守井 悦子さん | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

守井 悦子さん

守井 悦子さん

いろいろな働き方ができる翻訳の世界

在宅とオンサイトで翻訳の実績を積む

加賀山 :本日は、20年近くフリーランスで実務翻訳にたずさわったのち、現在は企業の翻訳部門で働いておられる守井悦子(もりい えつこ)さんにお話をうかがいます。
 さっそくですが、実務翻訳をなさるようになったきっかけは何でしたか?

守井 :大学では英語学科で、在学中にアメリカ留学もしましたが、経済、とくに国際金融に興味があったので、経済学部のゼミを聴講しました。就職活動のときに、その担当の先生が外資系の銀行を紹介してくださったので、まず卒業後はそちらに就職。マーケティング部門に配属になりまして、そこで財務諸表の見方など、基本的な知識を独学で学びました。

加賀山 :新卒でそのまま外資系の銀行というのは、ハードルが高くありませんでした?

守井 :英語専攻ですから、直接外資系の銀行に就職する人もわりといましたね。ただ、いきなりマーケティングというのはハードルが高かったのです。ふつうは、オペレーションのほうで伝票処理など事務的なことをひととおり学んでからマーケティングに移るのですが、私の場合には最初からでしたので。ちょっと泳ぎを習った人がいきなり荒海に放りこまれたような。(笑)

加賀山 :外資系金融というと、仕事がすごくたいへんというイメージもあるのですが、じつのところどうなんでしょう。

守井 :いまはそうかもしれませんが、当時はこれからバブルというころで、景気もよくて、職場環境も穏やかでした。
 新卒で入社して、同じ銀行の大阪支店の開設にたずさわったりしたのですが、その後主人の母の希望もあり、会社を辞めて家庭に入ることになりました。でも私の中で働きたいという気持ちが強く、「家で仕事をするならよかろう」と、在宅の仕事を探しました。
 その際思いついたのは、英語関連か、税理士でしたが、税理士の勉強を始めてみると、難しいうえにあまりおもしろいと思えなかったんですね。そこで翻訳だったらやれるかなと、どちらかというとうしろ向きな感じでのスタートでした。

加賀山 :仕事はどうやって見つけました?

守井 :最初は未経験でしたので、まず翻訳学校の通信講座で学び、終了後にジャパンタイムズに掲載されている求人に応募し、トライアルを受けて仕事をいただきました。当時はネットの求人情報などありませんでしたから。

加賀山 :そこから始まって、だんだん増えていった。

守井 :はい。そんなふうに在宅で働きはじめたのは1990年でした。その後、出産・育児で一時中断したあと2004年から2007年は翻訳会社でオンサイトの仕事をしました。

加賀山 :在宅から会社勤務になったのですね。どういう経緯でその翻訳会社に勤めるようになったのですか?

守井 :在宅で働いていたときに、そちらから翻訳を依頼されたことがあったのです。当時は定収入がほしかったので、同じ会社がアメリアを通じてオンサイトのコーディネーターを募集していたときに応募してみたところ、「このまえ翻訳をしてくださった守井さんですね。クライアントに評判がよかったですよ」と言ってくださって、すぐに来てくださいということになったのです。それで翻訳コーディネーターの仕事を始めました。

加賀山 :そこから3年間、会社で働かれた。

守井 :はい。でもコーディネーターには向いていなくて(笑)、すぐに翻訳専任になりました。そこで、金融レポート、ホテル運営会社のホームページ、IT系の資料など、あらゆる分野の翻訳をしました。
 しかし、2007年に家族の介護が始まって会社勤務が難しくなったので、また在宅に戻ったのです。

加賀山 :そのあとも継続的に仕事はありましたか?

守井 :在宅で働いていたあいだ、つねに何かしら仕事はありました。常時お仕事をいただいていた翻訳会社は3社ほどでしたが、各社のコーディネーターさんと良い信頼関係が築けていたことも、継続してお仕事をいただけた理由の一つかもしれません。受注が重なり、納期を融通してもらったり、手いっぱいで、残念ながらお断りすることもありました。

企業の翻訳チームで働く日々

加賀山 :昔から英語が好きだったのですか?

