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アメリア会員インタビュー

安達 妙香さん

安達 妙香さん

映像制作も、翻訳も。

翻訳者というよりクリエーター?

加賀山 :本日は、安達妙香(あだち たえこ)さんにお話をうかがいます。プロフィールを拝見すると、翻訳だけでなく、映像制作やコピーライティングまで、じつに多彩な仕事をなさっているのですが、メインのお仕事は何ですか?

安達 :映像制作がメインですね。そのなかで多言語を扱うものについて、翻訳をしています。
 パートナーと小さな会社を経営していまして、そこでウェブCMとか、「サイネージ」という電車のなかで流れる広告を制作することが多いですね。地方テレビ局向けのCM制作もあります。翻訳も含めて、文字まわりは基本的にすべて私の担当です。

加賀山 :ウェブCMや電車のなかで流れる広告は、だいたい多言語なのですか?

安達 :とくにウェブCMは多言語が多くて、同じ映像でも、ある場所では英語、別の場所では日本語で出したいといった要望があります。

加賀山 :制作された動画をYouTubeで拝見しました(https://www.youtube.com/user/HYBRIDCREATURES1GO/videos)。これは撮影からご自身でなさっているのですか?

安達 :はい。撮影も含めてすべてです。そのなかのイラストや画面のレイアウトも担当することが多いです。

加賀山 :こういうお仕事を始めたきっかけというのは?

安達 :もともと大学時代から翻訳や文章にかかわる仕事がしたくて、武者修行といいますか、いろいろなところで働いていたのです。一方、パートナーのほうは映像の仕事をしていたのですが、あるときいっしょに働く機会があって、パートナーが独立して会社を始めたときに、いっしょにできそうだねということで私も加わりました。

加賀山 :何人くらいでやっておられるのでしょう。

安達 :私とパートナーのほかに、アプリ制作の担当と、インターンがいます。大きなプロジェクトのときには、別のところから人を探してきて、協力してもらいます。

加賀山 :それだけの人数で、こういうレベルの高いコンテンツができるんですか。驚きました。大きな事務所を設けたりはしないのですね。

安達 :ええ。撮影用のカメラ機材があるので、倉庫は借りていますが、オフィス自体はなくてもいいのです。たとえば、アニメーションの仕事ならカメラを持ち歩く必要がありませんから、休暇を兼ねてオーストラリアに1カ月間行き、仕事をしながら旅行をすることもできます。ネットが遅くて苦労するといった問題はありますが(笑)。

加賀山 :ああ、なるほど。そういうことができるんですね。

安達 :重いCGなどを扱うときには事務所の大きなPCが必要ですが、タイミングを見計らえば、働く場所はどこでもいいのです。ふだんの仕事は、夜中の3時に電話がかかってくるなんてこともありますけど、だいたい自分で時間を調節してやれるので助かります。

加賀山 :コピーライティングもしておられるとか?

安達 :はい。映像をつくるときに、絵コンテと脚本を書くのですが、ふだんのキャッチコピーとは別のコピーを使いたいというお客様がたくさんいるのです。
 たとえば、英語のコピーを、日本向けに翻訳してほしいという依頼があっても、そのまま日本語に訳すと、おかしくなってしまうことは多いですよね。そういうときには、トランスクリエーション(クリエイティブ色の強い翻訳)というかたちで、私のほうからいくつか日本語のコピーを提案します。
 あるいは、映像が先にあって、そのキャッチコピーを考えたりもします。

加賀山 :制作のお仕事は直接クライアントから来るのですか? それとも代理店を経由して?

安達 :直接の場合もありますが、多くは広告代理店か、映像専門のクラウドソーシング(発注者がオンライン上で受注者を探し、仕事を発注する仕組み)の会社からいただいています。

加賀山 :幅広い仕事の内容です。

安達 :名刺には「ライター 翻訳者」と書いているのですが、なんと書けばいいのか(笑)。

加賀山 :やはり「クリエーター」でしょうか。2020年のオリンピックに向けて、業務はどんどん増えている感じですか?

