アメリア会員インタビュー


出版翻訳は「商品」づくり。「一人でも多くの読者にアピールし、読者の心に残る商品を作ることが大切」

岡田 :音楽系書籍の翻訳がお得意で、私生活でも音楽鑑賞が趣味という大田黒さん。数々の著名なミュージシャンの書籍を訳されていますが、個人的に好きなミュージシャンは?

大田黒 :ビートルズ、ローリングストーンズ、デヴィッド・ボウイ、ジョージ・ハリスン……これまで訳した書籍のミュージシャンはみんな好きですね。でも特にビートルズは中学の頃からずっと聞き続けている特別な存在です。

岡田 :ビートルズとの出会いが音楽の世界への第一歩になったんですね。

大田黒 :はい。当時ぼくはビートルズマニアで、ジョン・レノンが亡くなった直後に地元で開かれた「ビートルズ大会」というクイズ大会で優勝したくらい(笑)。だからはじめての訳書がビートルズの本だったことは、本当に幸運だったと思っているんです。お仕事の話をいただいた時はとにかくうれしかったですね。

岡田 :それはうれしいご縁ですね。大好きなビートルズの本を訳しているときのお気持ちは?

大田黒 :あの時ははじめての書籍の翻訳でしたから、楽しんでいる余裕はまるでなかった(笑)。出版翻訳は1冊の商品として作らなければいけませんから、嬉しい楽しいという気持ちだけで訳してはいられないところがありますね。過剰な思い入れは訳に影響するので、そのあたりは今も客観的、というか冷静に翻訳するようにしています。

岡田 :なるほど。たしかに思い入れが強すぎると、思い込みや見落とし、過度な補足などにつながることがあるかもしれません。

大田黒 :そうなんです。私は翻訳の仕事はあくまで黒子の役割だと考えています。作家さんあっての翻訳者、担当者さんあっての翻訳の仕事ですから。自分の思い入れや執着が通用する世界ではない。いつも冷静に原文と向き合うように意識しています。

岡田 :どんなに大好きなアーティストのストーリーでも、意識的に客観視している、ということですか?

大田黒 :はい。思い入れが強すぎると原文とかけ離れたり、担当者さんの意見が反映されにくくなることがあると思うんです。学習中の頃は先生から赤字や直しが入って悩むこともありましたが、仕事となるとまったく別の話。出版翻訳の世界は、書店で一人でも多くの読者にアピールし、読者の心に残る「商品」を作ることが大切です。商品であることを忘れずに、担当者さんの意向を素直に誠実に汲み取って、仕事に取り組むようにしています。

岡田 :まさにプロフェッショナルなお仕事の世界。造詣の深い世界の話とはいえ、個人の思い入れは封じ込め、書籍として立派に旅立つよう配慮されているんですね。

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