アメリア会員インタビュー

附木 孝二さん

附木 孝二さん

会社退職からIT・メディカルの実務翻訳の道へ

プロフィール

IT業界で約30年にわたり金融系のシステムエンジニアとして従事。業務スキルを高めるための活動の中で、プロマネや情報セキュリティの翻訳プロジェクトを経験。その後しばらくは翻訳のことを忘れて過ごすが、役職定年をぼんやりと意識し始めた40代半ばから、退職後は実務翻訳者になることを考える。ゼロから始めてモノにするという経験を、この先いくつできるだろうかと考え、未知のメディカル分野に挑戦する。以降、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンを師匠と仰ぐ。2021年にIT・メディカル分野を主軸とする翻訳者として開業。ただし、興味がわく案件であれば分野にこだわらず、これからも挑戦していく。

定年を見すえて翻訳の勉強を開始

加賀山 :今日は埼玉県で実務翻訳をしておられる附木孝二(つけぎ こうじ)さんにお話をうかがいます。専門はITとメディカルということですが、お仕事の内容としてはどういうものが多いんでしょうか?

附木 :IT系が多いですね。前職で30年ほど金融機関担当のシステムエンジニア(SE)をしていましたので、メディカル翻訳者募集のトライアルに合格したのに、ITの案件を依頼されることもよくあります。
 IT系の翻訳の内容は本当にいろいろで、たとえば、ユーザーマニュアル、プレスリリース、動画の字幕などもありますし、社内システムのメンテナンス作業手順書や、セキュリティ関連、あと変わったところでは、暗号資産に関するものもあります。

加賀山 :暗号資産まで。金融機関を担当しておられた経験が役立ちそうですね。依頼は翻訳会社から入ってくるのですか?

附木 :はい。依頼が多いのは2社、ときどき連絡が来るのが2社という感じです。

加賀山 :メディカルの案件はどのくらいあるのでしょうか?

附木 :ITとメディカルの割合は7対3ぐらいですね。メディカルは今後徐々に広げたいと思っていますが、ITの案件も拒むつもりはないので、こだわらずにやっていきたいです。

加賀山 :プロフィールを拝見すると、大きな転機がふたつあったように思います。ひとつは2021年に会社を辞めてフリーになられたとき、もうひとつはメディカルの翻訳を始められたときです。まず、会社を辞めようと思われたのは、どういうきっかけだったのですか?

附木 :もともと役職定年を会社員としてのリミットと考えて、そこまで勤めたら退職して何かやりたいなと思っていました。ところが、ちょうど役職定年の1年前ぐらいに大規模プロジェクトのプロマネの打診がありまして、それを責任もって引き受けるとあと2〜3年はどっぷりつかることになるので、断るとともにここが潮時と思い、早期退職することにしました。

加賀山 :そのまえから、いずれは翻訳者になろうと準備はされていたのですか?

附木 :もともと退職後には、在庫を持たない、店舗や事務所を持たない、住む場所を限定されないという条件に合った仕事をしようと思っていました。そうなると、自分にできるのは翻訳だろうということで、手探りで準備を続けてきました。

加賀山 :たしかに、ブログ(https://tra-mars.com/)を拝見すると、メディカルの翻訳の勉強はかなりまえから始められています。

附木 :いきなり何かをやれと言われてもスタートダッシュが早いほうではないので、少しずつ準備しておこうと考えました。期間は長いと思うでしょうが、本業の傍らぼちぼちと準備しているのであっという間に時間がたったという感じです。翻訳をやるにしても、何か専門的な業務知識があるほうがいいわけですが、ITはもう充分やってきたのでそれ以上勉強する気が起きなくて(笑)。
 まったく新しい何かをやりたいと思い、特許、契約など、いろいろ考えました。じつは会社員時代にひとつ特許を出願していまして、弁理士さんに仕上げてもらった書類を見て、特許の翻訳は無理だなと。海外ベンダーとの契約で、英文契約もかじったことがあるので全く初めてではないし。いわば消去法で、ゼロからメディカル翻訳に挑戦してみようと思いました。実際に始めて見ると、とても新鮮に感じました。

加賀山 :ブログのなかに、じつは高校生のころ医学に興味があったという記事がありました。

附木 :そうですね。高校2年ぐらいまでは医歯薬系の学部に入るつもりだったんですが、途中で気が変わってしまいました。

加賀山 :やはりIT関連、情報科学の分野を専攻されたんですか?

