坂田:仕事でずっと使っていたので語学には自信があったのではないかと思いますが、映像翻訳として学んでみていかがでしたか?
渡部:そうですね、映像翻訳は初めての体験だったので、まず翻訳をするために調べものをしなければならない、ということすら知らなかったんです。だから最初の頃の課題は、単に辞書に載っている単語を持ってくるだけで、話に脈絡がなくても、また日本語として不自然でも、そのまま提出していたと思います。そんなぐあいだったので、当然クラスの中でも成績はあまりよくありません。徐々に、誰が読んでも「おやっ?」と思わない文章を作るためには辞書を引いているだけではだめなんだな、ということを学びました。
その講座は1年だけで上級クラスはなかったので、通っている1年の間にトライアルに合格して仕事を始めたいと思っていましたが、残念ながら合格することはできず、仕事がないまま講座修了を迎えてしまいました。
坂田:トライアル不合格の結果を受け取って、どうでしたか?
渡部:すごく落ち込みました。何がいけないんだろう、と考えましたが、その時はわかりませんでした。理由はわからないけど、自分の日本語がヘンだからトライアルに受からないんだろうな、ということは気づいていました。そこで、モチベーションを保つためにも元クラスメートの有志で集まって勉強会を開いたり、日本語の学習としてNHKドキュメンタリー番組のナレーションを聴き起こすことをしていました。アメリアに入会したのも、この頃です。講座受講中は講師の話などから情報を得られますが、学校を離れると何もなくなってしまいます。映像翻訳業界の情報を得たいと思い入会しました。
坂田:その後、初めての仕事はどのように得られましたか?
渡部:講座を修了して9カ月後くらいだったと思います。ある翻訳会社のトライアルに合格して、そこから仕事をいただけるようになりました。CS放送用のドキュメンタリー番組の字幕翻訳で、仕事は続けていただけるようになりました。2004年2月のことです。
坂田:トライアルに合格できたのはどうしてでしょう。学習中にはわからなかったこと、合格してから見えてきたことなどありますか?
渡部:はい。最初の頃の仕事はすべて字幕だったのですが、字幕翻訳は言葉をばらして再構築するような作業だと、仕事をするようになってから感じました。そこには絶対に落とせないキーワードがあります。そのキーワードを見つけ出し、それを中心に再構築すればうまくいくんじゃないかと。これが正しいかどうかはわかりませんが。
それから、あるとき翻訳者仲間と話していて気づいたことがあります。映画を原語で理解できる者は、自分で作った日本語字幕が多少ヘンでも、原語から得た情報で頭の中で勝手に補ってしまうので、日本語のおかしさに気づかない、ということです。それに気づいてからは、自分で書いた字幕をチェックするときは、原語の音声を消して映像と字幕だけを見て、おかしいところはないか、言いたいことはすべて表現されているかどうか、確認するようにしています。
坂田:最初の仕事がいまから9年ほど前ですが、それ以降はコンスタントに仕事を続けていますか?
渡部:お陰様でコンスタントに仕事を続けていますが、最初の頃は、次にいつ声をかけてもらえるかわからなくて、不安を感じたこともありました。仕事を始めて半年くらい経った頃、それまで続いていた仕事が途切れたんです。結局、2、3週間後にお声が掛かったのですが、何とかしなければと思いました。その時、取引先が1社しかなかったんです。最低2社は欲しいと思いました。幸い、この頃アメリアの「会員プロフィール検索」を通してある翻訳会社から声が掛かったんです。最初の会社からはドキュメンタリー番組やDVDの特典映像が主でしたが、2番目の会社からはDVD本編やドキュメンタリーでも旅ものや動物ものなど幅広いジャンルの仕事があり、2社になったことで仕事の幅もずいぶんと広がりました。
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