
熊田 貴子さん
実務翻訳で新しい世界を知る
プロフィール
英日実務翻訳者。英語教師を目指して入学した大学で翻訳と出会う。約7年の会社員生活で業務の一環として翻訳に携わった後、見聞を広めるためアメリカの大学院へ留学。修士号取得・結婚・出産・子育てを経て、2015年フリーランスの翻訳者となる。各種企業のホームページ、社内文書、社内研修のオンライン教材、取扱説明書、アンケートの翻訳など実務翻訳が中心だが、ゲームの翻訳に携わった経験もある。仕事では、ご縁があって声をかけていただいた案件はできるだけ前向きに検討するのが信条。現在表現力の幅を広げるためにフェロー・アカデミーにて出版翻訳のコースを受講中。将来的に出版翻訳(特にノンフィクション)に携わってみたいとも考えている。将来の夢はクルーズ船に乗って世界各地を巡ること。
海外の求人サイトも活用
加賀山 :今日は千葉県で2015年から実務翻訳をしておられる、熊田貴子(くまだ たかこ)さんにお話をうかがいます。実は去年、フェロー・アカデミーで私のフィクションの講座を受けていただいていまして、今ビデオ会議でお顔を拝見して思い出しました(笑)。
プロフィールによると、実務翻訳のなかでもITを中心として、各種企業のホームページや社内文書、社内研修のオンライン教材などを訳しておられるそうですね。
熊田 :最初に翻訳会社に登録した時にはそういう感じだったんですが、最近は高級ブランドの宝飾品関係の仕事が多くなっています。主に社内文書です。販売員向けに、今度売るのはこういう商品です、お客様にはこのように売りましょう、といったような。

仕事場は自宅の片隅。複数のウィンドウを同時に開いて作業するので、大きい画面は必須です。
加賀山 :販売マニュアル的な?
熊田 :そうですね。私は翻訳会社には意外とあっさり登録できて、今仕事をいただいているのは、アメリカが1社と、イギリス1社、あと日本の会社です。
イギリスの翻訳会社の仕事は最初、コンプライアンスなどに関するオンライン・マニュアルや、社内研修用資料の翻訳でした。現在は、それに加えて、マーケティングリサーチで実施するアンケートの翻訳も増えています。アメリカの翻訳会社は、最初はクルーズ船ツアーのパンフレットとか、ホームページでしたが、今はアパレルや、高級宝飾品が多くなっています。
私が「こうしたい」と思ったというより、先方から求められるうちにこうなりました。気がついたら、ジュエリーのホームページのデータを見ながら、営業の手順に関する資料を一生懸命訳していて(笑)。この先もどんな仕事をするかはわかりませんね。
加賀山 :日本の翻訳会社からはどんな仕事が来ていますか?
熊田 :会社員時代の経歴が役立ったのか、IT関係でお仕事をいただいています。こちらも社員研修用の資料になります。製品知識に関するものが中心ですね。
どの翻訳会社に登録する時にも、対応可能な分野のトライアルを受けて登録しているので、たとえばトライアルを受けていない医療や法務、金融などの仕事は依頼されません。あとはコーディネーターさんが、これまでお受けした仕事に基づいて別の仕事を依頼してくださって、それが続いているようです。
加賀山 :アメリカやイギリスの翻訳会社はどうやって開拓されたのですか?
熊田 :海外にアメリアのような翻訳者向けのサイトがあるんです。ProZ.comといいますが、そこに登録して、掲載されている翻訳会社のトライアルを受けました。このサイトをつうじてゲームの翻訳をしたこともあります。
うちの近所にたまたま翻訳歴数十年という方がいらして、私が翻訳者として仕事を始める時に相談に乗ってくださったんですね。その時ProZ.comを教えてもらいました。料金は基本無料ですが、有料サービスはデポジットから引き落としていく仕組みでした。

住んでいる町は自然が豊かで、特に春は桜が美しく、四季を通じてウォーキングで体を動かすのが楽しいです。
加賀山 :興味深いですね。アメリアにはいつ入られましたか?
