アメリア会員インタビュー

渋谷 友香さん

渋谷 友香さん

いつかポーランド語の映像作品を訳したい

プロフィール

大学でポーランド語を学習。ポーランドに1年間の語学留学も経験。自動車部品会社、防衛業界の輸入商社に勤務したのち、約6年のドイツ滞在中にドイツ語を学ぶ。映像翻訳の学習を始めたのもその頃で、現在は字幕・吹替え・VOに対応する。日々セリフづくりに悪戦苦闘中。現在は自然が豊かな群馬県在住。2023年のクリスマス映画「クロース家3」の翻訳を手掛ける。
スペシャルコンテストからの訳書、ポーランドの児童書『かいてまなべる冒険ガイド うみ!』が2024年に出版予定。

さまざまな映像作品を担当

加賀山 :本日は群馬県でおもに映像翻訳をしておられる、渋谷友香(しぶや ともか)さんにお話をうかがいます。
 プロフィールを拝見していますが、映像翻訳を始められた2020年には、ドキュメンタリー字幕2本、ドキュメンタリー字幕チェック10本という実績があります。この字幕チェックというのは、チェッカーのような仕事ですね?

渋谷 :はい。別の方が訳したものの校正、QC(品質管理)のような仕事です。

加賀山 :イタリア映画1本(DVD、SFアクション)と、ドイツ映画2本(DVD・配信、ファミリー)の吹替もあります。これらはどのように訳されたのですか?

渋谷 :すべて英語のスクリプトがありました。さらに日本語の字幕データも支給され、大きな流れは字幕に合わせつつ、英語をベースに日本語の吹替を作りました。

加賀山 :翌2021年には、映画の吹替2本(DVD、ファミリー・アクション)。それから出版翻訳もあります。ポーランド語の子供向けワークブック2冊ということですが、これは絵本のようなものでしょうか?

渋谷 :自分で書いたり、貼ったり、切ったりしながら知識も得られるという、辞書のような、絵本のような、ワークブックのような、面白い本でした。

加賀山 :ポーランド語は大学で専攻されたそうですね。このワークブックを訳す仕事はどうやって見つけましたか?

渋谷 :アメリアのスペシャルコンテストで、ポーランド語からの翻訳ということで応募して、担当させていただきました。今は編集段階でして、まだ出版されていません。

加賀山 :出版はこれからなのですね。ポーランド語ができる方はそうたくさんいらっしゃらないでしょうから、スペシャルコンテストは絶好のチャンスでしたね。
 2021年にはほかに、ドキュメンタリーのVO(ボイスオーバー)10本(自動車系)、ドラマの字幕8話中4話(配信、サスペンス)があります。前年より案件が増えました。

尾瀬沼の風景。ハイキングする人も少なく、静かで癒されます。

渋谷 :そうですね。徐々に広がってきています。今までは吹替が多かったのですが、今は字幕が多いです。吹替から入るのは珍しいパターンかと思いますが、ある翻訳会社様に応募したところ、映画スクリプト等を訳す仕事をいただいて、そのあとトライアルなしで吹替の案件をいただきました。

加賀山 :そうなんですね。

渋谷 :アメリアさん経由のボランティアの仕事で、子供向けの「キネコ国際映画祭」で上映される作品の吹替を何度か訳したことがありまして、その実績が大きかったと思います。英語以外の言語の映画が多かったのですが、英語スクリプトと日本語字幕から訳を作っていきました。まだまだ解釈力・表現力ともにつたなかったので、OJTでいい経験をさせていただいたと思っています。

加賀山 :翻訳会社は、今何社ぐらいと取引がありますか?

渋谷 :5、6社とおつき合いがありますが、しょっちゅう依頼していただくのは3社ぐらいです。

加賀山 :2022年になると、ドキュメンタリーのVOが17本(BS、自動車系)と、ずいぶん増えています。

渋谷 :自動車関連のシリーズものなのですが、これもこれもという感じで先のエピソードの予定を入れていただいて、たいへんありがたかったです。

加賀山 :「自動車系」というのは、カーレースですか?

渋谷 :車の改造です。

加賀山 :車を改造する番組は人気があるようですね。以前このインタビューでお話をうかがった別の方も改造番組を訳しておられました。
 ほかには映画の吹替が3本(アクション、サスペンス)。ビジネス系の字幕2本というのもありますが、これは?

渋谷 :あるコンファレンスに出席する日本人向けに、英語の会社紹介&インタビュー映像に字幕をつけるという仕事でした。

加賀山 :そして、ドキュメンタリー映画の字幕1本(キリスト教系)、ドラマの字幕(配信、SF・コメディ)など。キリスト教系というのはどんな内容でしょう?

