アメリア会員インタビュー

森田 紗緒里さん

森田 紗緒里さん

日英翻訳のプロとして働く

プロフィール

米国カリフォルニア州にあるサンノゼ州立大学大学院でクリエイティブライティングを学んだ後、日本で英語記事のライターとして就職。
米国での10年間の在住歴を活かし、本業の傍らフリーランスで日英翻訳に携わる。2021年よりフルタイムでフリーランスの翻訳活動を開始。
現在は主に観光関連の記事翻訳や字幕翻訳に取り組んでいる。実務翻訳や出版翻訳にも興味があるため、今後も学習を続けながら活動ができればと思っています。

インバウンド・メディアの日英翻訳から字幕翻訳へ

加賀山 :今日は神奈川県藤沢市でおもに日英翻訳をしておられる、森田紗緒里(もりた さおり)さんにお話をうかがいます。
 記事の翻訳者、ライターとしての実績があって、日本文化を紹介する英語記事をよく訳したり書いたりするそうですね。

森田 :はい。たとえば、att.JAPANというサイトの記事を英訳しています。これがいまの記事翻訳のメインの仕事です。

加賀山 :見てみると、訪日・在日外国人のためのフリーマガジンで、各国語の表示が選べるようになっています。おもしろそうですね。

森田 :オンラインと紙媒体の両方があって、日本語で送られてくる記事を英語圏の方々が読めるように翻訳しています。

加賀山 :この仕事はどうやって見つけたのですか?

森田 :たまたま検索をしていて、日英翻訳者を募集していましたので、応募して採用されました。

加賀山 :過去の実績がないとなかなか採用されないという話も聞きますが……。

森田 :履歴書も送り、テストや面談を受けてという感じでしたので。

加賀山 :ふつうの会社に就職するようなプロセスだったのですね。ほかのお仕事もインバウンド関係が多いのでしょうか?

森田 :割合としては多いかもしれません。以前は、翻訳とは別にライターとしても働いていましたが、それもおもにインバウンドや日本文化を紹介する英語の記事でした。

疲れた時には愛鳥が癒してくれます。

加賀山 :もともと英語のネイティブなのですか?

森田 :昔からものを書くことはすごく好きなんですが、幼少期の10年ほどをアメリカですごしましたので、日本語の文章力にあまり自信がなく(笑)、英語で書くほうが楽です。

加賀山 :ドラマ作品やバラエティ番組の日英翻訳もしておられます。

森田 :それはわりと最近です。去年の8月までフルタイムで別の仕事をしていて、翻訳はアルバイト感覚でした。でも、やはりフルタイムで翻訳をしたいなと思いまして、ほかの仕事をやめたのです。
 ちょうどそのころアメリアで字幕翻訳の募集があったので応募して、採用されました。そこからいまもドラマやバラエティの日英字幕の仕事をいただいています。

加賀山 :それは順調な出だしでしたね。

森田 :そうですね。ですが字幕翻訳は初めてだったので、ずいぶん勝手がちがって苦労しました。字幕翻訳では、知らない用語があったり、作業もちがったりするので、いまだにちょっとチャレンジングな部分はあります。

加賀山 :字数制限などがあって、特別なソフトウェアを使うじゃないですか。それなども実際に仕事をしながら学ばれたのですか?

森田 :そうですね。最初はソフトを貸していただいて、こういう設定にしてくださいという情報をある程度もらい、そこからは自分で調べたり、仕事をしながら覚えていきました。

加賀山 :自力でがんばって習得された。

森田 :知識がないなか入ってしまった分野なので、つねに不安はありますが、いまは仕事のなかで学んでいます。字幕専門の講座もいろいろありますから、今後知識を仕入れていく方法として考えていきたいです。

さまざまな仕事を体験

加賀山 :「字幕」というとつい日本語をイメージしてしまうのですが、英語なんですよね。英語ではワード数の制限などがあるのでしょうか?

森田 :文字数の制限です。

加賀山 :文字数でしたか。訳された字幕作品のなかで、紹介していただけるものはありますか?

森田 :産科医療漫画の『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ/講談社)の実写ドラマですとか、『砂の塔〜知りすぎた隣人』(池田奈津子/幻冬舎)のドラマを英訳しました。バラエティ番組の『アイ・アム・冒険少年』なんかも。

加賀山 :日本のバラエティ番組を英語で観る需要もあるのですね。

森田 :ありますね。あとは、オリンピック関連の動画や、日本の空手家のドキュメンタリー、そして別の分野ですが、企業の理事長と副理事長がオンラインのプレゼンをしている動画なども訳しました。

加賀山 :TEDカンファレンスのような。本数もけっこう訳されていますね。去年の夏からということですから、ハイペースです。仕事の割合でいうと、映像翻訳はどのくらいですか?

