ダンサーから転身し、映像翻訳者としてご活躍の野城尚子さん | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

野城 尚子さん

野城 尚子さん

演劇の世界から映像翻訳へ

プロフィール

明治大学文学部卒。演劇学を専攻、戯曲論や映画論を学ぶ。ダンサーとして世界を飛び回ったあと、学習塾の講師を経て、フリーランスの映像翻訳者として字幕と吹替を手がける。アンゼたかし氏に師事、推薦を受けて映像クラウン会員に。英語作品だけでなく他言語作品の翻訳も多数。音楽と文学と美術を愛し、映画と舞台とお笑いが大好き。
〈主な担当作品〉字幕「The Hand of God」「家をめぐる3つの物語」「ドリー・パートンのクリスマス・オン・ザ・スクエア」「ソング・トゥ・ソング」「ミッドナイト・サン ~タイヨウのうた~」ほか、吹替「FALL/フォール」など。

字幕と吹替、英語圏ではない地域の作品も

加賀山 :今日は埼玉県にお住まいの映像翻訳者、野城尚子(のしろ なおこ)さんにお話をうかがいます。
 プロフィールを拝見しますと、実績として長尺作品の翻訳60作以上、うち劇場公開が20作以上あります。字幕を手がけられた作品として、『The Hand of God』をあげられていますが——

野城 :マラドーナを愛する少年が、一癖も二癖もある個性豊かな親戚に囲まれて思春期をすごすイタリア映画です。将来に迷っているとき、たまたま演劇を観にいって有名な映画監督と出会い、その道を目指してローマに出ていきます。

加賀山 :途中からはマラドーナとあまり関係がなさそうな(笑)。ちょっと『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出しますね。これはイタリア語から英語になったスクリプトを訳されたんですか?

字幕翻訳を担当した作品の劇場パンフレットとDVD。自分のところへ来てくれてありがとう、という気持ちで翻訳するので、手がけた作品はどれも愛おしくてたまりません。

野城 :はい。揺れ動く心情の描写が秀逸で、家族の群像劇がおもしろい作品でした。ソレンティーノ監督の映像美もすばらしいので、劇場で観るべき映画だなと思いました。

加賀山 :そのまえには、エミー賞のテレビムービー作品賞を獲得した『ドリー・パートンのクリスマス・オン・ザ・スクエア』を訳されました。

野城 :ネット配信のミュージカル映画ですが、歌もダンスも本格的で舞台を見ているかのように楽しめる作品です。ホイットニー・ヒューストンのカバーでも有名な名曲「オールウェイズ・ラヴ・ユー」を作詞作曲したカントリー歌手ドリー・パートンが14曲も書き下ろしています。

加賀山 :なんと、ドリー・パートンですか。次の『家をめぐる3つの物語』というのはホラー映画でしょうか?

野城 :不条理なホラーというかダークなコメディというか、大人のアニメです。声のキャストにヘレナ・ボナム・カーターの名前を見つけたときは胸が弾みました。すてきな俳優さんなので。そして何より、大好きなストップモーションアニメということで、楽しく翻訳できました。

加賀山 :『ソング・トゥ・ソング』という作品は?

野城 :テキサス州の音楽業界で幸せを模索する男女4人の物語です。こだわりの映像だったり、哲学的で詩のような台詞だったり、テレンス・マリック監督の独特な世界観を味わえます。ライアン・ゴズリングとか、ルーニー・マーラとか、出演陣が豪華だったので、癖があると言われるわりには、意外と観に行った人もいたようでした。

加賀山 :『ミッドナイト・サン〜タイヨウのうた〜』はどうでしたか? もともと『タイヨウのうた』という日本映画があって、そのリメイクのようです。

野城 :はい。日光に当たれないという病気の女の子が主人公のラブストーリーです。前向きに生きようとする姿に涙がこみ上げてきて、胸を熱くしながら翻訳したのを覚えています。主人公が歌うシーンが印象的で、歌詞の翻訳も楽しかったです。自分の訳詞がチラシやパンフレットに掲載されているのを見たときはうれしかったですね。

