アメリア会員インタビュー

実務翻訳と出版翻訳のちがいは?

加賀山 :実務翻訳では、具体的にどのような仕事をされていますか?

鈴木 :最初の1〜2年は技術仕様書やマニュアルが多かったのですが、いまは実務でも、技術系のブログの記事や、プログラミング関連のオンライン雑誌の記事の翻訳といった「読み物」に近い仕事が増えています。ほとんど社内向けではなく、社外向けの文書の翻訳です。

加賀山 :システムエンジニアだったころと比べて、仕事時間の管理はしやすくなりましたか?

鈴木 :エンジニアの仕事は時間を読めないことが多く、特にオープンソースを使うような場合、簡単そうに思えることでも、思わぬところではまってしまい、何の進展もなく数日たってしまうこともあります。それに比べると、翻訳の作業ははるかに時間が読みやすいと思います。
 実務翻訳を始めたころは、都度納期を調整する仕事がほとんどでしたが、最近は定期的に入ってくる案件が多く、1〜2カ月先の予定が入ることも珍しくないので、スケジュールの調整もだいぶ楽になりました。ただ、出版翻訳の場合、数カ月にわたって1日何ページなどペースを決めて着実にこなしていく必要があります。ほかの仕事も入ってくるなかでペースを維持するのは、なかなかむずかしいと感じています。

加賀山 :実務翻訳をしながら出版翻訳も手がけているということで、1日の時間をどうやりくりしているのか、興味があるのですが。

鈴木 :実務翻訳は、依頼元の会社と調整して、1日1,000ワードほどを訳すことにしています。日によって依頼される分量がちがいますから、余裕があれば別の会社の仕事を入れたり、出版関連の翻訳に充てたりします。

加賀山 :翻訳支援ソフトも使われますね?

鈴木 :Mac上でWINDOWSを動かすソフトを導入したうえで、TRADOSなど、多いときには約10種類の翻訳支援ソフトを使い分けていました。依頼元によって指定してくるソフトがちがうので。クライアントから要求されるソフトがちがうからだと思います。

加賀山 :ソフトウェアの使い方は実際の仕事で学んだのですか?

鈴木 :TRADOSはカレッジコースでも習いましたが、だいたい仕事で使いながら習得しました。表記や用語、過去の訳例などの検索に便利ですし、マニュアルのアップデートなどでは、旧版とどう変わったのかがすぐにわかります。ただ、新旧で一致しているところが多いと、そのぶん報酬が下がります。

加賀山 :翻訳支援ソフトは、出版翻訳でも使えませんか?

鈴木 :それはむずかしいかもしれません。対訳がデータベースになっていれば便利だなと思うことはありますけど、原則としてデータベースの管理が「文」単位ですので、出版翻訳のように複数の文や段落単位でまとめて考え、日本語を作っていく場合にはなじまないかもしれません。
 実務では専門のチェッカーさんもいますので、大胆すぎる意訳はわかってもらえないこともあるでしょう。フィクションやノンフィクションの翻訳では、100%のマッチ、つまり同じ原文から、まったく異なる訳文が出てくることもよくあります。

加賀山 :実務をやりながら出版にも進む鈴木さんのようなかたと、出版から実務に進むかたと、どちらが多いのでしょう。

鈴木 :先日、ノンフィクションの翻訳者が大勢集まる会に参加する機会があったのですが、これから出版を手がけようとしているかたの多くは実務もやっていました。実務のほうが実入りはいいのです。というより、効率がいいと言うべきかもしれません。私もエンジニアの経験と知識がありますから、実務のIT分野なら、辞書を引く回数も、調べ物も少なくてすみます。

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