熊田 :3年前くらいです。ProZ.comを通してアメリカやイギリスの翻訳会社に登録して何年か経ってから、日本の会社と仕事をしてみたいと思ったのと、翻訳の勉強もしたかったので、入会しました。
実務翻訳の場合、「次の仕事が来るかどうか」で自分の仕事の評価がわかります。逆に言うと、評価基準がそれしかないので、あとのことも考えて、勉強や情報収集のためにアメリアに入会したいと思ったんですね。定例トライアルも受けられますし、ほかの方の翻訳を見たり、情報もいろいろ得られてよかったです。10年ほどこの仕事をした今だからこそ、読んでなるほどと思えることもあります。
加賀山 :今登録されている日本の翻訳会社も、アメリアからつながったのですか?
熊田 :そうです。あと、仕事の幅を広げるためと、できることで社会に貢献するという意味で、こちらもアメリア経由で発展途上国支援のNGOの翻訳ボランティアに登録しました。
加賀山 :イギリスやアメリカの翻訳会社と日本の翻訳会社では、仕事の納期に違いがあったりしますか?
熊田 :納期にあまり差は感じませんが、仕事が入ってくるプロセスが違います。イギリスやアメリカの翻訳会社からの仕事は、平均すると1件1500ワードくらいが多くて、あちらの日中、日本では夜の7時くらいから夜中の3時くらいに依頼のメールが来ます。朝起きてから受けられる場合はそれに取りかかり、その日の夜中が納期という感じです。あちらから見れば、ひと晩寝れば仕事ができているということですね。
どちらの会社もタスク管理のプラットフォームがあるので、翻訳会社が仕事を私のアカウントに割り当てると、私に自動的に作業リクエストのメールが来ます。その案件について一定期間に私から返事がない場合や他の翻訳者がその案件を先に受けた場合、私がお断りした場合は、翻訳会社は別の翻訳者に依頼します。
日本の会社は事前に作業日をおさえておくように依頼があり、待機していると朝に仕事を打診され、可能であればお受けして、その日の夕方に納品するという感じです。分量によっては翌日になったりもします。
結果的には日本の翻訳会社でも海外の翻訳会社でも、「朝から作業して夕方(夜)に納品」が多くなります。もっと分量が大きい案件であればその限りではありません。
加賀山 :依頼を断ることもあるのですか?
熊田 :あります。でも断る時には、たんに「できません」と言うんじゃなくて、「ここまで納期を延ばしてもらえばできます」というふうに答えるようにしています。いずれにしても、メールをくれた人にはかならずタイムリーに返事をするようにしています。
ブランドイメージに沿った日本語で
加賀山 :今のお仕事についてもう少しうかがいます。プロフィールの実績に「各種企業のホームページ」とありますが、これは最初におっしゃられた宝飾品の会社などですか?
熊田 :ホームページは、アパレル、トラベル関係が多いです。アパレルのショッピングサイトで出品される商品の名前をひたすら訳したこともあります。
加賀山 :「社内研修のオンライン教材(インクルージョン、ダイバーシティなど)」という仕事もされています。インクルージョン、ダイバーシティというのは具体的にはどんな内容でしたか?
