岡田:河野さんが翻訳や英語の道に進まれたきっかけは?
河野:最初は得意科目が英語だった、というところでしょうか。文系科目は得意で、数学はぜんぜんダメでした(笑)。学生時代は英語がいちばん得意だった、というのがまず最初のきっかけです。
岡田:それは自信につながりますからね。では大学は英文科に?
河野:いえ、大学は法学部でした。有利な就職しか考えず(笑)。
岡田:なるほど。では学生時代に個人的に英語と関わっていたんですか?
河野:翻訳の通信教育を受けてみたりしていました。当時からできれば翻訳で食べていければいいなと思っていましたから。
岡田:翻訳家になるのは学生時代からの夢だったんですね。法学部に通いつつということはよほどの情熱ですね。
河野:法律の勉強がよほどつまんなかったんでしょうね(笑)。
岡田:英語はずっとお好きだったんですね。通信のほかにも何か?
河野:ミステリーのペーパーバックを多く読んでいました。それから浪人中に英語の勉強をしている時、『翻訳の世界』という雑誌に出会ったんですが、それがおもしろくて毎月買っていましたね。それで翻訳に興味がわきだしたと思います。翻訳の雑誌なんだけど、たくさん読み物もあって。楽しく読んでいるうちに英語が身に付いたというのもあるかもしれません。
岡田 :なるほど。読み物などから自然と身に付く知識はたしかにありますね。そして就職は?
河野 : 進学塾で中学生に英語を教える仕事につきました。法学部とはなんの関係もありません(笑)。
岡田:そうでしたか。その間にもコンスタントに英語に触れていらっしゃるわけですよね。何年間くらい塾のお仕事を?
河野:ざっと17年くらい。英語を噛み砕いて教える仕事ですから、読解や解釈などは自然と身に付いていきましたね。
岡田:本格的に翻訳に動きだしたのは?
河野:会社を辞めてこちらで勉強したのと、他校での通信教育がほぼ同時期でした。
岡田:会社を辞められたのは翻訳で身を立てていきたというお気持ちがあったからですか?
河野:うーん、会社が傾きかけたというのもありましたけど。これがチャンスだと思いました。ずっといつかは翻訳をやりたいと思っていましたから。学生時代に少し翻訳を勉強したものの、就職してからはなかなか手につかずにいましたし……。
岡田:本当に翻訳への情熱が強かったんですね。どうしてそこまで翻訳をしてみたいと思われたんでしょうか? なぜ翻訳のとりこに?
河野:そうですねえ……たとえば10ページでも20ページでも、訳したあとに英語だったものが日本語になっているのを見ると、われながら感心したりするんですよ。「読める文章になっている!」――そう思えるのがおもしろくて。そのあたりの充足感、満足感かな。今もそれがおもしろくてやっています。
岡田:なるほど。それが数百ページの作品になると極みですね。それは一種、クリエイティブな充足感でしょうか。
河野:そうですね。そこがおもしろいですね。
岡田:そこに魅力を感じて、途切れることなくその情熱が続いているんですね。とてもお優しく温厚なお人柄にお見受けしますので、失礼ながら熱い情熱というのがちょっと意外な気が……。
河野:アハハ。子どものころから「やる気がない」って言われます(笑)。
岡田:いえいえ、それだけ継続的になさっているというのは、やはり強い愛情と情熱があったからこそですね。
河野:そうですね。そういうことなんだと思います。