アーティストであり英日翻訳者でもある上竹真菜美さんにインタビュー | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

法人の方へ:翻訳者とのマッチング・ご相談はこちら

上竹 真菜美さん

上竹 真菜美さん

アーティストであり翻訳者でもあり

プロフィール

アーティスト、英日翻訳者。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修了。在学中にロンドン芸術大学チェルシーカレッジに交換留学。大学院在籍時にフェロー・アカデミーの通信講座で翻訳の勉強を開始。卒業後より制作活動と並行し、フリーランス翻訳者として現代アートを中心としたアート翻訳に携わる。これまでに美術館のカタログや展示用テキスト、ギャラリーのプレスリリース、美術専門書の翻訳などを経験。
趣味は読書、音楽・映画鑑賞、料理、語学(英語以外に6ヶ国語を勉強中)。

アート系の英日翻訳を中心に

加賀山:今日は、東京都にお住まいの上竹真菜美(うえたけ まなみ)さんにお話をうかがいます。まず翻訳の経歴ですが、フェローの通信講座でステップ(翻訳入門)から学ばれたそうですね。

上竹:けっこう昔でよく憶えていないのですが、翻訳に入るまえに英語のおさらいをする入門講座ですよね。そこから初めて、初級講座で翻訳全般について学びました。

加賀山:初級は映像、実務、出版が含まれる「ベーシック3コース」ですね。そのあと出版翻訳の初級、中級を修了されています。最初は出版翻訳をしたかったのですか?

上竹:はっきり考えてはいませんでした。翻訳自体に興味はありましたが、たとえば特許や医療みたいな特定の分野に進もうとは思っていなくて。翻訳をあまり知らない段階で自分にいちばんなじみがあったのは、翻訳小説とかの出版系だったので、出版翻訳を学びました。大学院のころ翻訳の勉強をしたのは憶えているので、10年ぐらいまえですね。

加賀山:そのあと就職されたのですか?

上竹:しませんでした。私は本業がアーティストで、大学は東京藝術大学ですが、翻訳にも興味があったんです。学生時代から作家活動をしていて、その傍らフェローの講座で翻訳の勉強をしていたら、翻訳の仕事をいただけるようになりました。

加賀山:アートというのは絵画か何かですか?

上竹:現代美術をやっていて、写真とか映像を使ってインスタレーションアート(特定の空間内で表現される三次元的な芸術作品)を作っています。

加賀山:翻訳もどこかの翻訳会社に勤めてということではなく、最初からフリーランスだったのですね? 最初の仕事はどうやって見つけたのですか?

上竹:いちばん最初はクラウドソーシングサイトでジャンルを問わずいろいろな仕事をしていました。たまたまそのときには英会話アプリを開発している韓国のクライアントから依頼があって、そのアプリの日本語版を作る翻訳チームに参加しました。1日にオンラインで3時間ほどチェックインして、プラットフォーム上に置いてある原文を訳して、チェックアウトして終わりというようなリモート業務でした。

加賀山:それは英語から日本語の翻訳ですか?

上竹:そうです。ユーザからの質問にネイティブが答えるコーナーがあって、そこを訳したり、あとはいろいろな映画やドラマやYouTube上の映像を教材にした穴埋め問題でユーザが単語を埋めるようなところを訳したり。
 この仕事は2年ぐらいしましたが、途中からいまメインでやっているArt Translators Collectiveの仕事が入ってきました。アートの翻訳分野で非常に信頼性の高い専門団体ですが、翻訳だけでなく通訳もやっているので、メンバーの方々は以前にもお見かけしていました。とくに代表の田村かのこさんは、通訳者としてもものすごく実力があって、海外のアート系のめちゃくちゃ難しい哲学の話をするようなシンポジウムに、かなりの確率で参加されていました。通訳がすごすぎて、通訳に拍手が起こるくらいです(笑)。そのくらいうまいんですね。

加賀山:たしかにアート系の通訳や翻訳は難しそうです。

上竹:私ももともと自分の専門に近い分野の翻訳をしたかったんですが、美術館やギャラリーの仕事をどこからもらうのかということもわからなかったんです。そんなときに、まえから名前を知っていたATCのオープンコールがあったので、応募してみました。それをきっかけに少しずついっしょにお仕事をするようになり、メンバーになりました。

加賀山:いまの仕事はほとんどATCから入ってくるのですか?

上竹:そうですね。ただ、その傍ら産業翻訳もやっていて、ホテルチェーンのホームページの客室案内の和訳とか、たしかアメリアで見つけたIT関係のオンラインヘルプの翻訳とか、あとはゲームの翻訳などもやっています。分量的にはこういうぜんぜんアート系でないものもけっこうありますが、自分にとってのメインはやはりアート系の翻訳です。

加賀山:アメリアにはいつ入りましたか?

上竹:フェロー・アカデミーを受講しはじめたときに、いっしょに入ったと思います。2018年ですね。アメリアをつうじて仕事も見つかりましたし、毎月送られてくる冊子などが翻訳関係の情報収集に役立っています。

アートの通訳・翻訳専門団体での仕事

加賀山:ATCのメンバーになったあとで印象に残っているお仕事はありますか?

