宗野 佳奈さん
子育てをきっかけに見つけた、実務翻訳者という働き方
プロフィール
IT・マーケティング分野の英日実務翻訳者。立教大学文学部ドイツ文学科卒業。新卒で大手SIerのシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後はコンサルティング、プラント・エンジニアリング、学校法人、自動車関係など、さまざまな業界で英文事務をはじめとする業務に従事。子育てをきっかけに働き方を見直し、2025年にフェロー・アカデミーで翻訳を学ぶ。受講中から翻訳の仕事を始め、2026年3月にフリーランスとして独立。現在は一般向けブログやレポート、マーケティング資料など、幅広いコンテンツの翻訳に携わっている。文系出身ながら、応用情報技術者をはじめIT関連資格も複数保有。SE時代に取得した資格が、思いがけず今の翻訳に生きている。日英ビジネスクラウン会員。小学生2人の母。在宅時間が増えたのを機に、居心地のよい部屋づくりを模索中。長期休みには、子どもたちと1000ピースのパズルに挑戦するのが恒例の楽しみ。
翻訳の仕事をしながら、週1日は英語の先生
加賀山:本日は、実務翻訳者の宗野佳奈(そうの かな)さんにお話をうかがいます。生まれも育ちも横浜だそうです。まず、今のお仕事の内容ですが、プロフィールには「IT・マーケティング分野」とあります。
宗野:今は大きく分けてふたつありまして、IT・ソフトウェアとデジタル・マーケティングです。
IT分野では、クラウドのサービスのブログや営業資料、セールストークなどのスクリプト(台本)などが多いですね。CAD(コンピュータ支援設計)のソフトウェアのユーザーマニュアルのようなものを訳したこともあります。紙ではなくネット上のマニュアルでしたが、CADの実務経験がなかったので苦労した仕事のひとつです。
ITとは直接関係ないかもしれませんが、人事や給与のシステムのUI(ユーザーインターフェイス)の表記をひたすら訳したこともあります。ボタンの名称とか「クリックする」とか、とにかく短い文言が中心なんですが、各国の法令や制度に関する用語も出てきて、たった数ワードでも、かなり時間をかけて調べることもありました。何人かの翻訳者と分担して、私は1万5千ワードぐらい担当しましたが、ちょっとつらかったですね(笑)。
加賀山:マーケティングのほうは何がありますか?
宗野:デジタル・マーケティングや広告媒体の分野で、マーケター向けの教育サイトや認定学習コンテンツなどですね。たとえば、資格試験の勉強をするようなサイトのコンテンツです。
加賀山:以上は英日の翻訳ですか? 日英もありますか?
宗野:すべて英日です。仕事量としてはITよりマーケティングのほうが多くて、ブログとか、消費者の動向をまとめたトレンドレポート、これから流行りそうなものを紹介するトレンド予測など、とくに若者向けのものが多く来ます。あとたまにですが、スポーツブランドのマーケティングコピーの翻訳もあります。ページのいちばん最初のキャッチーな紹介文のような内容ですね。

フェロー・アカデミー受講中に課題の締め切りを間違えたのを機に、手帳を購入。スケジュール管理はもっぱら手書き派。仕事はもちろん、学校や子どもたちの予定もこの一冊にまとめている。
加賀山:フェロー・アカデミーの2025年度カレッジコースを今年3月に修了されています。在学中から登録翻訳者として仕事を始められたそうですが?
宗野:カレッジコースの入学と同時にアメリアにも入会して、コースの夏休みに時間があったので、力試しにと思ってトライアルを受けてみました。トライアルを受けて不合格になると、その後1年くらい再チャレンジできなくなるところが多いので、将来的な就職を考えて慎重になりましたが、縁あって合格することができ、後期の10月から仕事を始めました。
加賀山:ほかにも登録されている会社はありますか?
