アメリア会員インタビュー






坂田:片山さんは『海外ミステリ通信』というメルマガの編集もなさっているんですよね。これはどういうものですか? 片山さんが担当するようになった経緯は?

片山『海外ミステリ通信』は、@nifty文芸翻訳フォーラム・フーダニット翻訳倶楽部の有志がボランティアで発行しているメルマガです。
フーダニット翻訳倶楽部は@niftyの電子会議室のひとつで、海外ミステリの翻訳を目指しているひとが集まっている同好会です。
文芸翻訳フォーラムは、こうした倶楽部の集合体で、ほかには児童書やノンフィクションなどの倶楽部があります。
メルマガは月一回の配信。翻訳学習者や海外ミステリ愛読者だけではなく、出版社の編集者や翻訳家も読んでくださっているので、少しずつですが翻訳業界での認知度が高まっています。
創刊から半年しか経っていませんが、海外ミステリを扱っている出版社から献本もしていただいているんですよ。
わたしが編集を担当することになったのは、このフーダニット翻訳倶楽部を運営しているスタッフに誘われたからなんです。たまたま、スタッフに何人か知りあいがいたので。
編集部員は常時募集中なので、@niftyのユーザーで、海外ミステリに興味のあるかたは、ぜひ一度フーダニット翻訳倶楽部のホームページをのぞいてください。

坂田:ボランティアでの編集となると、忙しいなか大変ですね。メルマガのために調査をしたり、読書をしたり……。

片山:参考資料やインターネットで調査をして記事を書きますが、より正確で読みやすい内容にするために、編集部内で記事に対してコメントをつけあっています。編集部員それぞれに得意な分野がありますので、とても勉強になりますよ。
新しい知識を得たり、今まで知らなかった文献を教えてもらうこともあります。たいへんですが、単にメルマガを発行するだけではなく、いい翻訳修行になっています。

坂田:勉強会や文芸翻訳フォーラムに参加されたり、翻訳家の方の下訳をしたり、かなりの人脈をお持ちですね。人脈の広げ方、コツがあれば教えてください。

片山:これはよく聞かれるのですが……マスコミで働いていたので、もともといろんな分野に知人は多かったのですが、翻訳の勉強を始めてからも、おつとめ時代と同じように、名刺をつくって、年賀状を出して、ときどき宴会にも顔を出して……と、ごくふつうのおつきあいをしていたら、少しずつ翻訳業界に知りあいが増えて、こうなってしまいました(笑)。
強いて言えば、文芸翻訳の勉強をはじめたころ、@niftyの文芸翻訳フォーラムや、師匠の伏見威蕃先生がお仲間や弟子に開放しているパティオ(@niftyのクローズドの電子会議室)で、三日に一作品くらいの割合で読んだ本の感想をコメントしていたんですね。 これを読んでくださったプロのかたから、リーディングなどのお仕事を紹介していただいたことが何度かありました。
本の話がしたかっただけなんですが、思いがけず自己PRになって人脈づくりに役立ったようです。
たまに翻訳学習中の方に、「翻訳家の××先生の弟子になるにはどうしたらいい?」とか「○○出版社の仕事をするにはどうしたらいいの?」と聞かれることがありますが、その方がどのくらい本を読んでいらっしゃって、どのくらい優秀な方なのかがわからないと、自分の知りあいには紹介しにくいですよね。
人脈をつくりたいなら、本を読んで出版社に読者カードを送ってみるとか、@niftyの文芸翻訳フォーラムのような、プロの方も学習中の方も大勢集まっているような場でたくさん発言するとか、地方にいる方でも、子育て中で時間がとれない方でもやれることは、たくさんあります。
そんな小さな努力を続けていれば、いつか人脈ができあがると思います。




坂田:ご主人の転勤で札幌に引っ越されたとのことですが、札幌に住んでいることで、翻訳家としてデメリットはありますか?

片山:今のところ、とくにデメリットはないです。
昨夏まで横浜にいましたので、横浜時代に編集者や翻訳家とのおつきあいがありましたし。それに、今はメールでやりとりできますから、全国どこにいても仕事はできると思います。
ただ、今までつきあいのなかった出版社とコネクションをつくりたいときは、やはり気軽に会えない距離に住んでいるデメリットはありますね。でも、仕事の打ち合わせなどで2〜3カ月に一度くらいの割合で上京していますので、そのときになるべく多くの方にお会いするようにしています。

坂田:では、札幌に住んでいるメリットは?

