坂田:スペイン在住ということで、不便を感じることはありますか?
齋藤:一番困るのは、資料本が手に入りにくいということですね。どうしても必要なものは日本のアマゾンから買いますが、時間がかかるし、送料が高いし。日本に住んでいたら図書館で借りたり、場合によっては書店でちょっと立ち読みすれば済むようなものもあると思うのですが、そうもいかないので。書籍の電子化は賛否両論ありますが、私としては電子化されると本当に助かります。英語の場合は電子化が進んでいるおかげで、調べものをする際にずいぶん助かっています。
坂田:他にはいかがでしょう? 書籍翻訳の場合、ゲラのチェックもあると思いますが。
齋藤:ゲラに関しては、初校はやはり紙のほうがお互いにやりやすいので、国際宅急便で送ってもらいます。それに赤字を入れて送り返すので、片道1週間、往復で2週間は日本在住の翻訳者さんより時間が掛かるので申し訳ないのですが。再校からはPDFでやりとりしています。PDFに直接書き込みをして、メールでお返ししています。
自分の不便と、ご不便をおかけしていると思うのは、その2点くらいですね。他にも細かいことはいろいろとあるかもしれませんが、そういうものだと思って工夫してやるしかないので、あまり不便とは思っていません。
坂田:逆にメリットはありますか?
齋藤:住んでいるのがスペインで、訳している本が英語なので、残念ながらいまのところあまりメリットはありませんね。スペインの文化や社会をバックにした本を訳せるようになれば、メリットはたくさんあると思うのですが。しいていえば、こもりがちな翻訳の仕事ですから、近くにきれいな海があることでしょうか。家は高台にあるので、窓から地中海の見晴らしが楽しめます。靄っていなければアフリカが見えるんですよ。海までは歩いて5分です。庶民向け海水浴場として有名なところで、夏は毎日泳ぎに行きます。このあたりは温暖ですので、冬でも泳いでいる観光客がいます。私はしませんが(笑)
坂田:今後の夢を教えていただけますか?
齋藤:スペインの本を翻訳したいです。英語に比べるとスペイン語を読むスピードは遅く、辞書を引く回数も多いので、仕事としては
まだ難しいでしょうが。もちろん、時間が掛かってもいいのなら、すぐにでもやりたいところですが、そういうわけにもいかないですよね(笑)。スペインに住んでいるメリットを生かして、出版持込ステーションにぜひスペインの本を紹介したいと思っています。
本に限らず、スペインのことを日本に紹介することが、両国に対していまの私にできることであり、私の使命だと思っています。本以外にも映像でもなんでも、日本に紹介する仕事をすることが私の夢です。
坂田:素晴らしい夢ですね。スペインの良書をぜひ日本に紹介してください。
齋藤:最後にひとつ、いいですか? 現在、出版翻訳を目指しているけれどなかなか実現しなくて、時にくじけそうになる人もいると思うんです。私自身、かつてはそうでした。でも、留学や海外経験がなくても、身の回りのものでコツコツと勉強し、「もうこれしかない!」と背水の陣でことにあたれば、道は必ず開けます! あきらめずにお互いにがんばりましょう。