平田 綾子さん | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

平田 綾子さん

平田 綾子さん

ドラマからミュージカルまで、幅広く翻訳中

舞台を支える仕事から翻訳の道へ

加賀山 :本日お話をうかがうのは、ドラマの字幕や演劇の台本の翻訳でご活躍の平田綾子(ひらた あやこ)さんです。さっそくですが、ドラマと演劇、いまはどちらの仕事が多いのですか?

平田 :ドラマのほうが圧倒的に多くて、7割くらいです。そのほとんどが字幕ですね。

加賀山 :Netflixなどの動画配信サービスが増えて、字幕の需要が高まっているということでしょうか?

平田 :それもあるかもしれませんが、私はもともと吹替より字幕の仕事が多いのです。いまいちばん仕事をいただいている翻訳会社さんでは、字幕のトライアルしか受けていないので、それも一因かもしれません。

加賀山 :トライアルはけっこう受けられました?

平田 :そうですね。翻訳者になったときにまず数社受けました。それでドラマやドキュメンタリー、バラエティ、スポーツ系などの仕事をいただくようになったのですが、5年ほど経ったときにドラマや映画の仕事を増やしたいと思い、再びトライアルを受けました。

加賀山 :いまも複数の会社とつき合っておられる?

平田 :映像翻訳は数社です。あとは別の会社からチェッカーの仕事をいただいたり、チャンネルのホームページに載るような番組案内文の翻訳もさせていただいています。

加賀山 :翻訳の仕事は映像から始められたのですか?

平田 :社会人になったあとで翻訳者をめざしたときに、どの分野に進むか迷って、実務の通信講座を受けたこともありました。ですが、やはり好きなものを楽しく訳したいという気持ちから、映像翻訳の学校に入って勉強したのです。

加賀山 :学校に通われたのですか。それは何年ほど?

平田 :1年半勉強した後、学校のOJTプログラムが半年ぐらいありました。当時のOJTでは実際の仕事のように番組を1本丸ごと訳し、1対1で担当の先生にご指導いただけました。

加賀山 :社会人になってから学ばれたのですね。職場自体は翻訳とは関係なかったのですか?

平田 :ええ。舞台がすごく好きだったので、大学の文学部で演劇・映像を専攻したあと、卒業後は舞台の裏方の仕事をしていました。一生働ける技術を身に着けたいと思い、翻訳の学校に通いはじめて、演劇関係の翻訳がしたいとあちこちで言っていましたら、裏方時代の知り合いから、来日公演などの舞台通訳をたくさんやっている通訳翻訳会社があるということを聞いたのです。経験はまったくありませんでしたが、登録してみたところ、日本語の台本を英訳する仕事の声がかかりました。それが最初の「翻訳」の仕事でした。

加賀山 :小さいころに演劇が好きになるきっかけがあったのでしょうか?

平田 :ありました。小学校5年生のときに、家族の仕事でアメリカのニュージャージー州に行ったのですが、英語もわからないし、友だちもなかなかできなくて落ちこんでいました。そこでたまたま日本から持ってきていたミュージカルのビデオを見て、華やかな世界に引きこまれたんです。2年半のアメリカ生活を乗りきれたのも、毎晩そのビデオを見る楽しみがあったからと言ってもいいくらいです。日常を忘れさせ、人を元気にできる演劇関係の仕事を、私もしたいと思いました。

加賀山 :だから日本に帰ってきて、演劇を真剣に学ぼうと思った。

平田 :そうですね。演劇関係の仕事がしたい一心で、大学時代は演劇のチケット予約センターでバイトしたり、劇団の手伝いをしたりしていました。
 卒業後の裏方の仕事というのも、アメリカでビデオを見ていた劇団の仕事だったのです。

加賀山 :少しずつ夢に近づいたわけですね。

ドラマと演劇とのちがいは……

加賀山 :映像翻訳の仕事を始められて11年。プロフィールを拝見すると、ドラマの字幕のほか、テネシー・ウィリアムズなどの芝居やミュージカルを訳されています。演劇の台本の翻訳は、字幕とは勝手がちがいますか?

平田 :ちがいますね。映像翻訳の場合には、作品としては完成しているものですから、割とはっきりとした正解があるように思います。台詞だけでなく、演出や演技の意図を理解して、適切な訳を探るという、小さな的の中心を狙うような難しさがあると思います。一方で演劇の台本を訳すときは、紙に印刷された台詞しかないので、解釈の自由度が高く、その分どうしたらよりおもしろく伝えられるかを考える難しさがあります。こちらで想像をふくらませながら訳さなければいけません。

加賀山 :なるほど。大道具も小道具もまだないし。

平田 :ええ。ですから、ト書きにセットの配置が書いてあれば、自分で絵に描いたりして訳します。
 台本に書いてあっても、演出によっては採用されなかったり、こちらが想像していたのとちがっていたりします。たとえば、喧嘩のシーンで、思っていたよりずっと激しい格闘みたいになっていてびっくりしたこともありました。役者さんや演出のしかたによっては、台本にないアドリブも入ります。

加賀山 :訳したなかでとくに印象に残っている作品はありますか?

