
大崎 美奈子さん
子育てをしながら実務翻訳で充実した日々
プロフィール
日本の大学でITを専攻、国際協力NGOでボランティア、インターンを経験した後、イギリスに留学し国際開発学(開発と教育)を学ぶ。紆余曲折を経て、結婚のためたまたま栃木県へ。
英会話スクールの講師をしていたが1人目出産を機に退職。翻訳を仕事にする可能性、魅力に気付き勉強を開始。フェロー・アカデミーの通信講座を1つ受講した後は、3人の育児のかたわら定例トライアルを教材にコツコツと勉強を継続。現在は翻訳、家事、育児のバランスをなんとなく取りつつ、のんびり生活できる程よい田舎暮らしに感謝する日々。
趣味はヨガと編み物。編み物はほぼメディテーションで、近年は2年に1枚のスローペースで自分のセーターを仕上げて冬の楽しみに。週末の楽しみは、もっぱら県内那須でのキャンプ。
IT系の実務翻訳をメインに国際NGOの仕事も
加賀山 :今日は栃木県で実務翻訳をされている、大崎美奈子(おおさき みなこ)さんにお話をうかがいます。プロフィールにあげられた実績には、IT系のマーケティング資料、マニュアル・ヘルプ、動画字幕などがありますが、まず「IT系のマーケティング資料」というのは、具体的にどのような内容でしょうか?
大崎 :お仕事をいただく翻訳会社は1社がメインで、そのうち7、8割くらいが、ある外資系データ分析企業の分析プラットフォームのヘルプページです。この案件はポストエディット(機械翻訳の訳文を人間が確認、手直しする仕事)ですが、最近はレビューをすることのほうが多いです。
加賀山 :レビューというのは、すでに翻訳された内容をチェックするチェッカーのような仕事ですね?
大崎 :そうです。その翻訳会社からは、ほかにも複数企業のマーケティング資料(お客様向けのWebページなど)、マニュアル、ヘルプページなどの翻訳、ポストエディット、レビューの仕事をいただいています。その他の翻訳会社も案件の内容は似たような感じです。
同一クライアントからの案件ですと、スタイルやルールを熟知でき、作業をしやすいという利点があると同時に、信頼をしていただけているという自信につながりますね。
加賀山 :動画字幕の翻訳もなさっています。
大崎 :これはメインの翻訳会社経由の別の企業の案件で、多い時期もありました。ふだんのIT翻訳の延長線上で、クラウドサービスの紹介動画などに字幕をつけました。

キッチン横の一角が仕事スペース。時間外勤務(?)の際はノイズキャンセリングヘッドホンが活躍。
加賀山 :顧客向けの動画ですか、それとも社内研修用ですか?
大崎 :顧客企業向けのウェビナー動画でした。
加賀山 :エンタメ作品の字幕翻訳もされましたか?
大崎 :いいえ。すべてビジネス関連の動画です。字幕の案件は主にある1つのクライアントからのものでしたが、そちらはもう長いこと依頼が来ていないので、残念ながらご縁がなかったようです。
加賀山 :ボランティアで国際NGO(非政府組織)のトレーニング資料の翻訳もされたそうです。どのようなNGOでしょうか?
大崎 :「セーブ・ザ・チルドレン」という国際NGOで、ポストエディットをしました。大学院での専門が国際開発学でしたので、そうした分野の翻訳に携わりたいと思って志願しました。
加賀山 :実務翻訳ではポストエディットも増えているようですね。これまでのお仕事はすべて英日ですか?
大崎 :はい。日英翻訳の勉強はしていないので、お仕事としてはむずかしいと思います。
加賀山 :いままでの翻訳でもっとも多かったのはどの分野でしょうか?
大崎 :最初にお伝えしたマーケティング資料です。
加賀山 :プロフィールに書かれていないお仕事もありますか?