加賀山 :ここまでが字幕の実績です。吹替であげておられるのが、『ぼくらのビッグ・ドリーム』というチェコの映画ですね。

野城 :はい。オリンピック選手に憧れてホッケーを始める男の子の話です。キネコ国際映画祭という子供のための映画祭で上映されました。学校や家庭での人間模様がリアルなヒューマンドラマで、大人でも見応えのある作品ですが、子供たちにもしっかりと伝わったようで、長編グランプリを受賞しました。

加賀山 :その前年には同じ映画祭で上映された『ドラゴン・プリンセス』の吹替も訳されました。これはアニメのようです。

野城 :フランスの作品で、動物とか人間とか楽しいキャラクターがいろいろ登場します。絵が好きでしたし、映像にも迫力があったので、見ているだけで楽しくて、ウキウキしながら翻訳しました。こちらも長編グランプリを受賞したのですが、何より声優さんたちの熱演がすばらしくて感動しました。演出家や声優の皆さんが熱くなれる吹替台本を書いていきたいです。

加賀山 :もうひとつ、『FALL/フォール』という作品は?

野城 :密室劇というか、シチュエーション・ホラーというか、すごく高い鉄塔の上に取り残された女の子ふたりの話です。高すぎてスマホの電波も届かず、どうしようみたいな(笑)。低予算の映画でしたが、とてもうまく作られていて、かなり話題になりました。

加賀山 :おもしろそうですね。フランスとかチェコとか、さまざまな国の作品があって、原語はフランス語、チェコ語のほか、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、ロシア語、セルビア語、トルコ語、ヒンディー語など、本当にいろいろあるようですが、これらを訳すときには、オリジナルが英語の場合と多少勝手が違いますか?

野城 :基本的には同じように訳していますが、国柄や文化の違いについて理解が必要なときがあります。あとは英語のスクリプトでニュアンスが取りづらいときには原語のスクリプトを確認しています。

加賀山 :原語から英語に移し替えることで失われるものもあるでしょうからね。いまのお仕事で英語と他言語の割合はどのくらいですか?

野城 :6~7割は英語です。とくにドラマやネット配信の作品では、英語以外の言語が増えている印象です。

演劇学とアーティスト活動から翻訳の道へ

加賀山 :訳される作品のなかで映画とドラマはどちらが多いですか?

野城 :最近は映画ですね。以前はドキュメンタリーとか、リアリティ番組とか、いろいろなものをやっていましたが、駆け出しのころからお世話になっている制作会社さんに、本当は映画の仕事がしたいんですと伝えたところ、映画を中心にまわしてもらえるようになりました(笑)。それが実績になって、ほかの制作会社さんでも映画の仕事が増えてきました。

加賀山 :いまは何社ぐらいと仕事をされていますか?

野城 :3社ぐらいです。でも1社の仕事がいくつか連続して、その間は他社の仕事を受けられなくなることもあります。

加賀山 :ドラマより映画のほうが納期が長いような気がしますが、そうでもないんでしょうか?

野城 :私の場合、字幕は映画1本にもらえる納期がだいたい2週間ぐらいです。ドラマですと5日〜1週間に1話という感じです。

加賀山 :扱うジャンルも多岐にわたっていて、ヒューマンドラマ、コメディ、アニメ、ミュージカル、サスペンス、アクション、ホラー、歴史物などありますが、お好きな分野、得意分野はありますか?

野城 :基本的にはなんでもお受けしますが、自分に合うなと感じるのは、癖のある愛すべき人物が登場するヒューマンドラマですね。意地悪だったり、偏屈だったり、キャラクターが生き生きしていると、魅力を殺しちゃいけない、と思って腕が鳴ります(笑)。歌詞の翻訳も好きなので、これからも音楽映画にご縁があるとうれしいなと思っています。アニメは子供向けも大人向けも好きです。自分が観て楽しいものは、訳すのも楽しくて。コメディも、台詞が多いので仕事としてはたいへんなんですが、やはり楽しいです。

加賀山 :たしかにコメディは訳すのが難しそうですね。海外と日本では笑うポイントも違いますし。フリーランスになられたのはいつごろですか?

