アメリア会員インタビュー



念願の初訳書は、自分がリーディングした本 しかも、大好きなゴルフの本でした


宮田 :それでは次に、文芸翻訳のお話をおうかがいしたいと思います。昨年の秋に出版された『大統領のゴルフ』(日本放送出版協会)が、ご自分の名前で出された初の訳書ですよね。すごくおもしろそうな本じゃないですか。

吉田:そうなんですよ、おもしろいはずなんだけど。売れてないなぁ……(苦笑)。書評でもいいことを書いてもらったし、結構いろいろなところで紹介されたりもしてるんですけど。朝のラサール石井の番組でも紹介されて、広島の兄貴から電話がかかってきました。「おまえの名前、テレビでゆうとるで」って(笑)。

宮田 :すごいですね! いきなり全国ネットで名前が紹介されたんですか! この本の出版にいたるまでのいきさつをぜひお聞かせください。

吉田:2年ぐらい前に布施先生経由でNHK出版のリーディングの仕事を紹介され、それ以降ずっとリーディングを続けています。実は当初はリーディングが苦手でして、初仕事を納品したあと、編集者さんからいろいろと内容について質問されました。「そのあたりが書き足りなかったのか。もう次はないかな」と思っていたのですが、すぐに次のリーディングを依頼され、それから1カ月1、2冊のペースでほぼ途切れなく、ずっと続けています。

宮田 :リーディングの仕事は時間がかかるので、実務翻訳との両立は大変ではないですか?

吉田:そうですね。でも、どんなに忙しいときでも、リーディングの仕事を断ったことはありません。最終的にはこちらの分野をメインにしたいと思っているので、むしろ実務の仕事を減らして、時間のやりくりをしています。値段的にはリーディングのほうがはるかに安いんですが、これからもどんなに安かろうが、リーディングを優先させるつもりです。

宮田 :そうやって地道に努力を続ける中で、この本にめぐり合ったわけですね?

吉田:ええ、この本はそれまでとは違う担当者さんから電話でリーディングを頼まれたんです。「ゴルフの本」だと聞いて、「ぜひやらせてください! ゴルフ大好きなんです!!」と即答しました(笑)。それで読んでみたら、これまたほんとにおもしろい! 人を知りたければ、ゴルフ場に連れて行けと言われるように、ゴルフでは人間性がまともに出ます。この本では、アメリカ歴代大統領のゴルフのプレーについて紹介しているんです。本当にゴルフの話ばかりですけど。心の中では「これ、翻訳できたらいいな」と思いながらも、そんなことはおくびにも出さずにレジュメを提出しました。

宮田 :で、念願かなって翻訳を任されたのですね。

吉田:はい、そのことをすっかり忘れていた昨年の5月ごろ、担当者さんから電話をもらいました。実は当時、別の本の下訳をNHK出版で手がける話が決まりかけていたのですが、土壇場になって、ゴルフの本の担当者さんから「下訳ではなく、正規の翻訳者としてこちらの本を訳してほしい」と頼まれたんです。そこで下訳のほうを一時棚上げにして、こちらに取りかかりました。ただし150ページを1カ月で、と納期はめちゃくちゃきつかった(笑)。でも、この本を翻訳できるのなら本望だと思いましたね。

宮田 :この本は、春具(はる・えれ)さんという方と共訳になっていますね。春さんはオランダ在住ですが、どういういきさつで共訳者になったのでしょう?

吉田:実は、この原書を最初に出版社に持ち込んだのが春さんで、それをぼくがリーディグしたんです。春さんは、おもしろそうな本をいろいろと探してきては出版社に持ち込んでいる方なんですよ。ゴルフの本を出版することになったものの、春さんだけではとても間に合わない。そこで、ぼくに声がかかったわけです。なにしろ、秋の大統領選挙に間に合うように出さなきゃいけないというわけで、本当にぎりぎりのスケジュールでした。

宮田 :まさに旬の本というわけですね。訳者としておすすめする一番の読みどころは?

吉田:やっぱりクリントンの部分でしょうね。とにかくインチキゴルフばかりしますから(笑)。

宮田 :ゴルフって、本性をさらけ出してしまうから怖いですね。「ブッシュ大統領は超攻撃的」と本の帯にはありますが、やっぱりそうなんですか?

吉田:ブッシュはとても短気で、ブッシュ親子は18ホール回るのに2時間かからないそうなんです。日本なら、5、6時間はかかるんですけど。とにかく前しか見てなくて、打ったら走るというゴルフらしいです。ブッシュのゴルフの部分を読んで見方が変わった、という人も多いようですよ。

宮田 :ますます興味がわいてきました! ちなみに吉田さんのスコアは?

吉田:平均100、ベストは88です。月に1度は行きたいんですが、今年はまだ1度も行っていません。

宮田 :翻訳家でゴルフをされるというのは珍しいような気がするのですが、仕事仲間とゴルフに行ったりもするのですか?

吉田:それはないですね。翻訳とは関係のない人たちとプレーしています。本当は出版社の人たちとゴルフできたら最高なんですけれど。

宮田 :ゴルフ好きの方が見つかるといいですね。それでは、最後に今後の翻訳の目標についておうかがいしたいと思います。

吉田:文芸翻訳のとっかかりができたので、まずは自己啓発書など軽めのものから手がけていきたいと思っています。リーディングしたものをそのまま翻訳できたらいいですね。実務翻訳のほうは、もうちょっと仕事をしないと(笑)。講師としての体験もとても貴重で、得るものはたくさんあります。これからも文芸、実務、講師業の三本柱でやっていきたいと思っています。

とても落ち着いた物腰で、いかにも先生らしい吉田晋治さんですが、趣味はゴルフ、コンピュータ、競馬と多彩。女子プロゴルフトーナメントを毎年観戦に行ったり、学生時代にアルバイトを始めた結婚披露宴のビデオ撮影の仕事を今も続けているなど、実はかなりの活動派です。文芸翻訳、実務翻訳、講師業と三足のわらじを器用に履きこなすパワーの源も、実はそのあたりにあるのかもしれません。ますますのご活躍を期待しています!
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