渋谷 :キリスト教関連の人物を題材にしたドキュメンタリーです。権利の関係でタイトルは申し上げられないんですが……。

加賀山 :ジャンルとしては何が多いんでしょうか? SFとか、アクション、自動車系などありますが。

渋谷 :多種多様で、どれが多いとかあまり言えない感じですね。いただいた分野にその都度対応しています。自分にできるのかな、と不安に思う分野もあるのですが、よほど専門的でなければ受けてみることにしています。
 最近ではアメリカの金融会社が舞台の映画のチェッカーを担当しました。なじみのない分野だったので、基本的な知識は入れておこうと思い、事前に図書館で本を借り数冊読んでおきました。実際にチェックする段階では金融業界で使われる英語にいろいろと触れられて、とてもいい経験になったと思っています。

加賀山 :プロフィールに書かれているのは2022年までですが、2023年に入ってからはいかがですか?

渋谷 :2023年はドラマも映画も訳していますが、前半はちょっとペースが遅くて、のんびりしていました。ですが後半に入ってからは忙しくて、夏休みもあるようなないような感じでしたね。

加賀山 :お仕事の納期はだいたいどのくらいですか?

渋谷 :映画ですと10日とか2週間程度です。私はまだまだ訳すスピードが速くないので、できるだけ納期を長くしていただく交渉をします。でも交渉しすぎて、ほかの方にしますと言われたこともあるので(笑)、1日~2日延ばしてもらう程度にして案件を取っていかなければと思っています。

加賀山 :タイトルは出せないかもしれませんが、これまでのお仕事のなかでとくに印象に残っているものはありますか?

渋谷 :ひとつに絞るのは難しいのですが、たいへんだったのはやはり自動車改造のシリーズでした。メカ系が苦手だったので、エンジンの種類とか、馬力がどうとか、パーツの名前とか、いちいち調べないとわからなくて、すごく苦労しました。

加賀山 :やっていくうちに慣れましたか?

渋谷 :もうこのシリーズは担当していませんが、だいぶ慣れましたね。いろいろ憶えることもあってよかったと思います。ほかのドラマや映画で車が出てくると、ああ、あのことか、と勘が働くようになりました(笑)。

加賀山 :最初に調べるときとか、どうされました?

渋谷 :ネットでも調べましたし、主人が車の部品会社に勤務していて車のことにくわしいので、パーツとか仕組みとか、わかる範囲で教えてもらいました。

加賀山 :逆に楽しかった作品はありますか?

渋谷 :どの作品でも苦労していて、楽しかった記憶はあまりありませんが、一度、中国語の映画で歴史ものを訳したときに、時代劇がけっこう好きなので、知っている言葉遣いや用語が役に立ちました。

加賀山 :それは英語の字幕から訳したのですか?

渋谷 :中国語と日本語の字幕がついていまして、それをベースに吹替版を作りました。字幕だと情報が少ないので、吹替の尺が埋まりません。中国語のもとの台詞をGoogle翻訳で英語に直してみたりもしましたが、英語にしてもよくわからないことが多くて、なんとか辻褄が合うように考えながら訳しました。
 あとやはり憶えているのは、先ほど話した国際映画祭のボランティアの仕事ですね。ドイツに住んでいたときでしたが、いい経験になりました。

加賀山 :私がインタビューしたほかの映像翻訳者で、やはり同じ映画祭のボランティアの仕事をしたという方がいらっしゃいました。

渋谷 :訳した作品のひとつはポーランド映画で、第二次世界大戦関連でした。この仕事では、好きな作品を選んで応募することができますので、アメリアの求人でポーランド映画の翻訳者を募集しているのを見て、すかさず応募しました。

大学卒業後に就職、ドイツ在住ののちフリーランスへ

加賀山 :経歴についてうかがいます。まず、大学でポーランド語を専攻された理由は何ですか?

渋谷 :世界史が好きだったんです。ポーランドは一度、三つに分割されて国が消えてしまいますが、いろいろあってまた自分の国を取り戻します。高校の世界史でそういうことを習って惹かれました。ポーランド語はニッチな言語ですから、そういう意味でも将来役に立つかなと思って勉強しました。
 でも、ちょっとニッチすぎるところもあって(笑)、実際に仕事を始めてからポーランド語の映像翻訳にはまだ当たったことがありません。いつでもウェルカムですので(笑)、ぜひ担当させていただきたいと思っています。

加賀山 :地政学的にということか、ポーランドは戦争があるたびにひどい目に遭いがちですよね。1年間、留学もされたそうで。

渋谷 :大学を1年間休学して向こうの語学学校に行きました。

加賀山 :そして大学卒業後、自動車部品会社の海外営業部に勤務されました。ポーランドに関係のある会社だったのですか?