野城 :8年ほどまえです。まずフェロー・アカデミーで映像翻訳を学びました。初級は通信講座を受講して、中級から通学に切り替えたんですけど、最初は簡単に翻訳者になれると思っていて(笑)、初級、中級と来て上級のアンゼたかし先生のゼミの選抜試験を受けたら、落ちたんですね。で、あれっ? 予定と違う、となって(笑)。
 そのとき、ある制作会社で字幕翻訳のプロ養成講座があったので、そこでプロとして必要なスキルを学び、なんとかトライアルに合格して仕事をいただきました。フィードバックももらって、たくさん直しながらですが、とにかく実際に仕事として始められたのはラッキーでした。

加賀山 :初期はOJTのような感じだったんですね。

野城 :はい、仕込んでいただきました。本当に恵まれていたなと思いますし、今でも感謝しています。そして仕事を始めて2年ぐらいたったときに、見えない壁にぶつかったというか、これでいいのかな? と思ったんです。それなりに翻訳できても、何かが足りないような気がして、もっとうまくなりたい、一流の翻訳者は何が違うんだろう、と考えるうちに、やっぱりアンゼ先生のゼミで学びたくて、それで懲りずに選抜試験を受けたんです(笑)。ゼミには2年間通って、コロナ禍で1年お休みしたあと、特別ゼミで2年間学びました。

毎回アメリアで映像翻訳者を募集している「キネコ国際映画祭」のタブロイド紙とチラシ。2022年に初めて参加。ライブシネマ(生吹替)に感動して大ファンになりました。

加賀山 :いまおっしゃられた学習歴は、フリーランスになってからの8年間に含まれていますか?

野城 :はい。翻訳者として仕事を始めたときからフリーランスです。最初の2年ほどは仕事に慣れるのに精いっぱいでしたが、3年目ぐらいから月1回のゼミを受講しながら翻訳の仕事を続けてきました。孤独な仕事なので、ゼミで先生や仲間に会えるのは楽しかったですし、翻訳は続けるほどに奥が深くなっていくので、仕事を始めてからも学べる環境があってよかったなと思っています。アンゼ先生にはお忙しいなかご指導いただいて感謝しかありません。いい翻訳をして恩返しをしていきたいです。

加賀山 :経歴をもっとさかのぼると、大学では演劇学を専攻されて、戯曲論や映画論を学ばれました。だから映画がお好きなんですね。このころから映像翻訳のことは考えていましたか?

野城 :ぜんぜん考えていませんでした。でも映画や戯曲について学んだことが今になって生きているのかなと思います。もともと映画を観るのは好きでしたが、幅広く観るようになったのは大学時代です。映画館だけでなく劇場にも通うようになりました。ついでにライブハウスやクラブにも(笑)。そのうち友だちと劇団を立ち上げて公演を打つようになっていました(笑)。

加賀山 :すると、就職では制作プロダクションのようなところを考えたとか?

野城 :それが就職のことはあまり頭になかったんです(笑)。アルバイトをしたり、派遣で働いたりしながら、演劇やダンスの作品を制作していて、あまり将来のことを考えてなかったというか。

加賀山 :クリエイティブな方向だったわけですね。それがどこで翻訳に結びついたんでしょう?

野城 :創作活動を続けるためにも落ち着いた仕事をしたいと考えて、まず学習塾の講師になりました。子供が好きでしたし、当初は理想的な仕事だと思ったので、創作活動にいったん区切りをつけて専業になったのですが、勤務時間がきっちり決まっているのが自分には向いていないと感じるようになりました。そこで初めて翻訳をやってみようと思ったんです。

加賀山 :そのころ英語は使っておられましたか?

野城 :ダンサーとして活動していたときに「アーティスト・イン・レジデンス」というかたちで海外に呼んでもらったり、海外のアーティストと交流したりしていたので、英語は使える気がしてたんですが、いざ翻訳の勉強を始めてみたら、ぜんぜんだめでした(笑)。英語力が足りなくて、これはやばいということで勉強し直しました。

加賀山 :映像翻訳ですと専用のソフトウェアも使いますから、その勉強もありますよね?

