
浅野 順子さん
翻訳で地域に貢献する
プロフィール
福岡県出身。韓国の大学を卒業し、帰国後は韓国語を活かした業務に携わる。30歳手前でワーキングホリデーにてオーストラリア・ニュージーランドに渡航し英語を学び、以来モルディブやシンガポールなど海外にて就職する。旅行・観光業界にて主にホスピタリティ業務の従事であったため、語学の使用は取引先との調整や簡単な通訳といった会話が中心。コロナ禍を期に帰国し、大分県に移住。2021年にフリーランスに転向し英会話講師やポストエディターなどの仕事を受ける中、行政からの翻訳の仕事の依頼を受けたことをきっかけに翻訳の世界に興味を持つ。2023年に個人主催の通信翻訳講座を受講し、2025年4月よりフェロー・アカデミーの日英翻訳講座を受講。学習経験も浅く実務経験乏しいため、スキルアップに四苦八苦中。しかし、バックグラウンドである観光や大学での専攻である法律・行政分野を活かした、地域と世界を結ぶ翻訳・通訳者を目標に日々の学習やトライアルに励んでいる。
ツアーコーディネーターの仕事
加賀山 :本日は大分県豊後大野市で英語・韓国語の翻訳・通訳をされている、浅野順子(あさの じゅんこ)さんにお話をうかがいます。
プロフィールの職歴を拝見しますと、オンライン英会話教室の講師・学習アシスタント、ウェブサイトのポストエディター業務(日英、QA兼任)、就業支援アシスタントなどがありますが、現在はおもにどんなことをされていますか?
浅野 :いまはオーストラリアの旅行会社から業務提携委託というかたちで在宅勤務をしています。やりとりはすべてオンラインですが、この仕事のボリュームが大きくなっていますので、ほかの仕事はほとんどしていません。
加賀山 :具体的にはどういう内容ですか?
浅野 :BtoC(企業向け)やBtoB(一般消費者向け)のツアーコーディネートです。オーストラリアにいらっしゃるお客様のご希望の日程をある程度うかがってから、日本での旅行プランをご提案します。
加賀山 :インバウンド向けのお仕事ですね。最近、北海道のニセコとかに行くツアーが盛んですよね。円安ですし、日本は治安もよくて、食べ物も美味しいし。
浅野 :あとは日本文化ですね。いま日本は、オーストラリアはもちろん、いろんな国の方々にとって「熱い」場所です(笑)。最初にご希望をうかがうと、とくに初めて来日される方はだいたいゴールデンルートの東京、京都、大阪がメインで、そこに日帰りで箱根や金沢を追加されます。大分県民としては、もうちょっとこっちにも来てくれればと思うんですが(笑)。福岡空港にはオーストラリアから直行便がないんです。
加賀山 :そうでしたか。直行便があると思っていました。そのお仕事で翻訳もされていますか?
浅野 :いまはとくに翻訳というかたちではなくて、お客様とのやりとりで英語を使っています。翻訳については去年、個人の方が主催しておられる講座を修了しました。1年3カ月ほどの英日の実務翻訳の講座でした。2週間に1度の課題に取り組みつつ、一方で翻訳のテクニックや申し送り書などの翻訳業務上一般的に必要な事項などをご教授いただきました。翻訳テクニックはもちろんですが、申し送り書の書き方や業務のルールなども併せて学べたのは本当に大きかったです。
現在の仕事では、英語を使ったメール等が非常に多いので、改めて日英翻訳に興味が出てきました。それで4月からフェロー・アカデミーの日英翻訳の講座を受ける予定です。
加賀山 :過去の経歴に「地域団体補助金事業コーディネート業務」というのもありますが、これは?