附木 :いや、まったく違って、専攻は農学部の工学系でした。おもしろいことに、翻訳の仕事ではITや医薬系をアピールしているんですが、農業系の案件を依頼されたことがありました。経歴は結構見られているのだと思うと同時に、意外なところで役に立ったなと思いました(笑)。

加賀山 :農学部の工学系というと、工場か何かで科学的に野菜を育てるとか?

附木 :いいえ。トラクターやコンバインといった農業機械の分野です。

加賀山 :ああ、なるほど。その後IT企業で30年ほど働き、準備して退職したうえでフリーランスの翻訳者になられた。

附木 :はい。翻訳を最初に学んだのは、フェロー・アカデミーの実務翻訳ベータでした。2012年でしたが、そのときはまだ将来の準備というよりも、趣味と言った方が近いかもしれません。それから3年ほどたって、将来を意識してメディカル分野を習得しようと考え、メディカルの講座を受けはじめたのです。

気に入った書籍は新版が出れば買う、または過去の出版物をネットで探してコンプリートしています。ちょっとしたこだわりです。
イカロスのメディカル翻訳・通訳はアマゾンなどで過去にさかのぼって買い集めました。メディカル翻訳記事の歴史を追うだけでも楽しいです。
AMA Manual of styleというメディカル分野の代表的なスタイルガイド(写真の青く分厚い本)も、最新の11版を購入した後に9版、10版を追加購入しました。
3つの版を比較すると、過去の版では禁止とされていた表現が徐々に認められていくという時代の流れも知ることができます。
AMA Manualの変遷やその他メディカル翻訳に関してブログで記事を書いています。
現在のブログ(A Translator on Mars):https://tra-mars.com/
過去のブログ(ニューイングランド師匠):http://masternejm.blog.fc2.com/

アメリアの定例トライアルの過去問を活用

加賀山 :企業人としての経験はどんなふうに翻訳に役立っていますか?

附木 :私の場合、ITに関しては「土地勘」のような、現場ベースの周辺知識が役に立っています。ITにかぎらず、実務経験があればその分野の翻訳をする際にアピール材料にもなります。
 そういう点で、将来翻訳者になりたいと思っていても、一度企業で働いておくほうがキャリアとして望ましいと思っています。翻訳者の募集で「未経験可」と書かれていても、あくまで翻訳者として未経験という意味であって、実務経験はあるというのが前提だったりするので。

加賀山 :たしかにそうですね。メディカルというまったく新しい分野については、どのように勉強されましたか?

附木 :最初は、イカロス出版のムック本、一般書籍、ウェブなどで独学していたんですが、そのなかで紹介されている学習素材、たとえばThe New England Journal of Medicine (NEJM)などに勉強の範囲を広げていきました。
 NEJMのアブストラクトはいまも毎週読むようにしています。最初のころは、読んでもちんぷんかんぷんでしたが、わからないのは当たりまえなので、それに耐えながら「門前の小僧」状態で読みつづけました。

加賀山 :よくそこで挫折せずに続けられましたね。

附木 :そこですね。要領のいい人だったらやめていたと思います(笑)。でも、すぐに結果が出るものはすぐに追いつかれますから。

加賀山 :学びはじめてどのくらいで、これは仕事にできると感じましたか?

附木 :3〜5年ぐらいたったときでしょうか。基本的に勉強は週末と平日の通勤中だけでしたので、期間としては長いですが、時間としてはそれほど多くはありません。
「1万時間の法則」というのがあります。ある分野でそれなりのレベルに達するには1万時間の練習とか努力が必要だという考えです。ふつうの会社員が1日8時間で月20日勤務すると、だいたい5〜6年で1万時間に達します。新卒入社の会社員がそれくらいの期間である程度の仕事ができるようになるのを考えると、あながち外れてはいないかなと思います。一方、会社員をしながら翻訳を週末10時間だけ勉強した場合、20年以上かかる計算です。なので、片手間で10年かけたとしても、それほどすごい話ではないのです。

加賀山 :雑誌やウェブの情報から始めて、学校の講座を受けられたのですね?