野城 :はい。フェロー・アカデミーで使い方を教えていただきましたし、制作会社の講座も受講して身につけました。動画配信サービスが始まってからは、クライアントや制作会社から提供されるオンラインの字幕作成システムを使うことも増えてきましたね。私が映像翻訳を始めたころは、自分で字幕制作ソフトを購入しなければ仕事ができなかったんですけど、現在は必須条件ではありません。

無色透明な翻訳ということ

加賀山 :アンゼ先生のゼミで映像クラウン会員に推薦されました。そこからは順調に仕事が入ってきましたか?

野城 :ゼミでは字幕と吹替の両方を学びましたが、それまで仕事のほうは字幕だけでした。ずっと吹替もやりたいと思っていたんですが、なかなか機会がないし、実績もないので売りこみができませんでした。
 クラウン会員になったことで、キネコ国際映画祭の翻訳ボランティアに応募できるようになり、念願だった長編映画の吹替翻訳を担当できたので、それが仕事にも繋がっています。

加賀山 :すると、アメリア会員になってよかったことをあげれば、そのボランティアの仕事になりますか?

野城 :まさにそうです。吹替の実績ができたことがいちばん大きかったですね。それと、キネコ国際映画祭も実際に観に行きましたが、とてもすばらしくて。ふつうスタジオでアフレコをするときは、シーンごとに区切ったり、声が重なるところはひとりひとり分けて収録したりするのですが、この映画祭では声優さんがスクリーンの脇にいて、そのまま生で吹き替えるんです。

加賀山 :そうなんですか。これまでインタビューした映像翻訳者のなかにも、キネコ国際映画祭の仕事をされた方が何人かいらっしゃいましたが、その場で演じるとは……。

野城 :なので、お芝居を観ているみたいでとても楽しいんですね。子供たちの反応もその場でわかるし、みんな寝っ転がっていたり、家にいるような感じで観られるスペースなんです。やっぱりお芝居っていいなと思えるような。

加賀山 :開催地は東京ですか?

野城 :世田谷区かな……二子玉川ですね。野外での上映もあるし、もちろん映画館で観る作品もあって、すごくいいなと思いました。すっかりキネコ国際映画祭のファンになったので、吹替の実績はもうできたんですけど、次の年も翻訳ボランティアをやらせていただきました。この映画祭は毎年秋に開催されています。

加賀山 :春に翻訳をして、それが秋に上映される感じですか?

野城 :募集は夏ですね。

加賀山 :これから取り組みたい分野とか、訳してみたい作品はありますか?

野城 :日本の漫画や小説を原作にした作品を訳してみたいです。日本映画のリメイクも訳していきたいですし、舞台を映画化した作品も手がけてみたいですね。あとは、アンゼ先生もそうですが、ひとつの作品の字幕と吹替を両方まかされる翻訳者がいます。私もそんなふうにひとつの作品をまかせてもらえるようになれたらいいなと思います。

加賀山 :ふつうは別の方が担当するんですか?

野城 :字幕も吹替もできる翻訳者が増えていますが、字幕翻訳はこの人、吹替翻訳はこの人、というふうにある程度分かれているような気がします。

加賀山 :なるほど。字幕と吹替のどちらが好きですか?

野城 :そうですね……どっちも好きです(笑)。字幕は仕上げたものが映像にのるので達成感があります。いつも産みの苦しみを味わうのですが、やめられません(笑)。
 吹替のほうは自分が書いた本を声優さんに演じてもらうのがすごく楽しいですね。いいお芝居をしてもらえたら、いい日本語版に仕上がると思うので、声優さんの本気を引き出せるような台本を書きたいです。

加賀山 :演劇の活動を長くされていましたからね。字幕と吹替のどちらが難しいですか?