浅野 :こちらに移住してきてから、ありがたいことに、観光案内所のような地域の団体や行政機関のほうから単発のお仕事をいただいています。例えば、この豊後大野市に移ってすぐにお話があったのが、ご高齢者の多い地域の農家民泊団体のサポートでした。
民宿のようにお客様を自宅に泊めて、おもてなしをしながら、地域の方々とのふれあいの場を設けるサービスで、コロナ禍前は海外のお客様も大変多くいらっしゃっていました。コロナ禍明けを見据え、これからのご活動にもっと力を入れたいということで、国の補助金事業を活用するとなり、ご縁があって2年近くごいっしょさせていただきました。
加賀山 :ECサイトの韓国顧客対応もなさっていたようです。韓国語も使われるのですね。
浅野 :豊後大野市の姉妹都市の提携先に韓国がありまして、翻訳や通訳のお仕事をいただいたことがあります。これは現時点では継続していませんが、関係する方々とのつながりが深くなり、また韓国語ができる人材が少ないこともあり、次回もお願いねとは言われています(笑)。
加賀山 :ブログ翻訳のお仕事もあったそうですね。
浅野 :友人のライターの方から紹介していただいた仕事です。IT企業から依頼があって、海外の英語のブログを自社サイトに意見として掲載したいということで、執筆者との交渉と翻訳を担当しました。
加賀山 :観光分野では、ホームページの日英翻訳や、韓日・英日の産業翻訳、あとITや不動産関係のポストエディットの日英翻訳もされています。通訳のほうも、英語と韓国語によるガイド通訳や、社内会議などの通訳をされた実績があります。ほかにやっておられる仕事はありますか?

本番前テレビ局スタジオにて(地元特派員として)
浅野 :メインは最初に申し上げたオーストラリアの旅行会社ですが、月に一度、地元のテレビにも出ています。
加賀山 :なんと!(笑) テレビで何をされるのですか?
浅野 :大分県の各市町村の特派員のような仕事です。生中継ではなく収録ですが、市内の観光スポットなどをご紹介しています。「温泉県大分」と銘打っているんですが、残念ながら豊後大野市は市町村のなかで唯一、温泉がなくて(笑)、ただその分、地元の宿泊施設の方々が中心になって、「フィンランド式サウナの町」として売りこんでいます。撮影では様々な方と出会うので、市内にこんな方がいらっしゃるんだ、面白い取り組みをされているなと、いつも驚かされます。
加賀山 :地域おこしの一環ですね。アメリアに入られたのはいつごろですか?
浅野 :3年近くまえです。翻訳という仕事に関して自分だけで情報を探すのに限界を感じて、入会しました。それまでにも気にはなっていましたが、なかなか会員になるところまでは踏みきれませんでした。一回、翻訳というものをきちんと知って、できればそういう道を歩みたいと思って入会しました。
加賀山 :どんなふうに役立っていますか?
浅野 :情報収集や定例トライアルで役立っています。トライアルはまだ数回受けただけなので、正直、活用できているとは言えませんが、いまはとくに毎月の情報誌で、皆さんが勉強も含めてどういうふうに翻訳という仕事に取り組んでおられるのかということを学んでいます。
韓国の大学に進学
加賀山 :もう少しまえの経歴についてうかがいます。大学を卒業されて、福岡で就職されたのでしょうか?
浅野 :はい。もともと地元が福岡ですので、大学卒業後に福岡に帰ってきて就職し、そこからはおもに旅行関係のカスタマーサービスやホスピタリティ業務に取り組んできました。就職先は韓国系の企業が多く、例えば韓国系の航空会社で、チケットの発券とか予約対応をメインにしつつ、親会社から文書の翻訳の仕事をいただいたり、ときには会議で通訳をしたりしました。使うのは英語ではなく韓国語でした。
そこで1年ほど働いたあと、2014年からワーキングホリデーでオーストラリア、2015年にニュージーランドに行きました。
加賀山 :そのあとモルディブ、シンガポール、そしてまたニュージーランドと続くのですね。ずいぶん多くの国で働かれました(笑)。
浅野 :単純に海外で働きたかったんですね。
加賀山 :そもそもどうして韓国語が使えるのですか?