森田 :現在の仕事はおもに字幕になっていまして、字幕が7割、記事が2割、その他1割ぐらいです。

加賀山 :字幕の場合、納期は1週間とか10日で1本という感じでしょうか?

森田 :いいえ。私の場合には、2〜3日が多いです。長くても1週間ぐらい。ドラマなら1シーズンを1カ月ほどで仕上げるイメージで、2〜3日おきに納品日があります。

加賀山 :そういうペースですか。でも短い納期で提出していれば、1作品に数カ月かかる出版翻訳と比べて、収入的には安定しますよね。先ほどatt.JAPANとは直接契約したというお話でしたが、ほかの仕事はどのように依頼されるのですか?

デスクに向かう時間が長いため、
気分が明るくなるような作業場作りを
心がけています。

森田 :翻訳会社さんから入ってきます。頻繁にやりとりしているのは3社ぐらいです。

加賀山 :アメリアに入ってよかったと思うことはありますか?

森田 :ああそれは、字幕の仕事もアメリアを介していただきましたし、フリーランスになってからの仕事はアメリアからが多いです。ほかのサイトを見ると、案件があまり更新されていないことがあるのですが、アメリアはつねに新しい案件が入ってくるので、そこがいいと思います。

加賀山 :加入されたのはフリーになってからですか?

森田 :はい。去年の8月ごろです。フリーランスの翻訳者になりたいと思ったときに、やり方がよくわからなくて、アメリアに登録して情報がいろいろ得られたので助かりました。

加賀山 :その他の経歴ですが、これは異色というか、クロスワードパズルのモバイルゲームCodyCrossのコンテンツ・クリエイターとして6,000問以上を作成されたとか(笑)。

森田 :それはもともと英語のゲームがありまして、その日本語バージョンを作るプロジェクトでした。フリーランス向けの求人サイトで見つけたのですが、短期になってしまった仕事です。3〜5文字の答えと、それに対応する質問をセットで作るのですが、納品が月に1,000個とかでして、5カ月ほどたったころにはもう搾り出している感じで……(笑)。

加賀山 :ひとりの人がずっと続けるのは難しそうですよね。学習塾の日英カスタマーサポートや社内メールなどの翻訳もされたそうで。

森田 :日本にある学習塾ですが、おもな対象者がインターナショナルスクールにかよっている生徒さんなので、授業はアメリカのカリキュラムがベースになっていて、すべて英語の内容でした。講師やスタッフにも日本語をしゃべる人があまりいないのですが、クライアントのなかには日本人もいますので、そういう方たちとのやりとりを支援していました。ウェブサイトに載せるコンテンツも英語でしたので、それを日本語にしたり、逆に日本語から英語にすることもありました。

加賀山 :こういう仕事をしながら翻訳もしておられる?

森田 :いまは翻訳だけです。去年の夏までは別の仕事をしながら翻訳というかたちでしたので、職歴はいろいろですね。結局製品にはなりませんでしたが、ゲームの翻訳をしたこともあります。コンテンツをすべてまかされて、英語と日本語のスクリプトを書きました。いったんそのプロジェクトから離れて、何年か後にまたたずさわったときには、すでに日本語のスクリプトができていたので、それを私が英語にしたのですが、そこで制作会社の資金不足でしょうか、プロジェクト自体が立ち消えになりました。

加賀山 :ゲームの翻訳もされたのですか。働いた分の報酬はもらえましたか?

森田 :それはもらえました(笑)。

加賀山 :よかった(笑)。もうひとつ、日本人作家の小説の英訳という実績もあります。

森田 :小さな出版社さんとおつき合いがありまして、全体を訳したのは1冊だけですが、ほかに訳文をチェックしたり、校正にたずさわったりしています。

加賀山 :すべてフィクションですか?

森田 :チェックなどをしたのはノンフィクションですね。

加賀山 :英訳した小説のタイトルは?

森田 :『人生1/2の闇』(鈴木史/パレード)という、統合失調症と診断された女性が社会に「監視」される人生について綴った本です。訳したものは紙の本ではなくて、eBookになりました。

英語で読み、考える?

加賀山 :最初に翻訳の仕事をしたのはいつでしたか?

森田 :最初は大学の3、4年でアルバイトを探したときでした。将来はライターか小説家になりたいと考えていましたが、英語ができる強みも活かしたほうがいいのかなということで、アルバイトを探すサイトで翻訳の仕事を見つけました。依頼主はアメリカ人で、日本の昔のスーパーファミコンのゲームやマニュアルを集めていて、そのマニュアルを英訳してほしいということでした。

加賀山 :個人的な依頼だったわけですか。

森田 :自分も翻訳を経験してみたかったので、いろいろ訳させてもらいました。大学卒業後は1年間、アメリカの大学院に行きまして、その後就職し、2年ぐらいライターとして日本のウェブメディアに所属していました。そこを辞めてからだんだん、アルバイトや短期のフルタイムの仕事をしながら翻訳をする生活になりました。

加賀山 :ライターのころは日本語で書いていたのですか?