安達 :多言語を望まれるお客様は増えています。それと、外部向けだけでなく、社内向けに新人研修のようなかたちで動画を使うケースもますます増えていますね。

言語によって「算数」にもちがいが……

加賀山 :プロフィールによると、教育事業に3年間たずさわったということですが、その内容をうかがえますか?

安達 :いまの会社に加わるまえに、派遣社員として働いていたときです。STEM(Science, Technology, Engineering, Math)教育を推進する事業で、とくにMathのコンテンツをつくる仕事にたずさわっていました。小学生向けの算数の問題をつくって、英語にし、英語の問題は、日本語に訳します。それを算数のアプリにするのです。

加賀山 :iPadなどで学べる教材ですか?

安達 :そうです。子供が楽しく取り組めるように、ちょっとお話をつけたりして、学びやすくなっています。計算力をしっかり身につけるというよりは、考え方やひらめきを鍛えるのが目的です。なぞなぞのような感じですね。

加賀山 :『なぞぺーシリーズ』(草思社)のような?

安達 :まさにそうですね。作成したお話や問題を私が英訳して、ネイティブの同僚にチェックしてもらい、完成させるという流れでした。

加賀山 :どこに輸出するのですか?

安達 :アプリはどこでもダウンロードできますので、日本国内の多言語学習にも使えますし、たとえばアメリカでダウンロードして学ぶこともできます。
 おもしろいのは、算数といっても、言語によってずいぶん考え方がちがうんですね。たとえば九九は、日本だと音とリズムで覚えますが、英語圏だと表で覚えます。日本語では簡単に訊けることが、英語ではなかなかむずかしい場合もありました。

加賀山 :ほう、たとえばどういうことでしょう。

安達 :たとえば、「ミカちゃんはまえから何番目ですか?」という問題。日本語なら「何番目」と簡単に訊けるんですが、英語だと、“How many people are there in front of Mika?”というふうに、言い換えなければならないのです。“How manieth”という疑問詞でもあればよいのですが(笑)。
 ひとつのアプリですから、言語がちがってもなるべく同じ答えを入力してもらいたいのですが、日本語だと「6番目」、英語だと「まえに5人いる」というふうになって、答えが変わってしまいます。そういう、ある言語では簡単に言えるのに別の言語ではむずかしいということが、子供の教材の場合にはすごく多い。

加賀山 :大人同士のコミュニケーションより、子供向けのほうがむずかしくなる面もあるかもしれませんね。

安達 :そうですね。「重さはリンゴ何個分?」などの問題も、英語ではかえって言いにくい。英語には「〜個」や「〜本」といった助数詞がないので、無理に説明しようとすると、まわりくどくなったり、むずかしくきこえたりするんです。

加賀山 :おもしろいですね。翻訳をするうえで、助数詞は日本語のめんどうくさいところと言われがちですけれど、かえって簡単に言える場合もあると。

安達 :ええ。子供の立場で見ると、助数詞が入ることでかなり身近に理解できている。「リンゴ3つ分」と簡単に言えるのは、なかなか貴重なんですね。
 子供向けの教材は、言葉そのもののむずかしさや、身近な表現かどうか、文章の長さは同じくらいになっているかということを、一番に考えないといけませんでした。日本語で言えないこと、英語で言えないことを学ぶいい機会だったと思います。

加賀山 :興味深いお話です。コンテンツは英語と日本語だけだったのですか?

安達 :中国語もありました。中国語も入ると、また新たな発見がありました。筆算のやり方も国や地域でぜんぜんちがっていて。

加賀山 :ますますおもしろくなりそうです。

安達 :あと、子供向けの教材なので、夏休みの宿題や日頃の遊びを題材にして、そこに算数の問題を当てはめていくんですが、日本では、夏休みをテーマにした場合、カブトムシやセミなどがふつうに出てきます。ところが、アメリカで虫を出すと、「気持ち悪い」とか、「こんなの捕まえない」といった反応がありました(笑)。日本の子供が好きなカレーライスやハンバーグも、外国の子供は食べたことがないですよね。