附木 :ええ。ちゃんと専門性を磨くには、自分で勉強するのもいいんですが、そもそもその努力の方向が合っているかどうかがわからないので、一度学校に行って学んだほうがいいと判断しました。
 ちょうど会社のほうも本社勤務になって、ある程度自分で時間の調整ができたため、いくつか通学の講座にかよいました。

加賀山 :2015年にフェロー・アカデミーのメディカル(中級)、翌年にメディカルゼミと医療機器翻訳を受講されています。ほかの学校でも学ばれました?

附木 :退職を機に、2021年にサンフレア・アカデミーの医学・薬学(中級)、DHCの日英メディカル、American Medical Writers Associationの通信講座を受講しました。フェロー・アカデミーのメディカル講座では、講師が選んだと思われる題材を事前に訳して、講義で解説を受ける形式ですが、サンフレアや日英メディカルの講座にはテキストがあって、これはこれで便利だと思いました。どちらがいい悪いという話ではありませんが。
 これらの3つの通信講座については、早期退職者の再教育支援として会社が一定金額まで補助してくれる制度があったので、それを限度額まで使って受講しました。

加賀山 :すばらしい会社ですね(笑)。

附木 :それがなかったら受講していなかったと思います(笑)。

加賀山 :American Medical Writers Associationの通信講座というのはどういう内容ですか?

附木 :メディカル・ライティングという医薬系の文書の書き方を教える講座で、翻訳の講座ではありません。ただ、日英のメディカル翻訳をやっていくには受講した方が良いと思ったことと、修了すると、資格として経歴に掲載できるため、今後海外の顧客を相手にする場合に少しでも役に立つのではないかとも考えました。
 駆け出しのころは、プロフィールに学習歴しか書けないですが、アメリアのメディカルクラウン会員、DHCの総合評価AA、American Medical Writers Associationの修了証などの実績を積み重ねることで、未来の顧客に「ふーん」と興味をもってもらえればそれで十分です(笑)。

加賀山 :クラウン会員はフェロー・アカデミーのメディカルゼミで取得されたのですか?

附木 :そうです。クラウン会員を取得できて本当によかったです。それが無ければ、私の経歴でメディカル翻訳者として応募できる翻訳会社はほぼなかったと思います。

加賀山 :そうですよね。ほかにアメリアに入会されてよかったと思うことはありますか?

附木 :ふたつあります。ひとつは、翻訳の勉強をするときに、アメリアには定例トライアルがあって、その過去問と解説を見ることができます。実際に翻訳するほどの時間はかけていませんが、メディカル、日英メディカル、IT、日英ビジネスについては、過去の定例トライアルのほぼすべてに目を通しています。

加賀山 :すごい……。

附木 :それぞれの分野ごとにひとつのファイルにまとめて、あとで検索しやすいようにもしています。定例トライアルの資料で勉強するためだけの目的でも、アメリアに入会する価値は十分あります。学習素材にかけるコストとして考えてもすごく安いと感じます。
 もうひとつは、求人に応募できることですね。これには、クラウン会員資格が大活躍します。また、過去の実務経験からIT分野の募集にも応募しています。アメリア経由で来る求人なので、おかしな企業はないだろうという安心感もありますね。

加賀山 :最初に翻訳の仕事を開拓されたのは、アメリア経由だったのですか?

附木 :そうです。在職中は副業としての翻訳はしておらず、退職が決まった後の有休消化期間中にアメリア経由でトライアルを受けました。出だしはけっこう調子がよくて、いくつか合格し、退職の翌月には仕事をいただけました。その初仕事を受けた日を「開業日」として個人事業主登録しました。

加賀山 :順調なすべり出しでしたね。トライアルに合格してもなかなか案件が来なかったという話も聞きますから。

附木 :ラッキーだったと思います。確かにトライアルに合格しても登録だけで案件は来ないという会社もあります。むしろその方が当たり前なのかもしれませんね。

会社員時代に共訳の経験も

加賀山 :会社員時代には、プロジェクトマネジメント関連で共訳の経験もされています。

附木 :だいたいSEというのは、プログラマーから始まって、あとはシステム設計、プロジェクトマネジャーになって一丁あがりみたいな流れなのですが(笑)、私もキャリアのメインはシステムインテグレーション(SI)プロジェクトのプロジェクトマネジャーでした。
 ある時、世界最大のプロジェクトマネジメント協会(PMI)が認定するProject Management Professional (PMP)という資格を取得するための参考書や問題集を翻訳するメンバーをPMI東京支部で募集していることを知りました。この資格が建設業界からIT業界へと広がってきていた頃で、私自身もPMPを取得した直後だったこともあり、さらに専門知識を深める良い機会だと思い参加しました。