守井 :好きでしたが、将来翻訳をするとはまったく思っていませんでした。小学校の文集に「通訳になりたい」と書いたのは憶えていますが。

加賀山 :そのころから通訳や翻訳を意識していたのかもしれませんね。フリーランスや翻訳会社勤務を経て、いまはどのようなお仕事を?

守井 :2014年からは、外資系の保険会社でフルタイムの派遣社員として働いています。派遣会社に登録したところ、そこを紹介されました。

加賀山 :翻訳のチームで働いているということですが、会社に翻訳専門のチームがいるということは、かなり大手なのですね。

守井 :会議など英語でコミュニケーションを求められる場面が多く、いろいろな部署に専任の通訳チームと翻訳チームがいます。担当しているのはお客様向けではなく、社内向けの文書です。

加賀山 :在宅でやっていた翻訳と比べて、会社での翻訳というと何かちがいがありますか?

守井 :ちがう点としては、社員がエンドユーザーですので、わからないところは担当者に問い合わせればすぐに回答がきて、楽といえば楽ですね。
 翻訳のクオリティも、もちろん高くないといけませんが、フリーランスのときほどではなく、むしろ、明日何時に使う資料なので今日中に仕上げてというふうにスピードが重視されます。

加賀山 :なるほど。

守井 :経験を積むと、プロジェクトの流れがわかるようになり、その意味でもやりやすくなります。いま私がかかわっているプロジェクトは、何年もかかる大がかりなもので、現在進行中です。
 それに対して、フリーランスの場合には、昨日は契約書、今日は市場レポートというふうに何が来るかわからない。楽しい反面、どんなものが来ても即応できなければならないので、毎回力を試されるというつらい部分もありますね。

加賀山 :どちらのほうがお好きですか?(笑)

守井 :いまは6人のチームですので、仲間にいろいろ相談できます。ほかのメンバーの訳を見て、ああ、こういうふうにも訳せるのかと比較して勉強にもなりますが、素材がいつもいっしょですから、たまにはちがうものを訳してみたいと思うときもあります。また、いまは日本語の英訳が多いので、和訳が恋しくなることもあって。ないものねだりですね。

加賀山 :日本人の社員が書いたものを社内向けに英語にするのですね。社内コミュニケーションの翻訳というと、和英の需要のほうが多いのかもしれません。

守井 :そうですね。9割は英訳です。フリーのときには和訳ひと筋でしたから、日本語の訳文を丁寧に整えていく。いまはそういう作業が懐かしくなったりもします。

加賀山 :チームの中にネイティブもいらっしゃるのですか?

守井 :いません。全員日本人です。

翻訳だからこそ続けてこられた

加賀山 :出版翻訳もなさったそうですが。

守井 :以前、インターネットの翻訳オーディションを受けましたら最優秀賞をいただいて、1冊訳しました。3カ月間かかりきりだったのですが、これはちょっと生活が苦しいということで実務翻訳に戻りました。

加賀山 :出版翻訳は全体として厳しくなっていますが、書籍でお好きな分野などありますか?

守井 :自己啓発本でしょうか。クリスプな(歯切れの良い)感じの英語が好きなので。翻訳協力したのも、プロジェクトマネジメントに関する本でした。『はじめてのプロジェクトマネジメント12のステップ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)ですが、これは初めてリーディングをした本でもあります。
 その後アメリア経由も含めて、十数件リーディングをしました。その中には、すぐに出版につながったボブ・ディランの自伝もありますが、この手の音楽やアーティストにあまり詳しくなかったので、読み進めるのに苦労しました。

加賀山 :在宅から会社勤めになったときに、すでに引き受けていた翻訳の仕事ができなくなるようなことはありませんでした?

守井 :実務翻訳は出版翻訳とちがって納期が短いので、会社勤務に移行するときにもあまり支障はありませんでした。

加賀山 :オンサイト、オフサイトと変わってもずっと続けておられるということは、やはり翻訳という仕事がお好きなのですね。

守井 :結局、性に合っていたのだと思います。最初の会社を辞めたのは不本意でしたが、そこで何をしようかと考え、結果として良い仕事にめぐり合いました。育児や介護などの人生の折節にペースダウンしながらも、細く長く続けてこられたのは、この仕事だったからこそだと感謝しています。

加賀山 :実務翻訳をやっておられたときに、印象に残っている仕事はありますか?

