンコーミュージック・エンタテインメント)や『MICHAEL JACKSON, INC. マイケルジャクソン帝国の栄光と転落、そして復活へ』(阪急コミュニケーションズ)、『BRITNEY: Inside the Dream 夢の実情』(トランスメディア)といったアーティスト関連の本も訳されています。

琴葉 :はい。同じ翻訳会社からの依頼です。

加賀山 :エンタテインメント方面に強い翻訳会社なんですね。ロマンスの分野で記憶に残っている作品はありますか?

琴葉 :ロマンスはたくさんあるし、次々と訳すので忘れてしまいがちですが、たとえば、『火の鳥と幾千の夜を』や『眠り姫の気高き瞳に』(ともに原書房)のリサ・クレイパスとか。人気のある有名作家なので、訳すときには緊張しました。
 あと、私が好きな作家は、エリザベス・ホイトです。『初恋と追憶の肖像画』と『孤城に秘めた情熱』(ともに原書房)を訳しました。ロマンスには、さらっと読める作品もあれば、ぐっとくる重厚な作品もあるんですが、エリザベス・ホイトは重厚な感じです。登場人物の感情がうまく書きこまれていて、翻訳していて泣けてくることも。

加賀山 :これはヒストリカル(過去の特定の時代を舞台に設定したロマンス小説)ですか?

琴葉 :そうです。ホイトの2作はシリーズものです。ロマンス小説は、いちおうヒーローとヒロインが結ばれたら話が終わりますが、最初は主人公の友人役などで出てきた人が次の作品では主人公になったりして続くシリーズがけっこうありますね。
 ロマンス以外で、共訳ですが、『未来人ジョン・タイターの大予言 2036年からのタイムトラベラー』(マックス)という本もおもしろかったです。未来から来たと自称するジョン・タイターという人が、現在から見れば未来の何年に何が起きたということを実際にネットに書きこんだのですが、その予言がときどき当たって話題を呼び、本になったものです。アメリカと中国の対立とか、何かあるたびに思い出します(笑)。コロナ禍は予言に含まれていなかったと思いますが……。

ロマンスの表現のむずかしさ

加賀山 :ロマンスの場合、ムードを壊してはいけないというむずかしさがありますよね。露骨な表現を使わないとか。仕事を受けるときに、そういう具体的な指示があるのですか?

琴葉 :そのあたりがきっちり決まっている出版社もあります。翻訳表現のマニュアルのようなものがあって、最初にそれを渡されます。もちろん、原稿を提出したあとのゲラチェックで別の表現を提案されるという会社もありますが。

加賀山 :とくに気をつけなければいけないことはありますか?

琴葉 :ロマンスだから特別に、ということはないんですが、ロマンスは対象読者層や、読んで求めるものが比較的はっきりしていますから、それを裏切らないように心がけます。あととても大切なのは、ヒーローとヒロインに好感を持ってもらうことですね。

加賀山 :ああ、たしかに。

仕事に使っているパソコン。最近は原書をpdfでいただくことが多いので、PCモニターに必要なファイルを並べて訳出作業を行っています。デュアルモニターがとても便利です。

琴葉 :このヒロインには共感できないと思ったら、話に入っていけないじゃないですか。だから、ここをそのまま訳したらちょっとヒロインが嫌な感じに見えると思ったら、好感を持ってもらえるように訳し方を考えます。読者には作品に描かれているロマンスを応援してほしいので(笑)。
 男性の話し方なども、女性に反感を持たれないようにとか、ヒーローなのでかっこよく、といったことを、ある程度考えますね。

加賀山 :プロフィールを拝見すると、「ハーレクイン・ベスト翻訳アワード(ラブシーン部門)」というのを受賞しておられます。これはどんな賞なのですか?

琴葉 :その年にハーレクインから出版された作品の翻訳者に与えられる賞で、いくつか部門に分かれていました。ロマンスのお仕事を始めたころにいただいたので、すごく励みになったのを覚えています。東京で授賞式もあり、とても緊張しながら出席しました(笑)。その後、この賞自体がなくなってしまったので残念です。

加賀山 :そんな賞があったとは知りませんでした。ところで、ロマンス小説にも時代の流れとか、流行のようなものはありますか? たとえば、昔より女性が強くなったとか?

