工藤 慶亮さん | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

工藤 慶亮さん

工藤 慶亮さん

ITから金融やメディカルへの進出も視野に

プロフィール

北海道出身。愛知県在住。2008年より東京のIT系翻訳会社でチェッカーとして勤務し、2011年よりIT系英日翻訳者としてトライアルに合格。その後、愛知県に移住し、フリーランス翻訳者として活動を開始する。それ以降、数多くのソフトウェア製品やハードウェア製品に関連する文書の英日翻訳を行う。定例トライアルにも積極的に参加し、さまざまな分野に挑戦する。フリーランス翻訳者として収入を上げるためには、翻訳に関する技能や知識の向上だけではなく、事業者としての経営術も重要であると考え、フリーランス翻訳者の経営の最適解についても模索を続ける。プライベートでは、2人の娘を持つ父である。コンサドーレ札幌を応援している。

マニュアルの翻訳が稼ぎ頭

加賀山 :本日は愛知県にお住まいの実務翻訳家、工藤慶亮(くどう よしのり)さんにオンラインでお話をうかがいます。
 プロフィールを拝見すると、IT関連のウェブサイト、マニュアル、仕様書、オンラインヘルプ、eラーニング資料、マーケティング資料、ナレッジベース(企業にとって有益な情報をオンライン上に蓄積し、検索可能にしたもの)など、さまざまなものを訳しておられます。割合的に多いのはどれですか?

工藤 :IT関係の操作マニュアルが多いですね。ソフトウェアがちがっても共通する部分が多いので、仕事もはかどります。たとえば、インストールガイドは、どんなソフトでも、「インストールパッケージを開き、実行可能ファイルをダブルクリックして、ダイアローグを進める」という感じで、だいたい同じです。
 次に多いのは、ウェブサイトのオンラインヘルプです。

家から見える朝日です。子供が生まれてから写真を撮ることが増えました。

加賀山 :翻訳は英語から日本語のみですか。

工藤 :はい、英日のみです。

加賀山 :翻訳以外に翻訳チェッカーの仕事もされているのですか?

工藤 :最近は、チェッカーのほうはほとんど受けていません。翻訳でしたら1日当たり2000ワード、チェッカーでしたら1日当たり5000ワードの作業量を目安としているのですが、チェッカーのお仕事を受けることで収入が下がるのも困るので、報酬が同水準になるようにチェッカーの単価を翻訳の単価の5分の2に設定したのです。そうしたら、そのチェッカーの単価は業界の水準よりもかなり高いようで、必然的に翻訳中心になりまして。

加賀山 :必要な収入から逆算しているのですね。おもしろい。
 扱う製品として、BI(ビジネス・インテリジェンス)、CAE (コンピュータ支援エンジニアリング)、CAD(コンピュータ支援設計)、CRM(顧客関係管理)、データベース、セキュリティ、ストレージ、ハードウェアなどをあげておられます。このなかで多いのは?

工藤 :時期などによって、かなり変わりますが、最近はデータベース製品をよく受注しています。

加賀山 :すると、最初のお話と合わせて考えると、今お仕事としていちばん多いのは、データベースのマニュアルでしょうか。

工藤 :そうですね。データベース・ソフトのマニュアルで、ウェブサイト上で公開されたり、PDFファイルになったりするものです。

加賀山 :納期はだいたいどのくらいですか?

工藤 :だいたい1〜2週間です。

加賀山 :お仕事は翻訳会社を経由して入ってくるのですか、それともプロダクトの会社から直接ですか?

工藤 :ほとんど翻訳会社ですね。契約している翻訳会社が10数社ありまして、そのなかで3社ほどに主にお世話になっています。

加賀山 :最近伸びている分野はありますか?

工藤 :最近では、機械翻訳のポストエディット(機械翻訳の訳文を人の目でチェックし、修正する編集作業)の問い合わせがどんどん増えてきました。実際のお仕事とはあまり関係がないのですが、DeepL(2017年に開始された機械翻訳サービス)というのがありまして、その精度がすごいと話題になっています。だんだん人手を使わず機械だけでできるようになるのかなとも思います。

加賀山 :DeepLが出るまでは、まだまだという感じだったのですか?

工藤 :5年ほど前はまだまだでしたが、ここ数年で各社の機械翻訳エンジンの精度が急に上がった印象です。中でもDeepLは精度が高く、仕事が奪われないか心配しています。
 ですので、機械翻訳についても日頃からアンテナを立てて、仕事や情報を探すようにしています。

加賀山 :eラーニングというのは何でしょう。

工藤 :たとえば、企業に入社した人に対する教育プログラムなど、ITを利用した学習プログラムのようなものです。動画のスクリプトもありますので、そこは映像翻訳になります。少々苦手なんですが(笑)、がんばっています。

さまざまな翻訳支援ツールを活用

加賀山 :対応可能なツールがたくさんあげられています。ApSIC Xbench、SDL TRADOS Studio 2017、Passolo Translator、SDL MultiTerm 2017、Memsource、など。こういうツールは、具体的にはどういうふうに使うのですか?