守井 :アメリカのある資産運用会社の運用レポートをレギュラーで依頼していただいていたのですが、ファンドの内容も英語の表現もほかと比べて格段に難しくて、かなり苦労しました。この案件を発注された翻訳会社でクオリティマネジメントをしている元証券会社のかたも難しいとおっしゃるくらいの内容で、複雑なファンドの仕組みや、MBA(経営学修士課程)で習うような概念や用語が次々と出てくるのです。でも、それを独学で何とか理解し、訳しつづけたことが実力になったと思います。ずいぶん鍛えられました。

加賀山 :そういう苦しい体験というのは、あとで役に立ちますね。

和訳、英訳のコツは?

加賀山 :ふだん翻訳の技術向上のためにしていることはありますか?

守井 :和訳に関しては、手本となる日本語を読む、とくに新聞などの簡潔な日本語を読むようにしています。記事を読んで、役に立つ表現をエクセルにまとめ、自分なりの用語集を作ったりしました。
 英訳に関しては、CNNなどのニュース番組や英字新聞などで拾った表現を書き留めておいて訳に応用したり、コロケーション(ある単語と別の単語のよく使われる組み合わせ)などを自分でまとめたりしています。あと、社内文書の日本語では「検討する」とか「対応する」ということばが頻繁に出てくるのですが、それらに対応する英語の表現はたくさんあるので、そういうものをできるだけ集めてリストにしておき、意味合いに応じて使い分けるよう心がけています。

加賀山 :たしかに、「検討する」は万能の日本語ですね。

守井 : 社内文書というのは、こう書いておけば関係者には通じるだろうという感じで書かれます。会議での発言がそのまま記録されていることもあります。翻訳担当の私たちはその会議には出ていないので、詳しい背景や経緯がわからない場合が多いのですが、英語にするとき主語を省くわけにはいかない――そういった苦労はありますね。もうわからないから目的語はitにしてしまえ、とか。(笑)

加賀山 :おもしろい。今後、取り組んでみたい分野はありますか?

守井 : 派遣は3年がひと区切りですので、次は別の業種を手がけてみたいという気持ちはあります。おそらく金融系にはなるでしょうが。この先もしばらく派遣で働くつもりです。

加賀山 :実務翻訳をこれからめざそうという人に、何かアドバイスをいただけますでしょうか。

守井 : 和訳の場合には、できた訳文をいったん寝かせて、あとで日本語だけ読み返してすっと読めるかどうかチェックすることですね。日本語の訳文だけを初めて読んだ人が、すんなり理解できるかどうか。

加賀山 :それが難しいんですよね。

守井 : そうなんです。自分が訳したものを何年か経って読むと、よくわからない、こうしたほうがよかった、と思うことがあります。

加賀山 :訳したそのときには、自分としては理解していますからね。英訳のほうはどうでしょう。

守井 : 英訳は始めてまだ数年ですので、大したことは言えませんが、一つ感じるのは日本語にとらわれないことだと思います。日本語の語順をそのまま英語に置き換えたのでは、ネイティブに伝わりにくい。原意から離れない程度に、語順や構文などを柔軟に変えていいと思います。ただ、フリーランスの場合には、社内文書の翻訳より直訳調が求められるという事情はあるかもしれません。その場合でも、原文に引っ張られないことが大切です。多少冒険したほうが、ネイティブが読んだときにすんなり頭に入ります。
 あと、和訳と英訳を両方すると、相乗効果がある気がします。どうしてネイティブがこの文章でこういう単語を使ったのだろうと思うことがときどきあったのですが、自分で英訳してみると、ああ、この単語がいちばんしっくり来るなということがわかるのです。たとえば、developという単語一つとっても、すぐに「開発する」とか「発達する」と訳しがちですが、ネイティブはたとえば、計画を「作る」とか「練り上げる」という意味で使っている。そういうことに気づきやすくなりますね。

■ 企業内の翻訳チームで働くかたのお話を聞いたのは初めてで、翻訳の仕事にもいろいろあるのだなと興味をそそられました。今後も多彩な分野で活躍してください。出版翻訳もどうぞお見限りなく。

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