システムエンジニア時代に自分の専門であるプロジェクトマネジメントの書籍を他社の専門家の方たちと分担して翻訳した本の一部です。
この翻訳を経験したことも、いつかは翻訳をやりたいというきっかけになったと思います。

加賀山 :会社の業務の一環だったのですね。

附木 :いえ、PMPについては当時会社としても取得を推進し始めていましたが、翻訳プロジェクトには個人として参加しました。会社に依頼が来たものとしては『戦略的エンタープライズ・プロジェクトマネジメント』(生産性出版)の翻訳があります。多くの企業が参加し、それぞれの会社でチームを組んで担当分を翻訳するプロジェクトでした。
 また、SIプロジェクトに携わっていると、システム監査の知識も必要になります。その知識を深めたいと思い、ISACA(Information Systems Audit and Control Association)という世界的団体の東京支部でも活動しました。ISACAでは年1回、システム監査に関するマニュアルを発行していて、その英日翻訳プロジェクトにも携わりました。

加賀山 :そのISACA東京支部という組織の理事をされていたそうですが、それも会社の仕事だったのですか?

附木 :仕事ではなくスキルアップのための個人的な活動です。でも、理事になって活動してもなんら報酬があるわけではありませんよ。

加賀山 :これはひとつの勉強法でしょうか、イカロス出版のメディカル翻訳・通訳完全ガイドブックや、AMA Manual of Style(米国医師会スタイルマニュアル)の版ごとの変遷をチェックしておられるそうですが。

附木 :過去にさかのぼって見ていくと、その時に何が流行っていて、どういう団体の活動が盛んだったかなど、様々な変遷がわかります。イカロスのムック本は20年ほどまえのものがいちばん古いと思いますが、当時出ていたかたがいまも活躍されているのがわかったり(笑)。
 AMAマニュアルのほうは、9版、10版、11版と3世代を購入しています。紙の書籍として使うものだけでなく、裁断してスキャナーにかけるためにもう1部ずつ買いました。

加賀山 :OCRで読み取って検索するためですね。「過去の版では禁止とされていた表現が徐々に認められていく」流れを知ることができるそうですが、たとえばどのような?

附木 :たとえば、diagnoseという単語は、かつては「病気」に対して使うものだとされていましたが、最新の11版では「患者」に対して使うことも認められるようになりました。おそらくそのような使い方をする人が多すぎて、徐々にそれが受け入れられるようになったのでしょう。
 他にも「糖尿病」は昔、diabetes mellitusと2単語で書かれていましたが、最新版では「甘い」という意味のmellitusは不要になって、diabetesだけでよいとの記述が追加されました。まあ、これはどうでもいいことかもしれません(笑)。

加賀山 :おもしろいですね。

附木 :IT業界の場合、新しいプログラム言語とか技術が出てくるので、つねに最新の知識を持っていないと第一線で働けないということがあります。一方、翻訳はいったんスキルや知識を身につけると、それらをけっこう長く使って仕事ができるのかなという印象がありました。ところが、こういうことばの変遷を見ていると、それを知ったうえで訳語を選ぶ力が無いと「イケてない」翻訳者になってしまうのかなと思うようになりました。そういう意味でも、歴史を追うのはおもしろいです。

実務経験を積むことが大事

加賀山 :今後、力を入れていきたいジャンルはありますか?

附木 :まだ開業して1年半ぐらいですから、まずは翻訳者としての仕事を安定させることが先決です。IT、メディカルを中心に、それ以外でも自分にできるものはなんでも挑戦したいと思っています。

加賀山 :会社を計画的に辞められる前提で勉強されましたが、そのまえから本が好きだったとか、ことばに興味があったのですか?

附木 :本は好きでしたね。かなり昔に、本屋で本を大量に買って、キャリーケースで持ち帰り、それらを速読で読むみたいな意識高い系のかたたちがメディアにとりあげられていましたが(笑)、私はそこまではいきませんでした。それでも、年間100冊を目標に本を読んでいた時期もあります。かなり処分はしたもののいまでも屋根裏の本棚にまだけっこう残っていますね。
 ただ、本は好きですが、翻訳をやっていると自分は日本語が下手だなと感じていまして(笑)、どちらかというと技術的な内容を日英翻訳するほうが好きです。

加賀山 :メディカルで日英の翻訳も学ばれましたよね? これからは日英の仕事を増やしたいとか?