片山:メリットは、パソコンで目が疲れたら、山を眺めながらお茶を飲めること。
自宅のベランダから藻岩山(もいわやま)という山が見えるんです。青葉や紅葉を見ながら一息ついて、自宅にいながらリフレッシュできるという、すばらしい環境です。これで仕事がすすまないわけがないですよね……って、自分の首を絞めているようですけど。
あとは、たまに上京したときに、「わざわざ北海道からいらっしゃっているから……」と、みなさんが無理をして時間をつくってくださること。
毎回わたしの都合に合わせて、打ち合わせをさせていただいたり、宴会を開いていただいたりしています。いつかばちがあたるかも……と思いつつ、みなさんの好意に甘えさせていただいています。

坂田:翻訳以外には、どのようなことをなさっていますか? 気分転換や趣味を教えてください。

片山:体を動かすことと食べることです(笑)。
体を動かす趣味は、この冬は忙しくて一度しか行けなかったのですが、スキーかな。あとは、水泳、スカッシュ、テニスなど。弓道を始めたいので、今札幌市内で初心者を受け入れてくれる場所を探しているところです。 旅行先で二、三度経験しただけですが、乗馬ももっとやりたいと思っています。
食べる趣味は、洋菓子と紅茶。
何年かまえに流行ったTV《料理の鉄人》に出演したパティシエのお菓子に惚れ込んで、そのかたが主宰する洋菓子教室に3年くらい通いました。
友人の家に遊びに行くときは、たまに自分でケーキを焼いて持っていきますよ。たまに、ですけど。
紅茶は、インターネットがこんなに普及する前から、イギリスの老舗にワープロ打ちの注文書をファックスして取り寄せていたほど熱中しています。このごろはデパートなどでいろんな種類の茶葉が買えるようになりましたし、紅茶専門店もずいぶん増えたので、船便で紅茶が届くのを首を長くして待っていたころが嘘のようです。最近の中国茶ブームのおかげで、中国茶もおいしいものが手にはいるようになり、お茶好きに拍車がかかっています。

坂田:ステキな趣味をたくさんお持ちですね! 翻訳家として、強みになることも多いのでは? 今まで趣味が翻訳に活かされたことってありますか? あるいは、今後、趣味を活かしてこんな分野の翻訳をしたいといったお考えもありますか?

片山:リーディングの仕事をしていた某編集プロダクションのコーディネーターに、サッカー観戦の話をしたのがきっかけで、『ラフガイド日本語版・欧州サッカー60都市現地観戦ハンドブック2000』(ダイナゲイト刊)の翻訳チームに加わりました。
納期の厳しさを忘れるほど、趣味と実益を兼ねた楽しい仕事でした。スポーツ好きのおてんば少女時代を過ごしたので、スポーツ関係の読みものなどは、今後取り組んでみたい分野のひとつです。
2000年にベースボール・マガジン社から出た『来年があるさ』(ドリス・カーンズ・グッドウィン著/松井みどり訳)のように、野球の話が満載で、でもメジャーリーグ・ファンでなくても読みものとして楽しめる──そんな本に出会えたらいいなぁ、と。
また、料理をうまくとりいれたミステリやエッセイ、イギリス文化にどっぷり浸れる小説にも挑戦したいです。
とくに紅茶の本の仕事をいただけたら、翻訳作業中ずっと至福のときを過ごせるかも……。

坂田:最後に、片山さんの今後の計画・夢を教えてください。

片山:夏から秋にかけて、ノンフィクション2冊、フィクション1冊の合計3冊が出る予定です。
まだまだ修行中の身ですので、一冊ずつ精一杯訳して、これからも継続してお仕事をいただけるように頑張るだけです。
このあともノンフィクションの仕事が増えそうな気配ですが、フィクションにも積極的に取り組みたいです。
気に入った小説を見つけたら、持ち込みもしたいですね。残念ながら途中で邦訳刊行が止まっているアニータ・ブルックナーのような小説が好みです。
今住んでいる札幌は、わたしが学生時代を過ごした大好きな街なのですが、夫の転勤で数年後には首都圏に戻る予定です。それまで自然豊かな北海道の暮らしをたっぷり楽しみながら、札幌で大勢のかたにお会いして、自分を磨いていきたいと思います。


メールを通してですが、何ごとにも積極的、アクティブな片山さんの様子が伝わってきました。片山さんの初の訳書は6月に出版されるそうです。「幸福な人生を送るための指南書」だとか。これは読まねば!


◆これから出版される片山さんの訳書◆
"Focal Point"(主婦の友社/ノンフィクション/2002.06)
職場や家庭でいかに幸福な人生を送るか──北米で有名な講演家で、個人の能力を引き出す達人ブライアン・トレーシーが、すべての社会人に贈るトレーシー風人生戦略のアドバイス本。
"The Lovely Bones"(アーティストハウス/フィクション/2002.09)
新人Alice Seboldの長編デビュー作。レイプ殺人の被害者の少女が自分の家族を天国から見下ろし、彼らが哀しみを乗り越え、家族としての絆を深めていくようすを日記ふうに語っていく作品です。切なさとやりきれなさが胸にしみます。
"Stop Obsessing!"(VOICE/ノンフィクション/2002(未定))
何時間も手を洗い続けたり、玄関が施錠されているか何十回も確認するといった症状で知られる強迫性障害。この障害は、じつは自宅にいながらかなり症状を改善させることができます。強迫性障害の患者とその家族にぜひ読んでいただきたい一冊。
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