平田 :どれも印象に残っていますが、やはり最初に訳した劇ですね。まだ映像翻訳の学校に通っていた時期に、舞台の知り合いからの紹介でいただいた仕事でした。「使うかどうかわからないけど、それでもよければ」と言われて訳したのですが、私の訳を提出したときに、「わかりやすいけど、作品のメッセージが伝わらない」と言われたのです。

加賀山 :それは厳しい……。

平田 :演出のかたと何度もやりとりをして修正したのですが、そのとき、「どんな台詞にも裏に欲望があるから、その欲望を感じて訳して」と繰り返し言われたんですね。
 そのころ私は、1文1文わかりやすく正確に訳していけば、最終的にメッセージが自然と伝わるものだと思っていました。パズルのピースをすべてはめれば、1枚の絵が完成するというようなイメージを持っていたんです。でも、そうではなかった。翻訳者がメッセージを意識して、ことばの選択をしていかないとだめなんだということがわかったのです。
 そこから、台詞の裏の意味や演技の意図などを注意して訳すようになりました。あの経験がなければ、翻訳者にはなれていなかったかもしれません。

加賀山 :貴重な体験でしたね。

平田 :その後、同じ演出家さんからいくつか仕事をいただきました。また、そのとき知り合ったかたからも別の話をいただいたりして、だんだん仕事の幅が広がりました。

加賀山 :劇の台本を訳した場合、稽古の現場にも立ち会うのですか?

平田 :場合によりますが、本読み(俳優が集まって台本の読み合わせをする)には、なるべく行かせていただきたいと思っています。役者さんなどから質問していただいて、ハッとするような発見をすることも多いです。

加賀山 :翻訳劇というのは、けっこう上演される機会があるのでしょうか?

平田 :劇場でチラシの束をもらうと、翻訳劇もかなり多いなと思いますね。私は年に1、2本訳させていただいています。

加賀山 :すでに翻訳されている作品を改めて訳すときには、まえの訳を参考にしますか?

平田 :最初に見ると引きずられてしまうので、自分の訳がある程度固まってから見るようにしています。

加賀山 :文芸翻訳と同じですね。私もあとから確認します。台本をひとつ訳すのにどのくらい時間がかかりますか?

平田 :ほかの仕事と並行して訳しますので、多めに時間をいただきます。3、4カ月でしょうか。仕事の状況によりますね。

加賀山 :ミュージカルの場合、訳すのは台詞というより歌詞ですよね。音楽に合わせるのはたいへんではありませんでしたか?

平田 :たいへんでした(笑)。音楽もいただいて、合わせながら訳すのですが、やはり歌詞は、歌うときに伸ばしやすい音とか、いろいろ知っておくべきことが多いと感じました。それに英語から日本語にするとどうしても長くなりがちですが、歌詞だととくにそれが出ますから。

加賀山 :日本語は母音が多いこともあって、訳を音符に当てはめるのは至難の業という気がしますね。

日課はドラマを見ること

加賀山 :ドラマの翻訳では、何人かの翻訳者が分担して訳すことが多いようですが……。

平田 :数シーズンを全話担当させていただいたこともありますが、現在担当させていただいているドラマは字幕が2人体制です。吹替も同時進行で、同じエピソードを担当する吹替翻訳者さんからご指摘いただいたり、もう1人の字幕翻訳者さんの原稿を拝見したりして、すごく勉強になっているので、とてもありがたいと感じますね。

加賀山 :ふだん翻訳のスキルアップのために心がけているようなことはありますか?

平田 :とくにスキルアップを意識しているわけではありませんが、翻訳ものにかぎらず、ドラマや映画が好きなので、1日3時間は見ています(笑)。ごはんを食べながらですが、日課の一部になっています。

加賀山 :何かお薦めのドラマはありますか?

平田 :10年ぐらいまえですが、佐藤浩市さんや堺雅人さんが出ていた『官僚たちの夏』が好きでした。最近は、『おっさんずラブ』がおもしろかったです(笑)。役者さんたちもとても魅力的で。

加賀山 :ああ、話題になっていましたね。韓国や台湾でも人気だったようです。翻訳ものはどうでしょう。

平田 :『HOMELAND/ホームランド』とか。CIAの作戦担当官とテロリストが対決する話です。あとは、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』。『ウォーキング・デッド』も好きですね。ただのゾンビものではなく、人間ドラマがあって。

加賀山 :『ハウス・オブ・カード』は私も見ました。シーズン2までですが、その先もおもしろい?