大崎 :以前トライアルに合格した会社から、たまに依頼していただくのですが、国際機関の紛争調停に関する報告書の翻訳はとても楽しかったです。ただ、いまのところ単発の仕事で終わっているので、今後もっと増やせたらと思っています。
アメリアの定例トライアルで翻訳を勉強
加賀山 :翻訳以外に英会話学校の教師もしておられるそうですね。
大崎 :はい。以前は対面で英会話を教えていましたが、子どもが生まれてからはオンラインでのみレッスンをしています。現在は週に1回程度です。
加賀山 :経歴についてもうかがいます。いまのお仕事の内容から考えると、大学ではITを専攻されたのですか?
大崎 :はい、情報科学を専攻しました。ハードウェアとソフトウェアの両方を扱う学科でしたが、主にプログラミングを学びました。
加賀山 :その後、イギリスの大学院で学ばれたのですね?
大崎 :はい。国際開発学を専攻して2年間留学しました。
加賀山 :そちらもITと関係があったのでしょうか?
大崎 :いいえ。ITとはぜんぜん関係のない社会科学系の学問でした。当時はちょっと迷走していまして、大学を卒業したあとまだ就職はできないと思い、興味のあったNGOや国際関係の専攻で留学しました。
加賀山 :帰国後は就職されたのですか?
大崎 :はい。英語のスキルを活かせて、かつ新卒として雇ってもらえる会社を探した結果、英会話学校に就職しました。
加賀山 :現在オンラインのレッスンをされている学校ですか?
大崎 :いいえ。現在はオンライン英会話に特化した別のスクールで教えています。
加賀山 :そもそも翻訳に興味を持たれたきっかけは何でしょう?
大崎 :結婚、妊娠後に退職して栃木に来て、これから先どうしようかなと思ったんです。英会話教師は夜の仕事なので続けられないと思い、英語力に加えてITや国際開発学の素養を活かせる仕事として、翻訳を選びました。
加賀山 :それが2010年ですか?
大崎 :そうです。まず学ぶために、フェロー・アカデミーの通信講座、実務翻訳<ベータ>に申しこみました。
加賀山 :そのあとはどのように学習されたのですか?
大崎 :子どもが3年おきに3人生まれたので、育児をしつつ、アメリアの定例トライアルに毎月取り組んで勉強しました。
加賀山 :毎月というのはすごいですね。定例トライアルで扱う分野は自分で選べるのですか?
大崎 :選べます。自分の好きな分野に挑戦できるので、主にIT・テクニカル、ビジネス、ノンフィクションの定例トライアルに応募しています。
加賀山 :フィードバックはあるのでしょうか?
大崎 :AAからEまでのグレードがわかります。ノンフィクションで3回、ビジネスで2回、A判定をいただきました。評価者からのコメントは基本的にはありませんが、少しいただいたこともあります。
加賀山 :定例トライアルによる勉強の手応えはありましたか?
大崎 :ありました。コンピュータに課題の訳文と解答例の訳文をすべて入れて、すぐ参照できるようにしています。それはいまだに重宝していますね。
仕事はアメリアの求人で
加賀山 :アメリアには早い時期に入られましたか?
大崎 :2010年に通信教育の受講を開始した時点で入会しました。アメリアの定例トライアルと求人情報に興味がありました。
加賀山 :アメリアに入ってよかったことをあげるなら、そのふたつでしょうか?
大崎 :そうですね。いままでにアメリアで6社の求人に応募して、4社に合格しました。現在は3社と取引があります。
加賀山 :仕事は途切れずに来ていますか?
大崎 :ほぼ毎日来ますが、波がありますね。1、2日来ないときもあるし、かと思えば、寝る時間もないくらい忙しいときもあります。
加賀山 :納期は短いものが多いのですか?
大崎 :いまメインで受けているものは、午前中に受けて午後には納品します。ちょっと長めなものでも、翌日の昼までが納期です。
加賀山 :ずいぶん短いですね。分量はどれくらいですか?
