字幕翻訳と通訳の両方でご活躍の野村佳子さん | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

野村 佳子さん

野村 佳子さん

字幕翻訳と通訳の両輪で活躍

プロフィール

幼少期をアメリカで過ごし、テレビ、映画、音楽から英語を学んだのをきっかけに、映像の世界に興味を抱く。大学卒業後、外資系銀行に入行して7年間務めるものの、映像関連の仕事への夢を捨てきれず、映像翻訳を学び始める。以降、ケーブルテレビ会社の制作部、映画祭のプログラミングチーム、短編映画制作の現場において、映画や映像に関する知識を身につけながら、字幕翻訳の経験を積んできた。現在は通訳、講師、映画配給の仕事に携わりつつ、フリーランスの字幕翻訳者として活動中。ドラマやコメディーなどエンターテインメント色の強いジャンルを得意としており、ドキュメンタリーでは音楽やアートをテーマとして扱った作品を数多く手がけてきた。近年の代表作はSFドラマシリーズ『サイロ』、長編フィクション『地球は優しいウソでまわってる』、音楽ドキュメンタリー『Dance Craze 2 Toneの世界 スカ・オン・ステージ』、長編アニメーション『数分間のエールを』(英語字幕)など。

さまざまな配信作品の字幕を翻訳

加賀山 :本日お話をうかがうのは、神奈川県で映像翻訳をしておられる、野村佳子(のむら よしこ)さんです。プロフィールの実績には多くの作品がありますが、ジャンルの傾向のようなものはありますか?

野村 :ドラマならコメディとか、ドキュメンタリーですと音楽ものなど、エンタメ色の強いものが多いようです。私がどういう作品に強いかということをエージェント側の方がなんとなく把握してくれているので、得意としているジャンルのお仕事が来ます。

加賀山 :Apple TV+では、「オン・ザ・ロック」というドラマ映画の字幕を訳されました。

野村 :父親と娘の関係を描いたソフィア・コッポラ監督のコメディですね。Apple TV+では、他にもトッド・ヘインズ監督の音楽ドキュメンタリー「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」、トム・ハンクス主演の長編映画・ドラマ「フィンチ」、アニメ「ラック〜幸運をさがす旅〜」などを訳しました。

自宅で仕事をしている時のデスク回りです。

加賀山 :Huluで配信された作品には、「サタデー・ナイト・ライブ」、「ミルドレッド・ピアース 幸せの代償」、「オリーヴ・キタリッジ」、「ANIMALS」、「インセキュア」 などがあります。「サタデー・ナイト・ライブ」は毎週ゲストを招いてコメディスケッチを見せる番組ですね。

野村 :そうです。Huluが日本に上陸したときに何か真新しいものをということで配信を決めて、訳せる人はいないかと探していたんです。そのときタイミングよくお話を頂いて、以来ずっと続いています。この番組は、アメリカで放送された1~2週間後に日本で配信されます。
 「ミルドレッド・ピアース」と「オリーヴ・キタリッジ」はドラマ、「ANIMALS」は大人向けのブラックコメディのアニメでした。「インセキュア」も黒人女性が主人公のコメディ色の強いドラマです。

加賀山 :Netflixの配信作品には、「キース・リチャーズ:アンダー・ザ・インフルエンス」、「ピーウィーのビッグ・ホリデー」、「The 100」 シーズン7 などがあります。キース・リチャーズは言わずと知れたローリング・ストーンズのギタリストですよね。今も観られますか?

野村 :観られるはずです。Netflixが日本に入ってきたときに配信開始した作品のひとつでした。私はもともと音楽が好きなので、こういう作品の仕事を自然と頂けるようになりました。
 「ピーウィーのビッグ・ホリデー」は完全にコメディで、ポール・ルーベンス演じるピーウィー・ハーマンという人気キャラクターが初めてニューヨークに出かける話です。「The 100」はSFで、配信のあとDVDにもなりました。

加賀山 :次はWOWOWで、「新アメリカン・アイドル」、「アメリカン・ダンスバトル」、グラミー賞授賞式、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」 スペシャル・ライブなど。最後のスペシャル・ライブというのは何でしょう?