野城 :それぞれ難しさがあります。字幕は限られた文字数で訳出する力が必要です。原語で言わんとしていることを短い言葉で表現する力とか、情報を取捨選択する判断力とかですかね。そういったことを踏まえたうえで、大事なのは結局「見た目」じゃないかと思うんです。読みやすさがいちばん、映像の邪魔をしないのがいちばんなのかなと。作品にぴったりとなじんで、読むのに負担がなく、字幕があったことを忘れるような翻訳ができるといいなと思います。
 吹替のほうは、俳優さんの口の動きに合わせて言葉を選んだり、息継ぎと文節の切れ目を合わせたりするので、こちらもなかなか簡単にはいきません。字幕と違うのは、本筋の台詞のほかに背景の台詞も翻訳することです。スクリプトに台詞がなくて、何を言っているのか聞き取れないときは、翻訳者が台詞を創作します。

プロフィール写真の続き。トルコのカッパドキアを旅した時の1コマです。このあと宿のシャワーは冷たい水しか出ませんでした。冬なのに。

加賀山 :なるほど難しいですね。吹替のときには自分で演じてみたりしますか?

野城 :します。たぶんみんなやってると思います(笑)。

加賀山 :みんなやってるんだ(笑)。

野城 :同じ人でも興奮して速くしゃべったり、落ち着いてゆっくりしゃべったりしますよね。キャラクターによっても台詞の速さが違いますから、「この秒数だったらこの文字数」というふうには決まりません。なので、訳したものを実際に読んでみて、テンポを合わせます。

加賀山 :最後に、大きな質問になりますが、野城さんが翻訳で実現したいことは何ですか?

野城 :私の場合、翻訳を始めた動機がけっこう不純だったので(笑)。
 でも翻訳というのは、もともと書いた人から作品を「預かっている」ので、そこは大切にしたいと思っています。
 翻訳の勉強を始めたころ、諸先輩が「無色透明な」翻訳がいいということをおっしゃっていて、そのときには意味がわからなかったんですけど、ある程度やってきて、やっぱり無色透明がいいなと思います。

加賀山 :出版翻訳でも、やはり無色透明がいいと言われることがあります。「翻訳者は黒衣に徹するべきだ」みたいな。私はかならずしもそれに賛成しないんですが、文字だけの作品と映像作品とでは事情が違うのかもしれませんね。

野城 :文字だと、日本語だけで一から世界観を作り上げますけど、映画やドラマでは、目のまえに映像がありますよね。役者さんが演じて一度できあがっているものなので、そこに余計なものをのせるというか、悪くすると作品を傷つけるようなことをしてはいけないという意識があります。できているものをそのまま日本のお客さんに届けられるといいのかなと。

加賀山 :本の場合には、日本の小説にしろ翻訳小説にしろ、書いてある内容だけでなく「文体」で読者に働きかけるということがどうしてもあると思うんです。やはり映像作品とはアプローチが違うのかなと。

野城 :「文体」というのは、わかるような気がします。「無色透明」って誤解を生みそうな言葉だな、とも思っていて。でも決して「無味乾燥」ということではないんですよね。いつでも同じように翻訳するわけではなくて、むしろ作品ごとに変えていかなくてはいけない。作品の世界観やキャラクターに合っているからこそ透明になれる、というか。カメレオン俳優ならぬカメレオン翻訳者が理想です(笑)。あと、映画は時間芸術でもあるので、作品のリズムやテンポに合わせて言葉をのせることも大切だと考えています。そういったセンスも磨いていきたいですね。

加賀山 :ふだん翻訳の勉強で心がけているようなことはありますか? 映画やドラマを観まくるとか(笑)?

野城 :映画はよく観ます。邦画も洋画も。ドラマのほうは日本のドラマを観ることが多いですかね。毎クール第1話をチェックして、おもしろそうなものを続けて観ています。あとはテレビのバラエティ番組を見るとか(笑)。

加賀山 :バラエティ番組が役に立つんですか?

野城 :立ちますね。「いま」の言葉がしゃべられている感じがしますし、ふだん自分がかかわらないような、いろんな分野のいろんな人たちが出ていますから。バラエティ番組では会話の「テンポ感」も参考になります。あとは舞台を観に行ったり、本を読んだり、ふつうの生活を送りながら、つねに翻訳を意識している感じですかね。

■ 一般には、学生時代に英語を学び、それを生かしたいから翻訳を始める方が多いと思いますが、学生時代から社会人になるまで演劇に没頭して、結果的にそれがいまのお仕事に生きているのだと思います。思えば映像翻訳や出版翻訳では「演じる」ことがけっこう大切ですよね。そんなことを再認識いたしました。

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