大崎 :ウェブサイトの1ページ程度と、短めの案件が多いです。
加賀山 :翻訳とは別に、英会話を教えるための勉強もされていますか?

子どもたちの登校班を見守った後は小学校横に広がる田んぼの間をウォーキング。
大崎 :このところ英語教育の勉強はなかなかできていませんが、以前はしていました。いまは朝、子どもたちを学校に送ったあと、田んぼのなかを歩きながら、BBCの25分間のポッドキャストを聴きながら帰ってきます。本当は音読して練習するといいのですが、なかなかできませんね。
ほかの勉強として、日経新聞の日曜版を熟読しています。いろいろな分野が幅広く扱われているので興味深いし、読みやすい日本語を習得できると思います。時間があるときには、英語のドラマも観ます。
加賀山 :英語のドラマでおもしろかったものはありますか?
大崎 :『オックスフォードミステリー ルイス警部』や『刑事フォイル』といったイギリスの重厚な犯罪ドラマが好きで、録画したものを仕事の合間などに観ています。
加賀山 :刑事ものがお好きなんですね。趣味と実益を兼ねてということでしょうか。
大崎 :ほぼ趣味ですが(笑)。
国際協力NGOでインターンの経験も
加賀山 :翻訳の仕事でこれから広げていきたい分野はありますか?
大崎 :大学院の修士論文のテーマだった国際理解教育など、国際開発系の仕事をもっと増やしたいです。
加賀山 :そうした仕事を開拓する方法はあるんでしょうか?
大崎 :国際開発系がメインという求人はなかなか出ません。先日、紛争関係のお仕事をいただいた会社からいただく案件も、ふだんはIT系です。そちらも大切にしていきたいのですが、そこで高いクオリティで納品できれば、次の国際開発系の仕事にもつながるのではないかと思っています。
欲を言えば、自分でバランスをとりつつ、両方の仕事をいただけたらいいですね。
加賀山 :フリーランスで本格的に翻訳を始めたのは2022年からですか?
大崎 :そうですね。2022年5月に開業しましたので、ちょうど3年目に入ったところです。アメリアの記事を読んで、最初から安定して案件を受注するのは難しいことを知っていたので、一番下の子が年長になった頃に、翻訳会社のトライアルを受けはじめました。
一番下が小学校に上がる頃にある程度仕事が来るようになればと思い、その1年前のタイミングで開業、求人への応募を開始したのです。それまでは家事・育児の片手間に翻訳の勉強をしていた感じもあり、実際仕事として翻訳ができるか自信もあまりなく、不安が大きかったのですが、開業すればさすがにお尻に火がつくと考えたのが正直なところです。
結果的に、幸いにも徐々に仕事が増え、一番下が小学生になる頃には定期的に仕事が入るようになりました。
加賀山 :計画的に取り組んだのが実を結びましたね。今後は国際開発に関連した翻訳を増やしたいというお話ですが、出版翻訳や映像翻訳にもご興味はありますか?
大崎 :出版翻訳に関しては、アメリアのスペシャルコンテストで、ある本の翻訳者を決める求人に応募したことがあります。そのうちやってみたい気持ちはありますが、現在いただいている実務翻訳のお仕事と両立できるかどうかが気になります。
映像翻訳は、海外ドラマを観ながら、字幕翻訳が仕事だったらそれこそ趣味と実益を兼ねられると思いますが、なかなか踏み出せずにいます。
加賀山 :少し大きな質問ですが、大崎さんが翻訳で実現したいことは何ですか?
大崎 :翻訳をはじめた当初は、英語で書かれた国際開発系の文献を日本語に訳して広く読んでもらいたいと考えていました。国際理解教育の一端を担いたいと思いまして。
加賀山 :ITは大学で専攻されたものの、そこまで好きではない?
