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暑いのと湿度でいまいち食欲が湧かないのですが、甘いものにはなぜか手が伸びてしまいます。食後のデザートが毎日の楽しみです😊

さて、さらにもう一作品ご紹介いたします!アメリア会員の道本美穂さんが翻訳されました。

『地獄への潜入 白人至上主義者たちのダーク・ウェブカルチャー』

道本さんからコメントもいただきました。

「オンライン上で過激化する白人至上主義やレイシズムに警鐘を鳴らした本です。ユダヤ人の女性ライターが素性を偽り、身の危険を感じながら過激派コミュニティに潜入調査をした勇気あるルポルタージュです。一見普通に見える人々が裏の世界でどんな発言をし、どんな考えを抱いているのか。ニュースを見ていても知ることのできない世界に、恐ろしさを感じながらも引き込まれます。『白人至上主義』というと海の向こうの話のようですが、オンライン上のヘイトが暴力につながるのは、日本でも同じです(解説の安田菜津紀氏がその辺りについて説明されています)。

翻訳にあたっては周辺情報の調査がとても大変でしたが、アメリカで続く銃乱射事件の背景など、貴重な知識が得られました。今まさに読んでほしい一冊です(タイム誌2020年の必読書100選に選ばれた本です!)」

 

担当編集者さんからもコメントをお寄せいただきました。

原書の案内がエージェントから届いたとき、これが単に、アメリカにおける「白人至上主義」の歴史と動向だけを描いた本だったら、そこまで気にはならなかったかもしれません。でも、「はじめに」を読み進めるにつれて、あ、これは全然、無関係な話ではないな、と思いはじめました。それくらい、ここに描かれる醜悪なカルチャー、そして苛烈な憎悪には、「既視感」がありました。
 
さて最近の話です。2022年5月14日、NY州バファローで10人が死亡した銃の乱射事件では、「客の95%が黒人」のスーパーマーケットが標的となりました。容疑者が書いたとされるマニフェストには、人種差別的な「真実」を学んだ場として「4chan」の名があげられ、あらためて厳しい視線が注がれました(ちなみに、この匿名掲示板の来歴や管理人を調べれば、すぐに日本との接点が見えてきます)。「Twitch」で犯行が生中継されたことも印象深いでしょう。ただ、『地獄への潜入』を読み歴史を知れば、動機、性質、手口すらも、数多あるヘイトクライム(憎悪犯罪)のひとつの類型にすぎないことがわかります。
 

他方、日本はどうでしょう。2021年には、在日コリアンが多く暮らす京都・ウトロ地区(8月)、そして名古屋市にある韓国民団・愛知県本部と韓国学校(7月)を狙った放火事件がありました。その被告の第3回公判が、まさに先日、京都地裁であったようです。BuzzFeedが詳報していますが、 被告人からの反省や謝罪の言葉は一切なく、同種のヘイトクライムが今後も起きると予告するような発言もあったようです。さらに検察の論告では、「嫌悪感」や「偏見」という言葉はあったものの、「差別」そのものは用いられなかったようです。正直、絶句しました。

参考2:BuzzFeed

本書は、こうした差別やヘイトを、ちゃんと「差別」や「ヘイト」だと名指し、明確に非難するための一冊でもあります。著者は、「憎悪」を一身に浴びながらも、これ以上誰も殺されないために、並々ならぬ怒りをもって本書を書きあげました。その挑発的な書き口や手法を批判するのはあまりにも容易いでしょう。しかし、私たちは非難の矛先を間違えてはいけません。女性でありユダヤ人である著者のような人たちを(そう、いつも真っ先に生存を脅かされるのは、マイノリティや社会的に脆弱な立場に置かれた人たちです)孤独な闘いへと駆り立ててはいけません。マジョリティの沈黙もまた、差別への加担となりうること。この本の結末を読めば、そのことがよくわかると思います。
 
 

ネットでは生身の人の姿が見えにくいからか、言動が過激化しやすいのは日本も同じですね。道本さんのおっしゃる通り、我々にとっても他人事では済ませられない一冊です。なお、柏書房さんのWebマガジンに「はじめに」が全文公開されているそうなので、ご興味をお持ちの方はこちらからご覧ください。

道本さん、お知らせいただきありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

アメリア事務局 相澤