アメリア会員インタビュー

ふとしたきっかけで翻訳の世界へ 子供時代はアメリカ現代文学を読む

濱野 :プロフィールによると、鮫島さんは大学で美術史を専攻されて、大学一年のときに水墨画の師に弟子入り、ロンドンの美術大学に留学……。美術の世界を突き進んできた鮫島さんが、翻訳に興味を持つきっかけはなんだったのでしょうか?

鮫島 :留学後に勤めたある会社で英文事務の仕事をしたり、さきほどもお話しした音声ガイド制作会社で英文チェックをしたりと、英語や翻訳に触れる機会はもともと多かったんです。ただ、本格的に翻訳の学習や仕事に取り組みはじめたのは、退職してフリーになってからですね。そのころから、知り合いにときどき英訳の仕事を頼まれるようになり、その流れで『決定版 日本の雛人形:江戸・明治の雛と道具60選』(淡交社、2013年)のキャプション英訳のお話をいただきました。

濱野 :英語での業務経験があるとはいえ、いきなり書籍の英訳というのは……。

鮫島 :私としては「翻訳」がなんたるかもよく理解できていなかったので、英訳か和訳かというのも深く考えたことがありませんでした(笑)。ただ、「これはきちんと勉強しておかなくては」と思い、フェロー・アカデミーの通学講座「日英翻訳」に通うことにしました。ちょうどそのタイミングで、2冊目の『和食検定 入門編』(日本ホテル教育センター、2015年)の英訳のお話が舞い込んできたんです。実は、初めは日本語のライターとして応募したのですが、私の経歴を見た編集者の方から「では英訳もすべてお願いします」とお話をいただいて……

濱野 :『和食検定 入門編』を拝見しましたが、全篇が日英併記で、左ページが和文、右ページが英文の構成……とにかく英文の量が多くてびっくりしました。

鮫島 :あれだけ大量の英訳をしたのは私としても初めての経験です。検定の参考書という性質から、語彙の統一性にも気を配り、校正作業も膨大でした。別件の仕事もしながらですが、結局半年以上は関わっていましたね。

濱野 :美術ライターに翻訳……やはり「書くこと」にもともと興味があったのでしょうか? 昔から本を読むのが好きだった、とか。

鮫島 :そうですね。子供のころから読書は大好きでした。とにかく読書好きの一家で、家族みんなでほぼ毎週末図書館に行って、どっさり本を借りてくるような家だったんです。

濱野 :それはいい環境ですね。当時は、どんな本が好きでしたか?

鮫島 :小学校のころは、『長くつ下のピッピ』で有名なアストリッド・リンドグレーンの作品が大好きでした。そのあともずっと小説が好きで、アメリカ現代文学ではサリンジャーの『フラニーとゾーイ』、レイモンド・カーヴァー、グレイス・ペイリーなども好きでした。

濱野 :翻訳者になる運命は、そのときからすでに始まっていたのかもしれませんね。

鮫島 :そうでしょうか(笑)。でも今まで「翻訳文学」というふうに意識したことはなかったです。村上春樹さんなどによるすばらしい訳で、ただ普通の文学として楽しんでいました。

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