宗野:今登録しているのは2社、ひとつは翻訳、もうひとつはチェッカーです。
チェッカーのほうは、4月に仕事のタイミングが空いたことがあって、別のトライアルを受けて登録しました。ただ、今の仕事は翻訳が中心ですね。
アメリアのサイトを見ると、5社とか8社とか登録されている方がいらっしゃいますけど、私自身はちょっと考えられないですね。子どももいますし、朝は強制的に起こされますし(笑)、いつやれるんだろうと……。
加賀山:インタビューでうかがっていると、たしかにそのくらい登録されている方もいますが、皆さん実際に仕事が動いているのは1、2社ということが多いように思います。
宗野:そうなんですね。もっと登録しなきゃいけないのかなと焦っていました(笑)。実際は難しいですよね。断らなきゃいけなくなるよりは、今の状況でしばらくがんばってみます。
もうひとつ、アルバイトとして、4月から学習塾で英語を教えはじめました。翻訳は時期によって仕事量にばらつきがあるので、固定の仕事も持っておきたいと思ったのと、去年まで子どもが保育園でしたが、お迎えがなくなって夕方の時間が空いたので、そこを有効活用できればと思って始めました。あまりこちらを増やすと翻訳のほうで受けられる仕事が減ってしまうので、今のところ週1日にしています。
加賀山:もうひとつの収入源ですね。
宗野:でも、この学習塾が意外に役立っているんです。中学生をメインで教えていますが、最初は中学英語なら楽勝だろうと思っていました。ところが大間違いで(笑)、けっこうコアな質問をされることがわかりました。「助動詞って何?」とか「mustとhave toは何が違う?」とか「would youとcould youはどう違う?」とか、たくさん出てきます(笑)。こちらも丸腰では行けなくて、ある程度武装していきますが、それでも答えられないときには家に持ち帰って、総合英語のテキストを見ながら調べます。それがとても勉強になりますね。
子育て世代だと時間のやりくりが難しいかもしれませんが、もし余裕があったらこういう講師を週1回でもやると、自分の力になるなと思いました。
加賀山:ある程度学習した高校生より、中学生のほうがかえって本質的な質問をしそうですよね。
アメリア経由で2社に登録されたということですから、アメリアは役立っていそうですね(笑)?
宗野:かなりお世話になっています。しかも1社は会員の資格の条件によって未経験でもトライアルを受けることができて合格しました。アメリアでは、ほかにブログとか、この会員インタビューも楽しみにしていますし、翻訳会社の本音を聞くような企画も参考にさせてもらっています。
加賀山:情報収集活動にもなっていますね。
正しさだけでなく、読みやすい翻訳を目指して
加賀山:ITとマーケティングの翻訳で、訳すときにとくに気をつけていることはありますか?
宗野:私はSE(システムエンジニア)の経験があって、そのためなのか、IT寄りの仕事が多いように思いますが、CADのように専門的な内容はまれで、マーケティングとか、ITだとしても一般消費者向けにサービスを紹介する資料など、比較的やさしい内容が多いんです。なので、皆さんに最後まで読んでもらうために「読み心地」というものをいつも考えています。具体的には、ワードで訳文を作ったあと、かならず読み上げ機能を使って、読んだときの感じを確認しています。
加賀山:読み心地は出版翻訳でも本当に大事です。それがよくないと、どんなに正しく訳していても長い文章は読めませんから。やさしい資料といっても、やはりSEの知識は役立つのではありませんか?
宗野:そうですね。たとえば、パワーポイントのフローチャートを訳すことなんかもありますが、記号のひと言にしてもITの専門知識がないとうまく訳せないこともあります。
ふだんの仕事では、機械翻訳のポストエディットも増えています。今の状況は、一見自然だけれども信用できない翻訳が多いという印象です。機械翻訳は、用語集の用語もちゃんと使って、文法的にもおかしくないし、日本語としてもそれほど不自然ではないんですね。でも、原文や文脈をきちんと確認すると意味が違っているものが多い。しかもすごくきれいな日本語になっているので、間違いに気づきにくいという問題があります。
加賀山:まさに。AIを使った調べ物などでも、そこがとても厄介です。
宗野:CATツール(翻訳支援ツール)で使われている機械翻訳は、おそらくTM(翻訳メモリ。過去に翻訳された原文と訳文の対応データベース)を参考にしていますけど、そのTMも必ずしも正しいとは限らないので、注意が必要なケースもあります。なので、今はまだまだ人間が必要だなと思っています。さらに、読み心地などは機械ではできないところなので、自分でどうにかするしかありません。
加賀山:やはりポストエディットの案件は増えていますか?
宗野:かなり増えてきていますね。自分で最初から訳すより、かえって時間と労力がかかることもあるんですが、ポストエディットは通常の翻訳より単価が低く設定されることが多いですね。
加賀山:「もとの訳があって少し楽でしょうから安く」という判断なのですね。
宗野:そういう場合、私はもとの訳に引っ張られないように、いったん自分で一から訳してみることもあります。機械翻訳は一見自然に見えるぶん、原文と照らし合わせながら慎重に確認することが大切だと感じています。
働き方を見つめなおし、翻訳の勉強をスタート
加賀山:経歴の話に移りましょう。大学を卒業されて、すぐIT系の企業に就職されたのですか?