浅野 :大学が韓国だったんです。高校生のときに少しだけ韓国語を習っていたことがあって、受験があったのでいったんやめていたのですが、日本の大学に落ちてしまい浪人も難しい状況だったので、韓国に短期で語学留学に行きました。その後、やはり大学に進みたいと思い、たまたま外国人の学部生を面接試験で受け入れてくれる現地の大学がありましたので、そこに入学しました。
加賀山 :そうでしたか。そこで4年間学ばれたのですね?
浅野 :はい。

韓国でのイベント通訳
加賀山 :高校生のときになぜ韓国語を学ぼうと思ったのですか? 福岡にお住まいで地理的に近いからとか?
浅野 :それもあったかなと思います。そのころまわりに韓国語教室というのはほとんどなかったのですが、親から「韓国語やってみる?」と言われ、おもしろそうだなと思って始めました。
加賀山 :そこから世界各地をまわって、英語と韓国語で仕事をされることになるわけですから、不思議なものですね。そのあと日本に帰ってきて、福岡には寄らずに直接大分に住まれたのですか? どうやって大分に行き着いたのでしょう(笑)。
浅野 :福岡も大好きですけれど、そのときには都会に住みたくないという気持ちがありました。自然の豊かなところがよかったのですが、まわってみると日本に自然の豊かなところやきれいなところは本当にたくさんあって、何か基準がないと永遠に探しまわってしまうと思いました。最終的にここに決めたのは、偶然出会った方との関係が大きかった気がします。
加賀山 :子どものころから、どこか外に出たいという気持ちがあったのかもしれませんね。東京とか大都会の人は、ずっとそこで暮らしても不便はありませんけど、私みたいに田舎育ち(愛媛県)だと、どこかよそに行かなきゃというメンタリティになります(笑)。
そうして2021年からフリーランスとして活動されているわけですね。
地域の情報を世界へ
加賀山 :これからはどういう方面で翻訳をしていきたいですか?
浅野 :引きつづき地域とかかわる仕事を増やしていきたいです。豊後大野市は観光的にはちょっと弱いのですが、姉妹都市提携などで韓国とは密接な関係があります。去年は施設団の方がいらっしゃったときに、通訳を担当させていただきました。
今後はこの市も外に向けていろいろ発信したいと考えているので、私も翻訳をもっときちんと学んで、経験を積みながら、自分の市の情報発信をお手伝いしたいと強く思っています。これまでのバックグラウンドが観光系でしたので、英日・韓日の翻訳の勉強もしつつ、日英・日韓のほうで地域の情報を発信していきます。
あとは、大学で法律を学びましたので、法律分野で関心を持っていることもあります。これも地元に少しかかわることですが、いわゆる技能研修生のようなかたちでこちらに住んでいる方たちの行政手続きとか、難しい部分がたくさんあるんですね。英日と日英の両方になると思いますが、語学を使ってお手伝いしたいと思っています。

地元のイベント司会(地元特派員として)
加賀山 :地域密着の翻訳という感じですね。
浅野 :とくにいまインバウンドのきっかけは増えていますので、自分が住んでいる市だけでなく——大分県ぐらいになるかもしれませんが——九州方面での観光分野のマーケティングなど、私にできる実務翻訳の仕事があればやっていきたいですね。小さな規模のホテルですとホームページにまだ英語がなかったりしますので、そういうお手伝いができればと。
加賀山 :韓国の姉妹都市というのはどちらですか?
浅野 :釜山市のキジャン(機張)郡というところです。20年近くやりとりがあるので、長いおつき合いです。
加賀山 :韓国は近年、映画やドラマの配信なども盛んですが、映像翻訳や出版翻訳の方面にご興味はありませんか?
