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アメリア会員インタビュー

吉野山 早苗さん

吉野山 早苗さん

コージー・ミステリーの楽しさを求めて

プロフィール

大学卒業後、ホテルに勤務。表紙に惹かれて手に取った1冊の文庫がきっかけで、コージー・ミステリにはまる。その後、読むだけでなく自分でも訳したいと思うようになり、フェロー・アカデミーで勉強をはじめる。主な訳書に〈英国少女探偵の事件簿〉シリーズ、共訳書に『死ぬまでに飲みたいビール1001』など。〈ニューヨーク五番街の事件簿〉シリーズの2作目となる『レディーズ・メイドと悩める花嫁』が2020年3月6日に発売。

好きな作家との出会い

加賀山 :今日は、出版翻訳でご活躍の吉野山早苗(よしのやま さなえ)さんにおいでいただきました。私と同じ田口(俊樹)ゼミのご出身なので、すでに何度かお目にかかったことがあります(笑)。
 コージーブックス(原書房)から訳書が3冊出ています。ロビン・スティーヴンスという作家は知らなかったのですが、どういうかたですか?

吉野山 :YA(ヤングアダルト)の作家で、この3冊は小学生から中学生向けに書かれたシリーズです。イギリスではすでに人気作家ですが、私が訳した1冊目の『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』が、本国でもデビュー作でした。

加賀山 :編集のかたも、デビューしたばかりの作家に目をつけるとはすごいですね。

吉野山 :いろいろアンテナを張っているみたいです。これも最初、YA作品だけれど大人向けにアピールできないかということで、リーディング(原書を読んで、版権取得の検討のためにレジュメ[あらすじや所感]をまとめる仕事)の依頼をいただきました。
 読んだとたんに、すごくいいと思って、レジュメでも最高に評価しました。編集のかたも推してくださって、出版が決まり、翻訳をさせていただくことになったのです。

加賀山 :幸せな出会いでしたね。主人公は貴族のお嬢さまですか?

吉野山 :はい。主人公がふたりいまして、ひとりはイギリス貴族の娘のデイジー、もうひとりは香港からの留学生のヘイゼルで、シャーロック・ホームズとワトソンのように推理していきます。

加賀山 :なるほど。おもしろそう――

吉野山 :本当におもしろいんです。デイジーもヘイゼルもじつは賢いのですが、ガリ勉と思われないよう、勉強があまりできないふりをしています。ただ、お互いにそのことを見抜き、それがきっかけで親友になります。
 そんなふたりが事件を解決していくのですが、スポーツ万能で上級生からもかわいがられている人気者のデイジーに対して、ヘイゼルは「東洋人」ということで、ほかの生徒たちの無意識の差別に傷つくこともしばしば。事件解決のおもしろさだけでなく、いろいろな問題を提起していて、読みごたえありますよ。

加賀山 :タイトルからすると、学校で死体が見つかるのですか?

吉野山 :ええ。体育館で先生の死体が見つかるのですが、デイジーとヘイゼルがそれを知らせにいって戻ってきたら、死体が消えていて、校長も事件そのものを公にしたくない様子で……。

加賀山 :いい感じの出だしですね。2作目は『貴族屋敷の嘘つきなお茶会』、3作目は『オリエント急行はお嬢さまの出番』。2作目の日本語タイトルには「お嬢さま」がついていませんが?

吉野山 :そうですね(笑)。貴族の屋敷が主役級の扱いですから、そこを表現したのかもしれません。

加賀山 :屋敷で事件が起きるのですか?

吉野山 :はい。デイジーの実家でお茶会があって、お母さんが招いた友人が紅茶を飲んで死んでしまい、それを出したお父さんに嫌疑がかかるという。

加賀山 :今度は学校ではなく、自宅で殺人があるわけですね。しかも父親が怪しい。考えましたね。

吉野山 :時代設定が1930年代で、貴族は没落しつつある。ヘイゼルの家のほうがお金持ちだったりして、そういう背景もよく考えてあります。

加賀山 :3作目はどうでしょう。主人公がオリエント急行に乗るのですか?

吉野山 :2作目の事件でいろいろたいへんなことがあったから、気晴らしに行こうということになって、ヘイゼルのお父さんが旅費を出しました。そのお父さんもお目付け役として、いっしょに乗っています。

加賀山 :シリーズとしてうまく話をつなげてますね。

吉野山 :スティーヴンスさんはアイデアがどんどん出てきて、すごいんです。

加賀山 :そして、オリエント急行のなかで殺人が起きる?