琴葉 :たぶんありますね。たまに20年とか30年前の作品を訳すこともありますが、やはり原作の感じがちがいます。ヒーローが今より強引だったり、今の基準からするとセクハラではないかと思うようなことをしたり。そういうのは現代では受け入れられないというか……。
 ジェンダー平等の意識はアメリカのほうが日本より高いので、ヒストリカル作品でもそのへんは配慮されていると思います。男性は女性の合意を取りつけた上で行為に及ぶとか。でも、数十年前の作品を読むと、今の基準からするとこのヒーローはちょっと問題、と感じることもありますね。

加賀山 :そういう場面を訳すときにはどうするのですか?

琴葉 :内容は変えられないので、表現を工夫して与える印象を多少マイルドにするしかないですね。

加賀山 :最近のフィクションの傾向として、白人の男女以外の主人公の話が増えている気もするんですが、ロマンスはどうですか?

琴葉 :ロマンスはまだ白人が多いんじゃないでしょうか。たとえばヒストリカルだと、ロンドンの社交界とか、そういう舞台設定になりやすいので。ただ、ヒロインは白人でもヒーローがアラブの王子という「シークもの」というジャンルもあったりしますが。

加賀山 :まだ白人中心の世界なのかもしれませんね。最近私が訳したフィクションがたまたま連続してふたつ、白人以外の主人公だったので、ロマンスもそうかなと思いまして。
 ロマンスの場合、訳書の分量が決まっていて、それを超えるときには翻訳者がカットしなければいけないという話を聞いたこともあるのですが?

琴葉 :出版社によってはありますね。原書で何ページのものを訳書の何ページにまとめるというパターンがあって、そこに収めなければなりません。分量の制限をほとんど気にせずに訳せることもありますし、ものによっては、全体で5分の4ぐらいに減らすこともありますね。

加賀山 :そういうときにはどうするのですか?

琴葉 :やり方は翻訳者によってちがうと思います。私はどこかを大幅にカットすることはせず、ちょこちょこと少しずつ詰めていくほうが多いです。大きくカットするのは勇気がいるし、本当にここを省いていいんだろうか? となりますよね。ですから、ひらがなを漢字にしたり、文を少し短くしたりということでできるだけ対応します。

加賀山 :文字数を減らすということですか?

琴葉 :章ごとの枚数を減らすという感じです。もともと何文字×何行が1枚で、全体を何枚に収めるということが決まっています。私はそれをExcelで1章ごとに管理していて、原書の割合に合わせて訳文の章ごとの枚数を配分したうえで、訳していきます。
 どんな場面やことばがあとで重要になるかわからないので、最初は省かずにそのまま訳して、1章終わったところでかなりはみ出そうだったら、次の章からは気をつけて短めに訳していく、そして最後に全体を調整する、というやり方です。

加賀山 :おもしろいですね。それって基本的には編集の仕事じゃないですか。でも、ときどき自分でもやってみたいなと思うことがありますから。とくに原書のつまらないところとか(笑)。

琴葉 :たしかに枚数を調整する場合には、そういうことができますよね。ぜったいに伝わらない冗談やダジャレを省くとか(笑)。

加賀山 :そうそう、一生懸命考えてルビで処理したりしますけど、なくてもいいのかなと。

琴葉 :わざわざルビで説明しても、かえっておもしろくなかったり。ひとつひとつの冗談より大事なのは、「この人たちの会話は冗談が多くて楽しい」という雰囲気が伝わることですからね。

日本語を読むこと、書くことの大切さ

加賀山 :翻訳を職業にしようと思ったきっかけは何でしょう。

琴葉 :もともと興味がある仕事のひとつでしたが、大学院に行って、将来の仕事をどうしようかと考えていたときに、勉強してみようと思って、翻訳の通信講座を始めました。

加賀山 :大学でのご専攻は?