熊田 :インクルージョン、ダイバーシティの社内研修教材は、ひと言で言えば、「差別のない職場を作る」ことがテーマですね。「micro-aggression」という言葉をこの一連の仕事で知りました。はっきりとしたいじめではないんですが、悪意はなくても受け手にとっては小さな攻撃となってしまう言動です。たとえば、「あなたは子どもがいるから会議には出られないよね」というような言動ですね。会議に出られるかどうかを訊くんじゃなくて、最初から出られないと決めつけている。こういうちょっとしたことも、積み重なると職場にいづらくなる原因になります。外国人の同僚に対して、「あなたの名前、発音するのたいへんだよね」と無邪気に言うのもよくありません。
ほかにもたとえば、内部通報とは何か、内部通報者をどう守るかとか、贈収賄とは何か、気づかず賄賂をもらってしまわないようにするには、といったことをクイズ形式で答えながら学ぶ教材も依頼されたことがあります。翻訳会社としては同じ翻訳者に頼んだ方が仕事が早く進むと考えたのだと思いますが、一時期いろいろな会社向けに類似の教材を翻訳していました。
加賀山 :「取扱説明書」も訳されています。
熊田 :時々お話をいただきます。さっき話した近所の翻訳者さんが紹介してくださった仕事で記憶に残っているのは、鶏肉を加工処理する機械の取扱説明書でした。あとは、翻訳会社からの案件ですが、スキーやスノーボードをやる人が使うバックパックです。雪崩に巻きこまれた時に、ハンドルを引っ張ると、エアバックが飛び出して雪の上に浮上するシステムです。そんな商品が存在することすら知らなかったので、英語で初めて読んだ時には読んだ内容が信じられず(笑)。調べてみて、世の中にはこういうものもあるんだと驚きました。知らないものを調べながら訳すのは楽しいんですが、この時は翻訳を間違えると生死に関わる可能性もありますから慎重になりました。

趣味は博物館・美術館巡り。平日の昼間に出かけられるのはフリーランスの良いところの一つ。写真は去年東京国立博物館で開催された特別展「やまと絵」に行った時のもの。
加賀山 :ほかに「トラベル」関係の仕事もされています。
熊田 :クルーズ船のツアーの説明が主でした。実施するツアーの日程や、新しいサービス、新しい船の説明、就航場所の観光のポイントなどですね。そのほか、ホテルの資料の翻訳もしましたが、その中で「タイムシェア」というシステムを知りました。ホテルチェーンによって細かい違いはあるようですが、基本的には会費を払った分だけホテルやその他のサービスを利用できるというものです。費用は説明会に参加しないとわからないので、実はいまだに価格を知らないのですが……。
加賀山 :最近多いとおっしゃった高級宝飾品の仕事で、特別に注意していることなどありますか? ゴージャスな日本語を使わなければいけないとか(笑)?
熊田 :翻訳会社ではそのクライアント用のスタイルガイドがあって、用語などが指定されている場合がありますが、そのクライアントについてはスタイルガイドをもらってなくて、最初どうしようと思いました。でも、訳文を提出したところ、校正の方からある程度のフィードバックをもらえたので、その積み重ねでやらせていただいています。
ただ、そのブランドのイメージがありますから、訳す時には事前にホームページを見て、口調を確認し、用語も全部チェックします。「留め具」を「クラスプ」と言ったり、やはりカタカナが多いですね。助詞以外、全部カタカナになりそうになったりすると、「これでいいの?」と迷うことはあります。
加賀山 :でも、たびたび声がかかるということは、「いい」ということですよね。
熊田 :とくに大きな修正を求められたことはありませんね。クライアントの好みに合った、または小さな修正のみなので許容範囲内ということかと思います。翻訳のプラットフォームには承認済みの翻訳メモリがあり、そこを見ると自分の翻訳がどう変わっているかも確認できますし、クライアントの好みもわかるので、きちんと参照するようにしています。
加賀山 :そうやって進化してきたわけですね。
熊田 :はい。宝飾品のほうは上品な感じにまとめようと心がけていますが、例えば若い女性向けのランジェリーとなりますと、ちょっとかわいらしい日本語にしたりします(笑)。
加賀山 :ゲームの翻訳もされたとか?
熊田 :ゲームの翻訳は翻訳会社からではなく、海外のゲームの会社から直接期間限定で仕事をいただきました。翻訳の部署があって、その部署の日本人のチームの下で働きました。
加賀山 :ゲームの翻訳だと、エクセルシートのようなものにずらっと台詞が並んでいて、男女の区別もつかないといった話も聞きます。
熊田 :エクセルで主に作業したのはその通りです。そのゲーム会社では、ゲームをまず英語で開発し、各言語にローカライズしているようでした。ですので、エクセルシートにまず英語があり、翻訳を各言語の列に埋めていきます。その会社は翻訳のプロセスがしっかりしていて、登場人物を含めたそのゲームの説明資料をひとそろえ送ってくれました。なので、「この人誰?」と思いながら訳すようなことはなく、私もいろいろ教えていただいて、楽しく仕事ができたんです。
そこでその後翻訳会社からゲームの仕事も引き受けたのですが、その時はテキストをただ渡されただけで……。誰が誰に話しているのかも、性別もわからないし、セリフが一行ずつ入っているのですが、話者がどこで切り替わるかもわかりませんでした。コーディネーターに翻訳に必要な情報を伝えて、それがなければこの仕事はできないと断ったところ、「チェックする人がいるから大丈夫」と……。結局、明らかに男性か女性とわかる行はそのように訳して、できる限りの体裁を整え、コメントを添えて提出しました。
ゲームは翻訳者だけでローカライズするものではないので、そういう対応をする部署や人材、システムがあるのかもしれませんが、フリーランスの立場ではそこまではわからないですね。ゲームに限りませんが、コーディネーターさんや翻訳会社の経験値はフリーランス翻訳者には大切だなと思いました。
歴史の価値を知る
加賀山 :経歴に移りますが、大学で言語学を専攻して、そのあと留学されました。言語学というのは、どういうことを学ばれたのですか?