上竹:いっぱいあります。リチャード・セラというアメリカの彫刻家がいて、教科書に載るレベルの巨匠なんですが、その人とハル・フォスターという、これまた20世紀を代表する有名なアメリカの批評家が15年かけて話してきた英語の対談集がありました。それを日本で出版するというので、ATCのチームでまる1冊を訳しました。すごくたいへんだったんですが、今後もセラ研究でかならず参照される本なので、参加できてよかったです。

加賀山:やりがいのある仕事でしたね。

上竹:そうですね。彫刻家ですけど彫刻の話ばかりしているわけじゃなくて、かなり高度な哲学の話をしていたり。なおかつ、当時のアメリカの状況を知らないと、なんの話をしているのかわからなかったりとか。膨大な確認作業が必要でした。チームの人たちと翻訳のクロスチェックもしました。

加賀山:たしかにたいへんそうですね。

上竹:最近だと、森美術館でやっていたグループ展のカタログの翻訳もしました。海外のアーティストが多い展示だったので、作品解説テキストとか、英日の依頼があったんです。最近はそういう展示のカタログの批評文とかも多いです。あと、芸術祭で上演される舞台作品の台詞の翻訳もしました。舞台で出す英日の字幕でした。

加賀山:オペラの舞台なんかでも出るような字幕ですね。

上竹:そうです。舞台の字幕といえば、また別の舞台作品では字幕オペレータもやって、おもしろかったです。ステージの上のほうにある、照明さんとか音響さんと同じブースに入って、舞台を見ながら専用のソフトを操作して、役者さんのタイミングに合わせて字幕を出すんです。

加賀山:ATCではそういうこともやるのですか?

上竹:ほかのメンバーで劇作家の人がいます。その人が通訳者ではなくドラマトゥルク(戯曲のリサーチや作品分析をおこなって演出家などに専門的なアドバイスをする、作品と演出の橋渡し役)として入っている公演で、字幕オペレータを頼まれたんです。

加賀山:さっきクロスチェックと言われましたが、日英翻訳の場合にはネイティブの方がチェックするんですか?

上竹:そうです。ATCには通訳チーム、日英チーム、英日チームがあります。アクティブなメンバーは10数人で、ひとりが複数のチームに入ることもあります。日英チームはアメリカとイギリスのネイティブが過半数で、翻訳をするときには、翻訳者かチェッカーのどちらかにかならずネイティブを入れてペアを組みます。
 私は英日チームのメンバーで、通訳チームには入っていないんですが、通訳の人たちは海外の劇団、カンパニーが来日したときとか、外国の監督が来て日本の劇団と公演をするときなんかに通訳で入って、練習から本番まで公演のあいだじゅう付き添いますので、おもしろそうです。

加賀山:本業の分野で翻訳の仕事も見つかってよかったですよね。

上竹:そうですね。運がよかったというか、大学から大学院にかけて学んだことが自分の技術なので、その知識が役に立ちます。翻訳自体も好きですが、アート関連の内容だとさらに楽しいですね。

加賀山:翻訳という仕事を思いついたきっかけはありますか? 昔から英語が好きだったとか?

上竹:私の専門分野である現代アートをまじめに職業としてやっていくには、ぜったいに英語が必要なんです。日本は現代アートのマーケットやインフラがあまり充実していないので。作品の話をするのも、いろいろな交渉も英語ですし、海外のコンペにも応募しなければいけないので、英語は必須です。

加賀山:仕事柄、英語が必要なんですね。

2022年、アーティスト・イン・レジデンス、クンストラーハウス・ベタニエン(ベルリン)での展示風景

上竹:英語は大学に入ってから真剣に勉強しました。その後、大学院のときに交換留学でイギリスに行き、大学院を卒業してからベルリンのアーティスト・イン・レジデンス(作家滞在型制作プログラム)に参加しました。留学と勘違いされることが多いのですが、これは学校ではなく、何らかの施設にアーティストを招いて制作してもらうというプログラムで、国内のアーティスト向けのものもあるんですが、外国からアーティストを招致して制作、発表してもらうものもあります。
 そこに3カ月ぐらい短期で滞在したあと、一度日本に戻って、アーティスト向けの民間の助成金に応募したら通ったので、また1年間ベルリンの別のレジデンスに行きました。ヨーロッパの老舗のレジデンスです。世界各国のアーティストが集まりますから、そこでも会話はすべて英語です。
 その施設は大きいギャラリーを持っていて、レジデンス・プログラムの一環としてアーティストが個展を開くことができます。ヨーロッパの内外からキュレーターとかが来て、展示を見るほか、興味のあるアーティストのスタジオを訪問して話したりします。
 今年もレジデンスに参加するために、また1年間ドイツに行く予定です。

アート系の翻訳をきわめたい

加賀山:今後のことをうかがいますが、すると1年間はドイツでの制作が忙しくなりそうですね。その先に考えていることはありますか?

上竹:もちろん、翻訳はずっと続けていくつもりです。生計を立てるうえで翻訳をする必要がなくなったとしても、続けます。

加賀山:分野的には、ほかに広げるよりアート系ですね?

