岡田 :松井さんは翻訳のお仕事の時間以外に、ご自分の勉強としてのお時間をもうけたりしていますか?
松井 :実務翻訳だけをしていた時代は、出版翻訳の勉強をしていました。今は編集者の方がゲラにいれた赤(修整事項)のコピーを見直して勉強しています。これがとても良い勉強になりまして。1日に必ず20分程度は時間をとって見直しています。
岡田 :それは過去の訳書を全部?
松井 :全部やっています。出版が上達すれば実務も向上しますから。出版で、調べものを怠ればたいへんなことになるのも経験しています。そのため今まで以上に「ウラとり」に慎重になり、実務でも時間がかかるようになりました。若い頃は勢いでガンガンと訳していましたが、今はスピードが3分の2くらいに落ちています。そのかわり慎重に訳すので、自信をもって訳を仕上げられます。
岡田 :ウラとりは重要ですね。松井さんは11月からフェロー・アカデミーのマスターコースで講師をされる予定とお聞きしましたが、授業ではそうしたお話もお聞きする事ができますね。
松井 :そうですね。実体験から得た情報を伝えていくつもりです。こうしたウラとりの重要性や、ご自分のミスの癖などについて意識してほしいと思っています。文法ミスや訳もれなど、ミスにラベルを貼って「見える化」し、自分の弱点を統計的に見いだして、そこに意識を集中して訳していってもらいたいですね。マスターコースですから、語句の全角、半角をはじめ一語一語の表記の統一などについても注意を払ってほしいですね。
岡田 :なるほど、それは勉強になりますね。マスターコースとして、即戦力につながることまちがいなしです。松井さんはプロとして他にも意識されていることはありますか?
松井 :時間の管理だけでなく、健康管理にも気をつけています。長時間のデスクワークだと、意識しなければほとんど歩かないような生活ですから。以前、万歩計ではかったら、1日600歩しか歩いていないことがわかって(笑)。以来、1日1万歩をめざして朝昼晩と散歩したり、スポーツクラブに通ったりして意識的に体を動かしています。
岡田 :たしかにとてもフィットな体型をしていらっしゃいますね。
松井 :今は検診の結果が悪かったので、食事制限しているんです(笑)。結局、体が資本ですから。健康管理も仕事の一部ということで。組織に属していないので、自分のかわりはいませんし、誰も助けてくれません。
岡田 :さすがの自己管理ですね。自分の生活を見直さないと。
松井 :他にもやはり仕事の効率化には気を遣います。仕事の環境が少しでも快適に、効率化がはかれるように工夫しています。今は自作マシンで、ディスプレイを3枚並べて仕事してまして。
岡田 :それはすごい! デイトレーダー並みですね! どのようにされているんですか?
松井 :実務のときは3枚全部使います。翻訳支援ソフトを真ん中にして、その他の資料や調べものをしたブラウザー画面などを両脇に。ディスプレイが1枚しかないと、画面を切り替えながら進めるので手間も時間もかかる。机の上に広げるようにしてあれこれ見ながら作業できるという効率の良さは、1回体験したらやめられませんよ(笑)。
岡田 :極限まで効率化を図られますね。時間の有効利用ですね。
松井 :スピードは身を救いますから。自分の場合、ほんの20分余裕があっただけで、納期に対する精神的余裕がまるで違うんです。これはとても大事だと思っています。