大崎 :基本的には理系の人間なので嫌いではないのですが、仕事にしたいかというと、違ったようです。ただ、IT翻訳であれば、英語力を活かして様々な分野をリサーチしながら人の役に立てる、という好きな要素の組み合わせなので、楽しんでいます。
加賀山 :国際協力NGOでのボランティアやインターンの経験もあるそうですが、これは専攻とは関係なかったのですか?
大崎 :実は大学在学中に2年間休学をしていて、その間、世界各国から集まった若者130人と共に北米・ヨーロッパ70都市以上でホームステイをしながら地域ボランティア活動などを行う、という1年間の活動に参加したことがありました。
これをきっかけに新たな世界が広がったのですが、卒業後、イギリス大学院留学に向け、少しでも経験(と資金)を得られたらと思い、国際協力NGOでインターンをしました。日本語と英語で事務業務全般に携わり、それが縁でイギリスの大学院在学中の夏休みには約3週間、そのNGOのネパールのプロジェクト地で、日本人スタッフの業務補佐ボランティアをしました。
子育てと仕事を両立させる
加賀山 :3人のお子さんを育てながら翻訳をされてきました。両立はなかなかたいへんではないかと思いますが?
大崎 :個人的に、子どもが学校から帰って来るときには家で出迎えたいタイプなので、それが実現できてラッキーだと感じています。納品時刻直前で切羽詰まり、殺気立っているときも多々ありますが(笑)、一番下の子がいま小学2年生で、学童にかよっているものの、午後5時すぎには迎えに行けて、6時には晩ご飯を食べるといった生活ができます。そこは翻訳という在宅の仕事のいいところだと思います。
加賀山 :そうなるまで苦労はありましたか?

色々なものから離れて過ごせるキャンプ時間。とても貴重です。
大崎 :そんなに苦労を苦労と感じないタイプなのかもしれません。実家が神奈川県なので、子育てはほぼひとりでやっていますが、友だちもいますし、のんびりやっています。
加賀山 :イギリスから帰って来られてからはずっと栃木県ですか?
大崎 :いいえ。帰国後、最初は神奈川県の実家の近くに住んでいました。結婚を機にたまたま栃木県に来て、それがきっかけで翻訳の学習を始めたんです。
加賀山 :翻訳の仕事はどこでもできますからね。
大崎 :本当にそう思います。コロナ禍があったので、在宅でできる翻訳とオンライン英会話の仕事をしていると、まわりの友だちから先見の明があったねと言われました。神奈川にいた頃は東京も近かったので、国際NGOで働くことも考えましたが、栃木にはそうした仕事もほぼありません。
加賀山 :ひょっとして栃木県でもかなり田舎のほうにお住まいとか?
大崎 :まあまあ田舎です(笑)。ただ、すごくいい地域で、子育てには最高の場所ですね。
加賀山 :趣味・特技に、編み物とヨガと書かれていますが、これらは続けておられますか?
大崎 :はい。仕事は朝の8時半くらいから17時までのあいだにして、ヨガは週に1回、編み物も夜時間があるときにちょっとずつしています。
加賀山 :買い物や掃除、洗濯もありますよね?
大崎 :家事はそんなに熱心にしていません(笑)。ヨガは、栃木に移った2010年から妊娠出産前後を除き、毎週公民館の一部屋を借りて、同じ先生を招いてレッスンをしていただいています。本当にすごく体のためになります。この仕事をしているとやはり足腰が心配なので、ヨガはやめられません。
加賀山 :どれくらいの時間なさっていますか?
大崎 :週に1回、1時間半くらいです。
加賀山 :ヨガ、よさそうですね。私はいま太極拳に興味があります。
大崎 :渋いですね(笑)。
■ 地方在住で目的意識を持って勉強を始め、今日の仕事にうまく結びつけておられると思いました。それでも家事や子育てとの両立はむずかしいかもしれませんが、いまのペース配分がちょうどよさそうですね。