アメリア会員インタビュー



吉田晋治さん 第31回

翻訳の勉強を始めて2年目から実務翻訳の仕事を手がけ、5年目に講師デビュー、7年目に初の訳書を出しました。
  吉田晋治さん
Shinji Yoshida

映像翻訳にひかれて翻訳学校に入学したものの 文芸と実務の分野を目指すことに

宮田:みなさま、こんにちは!今回と次回、坂田さんの代理でインタビュアーを務めさせていただきますアメリア会員の宮田です。今回は、現在フリーで実務翻訳と文芸翻訳の仕事を手がけ、翻訳学校「フェロー・アカデミー」で実務翻訳・基礎講座の講師もされている吉田晋治さんにお越しいただきました。実は、現在大活躍中の吉田さんに同じアメリア会員としてぜひ一度お話をうかがってみたいと思い、今回指名させていただきました。1972年生まれという若い吉田さんが、母校の教壇に立つようになるまでのいきさつなどを詳しくおうかがいしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

吉田:よろしくお願いします。

宮田:まずは、吉田さんが翻訳を始めようと思ったきっかけからお話しいただけますか?

吉田:大学を中退後、親のすすめで2年ほど公務員試験に挑戦したのですが、自分自身やる気がないせいもあって、なかなか合格できませんでした。もともと英語に興味があり、英語を使った仕事をしたいと思っていたのですが、当時テレビでやっていた海外ドラマの翻訳に興味を覚えたのが、翻訳学校の門をたたいたきっかけでした。

宮田:フェロー・アカデミーで学び始めたのですよね?

吉田:はい。基礎からしっかり学びたかったので、1年間の「カレッジコース」があるフェロー・アカデミーを選びました。入学したときは映像翻訳に興味があったのですが、映像、文芸、実務とひと通り学ぶうちに、映像は自分にあわないことがわかりました。なにしろ映画はほとんど見ない(笑)。読書は好きだったので、文芸翻訳の分野に進みたいと思うようになりました。

宮田:さまざまな分野の翻訳に接するうちに、自分の適性や目標がはっきりしてきたんですね。カレッジコース修了後は、どうされましたか?

吉田:当面の生活を支える必要があったので、文芸翻訳と並行して実務翻訳の講座も受講しました。2年目の夏前に実務翻訳の佐藤洋一先生のもとで、実務系の書籍のグループ翻訳に運よく参加させていただきました。下訳者15人で250ページ程度の投資の本を分担して訳し、先生が全員の訳に目を通すというワークショップ形式でした。

宮田:すごく勉強になりそうですね。分担量はどれくらいでしたか?

吉田:一人あたりの分担量は14ページほどでした。でも、1週間に2ページずつしか進めない。先生が訳をチェックして、そのできがよければ、次に進めるんですよ。だから、訳し終わるまでに2カ月近くかかりました。将来的に文芸翻訳を目指していたので、実務系とはいえ、自分の訳した文章が活字になって出版されるというのは魅力的でした。最初の仕事にしては敷居も低く、先生にもチェックしてもらえて、非常にいい仕事でしたね。

宮田:その後も順調でしたか?

吉田:はい、幸いそこそこできがよかったらしく、すぐに次の本のグループ翻訳にも声をかけてもらえました。ただし、今度は人数がぐっと減って6人。前回の15人中の6人です。コンピュータ関係の本だったんですが、ぼく自身、コンピュータが好きだったこともあって、分担量はいきなり84ページに増え、しかも納期は1カ月。前の仕事から急にレベルが上がりました。でも、2冊の本を手がけたおかげで、その本の翻訳依頼元だった翻訳会社とも縁ができ、定期的に実務翻訳の仕事をもらえるようになりました。

宮田:勉強を始めて2年目にしては、うらやましいくらい順調なすべりだしですね。文芸翻訳のほうはどうでしたか?

吉田:文芸ものは、ミステリーだけ、ノンフィクションだけというのではなく、なんでも読むので分野を絞れず、最初は文芸総合ゼミを選びました。それから、布施由紀子先生の文芸総合演習にお世話になりましたが、厳しくて、毎週のようにへこたれてましたね。

宮田:えっ? でも、布施先生はおやさしい方だと評判ですけれど。

吉田:ええ、たしかにものすごくやさしいです。言葉もやわらかいですが、実は厳しい。先生には「ずるいですね」とよく言われました。そのたびに「グサッ、グサッ」ときましたね(笑)。

宮田:ずるい、というのは?

吉田:訳文の処理の仕方がです。もうちょっと突き詰めて考えればいいのに、さらっと逃げて訳して、それでも何となく通用してしまうというわけです。「吉田さん、それはずるいですね。うまいですけど」とよく言われました。そう言われるたびに、「ああ、これじゃダメなんだな」と思ったものです。
関連する会員インタビュー
二足(以上)のわらじ出版翻訳実務翻訳複数の分野で翻訳講師