工藤 :仕事を依頼されるときに、たいてい翻訳メモリを渡されるのですが、それをこうした支援ツールで読みこんで、新しい訳を作っていきます。

加賀山 :翻訳メモリというのは?

工藤 :ソースクライアントが保存している過去の訳文のデータです。支援ツールを使うと、1文ごとに対応する箇所が示されて、たとえば、同じ製品の「インストールガイドWINDOWS版」から「インストールガイドMac版」を作成する場合には、「WINDOWSのどこどこ」を「Macのどこどこ」に入れ替えます。
 すでにあるデータと似たような内容なら、訳出は楽になりますが、その分、報酬が割り引かれます。データが90パーセント一致しているので、報酬は何割引というふうに。

加賀山 :翻訳メモリの種類がいろいろあるので、ツールがたくさん必要ということですか?

工藤 :そうですね。ドキュメントの種類でツールが変わります。たとえば、ドキュメント、翻訳支援ツール、翻訳メモリがソースクライアント由来のものでそろえられている場合もあり、そのソースクライアントの案件にはそのツールを使ってほしいという指定があるのです。

加賀山 :こういう支援ツールは自分で購入するのですか?

工藤 :いいえ、取引先の翻訳会社から無償で提供される場合もあります。私の場合、自前でそろえたのは、TRADOS Studio 2017くらいです。

加賀山 :仕事を引き受けたら無償提供されるということですか?

工藤 :はい。多くの会社が使っているTRADOSだけはこちらで購入したので、初期投資に加えて定期的なアップグレード料金が必要です。

トライアルを受けてフリーランスに

加賀山 :2008年からしばらく翻訳会社で働いて、2011年にフリーランスになられたということですが、2008年の前はどうされていたのでしょう。

難解な仕事のときほど、休憩を入れてリラックスするよう心掛けています。

工藤 :翻訳とは関係なく、のんびりアルバイトをしながら英語の勉強をしていました。2008年から翻訳会社でチェッカーをしていましたが、2011年に翻訳者のトライアルに合格して、そこからはフリーです。

加賀山 :すぐには生計を立てられなかったのでは?

工藤 :トライアルに合格したその新しい会社がオンサイトで迎えてくれましたので、フルで仕事がもらえました。そこから1年ぐらい専属で働きまして、そのあとは完全に自宅で働くフリーランスになりました。

加賀山 :新しい仕事の開拓はどうされていますか?

工藤 :アメリアや日本翻訳連盟の求人を見て、いいのがあれば申しこみますし、定例のトライアルもできるだけ受けます。アメリアのクラウン会員を持っていると仕事のチャンスが広がるので、どんどん受けようと思っています。

加賀山 :そもそも翻訳をされようと思ったきっかけは何でしょう。

工藤 :昔、大学入試のセンター試験で国語の現代文が100点だったんですね。それで、国語力が役に立つ仕事はなんだろうとずっと考えていました。翻訳は英語ができる人の仕事だという認識でしたが、あるとき、国語ができるというのも大事かもしれないと思いました。
 そこで23歳のとき、ネットの検索でアメリアのサイトを見つけまして、おもしろそうだということで入会したのが始まりです。

加賀山 :翻訳学校にはかよわれました?

工藤 :学校にはかよっていません。通信教育を少しやったくらいです。あとはひとりで英語を勉強して、翻訳会社に翻訳チェッカーとして採用してもらいました。

加賀山 :翻訳会社で働きはじめたときに、これは将来フリーランスでやっていけそうだという感触はありましたか?

工藤 :ありませんでした。翻訳会社で働きはじめてすぐにリーマンショックがあって、入ったばかりであまり具体的なことは聞けなかったのですが、その会社も大変そうで、しばらくドキドキしながらすごしていました。
 いけるなと思ったのは、2012年のあたりです。「IT」の分野でクラウン会員を取ったのが大きかったと思います。

加賀山 :クラウン会員はどうすればなれるのですか?

工藤 :アメリアの定例トライアル合格AAを1回取得するか、同じ分野で1年以内にAを2回取得するともらえます。これを取得してからは、アメリアの登録企業から問い合わせが来るようになりましたので、力が認められたという実感があります。

加賀山 :ITの基礎はどうやって学ばれました?

工藤 :勤めた翻訳会社がITに強かったので、働きながら一から学びました。

加賀山 :その翻訳会社が、たとえばドキュメンタリー番組の翻訳に強い会社だったら、そちらに進んだかもしれない?

工藤 :かもしれません(笑)。たまたま入れてもらった会社がITだっただけで。

加賀山 :それも縁ですね。ふだん心がけている勉強法などありますか?

工藤 :仕事のなかで勉強しているのと、あとはアメリアの定例トライアルかな。当月の課題から1文ずつ丁寧に見て、わからないところを調べていきます。

加賀山 :プロフィールには、毎年5月から8月が閑散期になるとありますが、何か理由があるのですか?

工藤 :いや、とくに理由はありません。なぜかこの時期少なくなるんですね。定期的にアップデートされる文書も多くて、たとえば4半期に1度リリースされる文書もあります。感覚的に、夏をすぎたころから忙しくなります。

加賀山 :感染症流行の影響はありましたか?

