岡田:翻訳を目指されたきっかけを教えていただけますか?
寺尾
:翻訳という仕事を意識したのは高校生の頃でしたね。子どもの頃から「言葉」が好きで、高校は当時は珍しかった外国語学科に進みました。でも実は日本語を極めたいと思った頃もあったんです。けれど小説を一から書ける創造力はない。翻訳だったら原書もあるし、日本語にも関われるからいいんじゃないかなんて、いまから考えると本当に単純で、全然わかっていなかったんですけど。高校生の夢ですね(笑)。短大で英文科に進学後、ふつうに就職しました。
岡田:外資系など、英語を使うお仕事ですか?
寺尾
:外資系ではなかったんですが、上司が外国人との交渉を一手に引き受けていたので、英語を使う場面はありました。開発系でアイディアをだす仕事だったので、とても忙しくて夜中に終電で帰るような毎日でしたね。
岡田:それはお忙しいですね。そんな中、どんなきっかけで翻訳の道を目指そうと思われたんですか?
寺尾
:疲れていたのもあったんでしょうね。こんなに忙しい思いをするなら、「自分の好きなこと」か「世の中の役に立つこと」か、どちらかをやりたいと思ったんです。
岡田:なるほど人生の岐路ですね。どちらを選ぶのも一大決心。
寺尾
:そうですね。結局「好きなこと」で思い浮かんだのが翻訳、「世の中の役に立つこと」は理学療法士だったんです。いろいろ調べた結果、理系が苦手な私に理学療法士の学校はかなり難しい印象で……。それなら好きな仕事ができるように、翻訳の勉強をはじめようと決心したんです。
岡田:具体的にどのように勉強を始められましたか?
寺尾
:途中から契約社員になって、時間的な余裕をつくりました。夜は翻訳学校に2週間に一度通い、課題は家に帰ってからやりました。最初は通信講座もやっていましたね。
岡田:フェローでは田村先生に師事と聞きました。
寺尾
:はい。田村先生のユーモア・ミステリの訳に感動し、いろいろ調べたら田村先生がフェローでミステリーのコースを教えていらっしゃると知って受講しました。3人ほどの先生について、10年以上勉強しましたね。長いんですよ、勉強、修業時代が。
岡田:昼間はお仕事しながら、夜は翻訳の勉強という生活をコツコツ続けていらっしゃったんですね。
寺尾
:コツコツというかダラダラというか……(笑)。でもそうですね、コツコツと課題に取りくんでいました。好きな訳書の書きうつしに挑戦したこともあります。23歳で勉強をはじめて、20代はほぼそんな感じでしたね。それから先生に下訳のお仕事をいただいたりして、本格的に個人で仕事をこなすようになったのは33、34歳の頃でした。