加賀山 :なるほど。子供の場合、見たこともないかもしれませんね。

安達 :ただ、文化がちがうことによる違和感って、とてもおもしろいと思うんです。私も小さいころから本や映画が好きで、そういった違和感を楽しんでいました。たとえば、映画版の『ナルニア国物語』に出てくる「ターキッシュ・デライト」(砂糖にデンプンとナッツを加えた、日本のゆべしのようなお菓子)のように、「え? 何これ?」というものがあっていいと思います。
 ということで、文化的なちがいをあえて残す場合と、やっぱり教材にはむずかしいからはずそうという場合があって、取捨選択していました。

加賀山 :そういう仕事を3年間やられたのですね。

安達 :はい。一度アプリにしたものを、インターネットが普及していない国に向けて紙の本で出そうというプロジェクトもありました。そうなると、ページのレイアウトを考えなければいけないので、InDesignとかIllustratorといったソフトを使います。もともと翻訳をするつもりで入ったプロジェクトでしたが、使うソフトが特殊で、そこで勉強したことが、いまの映像制作の仕事にも役立っていますね。

大学在学中から積極的に実績を積んで

加賀山 :翻訳に初めて興味を持ったのはいつごろだったのですか?

安達 :小さいころから本が好きで、とくにファンタジーをたくさん読んでいました。『ハリー・ポッター』(静山社)、『指輪物語』(評論社)、『はてしない物語』(岩波書店)、『暁の円卓』(長崎出版)、『バーティミアス』(理論社)……挙げるときりがありません。そこに翻訳者の名前が書いてあるのを見て、ああ、「翻訳」という職業があるんだなと思ったのです。

加賀山 :そのころからなんとなく頭にはあったと。

安達 :ええ。そして大学に入って、小林章夫先生の翻訳のゼミに入り、そこで将来もこれをやっていきたいと思いました。
 留学に1年行ったこともあって大学時代が長かったので、在学中から働きはじめました。新卒正社員の就職で、翻訳をするというのはなかなかないじゃないですか。だから実績を積むしかないということで、大学の後半からアルバイトとして翻訳会社で働いていたのです。チェッカーと翻訳の仕事でした。
 イギリスのパブリックスクールが主催するサマースクールのスタッフとして、現地で通訳をさせていただいたこともあります。
 その後、派遣社員として、先ほど話した教育事業にたずさわりました。

加賀山 :そうして派遣社員として働いたあと、フリーになられた。

安達 :派遣社員として働いているあいだも、知り合いの方や翻訳会社などから自宅でできる仕事をいただいていました。

加賀山 :自宅での翻訳も同時進行だったのですね。それは実務翻訳ですか?

安達 :そうですね。ソフトウェア製品のパンフレットの和訳や、講演会やセミナーの英語の書き起こしと和訳など、とにかくいろいろやらせていただきました。高校の後輩が映画の監督をしていて、作品を海外の映画祭に出したいというので、英語の字幕に挑戦させてもらったこともありました。それは私が訳して、英語のネイティブの方にチェックしてもらいました。あと、海外で作品を売りたいという彫刻家の方と知り合い、英語での交渉代行もしていました。
 数年たち、いよいよ派遣社員をやめて完全にフリーになろうというとき、パートナーが会社を立ち上げたので、いっしょにやることにしたのです。

加賀山 :冒頭の話に戻りましたね。これまでうかがったところでは、早い時期から進路が決まっていたように思います。やはり基本には、本が好きだということがあるんでしょうか?

安達 :そうですね。本とか文章まわりの仕事をしたいという夢は昔からありました。

加賀山 :今後、取り組んでみたい分野はありますか?

安達 :出版翻訳ですね。これはいけそうだという原書を探して、出版社にシノプシスを提出しはじめています。

加賀山 :いまは翻訳者のほうから企画を提案することが大事になっていますよね。シノプシスを出していると、それがきっかけでほかの仕事が舞いこんでくることもあるし。

安達 :おもしろい原書もけっこう見つかって、ようやく見通しが立ってきたので、「今年は転機」というつもりでがんばろうと思っています。

加賀山 :お好きな分野はどのあたりですか?