熊田 :対照言語学と社会言語学を中心に学びました。興味があったのは、言語が社会でどう使われているのか、言語が使われることで人間の社会にどういう影響があるかといったことでした。ゼミでは言語を通して見る日本文化と英語圏の文化を比較していました。
加賀山 :アメリカの大学院でも同じテーマを研究したのですか?
熊田 :方向性は同じなのですが、アメリカでは教育大学院に行ったので英語教育にまつわることを多く学びました。たとえば言語を巡るイデオロギーです。例を挙げると、アフリカでは女性が英語を習得することで経済的な余裕や社会進出ができるという報告がありまして。女性の仕事の幅も広がるし、経済的にも安定する。つまり英語が社会階層を上がっていくための手段になっている、というような研究でした。
加賀山 :日本に帰ったあとは会社に就職されたのですか?
熊田 :いいえ。結婚することになって帰ってきたので、しばらくは主婦でした。ただ、翻訳は大学生の時から仕事にしたいと思っていました。大学で翻訳の講義があって、その先生の授業で興味が湧いて、続けてみようと思ったんですね。大学時代には一度、フェロー・アカデミーの通信講座も受けています。大学を卒業後まずは一般企業に就職して、留学、帰国、結婚・出産、フリーランスになって今に至っています。
加賀山 :そうでしたか。そのあと改めて勉強しようということで、またフェロー・アカデミーの講座を受けられたのですか?
熊田 :はい、そうです。翻訳の仕事を始めたのは10年前くらいですが、その後フェロー・アカデミーで通信講座をいくつか履修し、また数年ブランクを経て去年からオンラインでフィクションの授業をとったのをきっかけにオンライン講座を連続して受講しています。
加賀山 :日本に戻ったあと子育てがあったそうですが、翻訳をしながらの子育てはたいへんでしたか?
熊田 :翻訳者として働き始めた当時、下の子は保育園でしたが、上の子は幼稚園だったので午後2時には家に帰ってきました。そのころは少ししか働けませんでした。8時ぐらいから昼過ぎぐらいまで働いて、子どもが帰ってきたらそこからは子育て。子どもが寝てからまた働く、と言った感じで。
その数年後のコロナ禍の時にも子どもたちが家にいて、なかなか仕事になりませんでした。ふたりとも小学生だったので、順調に学校に行っていれば問題なかったんですが、家にいると放っておくわけにもいきません。子どもの話を聞きながら仕事をすることもあって、「悪いお母さんかしら……」と悩んだりしていました。会社みたいなところに出勤すれば子どももあきらめがつくんでしょうけど、私のように家にいますと、見た目はただパソコンを見て、キーボードを叩いているだけなので、すぐに「お母さ〜ん」と話しかけられて(笑)。
今は子どもたちも小学校6年生と高校1年生ですから、それぞれの世界も出来まして、私もだいぶ自分で好きなことをやれるようになりました。

シドニー、ボンダイビーチにて。今年の夏は家族でオーストラリアへ。滞在後半子どもたちが語学プログラムに参加している間、私は博物館や美術館を堪能しました。
加賀山 :今後のことですが、フェローでフィクションの講座を受けたということは、今後は出版翻訳にも進みたいということでしょうか?