野村 :「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」というコーエン監督の映画があったんですね。何組ものアーティストが集まって、その映画にちなんだライブが行われ、本作はその様子をとらえた音楽もののドキュメンタリーです。

加賀山 :DVDの実績として、「パディントン2」のコメンタリー、「ATARI GAME OVER」、「ジェニファー・ロペス Dance Again」、「デッド・ライジング ウォッチタワー」 などをあげられています。

野村 :「パディントン2」のコメンタリーは特典映像です。「ATARI GAME OVER」、「ジェニファー・ロペス」は長編ドキュメンタリーで、「デッド・ライジング ウォッチタワー」はホラー映画でした。他にもビリー・ジョエル、ザ・クラッシュ、ジミ・ヘンドリックスの音楽ドキュメンタリーも手掛けています。

加賀山 :このほかに、最近手掛けられた作品はありますか?

野村 :Apple TV+のシリーズものが多いんですが、最近だと「サイロ」というディストピアSFドラマがあります。シーズン1が去年配信されて、シーズン2がちょうど始まったばかりです。
 「サタデー・ナイト・ライブ」も引きつづき訳していますし、ほかには、ジミー・O・ヤンというコメディアンがいるんですが、彼のスタンダップコメディとか、「ビッグ・シガー」というブラック・パンサー党(1960年〜70年代にアメリカで黒人解放闘争を展開した革命集団)のリーダーを扱ったドラマの字幕も担当しました。

加賀山 :何社ぐらいの翻訳会社から依頼されていますか?

野村 :3社ぐらいです。私は吹替はやらず、字幕だけですが。

加賀山 :字幕と吹替の両方をやられる方もいらっしゃいますが、字幕だけというのは理由があるのですか?

野村 :どちらもしっかり勉強された方は両方できると思いますが、やはり技術が異なります。私は自分の中で最初から字幕に絞っていたので、なかなか吹替に仕事を広げるのが難しかったということもあります。一観客として字幕のほうが好みというのもありますし、制限文字数内に収めることや文字として見せることが好きなのかもしれません。

加賀山 :とくにスタンダップコメディとかになると、ものすごくしゃべりますよね。字幕にするのは吹替以上にたいへんじゃないかと思いますけど、何かコツのようなものはありますか?

野村 :まず笑いのツボを押さえる。なぜここで笑えるのかというところを押さえて、そこを中心に作っていきます。情報としてはかなり省かないといけないので、そこをどう集約させるかですね。ジョークのところをしっかり訳さないと、観客がなぜそこで笑っているのかわかりませんから。

加賀山 :たしかに。これまでの実績でとくに印象に残っている作品はありますか?

野村 :なんだろう……いちばんうれしかったのは、「オン・ザ・ロック」ですかね。個人的にソフィア・コッポラが好きだったので。彼女の作品はほとんど劇場公開されますが、これは時代の変化というか、Apple TV+の配信のために製作された作品でした。ただ配信のまえに数週間、劇場公開もあったんです。最初から劇場公開作品として作られていたら、配給会社が翻訳者を探すので、なかなか私のところにお話も来なかったのかなと思います。

加賀山 :別ルートで翻訳者が決まるわけですね。

野村 :そうなんです。ソフィア・コッポラが好きだということを翻訳会社の方に伝えていたわけでもなかったので、本当に偶然担当することになって幸せでした。
 あと「サタデー・ナイト・ライブ」はもう何年もやっているんですけれども、私はアメリカ好き、アメリカのコメディ好きでもあるので、こういう歴史あるコメディ作品に長くかかわって、日本で観てもらえるのはすごくうれしいですね。

加賀山 :プロフィールによると、2006年から映像翻訳をやっておられますが、この「サタデー・ナイト・ライブ」はわりと早くから担当されたのですね?

野村 :数シーズン、途切れたことはありますが、2012年にHuluでシーズン38の配信がスタートし、今でも続けさせて頂いています。本作は納期が短いので、複数名の翻訳者さんと分担して訳しています。私にとっていちばんつき合いの長い作品ですね。

翻訳と並行して通訳や配給会社での仕事も

加賀山 :通訳の仕事もしておられるそうですね?

野村 :はい。映像関係で入ってくる仕事で、映画監督や役者さんのインタビューや、来日時の舞台挨拶などの通訳もしています。そのほか、映画の配給会社で国際チームのサポート業務もしています。洋画の配給にまつわる仕事、日本映画を海外に展開する際の業務などです。

加賀山 :それはお勤めではなく在宅ですか?