宗野:はい。SEを3年間したあと、結婚して一度辞めましたが、その後、仕事に復帰して、コンサルティング、プラント・エンジニアリング、学校法人、自動車関係など、幅広く仕事をしました。海外プロジェクトのアシスタントなど、英文事務系のポジションが多くて、英語を使う環境でしたので、仕事で英語を使うようになったことをきっかけに、改めて勉強するようになりました。
加賀山:ベンダーの認定資格や、応用情報技術者資格も取得されたそうです。
宗野:ベンダー資格は、ネットワークやデータベースなど、各分野のベンダー製品に関する知識やスキルを認定する資格です。応用情報技術者資格のほうは、よく言われるITパスポートというのがありまして、その上が基本情報技術者、さらにその上が応用情報技術者です。当時は、新人SEがこうした資格を目指すことが多く、私も勉強しました。
加賀山:SE時代に取得したのですね。プロフィールに「通算約10年のオンサイト勤務経験」とあるのは、IT系企業とその後の勤務経験を合わせてということですか?
宗野:そうです。コロナの時期は産休でしたから、結局オンラインで働くことはありませんでした。ですので、オンサイトで10年ほど、ビジネス実務やOfficeツール活用の経験があります。
加賀山:そのころは翻訳をされていなかったのですか?
宗野:はい。会社員時代には、翻訳やチェッカーをしていたわけではなくて、英語はあくまで目的を達成するための手段、通じればいいというレベルでした。ただ、海外プロジェクトを担当したときにいろいろ努力しました。出勤前に英会話学校に通っていた時期もありましたし、英語のオンライン講座や通信講座も受けて、資格とかの勉強もしていました。

子ども用に購入した学習デスクが気に入り、独立を機に自分用にも購入。会社員時代には考えられなかったが、お気に入りのキャラクターに囲まれて仕事をするのも、在宅ワークの楽しみのひとつ。
加賀山:そのどこかで翻訳をやってみようと思われた?
宗野:子どもが生まれたあとですね。それまでフルタイムで出勤していましたが、同じように働きつづけるのは体力的にも厳しかったし、ふつうの事務ではなく「これが自分の仕事」と言えるような仕事を見つけたくなったということもあります。
そこで、子どもが小学生になるまえに、自分の目指す働き方にチャレンジしてみようと思って、フェローのカレッジコースを受講しはじめました。
加賀山:カレッジコースは平日朝からずっと授業ですよね?
宗野:そうです。平日の日中にまとまった時間を取って、集中的に勉強できるところがいいなと思って選びました。オンラインで受講できるのも魅力でしたし、修了後の就業サポートがあることも決め手のひとつでした。結果的にはフリーランスとして仕事をすることになりましたが、仕事につなげるところまでサポートしてもらえるという安心感はありました。
加賀山:通学ではなくオンライン受講だったのですね。
宗野:そうです。一度、学校まで先生にご挨拶に行ったのを除いて、すべてオンラインでした。
加賀山:そして今年3月に修了、成績優秀賞をもらったそうですが、成績が1番だったということですか?
宗野:おそらく前期の成績で認定されると思うんですが、びっくりしました。私は授業中、訳文でけっこうチャレンジングなことをしていました。英訳などでも、設問の1から10まで構文を全部変えて訳してみたり(笑)、ぜったい仕事では使えないような大胆な訳をあえてしてみたり、そういう挑戦が評価されたんでしょうか……成績はそれほどでもなくて、内申点がよかったのかもしれません(笑)。
じつは、優秀賞をもらったことでアメリアの会費が1年間無料になって、とても助かりました。フリーランスは目指していた働き方ではあるんですが、収入面ではやっぱり会社員のころのようにはいかないので、すごくありがたかったです(笑)。先生の推薦でクラウン会員にもしていただきました。
加賀山:クラウン会員は日英の翻訳で取得されていますね。今の仕事は英日だけとおっしゃっていましたが、今後は日英もしてみたいとか?
宗野:似たようなお話をいただいたことはすでにあって、今後ひょっとしたらやるかもしれませんが、日本語のほうが断然得意なので(笑)、やはり英日が中心です。
子どもが子どもらしく過ごせる、今の働き方
加賀山:将来的にはどういう仕事を続けていきたいですか?
宗野:昔からニュースが好きでした。海外の芸能ニュースのような軽い話題よりも、時事的なニュースそのものが好きで、昔は通勤時間に、朝日出版社のCNN ENGLISH EXPRESSという英語学習者向けの雑誌や、同じく英語学習者向けの英字新聞をよく読んでいました。なので、少し大きいことを言うと、ニュースの翻訳ができたらいいなという夢はあります。
定年がないのがこの仕事のメリットですから、その時々で働き方を見直すことはあっても、また戻ってこられますし、この仕事はできるだけ長く続けていきたいと思っています。
加賀山:映像翻訳や出版翻訳はいかがですか?