渋谷 :はい。ちょうどポーランドに工場を作る準備をしていまして、ポーランド語ができるということもアピールしつつ入社できたんですが、なかなか女性は海外赴任が難しい雰囲気でした。私も我慢強くないところがあって、もっといろいろやりたいなと思いまして、ぜんぜん分野は違いますが、防衛関係の部品を扱う商社に転職しました。そこはポーランドとは関係がなく、英語を使う仕事でした。その会社で営業と事務を経験したことが、今も役に立っています。書類作りとか、確定申告とか(笑)。

加賀山 :それぞれ何年くらい勤められたのですか?

渋谷 :最初の会社は1年半、次の会社は3年ほどです。2社目は、主人の海外転勤が決まったタイミングで退職して、ドイツに移りました。

加賀山 :2010年〜2016年までドイツ在住でした。ドイツ語も学ばれたということで、ドイツ語の翻訳もできそうですね。

渋谷 :できますが、ポーランド語と比べると、会話文などを訳すのは難しくて時間がかかると思います。実はつい最近、ドイツ語のドラマを担当する機会がありました。ドイツ語からの翻訳は初めてだったのですが、偶数奇数話で分担し相互にチェックしあった方に引っ張っていただきつつ、何とか訳し終えることができました。

尾瀬ヶ原といえば木道。子供たちも尾瀬がお気に入りです。

加賀山 :ポーランド語はロシア語に似ているんでしょうか?

渋谷 :似ています。文字はキリル文字ではなくてアルファベットですが。似ている単語も多いので、ロシア語を聞くと、何となくこんなことを言っているのでは?と少しだけ推測はできますね。
 ロシア語は東スラブ語になるのですが、ポーランド語と同じ西スラブ語のチェコ語やスロバキア語は、ポーランド語ともっと似ています。

加賀山 :ドイツ語にも似ているところはありますか?

渋谷 :そうですね。動詞や名詞など、ドイツ語から入ってきている単語もけっこうあります。

加賀山 :そして2016年にドイツから帰国。その時点でフリーランスになられたのですか?

渋谷 :戻ってきてすぐは、まだ子供が小さかったこともあって、ほそぼそと勉強を続ける程度でした。下の子をこども園に預けられるようになったタイミングで、いろいろトライアルを受けはじめました。私の住んでいる桐生市は都会ではないのでこども園の競争率が高くなかったのも幸いしました。

加賀山 :ああ、帰国が2016年で映像翻訳の実績が2020年からですから、そのあいだの4年間がいわば準備期間だったわけですね?

渋谷 :実際の準備期間はもっと長いんです。2011年に翻訳を学ぼうと思って、フェロー・アカデミーの通信講座を受けました。以前から語学は好きでしたし、ドイツでは働いていなかったので、時間がいっぱいあって、そのあいだに何かしたいなと思ったんです。
 海外在住者に対応している通信講座は、たしかフェロー・アカデミーだけだったと思います。今はほかにもあるかもしれませんが。

加賀山 :なるほど。その通信講座には出版や実務も含まれていましたか?

渋谷 :「翻訳入門<ステップ18>」を受講して、そのあとは映像だけでした。映像翻訳の初級、中級、マスターコースをすべて通信講座で学びました。ドイツにいるあいだに妊娠出産があって、その期間はほとんど勉強できませんでしたが、ほそぼそと続けました。子育て中の気分転換にもなっていましたね。日本に帰ってきてから、アンゼたかし先生のゼミにもかよいました。
 マスターコースでは「ドキュメンタリー」と「字幕・吹替」を受講しましたが、定例トライアルで「IT・テクニカル」のクラウン会員資格も取得しました。

加賀山 :フェローのお得意様ですね(笑)。アメリアに入られたのはいつでしたか?

渋谷 :通信講座を始めた2011年です。ずっとお世話になっていたおかげか、通信講座「はじめての映像翻訳」の添削トレーナーをしないかと声をかけていただき、現在も担当しています。

加賀山 :アメリアに入ってよかったのは、やはりトライアルに合格したことでしょうか?

渋谷 :アメリアでは、ふつうの会社のホームページには出ていないような求人がありますので、そういうものに応募できるのは大きいです。トライアルも、時間があるときにはできるだけ受けるようにしています。

加賀山 :最初のお仕事を開拓されたのもトライアルからだったのですね。フェローの講座でとくに憶えていることはありますか?

渋谷 :マスターコースは通信講座ですが、一度だけ、実際に講師の方と受講生が教室に集まって対面で授業をする機会がありまして、それに出られたのがよかったと思います。ドイツにいた時期でしたが、一時帰国のスケジュールをそれに合わせて参加することができました。授業のあとは食事の席で皆さんと情報交換ができたのもよかったです。

加賀山 :映像のクラウン会員は講師推薦で取得されています。ドイツにいらっしゃるうちに翻訳者としての準備がほとんど完了したように思われますが(笑)?