野村 :社員ではなく業務委託という形態ですが、週2回ほど会社に行って働いています。あとは自宅です。

加賀山 :翻訳学校の先生もされているとか?

野村 :そうですね。かよっていた翻訳学校の講師ですが、これは半年に1回、4クラスを担当しています。

加賀山 :インタビューの通訳では有名人とも会いましたか?

野村 :コロナ禍で来日がまったくなくなったのを機に、最近はzoomでのインタビューも増えています。コロナ中はキアヌ・リーブス、最近はナタリー・ポートマンのインタビューの通訳を行わせて頂きました。

加賀山 :おお。その仕事は字幕翻訳の会社とは別の会社から依頼されるのですか?

野村 :通訳のほうは、決まった依頼元があるというより、個人的につながっている方とか、個別に依頼されることのほうが多いです。

加賀山 :通訳と翻訳のどっちが楽しいということはありますか?

野村 :そうですね……通訳は何年たっても慣れなくて(笑)、毎回向いてないと思ってしまいます。緊張もしますし、正解があるのかもよくわからないんですが、逐次通訳は字幕翻訳と似ているところがあります。言われたことを自分のなかで理解、整理、要約して訳すので、そこが字幕に似ていて、双方の経験がお互いに生かされているような気がします。

加賀山 :頭のなかの作業として似ているということですね。
 続いて経歴についてうかがいます。通訳をされているということは、外国生活が長かったのでしょうか?

野村 :小学2年生から中1まで親の転勤で海外にいまして、中1のときに帰国してからはずっと日本です。

加賀山 :その後日本の大学に行って、外資系銀行に勤められました。どのあたりで翻訳・通訳の仕事をしようと思ったのでしょう?

野村 :映像系の仕事をしたいとずっと思っていました。大学を卒業するときにもテレビ局や制作会社の仕事を探したんですが、そのときには見つからず、外資系の銀行に就職して7年間働きました。その最後の1年半ぐらいで、夜学にかよって字幕翻訳の勉強をしました。やはり映像作品を作る仕事がしたくて、字幕であれば自分にもできるかもしれないと思い、そこから入ったんですね。

加賀山 :それで少し目処が立ったので銀行を辞めたわけですか。とはいえ、最初はそんなに仕事がありませんよね?

野村 :ないです(笑)。少しずつお仕事をもらえるようになって、それでも目処は立っていなかったんですが、とりあえず切りをつけないと、そっちに踏みこめないと思いまして、いったん辞めました。同時に、ケーブルテレビの会社の制作部門でアルバイトが見つかったので、そこで週3日働きながら翻訳をしていました。

加賀山 :最初の仕事はどうやって獲得しましたか?

野村 :トライアルも受けたんですが、そのまえにお話がありました。ある会社が、スクリプトのない映像作品でヒアリングができる人を探していて、翻訳学校で私がヒアリングが得意だということを憶えていてくださった方からのつながりで、その仕事を頂きました。字幕じゃなくてボイスオーバーの仕事でしたが、そこから少しずつ仕事が増えていきました。もとの依頼主とつながって直接翻訳を依頼されることもありましたし、翻訳を通じて知り合った知人が翻訳会社に就職して、そこから仕事を頂くこともありました。

加賀山 :アメリアにはいつ入りましたか?

野村 :2010年代の初めでした。翻訳の仕事をひとりでやっていると(もちろん仲間もいましたが)、とくに当時は情報がどんどん入ってくる状況ではなかったし、契約しているエージェントも1社だけだったので、何かしら道を広げようと思って入会しました。毎月送られてくる冊子や、ニュースメールなどが情報収集に役立っています。

上映後、監督のQ&Aを行った際に通訳を務めた時の写真です。

加賀山 :通訳のほうはどんなふうに始まったんでしょう?

野村 :字幕翻訳をしていて、ヒアリングができることを知った会社の担当の方から、「それなら通訳もできるでしょ」と言われまして(笑)。無茶振りなんですけど、私も怖いもの知らずで、「じゃあ、やってみようかな」と。
 ですので、本格的な通訳の講座のようなものは受けたことがなくて、まわりの通訳者の方たちを見ながら、見よう見まねで学んでいきました。

加賀山 :すごいですね(笑)。字幕のほうは学校で講座をお持ちということでしたが、通訳も教えておられる?

野村 :いいえ。通訳のほうは教えていません。

加賀山 :さっきおっしゃられたスクリプトのない仕事というのは、けっこうあるんですか?