平田 :おもしろいですよ。あれは台詞がすごく早口で、難しい言葉も多いし、翻訳するかたもたいへんだったのではないかと思いますけど、翻訳もすばらしいです。

加賀山 :私も仕事場で弁当を食べながら海外ドラマを見るんですが、『ダウントン・アビー』とか、おもしろいし、衣装やセットもきれいでした。貴族の領地でおこなわれる「屋敷」対「村」のクリケットの試合とか、すごく翻訳の参考にもなりました。観劇にも行かれますか?

平田 :しょっちゅうではありませんが、行きます。とくに、いっしょに仕事をするかたがかかわった劇は見るようにしています。
 あとはほとんど家で仕事です。本当は夕飯までに仕事を終えて、映画を見たり、ゆっくりしたいのですが、仕事があるとどうしても仕事をしてしまいますね。

翻訳学校を活用する

加賀山 :いまは完全にフリーランスですか?

平田 :はい。翻訳学校のOJT中にフリーになりました。当時勤務していた翻訳会社のかたには、将来の見通しも立たないのにフリーになってだいじょうぶ? と心配されましたが、ほかの仕事をしながらだとどうしてもお断りしなければいけない案件がありますよね。それがもったいないなと思いまして。
 たくさん訳して、自分が翻訳者としてやっていけるのかどうか、早く結論を出したかったので、辞めました。

加賀山 :これで食べていけそうだと思ったのは、フリーになって何年ぐらいのころでした?

平田 :うーん、絶対的な安心感はまだないですね。フリーになるときに、仮に貯金を取り崩すことになったとして、いくらを切ったら翻訳者を辞めようという額を決めていました。結果的にその額を切ることなく、いままで続けてこられたという感じです。ただ11年続けてきて、翻訳が好きだということは自信を持って言えますし、できれば一生続けたいですね。

加賀山 :これから取り組みたい作品とか分野はありますか?

平田 :いまドラマをずっと訳していますけど、映画の仕事はあまりやっていないので、やってみたいです。舞台で翻訳させていただいた作品の映画版などを翻訳できたらうれしいですね。ミュージカル映画も訳してみたいです。

加賀山 :たとえば、いまは実務翻訳をやっているけれど、これから映像翻訳にもチャレンジしてみたいというかたは、どうすればチャンスがあるんでしょうね。

平田 :字幕に関しては、1秒4文字以外にも、こうすれば読みやすいとか、どこで改行するかとか、いろいろコツがありますから、ちょっとでも学校に通うといいのではないでしょうか。私も翻訳学校のOJTから仕事が広がりましたので。もちろん、学校に行かずに活躍されているかたもいますから、一概には言えませんが。でも私は、学校で基礎を学んだことで自信を持てましたし、ほかの翻訳会社さんから仕事をいただくようになってからも、最初に学校経由のお仕事で字幕、吹替、チーム翻訳、チェックなど、すべて経験させていただけていたおかげで、安心して取り組めました。

加賀山 :学校に通うメリットとして、習うことのほかに、師匠や仲間を介して仕事のネットワークが広がることがありますよね。

平田 :「師匠」っていいですね。舞台の翻訳に関しては、学校で学んだりしたわけではないので、毎回手探りのところも多いんです。私には師匠がいないので、そういうときに、翻訳の師匠がいるといいなと思います。

加賀山 :なるほど。なかなか師匠には訊けませんけどね、怒られそうで(笑)。

平田 :翻訳をしていると、「よし、いけた」と思えることもあるんですが、チェックバックをいただいたり、時間がたったあとで読み返してみたりすると、「やっぱり、だめだ」と思いがちで、毎回次こそはと思って取り組む、その繰り返しですね。

加賀山 :たとえば、訳された演劇を見にいくと、嫌でも最初から最後まで見ますよね。出版翻訳の場合には、本になったあとで最初から最後まで丁寧に見直すことはあまりありません(少なくとも私は……)から、演劇の台本のほうが反省点が見えやすいのかもしれません。

平田 :ここはちゃんと考えきれてなかったとか、もっといい表現があったはずだけどとか。日々勉強ですね。

■ 「すべての台詞の裏に欲望がある」というお話がとても印象に残りました。出版翻訳の参考にもなります。訳すたびに何かを学び、いつも改善点を考えているところが、仕事を続ける大きな原動力になっているのではないかと思いました。

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