坂田:渡部さんはスペイン語の作品も翻訳されていますが、スペイン語の最初の仕事はどのように得ましたか?
渡部:アメリアの会員プロフィール検索でお声が掛かったのが最初だったと思います。非常に短い、翻訳料も少ない仕事でしたが、スペイン語の作品の翻訳実績が欲しかったのでよろこんで引き受けました。それ以降は、履歴書に作品リストを付けて、英語以外の言語も幅広く扱っていそうな大手制作会社に送ったりしていました。
坂田:履歴書を送って、効果はありましたか?
渡部:一度、それがきっかけでお仕事をいただいたことがあります。でも、その時はまだ仕事を始めて1年目くらいの頃で、自分の実力が足りず、継続的な受注には至りませんでした。ただ、作品リストにスペイン語が加わったことで、スペイン語の依頼も徐々に来るようになりました。今では、年間平均で約3割がスペイン語といったところでしょうか。スペイン語はドキュメンタリーよりDVDの本編が多いですね。全体ではドラマの仕事が多く、吹替と字幕では、圧倒的に字幕が多いです。
坂田:スペイン語の字幕翻訳を教える仕事もなさっているそうですね。
渡部:はい。2007年から始めて、いまも続けています。生徒の訳を見ながら、はじめた頃は私もこんな原稿だったんだろうなとしみじみ思うことがあります。
週に1回の外出は気晴らしになりますし、ネイティブの教授と友達になれるなど人脈づくりもできます。それから、教えることで見えてきたこともあります。例えば、字幕は字数制限があるので、主語を変えるとそれに文字数を割かなければなりません。能動態を受動態にするなどして主語を前の文と揃えれば、主語を省略でき、他の情報を表すのに字数を使えます。このようなことは、自分で翻訳しているときは、何気なくしていますが、教えることになって初めて言葉にした、という感じですね。
坂田:いままでに翻訳した作品で、思い出に残っているものをご紹介いただけますか。
渡部:ドラマで好きだったのはCSで放映されていた『ファイヤーフライ宇宙大戦争』という作品です。ひとことでいえば宇宙を舞台にした西部劇です。人気はあったのですが、アメリカの放送局の都合で残念ながら15話ワンシーズンで終わってしまいました。この作品には、後に映画も一本作られていて、ドラマを担当したときに参考のために映画のDVDを購入して見てみたら、なんだか見覚えのある映像が……。1、2年前に特典映像を私が訳していたんです。こんな偶然もあるんだなと、驚きました。
ドキュメンタリーでは、一昨年『100,000年後の安全』という作品を訳しました。本当に知らない内容ばかりだったので、調べものが大変でした。申し送りがワードでA4、6ページもあったので、これまでに訳した中でもかなり多いほうだと思います。この作品のプレミア上映が終わった直後に東日本大震災がおき、作品が注目を浴びて劇場公開の日程が早まりました。
それから最近手がけた作品では、『フラメンコ・フラメンコ』が印象に残っています。2012年2月に渋谷Bunkamuraル・シネマで劇場公開されました。全編フラメンコの踊りで綴られた作品で、私は歌詞の字幕翻訳をしました。文字どおりの理解ではなんだかしっくりこなかったので、知人のスペイン人に尋ねたところ、月や闘牛といった普通の単語が暗に別の意味を指していたり、時代を遠回しに批判していたりするというのです。そのような深い意味をすべて字幕で表現できるわけではありませんが、理解して訳すのとそうでないのでは大きな違いです。配給会社さんにも満足していただける作品に仕上がりました。
坂田:最後に、渡部さんの今後の目標を教えていただけますか。
渡部:そうですね。直近の目標は、いま手がけているドラマをファイナルシーズンまで担当させていただくことです。将来の目標としては、1つの作品の字幕と吹替の両方を翻訳してみたいですね。字幕と吹替は表現の仕方が違います。字幕で情報を削らなければならないストレスを吹替で解消したり、吹替だと冗長になってしまうセリフを字幕ですっきりと表現したりできるので、面白い気がします。この作品は私のもの!といった感覚を味わいたいのかもしれませんね。