野村 :最近はほとんどないと思います。今はスクリプトがなくても機械で書き起こせるので、多少雑なものもありますけど、文字起こしはだいたいできています。

劇場公開される映画の仕事を増やしたい

加賀山 :今後進みたい分野とか、やってみたい作品はありますか?

野村 :翻訳に関しては、長く字幕翻訳をやっていても、劇場公開される作品の仕事はなかなか頂けるチャンスがなく…。何かきっかけがあればと思うんですが、そこはまだ開拓できていないところでして、コネクション作りが大切かなと思います。
 あと、シリーズものは基本的に好きなのでこれからもやっていきたいです。もちろん話題作にもかかわりたいですが、こればかりは私ひとりの力ではどうしようもない部分があって。私の字幕によって視聴者の幅が広がっていけば、うれしいですね。

加賀山 :ちょっと話がそれますが、シリーズものだと何人かの翻訳者で分業することもあると聞いています。やはりひとりで全話訳すほうがやりやすいですか?

野村 :そうですね。たとえば、偶数話と奇数話で分けることもありますが、もちろん時間があれば、ひとりで訳すほうがいいです。

加賀山 :「偶数話と奇数話」のような分け方をするんですか?

野村 :そうなんです。そのほうが翻訳や調整の時間を長くとれるので。配信のスケジュールが詰まっていると、どんどん訳さなければいけませんから、どうしても分業になります。それでも全体のトーンとかキャラクターは統一しなければいけませんから、自分と「合う」方といっしょにやれると楽ですね。ただ、これまで分業で特別に苦労したことはありません。

ライブやフェスに行くのが最大の気分転換となっていて、フジロックは毎年欠かさず通っています。

加賀山 :本国での配信と日本での配信がほぼ同時進行になることもあるのですか?

野村 :作品によりますね。海外ですでに配信ずみのものを一気に日本でやる場合もあるし、本国と同時に配信していくこともあります。あと、向こうでまだ製作中の作品を、完成したエピソードからこちらで少しずつ訳していって、全部そろった時点で配信する場合もあります。それはだいたい世界同時配信になるパターンですね。

加賀山 :いろいろなパターンに対応しなければいけないんですね。通訳に関しては、何か抱負がありますか?

野村 :映画関係の通訳といえばこの人という、業界を代表する方々がいて、そういう方たちは、依頼側から「今度もあの方でお願いします」という指名があって選ばれるので、私も努力をして経験を積み、いつかはそこをめざせたらいいなと思います(笑)。

加賀山 :最後に、これから字幕翻訳をやりたいという皆さんにアドバイスがあればお願いします。

野村 :劇場だけでなく配信のチャンネルも増えていますから、実感として、訳す作品はたくさんあります。チャンス、間口は広がっていますね。

加賀山 :新人さんウェルカムですか(笑)。

野村 :ウェルカムです。ライバルは増えますけど(笑)。あと、字幕を始めたい方は学校にかよわれると思いますけど、その時点から、プロ意識というか、仕事のつもりで課題に取り組むことが大切でしょうね。慣れていないなか締め切りもあって、なかなか難しいでしょうが、講師をしていてひとつ思うのは、本気で取り組んでいる人の原稿は光っています。ほかの人と比べて際立っているので、学校側が目をつけることもあると思うんです。それがデビューの近道になるかもしれません。

加賀山 :たしかに。講師をして自分の勉強になることはありますか? 私は出版翻訳の講師をしていて、そういうことがけっこうあるんです。

野村 :ありますね。授業ではひとつの映像課題にそれぞれ字幕をつけてもらいますが、自分の解釈とまったく違う方向から質問されると、「そういう見方があったのか」と大きな気づきになりますし、あとは言葉遣いですね。受講者は私より若い方が多いので、今はこういう言いまわし、こういう単語のほうが一般的に使われているのかという発見があります。

加賀山 :ありますね。自分があまり意識せずにやっていたことも、受講者の質問に答えることによって理解できるようになるとか。

野村 :言葉として整理するチャンスを与えてもらうということですね。それもあります。

■  「キース・リチャーズ:アンダー・ザ・インフルエンス」、未視聴だったので観ました。ストーンズ・ファンは必見の作品ですね。今後、劇場公開の映画でお仕事を拝見することが増えますように。

関連する会員インタビュー
映像翻訳