工藤 :4〜5月のころはなんともいえない停滞感がありましたが、そろそろ社会が慣れてきたのか、いまの時期はふつうに増えてきています。

クラウン会員のメリット

加賀山 :これから仕事を広げたい分野や挑戦してみたい分野はありますか?

工藤 :クラウン会員の英日の実務翻訳関係は全部取りたいと思っています。いま「IT」と「特許」を持っていますから、あとは「メディカル」、「金融」、「ビジネス」です。

加賀山 :ITだけではないのですね。まったく新しい分野をどうやって勉強されるのですか?

工藤 :もっぱらネットを調べたり、本を読んだりです。最初に働いた会社で、なるほどと思ったことがありました。最初の面接のときに「IT翻訳をするにあたり、何を勉強したらいいですか?」と訊いたところ、「とくにないよ。出てくるのはすべて新しくて誰にもわからないことだから」という答えだったんです。

加賀山 :新しい内容だから古い知識が通用しないということですね。

工藤 :言われたときには、えー?と思いましたけど、逆にコツをつかんだというか。知らないことがまったくない案件の方が少ないかもしれないですね。また、今では、もちろんIT業界だけではなく、ほとんどすべての業界でITを導入していると思います。そのため、分野をクロスオーバーするような案件というのが少なくないのですね。たとえば会計ソフトウェアであったり。先に挙げたCAEソフトウェアであればITでもありますが、科学や工学も関係します。
 知らない分野のソフトウェアの翻訳を依頼されることもあるので、その場その場で頑張って調べながら対応しています。定例トライアルの「メディカル」も「金融」も、すべて新しいことだから似たようなもので、取り組みながら基礎知識を身に付けようと思いまして。
 というわけで、どのような依頼が来ても対応できるように、日ごろから分野を問わずいろいろ挑戦しています。

加賀山 :とても前向きな考え方ですね。クラウン会員の「ビジネス」は、「IT」に近い分野かもしれません。

工藤 :そうですね、ウェブサイトには利用規約が、ソフトウェアには使用許諾契約が確実に存在しますから、「ビジネス」を取得しておくと応用範囲が広いと思います。フリーランス翻訳者になれば、外資系の翻訳会社と英語の契約書を結ぶこともあると思いますし、「ビジネス」の基礎を身に付けておけば長期的にさまざまな場面で役立つでしょう。

加賀山 :今後、機械翻訳にはどのようにかかわっていきたいですか?

工藤 :機械翻訳については、先ほど申し上げたとおり、精度がどんどん上がっているので、いまどのような案件が出回っているのか興味があるのです。ただ、アメリアのサイト内の「ポストエディットって、どんな仕事?」の記事にあるように依頼元との精度、納品品質、報酬などの話し合いが不可欠になります。その結果、折り合いがつかないことも多いです。そのため、募集があっても、自分から応募しておいて自分からお断りするのも申し訳ないので、応募できずにいるのです。
 大本のソースクライアントと直接話したいと思うことがよくありますが、いまのところあまりチャンスがありません。ソースクライアント、下請けの翻訳会社があって、翻訳者はその下にいるようなイメージなので、なぜこういう訳が出てくるのかとこちらから訊いても、答えがなかなかわからない。
 たとえば、マニュアルの翻訳で、クライアントから「アルファベットはかならず半角にしてください」と指示があるのに、そのクライアントの機械翻訳で全角で出てくることがある。ちなみに、IT翻訳に10年以上携わっていますが、「全角アルファベットを使用してくれ」と言われたことは一度もありません。その程度のことはすぐ修正できそうなイメージなので、そのへんをソースクライアントに直接伝えて、すぐ修正してもらえるような環境があるといいのですが……。

加賀山 :全体の業務のなかで機械翻訳は増えているのですか?

工藤 :まちがいなく増えています。精度に関してもどんどん上がっているので、成長のない機械翻訳のポストエディットのお仕事はどんどん置いてけぼりになると思っています。
 よいポストエディット案件を選び、納品品質について依頼元と折り合いがつけば、さらには機械翻訳の品質まで意見が届けば、翻訳よりも収入が高くなるのではないか、と思っています。今後のイメージとしましては、「当社の機械翻訳エンジンは用語集の用語を確実に出力してくれるので、作業者は用語集を確認する必要はない」などとはっきり言ってくれる依頼元が出現すれば、作業負荷ががらりと変わるので、機械翻訳のポストエディットもまた新しい局面に突入するのではないかと思っています。

加賀山 :機械翻訳の訳し方について直接やりとりするとなると、翻訳ソフトウェアの開発に近くなりませんか?

工藤 :翻訳会社自体が機械翻訳エンジンを作っているという話もあります。そのへんもよく見えないところではありますが、最終的な訳文を作る立場からの要望は伝えていきたいですし、最高の機械翻訳エンジンを作ることを目指している企業であれば、ぜひとも協力していきたいですね。

■こみ入った内容を丁寧に説明していただき、ありがとうございました。IT関連の仕事だけでも大変だと思うのですが、当たり前のように他分野に挑戦する姿勢に感服いたしました。クラウン会員制覇、がんばってください。

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