熊田 :フィクションを勉強した理由のひとつは、ジュエリーやアパレルなどの仕事で素敵な文章を書かなければいけないからです。
加賀山 :素敵な文章(笑)。
熊田 :はい。私がそういう分野での翻訳で期待されているのは、多分ちょっと「格好の良い」文章だと思うんですが、日本語の表現の引き出しがなさすぎるんですね。今後は出版翻訳をやりたいかと訊かれると、今の仕事をキープしながら幅を広げられるなら、と答えますけど、出版翻訳はたいへんだろうなという思いもあります。あと、私はとても本を読むのが遅くて、読書量を積み上げられないので、だいじょうぶかしらと(笑)。
ですが、フィクションの講座を受けて思ったのは、出版翻訳ではある程度自分で判断する裁量の余地があるということです。もちろん翻訳者が原作者の意図を無視してはいけませんが、実務翻訳だと、たとえば「なぜここを抜いたの?」と細かくチェックされるようなこともありますので、そういう意味では出版翻訳のほうが少し「自由」を感じられます。
加賀山 :そういう面はあるかもしれませんね。
熊田 :いずれにしろ、もうちょっと勉強したいですね。このまえアメリアの出版翻訳の定例トライアルを受けたんですけど、実務翻訳でお金をもらってますとは言えないような成績だったので(笑)。先は長いのですが、自分の名前で訳書が出ると楽しいだろうな、達成感があるだろうなとは思います。
実務翻訳と出版翻訳では、リズムとか言葉の選び方がぜんぜん違いますよね。両立させている方はすごいと思います。
加賀山 :実務翻訳のなかで、今後こういう分野を開拓したいというようなことはありますか? それとも、いっそ宝飾品の翻訳をきわめたいとか(笑)?
熊田 :宝飾品はおもしろいと思っています。最初は宝飾品そのものに興味がなかったんですが、ブランドがなぜ金属と石にこれだけの値段をつけるのかという、ブランドなりの理屈があるんですね。美しいものを創り出すブランドの「歴史」にお金を払っているという感覚です。そういう歴史に価値を見いだす人が買う。ホームページなどを読んでいるうちに次第に興味が湧いてきまして、時折開催される各種ブランドのエキシビションや博物館の宝石展に勉強を兼ねて子どもたちと行ったりしています。この方面の知識を深めれば将来的に実務翻訳で幅を広げることもできますし、本を訳すにしてもその知識が役立つかなと。
加賀山 :なるほど、歴史にお金を払ってるわけですね。
熊田 :翻訳をしていなかったら、そこまで興味は持たなかったでしょうね。夫はエンジニアなので、ダイヤモンドは工具のパーツだし、プラチナとか金はあくまで素材であって、「なんでそんなに高いの?」って(笑)。
加賀山 :わかります。ほかに興味のある分野はありますか?
熊田 :本なら、日本語でも英語でもエッセイが好きなので、いつかそういうものが訳せるとうれしいです。小説は多分深いところまで読みこめないので、たとえば、セルフヘルプ、自己啓発書のようなものも訳してみたいですね。
日本語の本をいっぱい読んで、英語の本もいっぱい読んで、表現を豊かにして、仕事もして、子どもの面倒も見て、フェロー・アカデミーの授業もがんばって、自己啓発書やノンフィクションを訳せるといいかもしれません。
加賀山 :実務翻訳のなかで、ほかの分野はいかがですか?
熊田 :これまで「お声がかかったらやります」というスタンスでやってきたので、今後のことはちょっと想像がつきません。お話をいただいて私が興味を持てればその方面もどんどんやりたいというところです。やはり知らないことを知ることが好きなんだと思います。エアバッグが出るバックパックも、鶏肉の機械も、大小さまざまな車両に搭載するいろいろなエンジンも、翻訳の仕事をしなかったら知ることはありませんでした(笑)。
■ 実務翻訳では次の仕事が来るかどうかが評価基準というのは、たしかにそうだと思いました。出版翻訳でも、出来が悪ければだんだん仕事は来なくなりますが、評価という点では、ほかにも書評とか、販売サイトのコメント欄、SNSなどで知ることができますからね(良いものも悪いものも)。その評価基準を忘れないからこそ、ここまで10年間、順調に仕事をされてきたのですね。