渋谷 :準備完了したかなと思ったときに一人目、二人目の子供を妊娠出産しましたので、かなりあいだが開きましたね。

加賀山 :群馬に帰られてから、中断していた翻訳を再開する感じだったのですね。帰国後、ほかの仕事につこうとは思いませんでしたか?

渋谷 :それも考えましたが、台詞を訳すのは面白いし、勉強で投資した分は回収したいなと思いまして(笑)。執念深く続けていたら、今の状態になりました。

加賀山 :大学に入られるまえから映像や翻訳に興味があったんでしょうか?

渋谷 :語学は好きでしたが、どちらかといえば英語やポーランド語を使って会社で働こうと思っていたので、じつは翻訳はあまり頭にありませんでした。

ドラマやアニメの台詞を聞き流す勉強法

加賀山 :今後の話ですが、ポーランド語の映像作品を訳したいということでしょうか?

渋谷 :そうですね。ぜひやりたいです。ポーランドというと第二次世界大戦がテーマとか、戦争関連が多いんですが、防衛産業関連の会社で働いたこともありますので、軍事ものにアレルギーはありません。もちろん、第二次世界大戦に関係のない作品にも、いいものがたくさんあります。

加賀山 :『灰とダイヤモンド』のアンジェイ・ワイダ監督がポーランド人ですよね。

渋谷 :いちばん有名な監督ですね。ポーランド映画もハリウッドや日本の映画と同じで、難しい芸術的なものもあれば、気軽に観られるものもあって、多種多様ですので、いろんな作品が日本でも知られるようになればいいなと思います。あと、子供が二人いますので、子供向けのアニメとか映画も訳してみたいですね。

近くの赤城山。育った環境のせいか、山が見えるとなんだか安心します。

加賀山 :実績に子供向けのワークブックの翻訳がありましたが、出版翻訳はどうですか?

渋谷 :出版翻訳もやってみたい気持ちはありますが、長期の案件になりますから、体力や根気がもつかどうか。映像翻訳は納期が比較的短く、そのように一気にやってしまう仕事に慣れてしまっているので。

加賀山 :ふだん翻訳の勉強として心がけているようなことはありますか?

渋谷 :時間があるときは字幕の作品をみたり、字幕を書き写すいわゆる「写経」をしたりしています。仕事で忙しいときにも、家事をやりながらiPhoneをポケットに入れ、イヤフォンをつけて、ドラマやアニメの台詞を聞き流しています。

加賀山 :日本語の台詞を聞いているのですか?

渋谷 :そうです。日本語の話し言葉とか、言いまわしなどの表現を少しでも増やせればと思いまして。

加賀山 :だいたいどういうものを聞いておられますか?

渋谷 :そのときどきで興味がある作品ですが、次に担当する作品の分野がわかっているときには、その分野のものを聞きますね。犯罪系の作品で悪いやつはこういうことを言うとか、麻薬取引がらみではこういう言葉を使うとか、予習代わりにしています。

加賀山 :最近聞かれたなかで気に入った作品はありますか?

渋谷 :いつも目にとまった作品を適当に選んで聞いているのですが、『デクスター』、『ドクター・ハウス』、CSIシリーズが面白かったです。アニメは最近では『ゴールデンカムイ』や『キングダム』を見ました。見始めたら止まらなくなってしまいましたね。こう見ると、恋愛ものより事件を解決したり、戦ったりする作品が好きみたいです(笑)。
 仕事が入ると字幕の作品をゆっくり見たり、本を読んだりする時間がありません。というか作るのが苦手で(汗)。ですから、せめて耳で聞いて表現力を高めたいと思っています。
 まだまだ未熟な点が多いので、これからも地道にレベルアップして、チャンスが来た時につかめるようにしておきたいですね。

加賀山 :趣味はハイキング、スキーということですが。

渋谷 :車で尾瀬ヶ原まで1時間ぐらいのところに住んでいますので、ときどき尾瀬にハイキングに行きます。

加賀山 :尾瀬はいいですよね。木道を歩いたり、燧ヶ岳に登ったり。天気によって景色もぜんぜん違います。

渋谷 :尾瀬沼のほうに行くと、人も少なくて別の尾瀬が味わえると思います。ふだんはあまり散歩もしていないので、いい運動ですし、気分転換にもなりますね。

■ポーランド語の専門家と話したのは人生で初めてでした。私も語学が好きなので、ロシア語との違いなどもっとくわしくうかがいたかった気もしますが……。
 ポーランドは、昨今ウクライナとの関連で、よく話題になっています。映像作品もますます出てくることでしょう。またいつか翻訳するチャンスが訪れますように。

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