安達 :児童文学、とくにファンタジー系が好きですね。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、ジョナサン・キャロル、タニス・リーなど、浅羽莢子さんの訳書をよく読んでいました。あとはYA(ヤングアダルト)をよく読みます。最近注目しているのは、レインボー・ローウェルです。

加賀山 :レインボー・ローウェル?

安達 :本名だそうです。『エレナーとパーク』(辰巳出版)という本が1冊だけ翻訳されています。これが代表作ですが、ほかにもすごくおもしろいYA作品を発表されています。大人向けに書かれたLandlineという本は、読書・書評サイトのGoodreadsの読者投票で2014年に1位を獲っています。

加賀山 :YAは有望な鉱脈だと思いますね。日本ではまだ翻訳が手薄なので。

安達 :YAの作品は、おもしろいなと思うものでも、映画などにならないと日本に入ってきませんよね。SFだと、ニール・ゲイマンも、もっと訳されてもいい作家だと思いますが、翻訳は多くありません。海外ではすごく人気があるんです。
 ほかには古典も好きですし、なんでも読みます。

加賀山 :原書はKindleで読むのですか?

安達 :Kindleでも読みますが、Audibleというオーディオブックのサイトがあって、電車のなかなどでは便利なので、最近はもっぱら耳読書です。

加賀山 :オーディオブックは、固有名詞の発音などをチェックするときにも役立ちますよね。私が最近訳した本でも、Fetherstonhaughという人が出てきて、固有名詞発音辞典にはいろいろな発音が載っているんですが、オーディオブックでは完全に「ファンショー」でした。

安達 :それは聞かないとわかりませんね。

加賀山 :ほかにお薦めの作家はいますか?

安達 :ジョン・グリーンでしょうか。これもYAですが、金原瑞人さんが『さよならを待つふたりのために』(岩波書店)といった作品を訳されています。『きっと、星のせいじゃない』というタイトルで映画化もされました。ほかの作品もすばらしいので、もっともっと読まれて欲しいと思います。
 国内のものでは、いま石井桃子さんの評伝(『ひみつの王国:評伝石井桃子』新潮文庫)を読んでいます。とても刺激を受けますね。
 それから、去年の大発見は、台湾の『神秘列車』という短篇集です。台湾旅行中に読んだのですが、旅行から帰っても、物語の余韻があり、帰った気がしませんでした。マジックリアリズム(現実にあるものと現実にないものと融合する芸術表現技法)のような書き方で、作家の甘耀明は「台湾のマルケス(ガブリエル・ガルシア=マルケス)」と評されているそうです。2015年に発売された本なので、「いまごろ気づくのは遅いよ」と言われてしまいそうですが、これがもうとてもおもしろくて、会う人みんなに薦めています。
仕事の話よりも、好きな本の話ばかりになってしまってすみません。

新しいことばにアンテナを張る

加賀山 :翻訳のスキルアップのために、ふだん心がけていることはありますか?

安達 :算数アプリの問題をつくったときのように、「すんなり訳せないこと」を心に留めておくと、あとでいろいろ役立ちますね。
 あとはやはり、日本語も英語も、本を読むことを大切にしています。英語については、新しいことば、流行語をチェックすることも心がけています。

加賀山 :それは映画やドラマでチェックするのですか?

安達 :映画やドラマも見ますが、ポッドキャストも好きです。有名なものでは、Serialという番組を聞いていました。シーズン1では、実際にあった殺人事件がじつは冤罪じゃないかといったことを、毎回調査していきます。ノンフィクションのルポみたいな感じですね。番組の調査にもとづいて、実際に再審が認められたそうです。
 ポッドキャストには、海外の作家が自分の好きな短篇を朗読するような番組もあり、気に入っています。

加賀山 :それは勉強にもなるし、一挙両得ですね。英語の聞き取り能力が必要ですが(小声)。

安達 :ポッドキャスト、すごくおもしろいですよ。

■毎日の映像制作の仕事も充実していて、うらやましい多才ぶりです。本の話になると、次々と作家や作品の名前が出てくるところは、出版翻訳者を超えていますね。出版分野への進出、お待ちしています。『神秘列車』も読まないと……。

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