
岡田:会社をお辞めになって、フェロー・アカデミーに通われたということですが、その時点でかなり蓄積された知識があったようですね。クラスに入られてからも急速にお進みになられたのでは?
河野
:けっこう早かったですね。仕事は遅いですが、その時だけはトントン拍子で早かった(笑)。もちろん何年かかかってはいますけど。最初はフリーランスコースに3ヶ月通いました。映像もあればビジネスもあるコースでしたね。そのあと越前敏弥先生のクラス。それから越前先生の師匠が田村義進先生ということもあり、田村先生にお世話になりました。
岡田:フェロー・アカデミーに通っていらっしゃるときは学習にギーッと集中していましたか?
河野
:フリーランスコースの後は週に1回だったかな。課題もあるし、けっこうきつかったですね。当時は以前に勤めていた進学塾に週に1度くらい時間講師をやっていました。
岡田:なるほど。バランスをとりながら課題をこなしていたんですね。課題はどういうところがたいへんでしたか?
河野
:1ページとか2ページ分の枠で訳すんですが、ただ訳せばいいわけではなく、日本語を練り上げるところがある。だから最初はすぐに仕上げられるわけではなかったです。慣れてくると1日くらいで仕上げるようになりましたけど、最初はたいへんでした。いい加減な訳をすると必ず田村先生から「なんでこういう訳になったか」という質問が飛んでくるんです。著者の意図とか文脈からはずれたような訳文があると必ず指摘されましたね。
岡田:こちらの訳す姿勢が見透かさている?
河野
:そうですね。ドキッとする。適当にチャチャッとやって持っていったら案の定(笑)。逆にほめていただけると励みになりますよね。課題によってはしんどいのもありましたけど、勉強しているときにつらいと思ったことはなかったかな。
岡田:では励みになっていたのは、先生のお言葉と将来の一人前のお姿ですか?
河野
:そうですね。でもどちらかというと将来のことは考えないようにしていたかな。考えると夜も眠れなくなってしまうから。仕事も辞めてしまったし、いざとなったら生活保護でも考えるかなって(笑)。他の道は考えませんでした。
岡田:迷いがないってすごいですね。どんな道でもそうですが、翻訳の道はやはりいばらの道で、迷いを持ちながら勉強している方も多いと思いますが。
河野
:ヘンにいろんなことやらなかったのがよかったのかもしれません。コツコツやっていた、ということですかね。
岡田:なるほど。モチベーションになったものはなんだったんですか?
河野
:そこはやっぱり、早いところ就職先をなんとかしなくちゃいけない、生活をなんとかしなくちゃいけない、というところだったのかな。もう四十歳前でいい年でしたから、再就職するといっても厳しい。自分にとって翻訳が再就職のつもりでやっていました。だから早くなんとかしなきゃというのはありましたね。
岡田:生活がかかっているとなると必死ですね。
河野
:「必死」という感じでもなかったかな。やっぱり翻訳の勉強が楽しかったからでしょうね。