琴葉 :20世紀初め頃のアメリカ文学です。卒論と修論はシャーウッド・アンダーソンで書きました。そのへんの知識も翻訳には活かせるかなと思いました。
 翻訳の通信講座を始めたら、すごく楽しくて、これを仕事にできたらいいなと思いました。そうして大学院を卒業したあと、翻訳会社のオーディションを受けるようになりました。
 自分の性格上、昼間は別の仕事をしながら夜は翻訳の勉強といったあわただしい生活はたぶん無理だと思いましたので、就職はせず、実家に帰って近所でバイトをしながら翻訳の勉強とオーディションを続けました。

加賀山 :すると会社勤めの経験はないんですね。ちょっと珍しいパターンかもしれません。とくに出版翻訳は収入が不安定だから、会社に勤めながら、あるいは翻訳のなかでも比較的収入が安定している実務翻訳から入るかたが多いように思います。

琴葉 :今思えば、会社勤めはしておいたほうがよかった気もします(笑)。社会人としての経験というか。でも、会社員には向いていないだろうし、そっちにあまりエネルギーを取られたくないなと思ったんです。収入面は、実家で生活していたのでなんとかなったという感じですね。
 選択肢を増やすために実務も勉強しようと思った時期もありました。結果的には出版翻訳でやっていけていますが。

加賀山 :収入は何年ぐらいで安定しました?

琴葉 :しばらくチェッカーやリーディングなどの翻訳周辺の仕事が多かったのですが、30歳ごろから本に自分の名前がのるような翻訳の仕事をいただけるようになって、そこから数年後にはバイトも辞めて翻訳に集中しました。

加賀山 :大学院を卒業して翻訳を始められたので、5〜6年修業時代があったということですね。その後、専業になって十数年で100冊というのは、すごい速さだと思います。

琴葉 :でしょうか。納期が短く、2〜3人での共訳や本の一部だけ訳すこともあります。とくに映画関係の出版物は、日本公開のタイミングに合わせて出すことが多いので、納期が限られていて、複数人でやることがけっこうありました。それらも含めての数です。

加賀山 :翻訳はどこでもできる仕事ですけど、営業上はやはり顔を合わせられるほうが楽な面もありますから、岡山にお住まいだと、最初仕事を見つけるのに苦労しませんでしたか?

琴葉 :たしかに新規開拓は多少不便ですね。いったん翻訳会社や出版社とつながりができると、継続的に仕事をもらえることもありますが。

加賀山 :今はロマンスの翻訳がメインですが、今後挑戦したい分野、仕事を広げたい分野などはありますか?

在宅仕事は運動不足になるので、家の中でできるエクササイズをしています。

琴葉 :やっぱり小説を訳すのが好きなので、ロマンス以外の小説の翻訳にも興味があります。ミステリーとかも訳してみたいなと。

加賀山 :おお、ミステリーですか。お好きな作家はいますか?

琴葉 :アガサ・クリスティーとか好きですね。高校生のときにクリスティーにはまりまして、図書館で大量に借りてほぼすべて読んだと思うんですが、最近けっこう新訳が出てるじゃないですか。改めて読んでも、昔の内容をぜんぜん憶えてないからまた楽しめていいですね(笑)。

加賀山 :やっぱり昔から本がお好きだったのですか?

琴葉 :そうですね、本は好きでした。とくに海外文学ということでもなくて、日本の作家もよく読みます。桐野夏生さんとか、姫野カオルコさんとか、ちょっとどろっとした感じの女性作家を。

加賀山 :出版翻訳にたずさわるかたは、やはりベースに本好きというのがあるように思います。英語が好きというより、そっちのほうが大事な気もします。

琴葉 :英語より日本語が好きなかたのほうが向いているかもしれませんね。英語は理解できればいいので(とはいえ、理解するのもむずかしいのですが)、それをどう日本語で書くかということが大切です。

加賀山 :そうですね。理解したうえでの最終成果物は日本語ですからね。これから出版翻訳をめざすかたに何かアドバイスがあれば……?

琴葉 :日本のすぐれた作家の本をたくさん読むことでしょうか。何かしら日本語を書くことも、ブログでもなんでもいいので、たくさんしたほうがいいと思います。インプットだけでなく、アウトプットもしないと鍛えられませんので。出版翻訳は、原書から読み取ったものを「作家として書く」と言ってもいいくらいの仕事ですから。

■出版翻訳の仕事が好きで、楽しんでやっておられる様子が伝わってきました。やはり日本語を鍛えなければと私も改めて思いました。クリスティーの『葬儀を終えて』の新訳版も読んでくださったとのこと、ありがとうございます!

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