アメリア会員インタビュー


ワード数と仕事時間を毎回記録することで、翻訳スピードの目安を管理。「納期落ちだけは避けています」

岡田 :松井さんは出版と実務をバランスよく進められていますが、年間を通してのサイクルはどのような感じですか?

松井 :今のところは半々ですね。たとえば4ヶ月出版をやって、実務を3ヶ月、また出版の仕事をいただいて……という感じで、ならすと半々という感じです。出版だけでは経済的に難しいこともありますし。

岡田 :ご自身としてはそのバランスはいかがですか?

松井 :ちょうどいいと思っています。出版ばかりやっていると煮詰まることもあり、実務は私の経験が直接的にお役に立つということもあり。

岡田 :実務はエンジニアとしてのキャリアが後ろ盾ですね。一方、出版翻訳の魅力はなんですか?

松井 :出版は知識欲や好奇心が満たされますし、名前の残る仕事をしたいという気持ちも満たされます。それに、出版翻訳をすることで表現に磨きがかかるので、結果、実務にもいかされるんです。最近は実務でも「自然な表現で」という注文をする発注元が多くて、書籍を訳した経験があるからという理由でお声がかかることがあります。実務でいつもお世話になっている翻訳会社はそうした経歴を尊重してくださり、本当にありがたいです。

岡田 :実務のほうは納期もいろいろですよね? 時間の管理など工夫されていることはありますか?

松井 :実務翻訳では自分の訳のスピードの目安を把握しています。毎回、どんな内容の何ワードの仕事に見直しも含めて何時間かかったかを記録しているので、仕事を受けるときにいい目安になるんです。それを元に、時間的に無理な場合は勇気をもってお断りするようにして。納期落ちだけは避けています。

岡田 :それほどのキャリアがあると、お仕事をしていて時間的に焦ることはありませんか?

松井 :ほとんどなくなりました。仕事を受ける時点で、かかる時間の目安がわかりますから、悪くても毎日1〜2時間程度余計に作業すればすむように考えます。

岡田 :すばらしい管理ですね。内容的に焦ることは?

松井 :内容的に焦ることはよくありますよ(笑)。調べがつけばいいんですけど、なかなか調べがつかないときは時間的にも焦ります。

岡田 :そういうときはどのようにご対応を?

松井 :後回しにして先へ進み、精神衛生をできるだけ保てるようにします。精神衛生は大事です(笑)。自分の場合、少しでも余裕があればもうひと手間かける気になりますから。ですから精神衛生をすごく大事にしているんです。最悪の場合でも現状の暫定案に解釈が不安だという旨のコメントをつけて出せるようにしておき、納期の時間まで必死に考えたり調べたりします。

岡田 :精神衛生まで意識する、というのがプロのテクニックですね。

松井 :個人的に追い込まれるのが嫌いなので、追い込まないようにしているんです。そこが弱みとわかっていますから。「このペースで進めばこの分量は絶対に終わる」という精神状態でいるのが一番のびのびといい仕事ができます。だからわからない部分はとりあえず後回しにして、精神衛生を保つためにほかの部分を納品レベルまでもっていく。時には後ろの文を訳していたら判明することもあるので、その期待もありますね。時間のリミットをかけて、何分でわからなかったらパス、というようにしています。

岡田 :まさにプロのお仕事ですね。

松井 :納期落ちはぜったいしないぞ、という強い気持ちでしょうか。

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