吉野山 :アガサ・クリスティーへのオマージュですね。乗客にも亡命したロシア貴族のご婦人がいたり、いわくありげな夫妻がいたり……。

加賀山 :コージーブックスはいま勢いがありますか?

吉野山 :新しいシリーズがどんどん紹介されています。ただ、人気がある作家やシリーズは続いても、人気が出ないとなかなかむずかしい。スティーヴンスさんの翻訳は、この3作で途切れるかもしれません。

加賀山 :それは残念ですね。イギリスではシリーズを書きつづけている?

吉野山 :あいかわらず人気があって、小学生がよく読んでいるようです。ご本人のTwitterとかを見ると、書店をまわるブックツアーのように学校をまわって朗読をしたり、いろいろ活動しています。

加賀山 :邦訳が続くといいですね。

吉野山 :ローラ・チャイルズのお茶会のシリーズや、王族の末裔がメイドになった「貧乏お嬢さま」、ホワイトハウスの厨房が舞台の「大統領の料理人」のシリーズなどは長く続いていますけど。

加賀山 :ホワイトハウスの厨房――初めて聞きました。ホワイトハウスで殺人があったらたいへんなことになりそうですが(笑)。

吉野山 :あれこれ事件があるんです。スタッフが殺されたり、外国の要人が毒殺されそうになったり、大統領の息子が誘拐されたり(笑)。

メルマガの会から田口ゼミへ

加賀山 :最初はどういうふうに仕事を始めたのですか?

吉野山 :以前の仕事を辞めて、翻訳ミステリーに興味を持ったときに調べまして、ミステリーを読んだり、勉強したり、メールマガジンを送ったりするネット上の集まりがあることを知りました。まずそこに加入したのです。
 そのメンバーにコージー好きの人たちがいて、ときどき出版社や翻訳者さんにインタビューをしていました。2012年の「コージーブックス」の立ち上げのときにも、インタビューをすることになって、私も立ち会いました。それをきっかけに、コージーブックスの編集のかたからリーディングの声をかけていただくようになりました。

加賀山 :そのときには田口ゼミにいらっしゃいました?

吉野山 :いました。メルマガの会に入って原書や訳書をいろいろ読むうちに、本格的に勉強しようと思い、田口先生のクラスで習いはじめたのです。
 インタビューに行くとき、じつは迷っていました。というのも、その時点で刊行されているコージーブックスの作品を、全作、インタビューまでに読むことになっていたからです。10作以上あり、そこで腰が引けていたのですが、先生に相談したら、ぜんぶ読めばいいじゃないかと背中を押されました。

加賀山 :翻訳を習うときに田口ゼミを選んだ理由は何でしたか?

吉野山 :やはりミステリーが訳したかったので、翻訳学校で「ミステリー」という講座を探しました。ほかの学校にも「出版」などはありましたが、「ミステリー」というのはなかなかなくて。田口先生の訳書も何冊か読んだことがありましたので。

加賀山 : ローレンス・ブロックですか?

吉野山 :いや、カール・ハイアセンとか(笑)。

加賀山 :学校にかよってみて、新たな発見はありましたか?

吉野山 :自分はまだまだだな、というのが最大の学びでした。私も本を読んでいないわけではありませんが、ぜんぜん読んでいるうちに入らないと思いましたし、英語力も足りませんでした。ほかのかたの訳文を読むのも、本当に勉強になって、自分の訳文を客観的に見られるようになりました。独学で学んでいたら、ひとりよがりになっていたと思います。

衝撃を受けたコージー・ミステリー

加賀山 :そもそも翻訳を仕事にしようと思ったきっかけは何でした?

吉野山 :小学生のころからミステリーが好きでした。そのころは作者が日本か海外かということは気にせず読んでいたのですが、あるとき(メルマガの会に入る直前でしたが)、けっこう長い旅行に行くことになりまして、いままで読んだことのないような本を読もうと思ったんですね。

加賀山 :その気持ち、わかります。

吉野山 :そこでちょうど目についたのが、早川書房のミステリアス・プレス文庫で出ていた、キャロリン・G・ハートの「デス・オン・ディマンド」シリーズでした。当時6冊ありましたが、そのなかの『舞台裏の殺人』という本の表紙を見たときにピンとくるものがあって、読んでみるととてもおもしろかったのです。素人劇団のなかで殺人が起きるのですが、あらゆる面で自分にはなじみのない世界で物語が進んでいって、本当に魅力的に感じられました。
 それが「コージー」と呼ばれるジャンルだということがわかって、夢中でこのジャンルの本を読むようになりました。

加賀山 :けっこうまえからコージー専門だったのですね。それがメルマガの会につながった。
 自分からリーディングをして出版社に持ちこむことはありますか?