浅野 :興味はありますが、いままであまり本を読んでこなかったので、とくにフィクション関係の蓄積があまりありません。そこは自分の弱点と思っている部分でもあります。そういう意味で、出版翻訳はまだ難しいのではないかと思いますが、ビジネス書はけっこう読みますので、ノンフィクションの定例トライアルなどから挑戦していきたいです。
映像翻訳も、チャンスがあればやってみたい気持ちはありますが、いまはこれまで自分がやってきた実務に近いところから力を入れるほうが、道の開き方も違うのかなと感じているので、身のまわりの実務翻訳から足場を固めていくつもりです。
加賀山 :定例トライアルは全体的に英日が多いんでしょうか?
浅野 :そうですね。ビジネスで日英がときどきありますが、基本的には英日です。以前、英日のトライアルを受けたときには少しフィードバックをいただけまして、もっと日本語のブラッシュアップをしましょうということでした。ああ、やっぱり日本語かー、と思って(笑)。
これは私のほうからうかがいたいことなのですが、ある出版翻訳者の方が、「翻訳をするというより、自分が文章を書いている」とおっしゃっていました。やはりそういう感じなのでしょうか?
加賀山 :そうですね。「原文があるのだから翻訳者は黒衣に徹しなさい」という考え方もありますが、まったく構造の異なる言語に移すわけですから、そもそも原理的に無理な話ですし、いまは私も翻訳者の色が少し出るくらいのほうがおもしろいと思っています。あまり出しゃばってはいけませんけど、あえて自分を隠す必要もないのかと。私自身はここ数年、S・A・コスビーという作家を訳しまして、そのへんは吹っ切れました。
話がそれますが、じつは私も韓国語を少し勉強していまして、上達の秘訣みたいなものがあったら教えていただけないでしょうか。とくに韓国語は日本語と語順が同じだから、最初はわりと簡単にうまくなりますよね。そこからもう一段階上のレベルに行くにはどうすればいいんでしょう?
浅野 :これはあくまで持論ですが、結局、語彙に尽きるかなと思います。
加賀山 :ですか(笑)。やっぱり単語を知らないと、聞いても何を言っているかわかりませんからね。当たりまえの話ですが。
浅野 :韓国語も、日本人にとっては漢字語(漢字由来の単語)が憶えやすい、使いやすいという面がある一方で、それを多用すると、「日本人が使う韓国語だね」と言われます。私も友人から言われたので憶えています。それ自体が悪いわけではないんですが、漢字語に頼りすぎると韓国語らしい表現がどうしても減ってしまうので。
ただ、漢字語を知っていると、ニュースは非常に読みやすくなりますね。やっぱり大事なのは語彙力です。
加賀山 :私もニュースはわかることがありますが、ドラマのふつうの会話はまだよくわからないんです。韓国語にかぎらず、どんな言語でも中級以降はかなり努力して単語を憶えるしかありませんね。
いま翻訳とは別に、語学で勉強していることはありますか?
浅野 :話すほうでは、私はラジオが好きなので、よくラジオを聞いてシャドーイング(聞きながらまねして発音する)をします。読むほうは、英語の本、とくにノンフィクションが好きなので読んでいるのと、韓国語はいま個別に学生さんにも教えているので、自分にとっても勉強になっています。あとは韓国語の番組をあえて字幕で見たりします。
加賀山 :そうなんです。私も遅ればせながらこのまえ気づいたんですが、韓国のドラマでも、日本語じゃなくて韓国語の字幕を見れば、何を言っているかわかりますよね。最近の配信番組ならかならず韓国語の字幕に切り替えられるので、「あ、こうすれば勉強できるのか」といまごろ思っています(笑)。
浅野 :私も意地を張って字幕なしで見ていたんですが、ときどき勉強を兼ねて字幕つきで見ようと思うようになりました。
■ 地元で誠実にお仕事に取り組んでおられる様子がよくわかりました。地域密着の地道な活動は、これからますます需要が増えそうです。私も田舎に帰ったときに、大分放送(?)でまたお顔を拝見するかもしれませんね。