宗野:もともと実務翻訳がやりたかったので、興味はあまりないんですが、映像や出版もフェローのカレッジコースで学んで、勉強としてはすごく役立っています。ハコギリや字数制限など、映像翻訳の知識がないと指示の意図が理解しにくいものもあって、そういうときには映像で学んだことが役に立ちます。
出版では布施由紀子先生にお世話になりました。「意味は直訳、表現は意訳」とおっしゃっていましたが、とにかく伝えたいことを原文からしっかり読み解いて日本語にするという考え方を忘れないようにしています。ときどき頭のなかに小さい布施先生が出てきて、「ここ、ちがうわよ」と言ってくださる感じがすることも(笑)。
加賀山:実務翻訳では、会社のトップの英語のプレゼン資料に字幕をつけるような依頼もあるそうですね。
宗野:はい、基調講演で実際に話すまえの台本を担当したことがあります。海外独自のジョークとか、くすっと笑えるようにするために日本語でいろいろ考えましたが、本番ではカットされました(笑)。
加賀山:台本にあったのに本番では使わなかったのですね。
宗野:そういうジョークを訳すときにも、出版翻訳的な発想が必要ですよね。だから、あまり関係ないと思っていても、じつは関係があることが多いと思います。SEの経験にしても子育てにしても、関係なさそうでじつは翻訳に活かされているということはあります。それは仕事の経歴についても同じで、私自身、これまで経験した会社が多いことをコンプレックスに感じていたんです。でも、実務翻訳で大変お世話になった舟津由美子先生に、「いろいろな会社を見てきたことは翻訳では強みになる。同じ目的でも、会社によってアプローチが違うことを知っているから」と言っていただいて、すごく励みになりました。確かに翻訳をしていると、会社によって使う言葉や考え方も違うので、いろいろな環境で仕事をしてきた経験が活きていると感じることがあります。以前はコンプレックスだったことも、今では翻訳につながっているんだなと前向きに捉えられるようになりました。
加賀山:チェッカーは、まだ登録だけで仕事は来ていないということでしたが、将来的にはなさいますか?
宗野:今のところは、どちらかというと翻訳のほうを中心にやっていきたいと思っています。ほかの方の翻訳を見るより自分で訳すほうが自分には合っていると感じますし、条件面も含めて、今は翻訳の経験を積んでいきたいという気持ちが強いです。
加賀山:チェッカーの報酬も、1ワードいくらという計算ですか?
宗野:そうですね。基本的には翻訳と同じようにワード単価ですが、チェックの場合は翻訳よりも単価が低く設定されています。
加賀山:子育てをされた翻訳者のなかには、たとえば絵本とか、子ども関係の仕事がしたいとおっしゃる方もおられます。
宗野:私の今の仕事で言えば、ベビー用品などのマーケティングが当てはまりそうですね。商品の説明で「こういう言い方ではお母さんには通じないだろうな」というようなことがわかりますから、子ども関係には強いかもしれません。おもちゃの広告や宣伝なんかも、楽しんで訳せそうだなと思います。

在宅時間が増えたのをきっかけに、家の中でも季節を感じられるよう、季節ごとの飾りつけを楽しむように。秋には、ハロウィン仕様のツリーが登場する。
加賀山:子育てと仕事の両立について、何かアドバイスがあれば?
宗野:そうですね……ひとつあげるとしたら、子どもにとってすごくメリットがあります。在宅の仕事全般に言えることですけど、子どもが学校から帰ってくるときに、自分が家にいられるので。
学童とか放課後クラブのようなところに入れてもらえるとはかぎりませんし、子どもも学年が上がると、友だちと遊びたくなることもあります。親がオンサイトで働いていると、そういうことがなかなかできませんけど、今は私が家にいるので、友だちとも遊べますし、曜日によってはうちに遊びに来てもらうこともできます。小学生らしい生活が送れるということですね。ただそのぶん、私は夜に働かなければいけませんが(笑)。
私の場合、収入は会社員時代より減りましたが、子どもが小さいときに子どもらしくすごせるということで、こういう働き方もありではないかと思います。
加賀山:見えるところでお子さんを遊ばせておいて、自分は仕事をするということはできないのでしょうか(笑)?
宗野:不可能です(笑)。よく在宅ワークを紹介するサイトなんかで、子どもを膝に乗せてパソコンを打っている画像がありますが、あれは本当に無理です。まず仕事に集中できませんから。外に遊びに行くのは自由にやってもらってかまいませんけど。
あと最近、災害が多いので、いつも子どもの近くにいて対応できるというのは、ひとつの安心ですね。そういうメリットはたしかにあります。
■ カレッジコース修了後にそのまま仕事に入る道が開けて、上々のすべり出しですね。収入が少し安定して、これからも翻訳を続けられることを祈っています。