吉野山 :あります。コージーやサスペンスっぽいものを読んで、レジュメを提出しています。なかなか企画が通ることはありませんが。

加賀山 :お仕事のためにふだんから心がけているようなことはありますか?

吉野山 :ネットを見て、有望な原書を探します。メルマガの会では皆さんが原書を読んでいるので、情報交換することもありますし、ほかにもたとえば、自分が訳したスティーヴンスさんのブログで別の作家の本が紹介されることもあるので、そこから開拓していくとか。書評のブログもいろいろ読みます。

加賀山 :英語のブログですか?

吉野山 :英語のブログもありますし、日本のかたが原書を読んで書かれているものもあります。特定の人に絞ると偏りが出るので、そこは幅広く読みます。

加賀山 :最初に本を1冊訳したのはいつでした? 先生や先輩の訳を手伝ったりしたのでしょうか。

吉野山 :共訳とか、下訳で2作、訳したとかはありましたが、自分の名前が出る形では、『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』が最初です。

加賀山 :いきなり本番ですか。まる1冊はたいへんだったでしょう?

吉野山 :リーディングで読んで好きになっていましたから、訳すのもそれほど苦にはなりませんでした。自分に合わない本だったらそうはいかなかったと思います。

ノンフィクションが熱い!

加賀山 :今後、コージー以外に取り組んでみたい分野はありますか?

吉野山 :じつは去年いちばんおもしろかった本が、ノンフィクションの『死に山』(ドニー・アイカー著、河出書房新社)だったんですね。ああいう本を読むと、平凡な言い方ですが、事実は小説より奇なりというのが実感できて、ノンフィクションを訳してみたいなと思います。
 世界のビールを紹介するような本の翻訳は手伝ったことがあるのですが、それより『死に山』のように物語性があるものに魅力を感じます。

加賀山 :『死に山』は本物のページターナーでした。たぶん「あれ」が学生たちの遭難の真相ですよね。

吉野山 :説得力があるじゃないですか。真相を読んだとき、「怖っ」て思って、本を閉じちゃいました(笑)。ああいうの怖くないですか? 本当にこんなことがあるんだという……。

加賀山 :『花殺し月の殺人』(デイヴィッド・グラン著、早川書房)は読みました? あれもすごくおもしろかった。

吉野山 :あ、読もうと思ってました。『最初の刑事』(ケイト・サマースケイル著、早川書房)という本も、こういうことって本当にあるのという感じでした。
 あと、レジュメを持ちこもうと思ってぐずぐずしているうちに翻訳が出てしまったのが、『とらわれた二人』(ジェニファー・トンプソン‐カニーノ他著,岩波書店)です。刑務所に入れられた黒人男性が、11年後に無実だということになって釈放されるんですが、収監の原因となった目撃者の女性と出会って、その後ふたりで冤罪被害を減らす運動にたずさわる話です。アメリカの司法制度の問題点なども浮き彫りにしていて、専門書っぽいところもありますが、とても読ませます。

加賀山 :おもしろそうですね。

吉野山 :興味深いノンフィクションがごろごろあるとは思えませんし、自己啓発書とか経済本のように、そのときどきのトレンドのようなものもないので、こういうノンフィクションの魅力的な原書を探すのはむずかしいと思いますが。

加賀山 :たしかに。でも去年は、ミステリー読者にもおもしろいノンフィクションが出て新鮮でした。ふだん特別に翻訳の勉強をしておられますか?

吉野山 :毎日意識的にしていることはとくにありませんが、いまオンラインでアメリカの大学の講座を受けられますよね。それで心理学を勉強したいと思っています。友だちで修了した人が、すごく勉強になったと言っていて。

加賀山 :期間は半年とか1年ですか?

吉野山 :もう少し短くて、3カ月とか。レポートも提出しますので、英語を書く訓練にもなります。同じコースを取っているほかの人たちの意見も聞けます。いちばんベーシックな講義は、登録だけすれば視聴できて、無料なんです。そのうちTOEICも受けようと思っています。

■おもしろい本の話をしはじめると止まらず、心から本がお好きなのだなと思いました。出版翻訳にたずさわるようになったのも納得です。今後もコージー(とノンフィクション?)の道をきわめてください。

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