森田 :いいえ。それも英語でした。日本語のオンラインメディア企業でしたが、たまたまその時期にグローバルサイトを作りたいということで、英語の記事を書ける人を募集していて、そのチームに入って書いていました。

加賀山 :翻訳ではなく、一から英語で書く仕事だったのですね。そして昨年、完全にフリーになられた。私がこれまでインタビューしてきた方々とはずいぶんちがう経歴だと思いました。

森田 :翻訳はこれまで単発の仕事が多くて、長期でこれをしてきたというものがまだありませんので、経験が浅いかもしれませんが……。

部屋には数えきれない程の本が
置かれています。

加賀山 :いえいえ。英訳するときにとくに気をつけていることはありますか?

森田 :よく思うのが、日本語が原文の場合には、ニュアンスを読み取らなければならなかったり、主語がわからなかったり、表現がぼやっとしていたりすることです。なので、どう原文を読み取って、的確に、わかりやすく翻訳するかというということで悩みます。

加賀山 :そのへんは日本語の特徴ですよね。記事などを英訳するときと、英語の字幕を作るときでは、何かちがいがありますか?

森田 :記事についてはわりとそのまま訳せますけど、字幕の場合には、字数制限もありますし、短い時間のなかにたくさんの情報を入れなければならないので、どういうふうに表現すればいいかということをつねに考えています。
 記事の仕事では、与えられた情報を素直に英語にしていましたから、とくに字幕では、どれくらい自分が手を加えていいのかということを模索しながら訳しています。

加賀山 :バラエティの字幕とか難しくありませんか? 笑わさないといけないので。

森田 :そうですね。ダジャレとか言われると難しかったりします。日本のコメディとアメリカのコメディでは雰囲気もちがいますし。どうおもしろく伝えるかが課題になります。
 たまに、「おもしろくない」ことがおもしろいという芸風の方もいらっしゃるじゃないですか。そういうときには、ちょっとおもしろくないように訳さないといけなくて(笑)。

加賀山 :受けないことで笑わせるというタイプですね。ほかに何か苦労されたことはありますか?

森田 :これは私の確認不足でもあったのですが、ある本のチェックを頼まれたときに、英訳されたものを直してほしいけれど、作家さん自身が訳したので質は保証できませんと言われました。原稿を読んでみると、たぶん自動翻訳を使ったのかなという内容でして、ほぼすべて私が書き換えたことがありました。

加賀山 :それはたいへんそうです。逆に楽しかった仕事はありますか?

森田 :やはり小説を訳したことですね。自分も書きたいという願望を満たしながら、日本語と英語を使うところが楽しかったです。

加賀山 :小説の翻訳は記事の翻訳とはちがいましたか?

森田 :小説には字幕とはまたちがう表現の自由があるというか、手の加え方がちがうというか。原文を読んでそういう表現を考えながら訳していくのが楽しいです。

加賀山 :ふだん勉強として心がけているようなことはありますか?

森田 :もともと本が好きなので、読書はするのですが、なるべく長く時間を割いて読むようにしています。それと私の場合、まだ翻訳する分野が定まっていないので、毎回ちがうこと、知らないことが出てきます。調べる力をつけるという意味でも、読書の習慣は大切ですね。

加賀山 :いつも日本語と英語、どちらで読むのですか?

森田 :英語で読んでいます。

加賀山 :やはり英語のほうが快適に読めるのですか?

森田 :読むのは英語のほうが楽ですね。もちろん日本語も読めるし書けますが、文章力はないなという意識があって、自信があるのは英語です。

加賀山 :どちらかというと英語で考えているのですね。そのくらいでないと英訳専門にはなれない気がします。アメリカのどこにいらっしゃったのですか?

森田 :カリフォルニア州とイリノイ州です。3歳のころ行きまして、向こうで7年生(中学1年生)のときに日本に帰ってきました。

加賀山 :翻訳でこれから取り組みたい分野はありますか?

森田 :勉強を少しずつ始めているのは、医療翻訳です。

加賀山 :それも英訳ですか?

森田 :そうです。あと、出版翻訳もできたらいいなとは思っています。

加賀山 :英訳の需要は大いにあると思います。最近、日本人作家も海外の文学賞でよくノミネートされるようになりました。たとえば、大手の出版社だと日本の作品の海外輸出部門があったりしますから、そういうところにアプローチしてみてもいいかもしれませんね。

■日英翻訳のみならず、英語の記事を直接書かれるということで、こちらもいつもと裏返しの発想という感覚で、興味深くうかがいました。英日翻訳者に比べれば圧倒的に少ない日英翻訳者。今後も引きつづきご活躍を!

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