アメリア会員インタビュー


100歳までに100冊が夢 「命の流れを感じさせる表現」を目指して

濱野 :突然の北海道への移住、いちばんの友人との別れ、お子さんの食物アレルギー……いろいろなことを乗り越えられて、いまの森村さんがあるわけですね。現在も、子育てと翻訳の仕事の両立で大変だと思いますが、何かリラックス法はありますか?

森村 :翻訳については、ひたすら目のまえのことに打ちこむだけなので、「もっと時間を」と思う以外、行き詰りを感じるようなことはありません。いつか、翻訳三昧できれば至福でしょうね……。リラックスしたいときは、無理にでもひとりで静かに過ごす時間を作るよう心がけています。徹夜に近くなっても、ひととき自由にしたいことをすると気分が晴れますね。

濱野 :ご家族がいらっしゃると、ひとりだけの時間を持つのも大変ですよね。ほかに趣味などはありますか?

森村 :海外ドラマが好きで、いま追いかけているのは『ホームランド』と『ダウントン・アビー』です。ほかに愛着があるのはマンガとアニメです。小学生の頃から萩尾望都が大好きで、大学前半は漫画研究会で活動し、超短期ですが漫画家さんのアシスタントもしました。いま子供から影響を受けてハマりかけているのが『ジョジョの奇妙な冒険』です。原作もすごいですが、アニメ化にかかわる全スタッフの仕事ぶりにも驚嘆しています。

濱野 :おぉー。読書、ドラマ、漫画……多趣味ですね。ぼくは無趣味なので、見習いたいです(笑)。最後に、今後の夢や目標についてお尋ねします。まず、将来、訳してみたい作家はいますか?

森村 :ハリール・ジブラーンとその関連書です。20代で出会ってから、原書を含めて資料をずっと集めているんです。ほぼ妄想なのですが、学会に出て世界のジブラーン研究者と交流するのが夢です。

濱野 :ジ、ジブラーン……ですか。すみません、知りません。

森村 :レバノン出身の詩人で、『預言者』など英語で書かれた詩が世界的に有名です。研ぎ澄まされた言葉が生み出す、深遠で静謐な世界にきっと引き込まれますよ。

濱野 :初めて知りました。ぜひ読んでみます。ところで、これまでの訳書の原書はすべて英語ですが、将来的にはロシア語書籍の翻訳も視野に入れていますか?

森村 :ロシア語の作品を翻訳することは、もちろん夢のひとつです。リーディングをお引き受けするなかで、子ども向け書籍の訳者として、あと一歩に迫ったことがありましたが、最終選抜から漏れてしまいました。良い企画を提出できれば、実力しだいで機会を作ることができると信じていますので、前進あるのみです。

濱野 :根拠はありませんが、ロシア語は絶対にチャンスがありそうな気がします(笑)。ずばり、将来はどんな翻訳者さんになりたいですか?

森村 :100歳まで翻訳を続け、100冊は翻訳したいです。著者が表したいこと、伝えたいことが、過不足なく読者に伝わる訳、著者の心の密度や気配が自然に日本語と化して、読む人の心を震わせることができる訳を目指しています。文法や意味の取りちがえがない正確で丁寧な訳であることは前提であり重要ですが、歌や演奏でもよくあるように「うまいけれど心に響かない」のでは著作として意味をなしませんし、読者がページを繰る手も止まってしまうと思います。数字や関係性に誤りがなければ、行儀良いかたちに整えきれなくても、著者の心を汲んだ、命の流れを感じさせる表現を選びたいです。

濱野 :「命の流れを感じさせる表現」ですか……なんだか、素敵な言葉ですね。今日は、森村さんの本への愛、そして翻訳への愛が詰まったお話を聞いて、心が洗われたような気がします。今後のさらなるご活躍を祈っております。

■将来の夢として「子供や若い人たちにとって、一生の友となり支えとなるような本を訳したい」ともおっしゃった森村さん。子供の頃からの読書体験、そして育児体験が、きっとこれからの森村さんの翻訳人生を明るく照らしてくれるのだと思います。目標の訳書100冊を目指して、ぜひ頑張ってください!