アメリア会員インタビュー







  




坂田:会員歴7年。今年、翻訳家としてデビューが決まっている片山奈緒美さんが今回のゲストです。
デビューまでの道のりや新人翻訳家としての仕事ぶりについてお話しを聞かせていただきたいと思います。片山さんは現在、北海道にお住まいということで、メールのやり取りでインタビューをさせていただきました。
それではまず、翻訳を始めたきっかけから教えてください。片山さん、よろしくお願いいたします。

片山:こちらこそ、よろしくお願いします。
最初の質問は、「翻訳を始めたきっかけ」ですか? う〜ん、とくにないんですよ。父親が英語の教員だったため、子どもの頃から英語の辞書や本に囲まれた環境でしたし、映画好きの両親から戸田奈津子さんの字幕がいかにすばらしいかを聞かされて育ちましたので、いつのまにか「翻訳」というものに惹かれていった、というのが正直なところです。
あとは、子どもの頃の愛読書に海外の作品が多かったことと、ちょうどインターネットの発達と時期が重なったことで、大胆にも「転勤族の夫をもつわたしでも続けられる仕事かもしれない」と思ったから、くらいでしょうか。

坂田:片山さんは1995年からアメリア(当時はFMC)の会員とうかがっていますが、実際に翻訳の勉強を始めたのはその時ということになりますか?

片山:学生時代からアルバイトをしていた広告代理店などで、ビジネス文書の翻訳をやったことはありました。
放送局に就職してからも、たまに社内の簡単な文書を訳したり、英語インタビューの字幕づくりを手伝ったりしていたんです。 でも、もともと小説を読むのが好きだったので、だんだん文芸翻訳をやりたくなってきて。それでアメリアに入会しました。
入会後しばらくは、会報誌を読むくらいで、とくになにもしていなかったのですが、やっぱり通学して勉強したいと思い、1997年にフェロー・アカデミーに入学しました。

坂田:仕事をしながらの通学は大変ではありませんでしたか?

片山:通学をはじめた頃は、フリーランスのアナウンサーの仕事をしていましたが、「両立」を意識するほど仕事は忙しくありませんでした。
主婦業のほうも、はっきり言って暇でした(笑)。子どもがいないですし、夫も留守がちなので、勉強する時間はふんだんにあったんです。
このころ、夫曰く「暇さえあれば本を読んでいた」そうですが、それが今の仕事に非常に役立っていると思います。

坂田:フェローに入学し、どのような勉強をなさったのですか?

片山:1997年に児童文芸クラス、1998年に現代小説クラスに通いました。その後、1999年から2年間ほど、夫の転勤で札幌に引っ越すまで、伏見威蕃先生が個人事務所で開いている勉強会に参加させていただきました。
このほか、文章修行のために、カルチャーセンターの通信講座で「エッセイのかき方」を受講したりもしていました。

坂田:フェローの授業はいかがでしたか?

片山:児童文芸と現代小説のクラスでは、言葉のリズムや調べものの大切さなどを教えていただき、とても勉強になりました。
講師の方から下訳やリーディングのお仕事も紹介していただけて、実際の文芸翻訳のお仕事のたいへんさをかいま見ることができました。
通学していた頃の仲間とは、今もやりとりを続けていて、お互いにわからないことを教えあったり、情報交換をしたりしています。こういう仲間の存在は、とてもありがたいですね。

坂田:「児童文芸」や「現代小説」、また伏見威蕃先生というと「ミステリ・冒険小説」と幅広い分野の勉強をなさったようですが、同じ文芸翻訳でも分野による違いというのはありますか?

片山:訳語の選びかたや、文章の長さなどで違いはあると思いますが、読者を意識した訳文にすることや、言葉のトーンを統一させることなど、訳すときの考えかたは同じじゃないかと思うんです。 その意味では、分野は違っても、どんな作品でも"原作と読者あっての翻訳者だ"と思えるようになりました。
とはいっても、ひとりよがりの訳文にならないよう、まだまだ修行をしなければならない段階なんですが。

坂田:ご自分では今後、どの分野を目指していくつもりですか?

片山:実はまだいろいろな分野を訳してみたい気持ちが強く、この分野の仕事しかしない、とは言いきれないんです。
これからも取り組みたい分野は、女性の人生や家族などをテーマにした現代小説や歴史小説、法廷ものなどサスペンスを中心にしたミステリ、アニマル・セラピーやスポーツ関連のノンフィクションなど、幅広いんです。
ふだんの読書がこういった分野の本なので、機会さえいただければ、翻訳してみたいと思っています。




坂田:出版翻訳家としてのデビューのキッカケを教えてください。

片山:フェロー・アカデミーに通学しているあいだ、ある翻訳学習誌の訳文投稿コーナーに毎月投稿していたんです。
これがきっかけで、そのコーナーの執筆を担当されていた伏見先生が個人事務所で開いている勉強会に参加させていただくようになりました。 そのころから、先生の紹介でリーディングや下訳のお仕事がずいぶん増えてきました。
この勉強会の参加者は強者ぞろいで、すでに何冊も訳書がでている方も多く、とても刺激的な勉強会だったんですよ。みなさんがすばらしい訳文を提出されるので、少しでもその技を盗ませていただこうと、毎回必死でした。
わたしが翻訳デビューすることになったのも、こうした優秀な先輩がおつきあいされていた出版社(主婦の友社)に、リーダーとして紹介していただいたのがきっかけです。3冊くらいリーディングのお仕事をいただいたあとで、1冊翻訳させていただけることになりました。