附木 :そうですね。じつはすでに半分ぐらいは日英です。

加賀山 :あ、そうだったんですか。失礼しました。

附木 :英日もよろこんで対応しますが、どちらかと言えば好きなのは技術や論文調のかたい文章の日英翻訳です。

加賀山 :ITやメディカルで日英翻訳の需要はけっこうあるんですか?

附木 :私が訳したものでいえば、日本の製品を輸出するときのユーザーマニュアルや、海外の規制に準拠するために必要な英語版の資料などがあります。

加賀山 :いろいろありますね。辞書や事典でよく使われるものはありますか?

附木 :ネットの英英辞書を使うことが多いです。ウェブスターとか。

加賀山 :私も文芸でよく使います。英語話者が思い浮かべる順番で語義が並んでいますから、けっこう便利ですよね。ふだんはどういうふうに1日の仕事をされていますか?

附木 :生活パターンは会社員時代とあまり変わりません。だいたい6時前に起きて仕事をするのですが、納品がある場合は前日までに翻訳とチェックを終わらせておき、朝一で最終チェックします。朝一は頭がすっきりしているため、必ず最終チェックはこのタイミングで行います。
 最近は気に入った名言をツイッターでつぶやくことも日課になりました。6時から11時すぎくらいまで、多少休みを入れながら仕事や勉強をして、午後は2時間ぐらい休んで、それからまた訳すという感じです。そのときの仕事量にもよりますが、基本的に夜遅くまではやりません。夜型ではないので下手にやるとろくなものができないので(笑)。

仕事机の写真です。2台のディスプレイを使っています。
写真では、右のディスプレイの画面には私がメディカル翻訳の勉強に使っているNew England Journal of Medicineのサイト、左の画面には私のブログページを表示しています。

加賀山 :ワークライフバランスがとれていいですね。余談ですが、いただいた写真の机の上がきれいでうらやましいです(笑)。

附木 :このインタビューのおかげで掃除ができました(笑)。掃除したての机です。

加賀山 :最後に、これからITやメディカルの翻訳をやりたいというかたにアドバイスがあったらお願いします。

附木 :分野を問わず、これから実務翻訳をやりたい若いかたであれば、最初からフリーランスの翻訳者にはならないほうがいいと思います。最初はIT業界や製薬業界など、自分が興味のある分野の実務をやることをお勧めします。いろいろな実務経験ができるだけでなく、上司に希望を言い続ければ、英語が必要なプロジェクトへの配属や、海外出張、さらには駐在さえもかなうかもしれません。他にも、会社の教育制度などを使って効果的にスキルアップするという手もあります。言い方は悪いですが、適正な範囲で会社をうまく利用するのです。
 もっといいのは、その業界で頑張るうちに仕事が面白くなり、翻訳者になりたかったこと自体を忘れてしまうことです(笑)……というのは冗談ですが、いろんな経験を積むことで、のちのち翻訳者としても役立つと思います。そして、並行して英検1級などの資格を取得するなどの準備はもちろんのこと、その実務に関連する資格も取っておきましょう。個人的には、機械翻訳が進むとますます専門分野の知識の広さや深さが重要になると思っています。

加賀山 :すでにほかの分野で実務翻訳をしていて、これからITやメディカルに進みたいかたに対するアドバイスはありますか?

附木 :実際にその分野の翻訳をオンザジョブでできる環境があれば最高ですが、未経験の分野の場合、そんな都合の良い話はなかなかないでしょう。また、「即実力がつく」講座も存在しません。絶対的な時間はもちろんですが、絶対的な期間をかけて、教育受講、資格取得、翻訳会社へのアピール、案件獲得、経験蓄積などを地道に進めていくしかないと思います。というか、私自身がフリーランス翻訳者として駆け出しなので、偉そうなことは言えません。少しでも参考になればうれしいです。

■ どうしてお話が新鮮に感じられるのだろうと思ったら、私自身が長期的計画を立てて実行することが苦手だからでした。10年計画なんてとても……。これを機に心を入れ替えて、新しいことを学んでみようと思った次第です。

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