上竹:アート系をきわめたいですね。そのなかの分野にはこだわりません。
 どの分野でもそうですけど、アートにも、アートっぽい表現とか、批評文として自然に読める文体とかがあって、作品を抽象的に解説するときなどでとくにそれが出ます。私はいつも読んでいるので、そういう表現ができますが、ふだんアートに親しんでいる人じゃないとたぶん訳せないのではないかと思います。

加賀山:私には無理です(笑)。

上竹:あと、自分が作家なので、作家の書く文章を訳すのも、経験のない人よりうまいかもしれません。作家の考えていることとか、思考回路のようなものがわかりますから。

加賀山:ちなみに、インスタレーションアートの新しい作品というのは突然頭に浮かぶものなのですか? それともいろいろ考えているうちに思いつく?

上竹:いろんなパターンがありますけど、私の場合、興味があることについて作るまえに大量の本を読みますね。それもアート以外の資料を。いま読んでいるのはケア責任の配分にかかわる本です。

加賀山:どちらかと言うと社会学のような?

old4.jpd - 最新作のアーティストブックがアンリ=カルティエ・ブレッソン自費出版写真集賞のショートリストに選出。2026年1月、同財団での展示風景

上竹:そうですね。自分の妊娠、出産の経験をとおして気になることがあったので、そういうこととか、選択的夫婦別姓とか、いまはそのへんのリサーチをしています。私の場合、リサーチしきって、知識がついて考えが深まっていかないと、どう作品に表すかというところまで行かないというか……。

加賀山:逆に、知識が深まると自然にアイデアが出てくるわけですか?

上竹:はい。「民主主義とは?」みたいな主語の大きな一般論だけだと作品にはなりません。私は学者ではないので、そういうことを土台にして「美術で何をするのか」というふうに考えないと。そのかわり、仮定の話をしてもいいんですよ。たとえば、「こういう社会の可能性ってないのかな?」みたいな一見荒唐無稽なことをビジュアルでやるとか。そうするとイメージのステップを踏めるので。

加賀山:なるほど。おもしろいですね。

上竹:ただ、土台がないと次のイマジネーションの飛躍ができないので、最初にがっつりリサーチします。その飛躍も、狙ってかならず来るものでもなくて、「リサーチばっかりしてるけど、これ最終的にどうすんの?」となることも(笑)。私は、興味のあることがいくつか並行して走っていて、それぞれ調べているうちに、「あっ、こうやったらできるんじゃない?」みたいなひらめきが訪れるタイプかもしれません。ずっと畑を耕してるんだけど、種がなかったところに、何かのきっかけで種がぽろっと落ちるような。種をまくには、そのまえに畑を耕しておかなきゃいけない、種だけあっても育たない、ということです。

加賀山:ひとつの作品はどのくらいの期間でできるんですか?

上竹:それもまちまちで、どうカウントすればいいのかもわかりません。3カ月ベルリンに行っていたときに作品をひとつ作りましたが、制作期間は3カ月かというと微妙で、何年もまえからそこに続く準備をしてたわけです。そのときどきの蓄積がある状態でベルリンに行って、「どう作品にしていいかわからなかったあれ、いまだったらできるかも」というふうに作品化しているので、映画で言う「構想何年」みたいなものかもしれません(笑)。

加賀山:ああ。では質問を変えると、何カ月に1回ぐらい新しい作品が出てきますか?

上竹:本当にまちまちですね。ペインターのほうがたぶんわかりやすくて、絵には完成ってあるじゃないですか。でも、たとえばインスタレーションの場合、展示の機会がないと作品らしい作品ができないんです。映像をここに置いて、天井からこの音が鳴っていて、ライトがこうなって、みたいな全部をひとつに合わせるので、映像だけは先に1カ月かけて作ってたとか、写真は撮ってたとかありますが……。ですから、何カ月にひとつみたいなカウントは難しいですね。

加賀山:ますます脱線した質問ですが、たとえば学校でそれを習おうとしたら、部屋がいつも同じじゃないですか。そしたら作品は限定されてしまうというか、制作するためにはいろいろな場所に行かないといけないのでは?

上竹:もちろん大学内だけでもやりようはありますし、いろいろなことを試せる人もいますが、それはそうと、私は大学で何か学んだ気があまりしなくて(笑)、実際に藝大の学内だけで発表していたときには、自分がどうしたいのかとか定まっていませんでした。交換留学でロンドンに行ったり、そのあとで休学していた時期に学外でいろんな作品を作る機会があったりして、そこで得た経験のほうがいまに直接つながっている感じですね。ただ、藝大に行かなければ交換留学にも行っていないので、間接的なつながりはあります。翻訳も藝大で学んだわけではありませんね……(笑)。

加賀山:でもまあ、どこかにスタート地点があったわけで、そこからずっとつながっているということでしょうね。

上竹:そうですね。

■ 今回は本当に私のまったく知らない世界で、とても刺激的なお話でした。個人的には、最後の「アーティストの頭のなか」みたいなところがいちばん興味深かったかもしれません。翻訳という仕事の新しいあり方を見た気もしました。

関連する会員インタビュー
実務翻訳