坂田:うかがっていると、デビューまで非常にスムーズに走り抜けたという印象を受けるのですが……。

片山:そうですね。挫折というほどつらい思いをしたことはありませんが、自分にはプロになる素質がないんじゃないかと思ったことは何度もあります。
トライアルやコンテストにも何度か応募したのですが、まったく箸にも棒にもかからない状態だったものですから。ところが、今は1週間仕事がないということが滅多にない状態になっています。
はじめて下訳をしたのが1998年の夏で、デビュー作になる本の依頼がきたのは2001年秋ですから、自分でもこのスピードに驚いているんですよ。

坂田:素晴らしいですね! でも、ご自分でもかなりの努力をされたのではないですか?

片山:この間にたくさん本を読んだり、@niftyの会議室に読後感を書き込んだり、どんな急ぎのリーディングも徹夜してでも仕上げたり、わたしなりに努力をはしました。でも、こうしたことはプロになられた方なら、どなたでもやっていらっしゃることだと思うんです。
ただ、ひとつ言えることは、わたしはとてもひとの縁に恵まれていたということです。大勢の翻訳家や編集者にお会いする機会が多く、その人脈のなかでいただけた仕事が多かったんですね。
そういうコネクションをつくるには、やはり毎日のちっちゃな努力の積み重ねが役立ったのかなぁ、と今あらためて思っています。

坂田:自分にはプロになる素質がないのではと思われたということですが、逆に、プロの翻訳家として自覚が持てた瞬間というのはありますか?

片山:今年はデビュー作を含め、3冊の訳書が出る予定ですが、プロといわれるとまだこそばゆい気がします。今は「これに失敗したら次はない」というつもりで、ひとつひとつの仕事に全力で取り組んでいます。 ただ、プロとしてやっていくための根性だけはあるかなぁ、と思っています。
納期のきつい仕事をしているときに体調をくずしたりして、「もうぜったいに締め切りに間に合わない!」と思ったことも何度かありますが、それが意外と間に合っちゃうんですよね。火事場のナントカといいますが(笑)。そういう根性はありますね。
それと、先輩翻訳家の下訳をしたときに、調査能力を褒めていただいたことがありました。このときは「ひょっとしたら、プロになるための能力(の一部)は備わっているかも」と思ったことがあります。なんとも厚かましい話ですが。

坂田:調査能力ですか。調べるって難しいですよね。わたしなんか、どこから調べればいいのか、見当がつかないこともしょっちゅうです。よろしければ『片山流調査のコツ』を教えてください。

片山:『片山流』というほどすばらしいものはありませんが(笑)。
未知の分野を訳すときは、まず関連する分野の本を何冊か読みます。講談社や岩波の新書を読むことが多いですね。巻末に参考文献が載っていることもあるので、そこから読む本を探すこともあります。
意外に役立つのは、岩波ジュニア新書など、子ども向けの本です。易しい文章で書かれた本でその分野の全体像をおおまかにつかんだら、細かい部分を理解する助けになります。自分がどこまでわかっていて、何がわかっていないのかが見えてくるんです。こうなると調べものも楽になりますよね。
そのほか、原文中の個々の調べものは、手持ちの辞書、参考文献、インターネットで検索し、なるべく複数の資料で確認するようにしています。
図書館にも行きますが、今はだいぶ手持ちの資料が増えてきたので、近所の公立図書館より自分の本棚のほうが新しい資料がそろっていたりすることも。
そのほか、特定の分野に詳しい知りあいに尋ねることもあります。数カ国語に堪能な友人とか、英語に強い医者の知人などには、始終お世話になっています。

坂田:インターネットなども利用しますか。

片山:もちろんです。いろんなホームページを検索して、サイト管理者に「××について調べています。○○まではわかりましたが、ほかの部分がよくわからず……」といったふうに問い合わせメールを出すこともありますね。ぜんぶ教えてもらおうと思わずに、できる範囲で自分で調べてから、どうしてもわからないところがあるので教えてください、という姿勢で問い合わせれば、役に立つアドバイスをいただけることも多いですよ。
インターネットの検索サイトのなかでは、"Alta Vista"をよく使います。聖書の一節とか、歴史上の人物の演説の一部、辞書にないイディオムなどをそのまま検索窓に打ちこむだけで、かなりの確率で意味や出典がわかります。そこからほしい情報の糸口をつかむことが多いですね。
今まで一番困った調べものは、あるミステリに出てきた太極拳にかかわる部分です。図書館で太極拳の本に何冊もあたりましたが、お手上げ状態でした。ところが、@niftyの武道関係のフォーラムで質問してみたら、親切なかたがいらっしゃって、とてもわかりやすく説明していただけました。

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