アメリア会員インタビュー


天野 優未さん

第128回

自分の道は自分で切り開いて、超多忙な若手映像翻訳家に天野 優未さん

Misako Tamura
恋愛映画も、SF映画も、戦争映画も

加賀山 :今回は映像翻訳で活躍しておられる天野優未(あまの ゆみ)さんにお話をうかがいます。すでに映像作品の字幕を20本以上手がけられているそうですが、どのくらいのペースで仕事をされているのですか?

天野 :月に3本程度です。最初は映画の字幕が中心でしたが、最近は30分ぐらいのアニメとか、50分ぐらいのドラマなども訳すようになりました。

加賀山 :フリーランスの翻訳者になられたのが去年の11月ということですから、1年弱で20本というのはとても順調な数字ですね。

天野 :おかげさまで仕事が途切れず続いています。映像翻訳の需要自体が増えているということもあります。ネット配信サービスが急成長して、どの配信サイトも毎日のように新しい動画を追加しているくらいの勢いですから、翻訳会社のかたに聞くと、つねに翻訳者を探している状況のようです。

加賀山 :依頼されるのはいつも同じ翻訳会社からですか?

天野 :メインでお仕事をいただいているのは、特定の1社ですね。最初におつき合いしたところから、月2本ぐらいいただいています。他にも数社、登録しているので、紹介された案件にタイミングが合えばお引き受けしています。

加賀山 :今年10月公開の映画『アンダー・ハー・マウス』の字幕を担当されました。主人公の女性ふたりが愛し合うという設定で、予告編を見て興味深かったのが、女性のひとりが相手を呼ぶときに「君」ということばを使うんですよね。「君」と呼ばせるにはちょっと勇気がいりませんでした?

天野 :そうですね。人称も含めて、口調全体でずいぶん悩みました。

加賀山 :彼女の一人称は「僕」ですか?

天野 :いいえ、「私」です。最初は「俺」にしていました。キャラクター的にはそういう部分もあって、途中までその方向で作っていたのですが、「男として生きたいわけじゃない。自由に生きたいだけ」というようなセリフがあって、完全に男っぽくしてしまうと話が変わってしまうかなと思ったんです。だから、結局「私」にしました。あくまで女性として生きていて、別の女性と出会って……という話なので。

加賀山 :なるほど。

天野 :そういうわけで、「私」と「あなた」を使っていたのですが、この女性は大工で、けっこう乱暴なことばも口にするんですね。すると今度は、英語で聞こえる台詞と字幕がちがいすぎると感じて、少し男らしくした結果が、二人称の「君」です。

加賀山 :そのまえのお仕事は『EXO〈エクソ:地球外侵略者〉』というSF映画でした。とくに記憶に残っていることはありますか?

天野 :映画の後半になるまで主人公ひとりしか出てこなくて、あとは機械の音声か、主人公がネズミに話しかけるくらいなのです。人間同士の会話がないので、なかなか自然な感じにならなくて、これにも苦労しました。
 いまあがった2作は、何度も最初から手直ししたり、とりわけ試行錯誤した記憶がありますね。

加賀山 :どちらの映画もちょっと変わっていて、おもしろそうです。全体的にはどういうジャンルのお仕事が多いのですか?

天野 :数が多いのはクラシック映画です。版権が切れている映画のDVDを毎月出しているような会社さんからの依頼です。古い映画って、アメリカもイギリスも、たいていものすごく台詞が多いのでたいへんです。

加賀山 :出版分野でも古典の新訳が増えていますが、それと同じ流れでしょうか。

天野 :そうかもしれません。ネット配信でも最近、古い映画が増えている感じです。古いものは、訳すと時代が見えておもしろいですね、戦争映画の仕事もけっこうあるのですが、当時は戦意高揚を狙ったものとか、現代の感覚とはずいぶんちがうなと思います。たとえば、アメリカ人が日本人を激しく罵倒している台詞をどこまで忠実に訳すか、悩むところですね。あと、戦争映画はそれぞれ背景がちがうので、毎回調べものがたいへんです。

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